CyberPunk EDGERUNNERS Ver1.6.3 作:甘井モナカ
EX-0話 ターニング・ポイント
1
「……次の候補は彼です。《デイビッド・マルティネス》。半年程前にサイバーパンクとなり、数々の仕事を成し遂げ着実に名声と実力を上げています」
『なるほど。一時期巷で話題になった方ですね。確か、《軍事用インプラント》を着用したとかいう』
「はい」
夕闇に染まる街頭。
上空から迫る漆黒を打ち消すように、色褪せたネオンの光が煌々と周囲を照らし出していた。
大小並び立つ構造物の数々は、先進的な技術を誇示するかのように存在を主張する。強すぎる主張は逆に存在の一貫性を曖昧にしていくのと同じように、この街も煌びやかな要素の中にどこか退廃的な雰囲気が紛れ込む。
その明かりの下では街で暮らす人々が渡り歩いていた。
帰路につく者。
仕事へ出掛ける者。
通路の脇で途方にくれる者。
多種多様な生活をする人々の隙間を縫う様に、その声は続く。
「推測できる彼の素質は、驚異的な《クロームとの親和性》です。規格外のインプラント含めて、半身以上を改造しても依然として《向こう側》へ行っていません」
『ほほう。このまま進めば、どこかの《死神》さんと同じ領域まで到達する訳ですね。……しかし、ここで話すという事は、何か課題が見つかったんですかね?』
「はい。《量子演算型処理システム》の予測結果は、高確率で《破滅》と出ました。現状の彼の立場と環境を精査すると、コーポ関連の情報が散見されます。要因は恐らく……」
『太陽に近づきすぎてその身の翼を捥がれるのか、あるいは背後から迫る《死神》に追い付かれる、といったところですか……』
そびえ立つビル群同士に出来た、僅かな間。ネオンの光が届かない裏路地に佇むのは1つの人影。
全身を覆い隠すように、黒い布を纏う姿はまるで存在が茫々とした亡霊を連想させるものだった。
外部と通信しているのか、虚空を震わせる言葉は外套の内側から響いている。
『……やがて自身へと訪れる終末に臆することなく、高みを目指す。いいですねぇ。我々の求める人柄そのものじゃないですか』
「それでは、予定通り計画を実行に移しますか?」
『承認します。……我々の存在を悟られないように、穏便に始めちゃいましょう』
「了解しました。これより、《プロトコルNo.7》第一フェーズを開始します。……彼らとの過度な接触は控えてください。何かあればすぐに連絡を」
『ちょっとぉ、少しは信頼してくださいよぉ。私達、もう幾つもの世界でミッションこなしてるんですから』
闇夜へ溶け込む様に行われていた会話が終了する。
遥か先の通路から零れる僅かな喧騒が、再び聞こえ始める。
暫く沈黙していた人影は、おもむろに頭を上げて空を見上げた。視線の先に映るのは、儚い輝きを放ち続ける月。
天高くそびえるビルよりも高い場所で光を放つ星々の中で、それは静かに夜空を漂っていた。
月明かりに照らされ、顔を覆う黒布の隙間が僅かに鮮明になる。
じっと空を見上げ続けるその瞳は、月明かりと同じ、青白い輝きを放っていた。
【Continue to Chapter 1】