CyberPunk EDGERUNNERS Ver1.6.3   作:甘井モナカ

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02話 ナイトフォール

 

 

 

 1

 

 

 

 投影モニタに青白い光が広がる。

 薄暗いアジトの一室で、その光だけが四人の顔を淡く照らしていた。

 

 長机の前に立ったデイビッドは、浮かび上がるホログラムを見据えながら口を開く。

 

「――俺の作戦は、潜入、陽動、挟撃。三つのフェーズに分かれている」

 

 空中に表示されたタワー構造図へ、彼は指を滑らせた。

 

「まずは潜入フェーズだ」

 

 ウインドウが切り替わる。

 映し出されたのは、カツオが以前使用していた迷彩マスクの構造データ。

 

「カツオ。お前の≪迷彩マスク≫を使わせてもらう。顔に映像投影する機能のやつ」

 

 壁にもたれていたカツオが、ゆっくり片眉を上げる。

 

「おいおい……まさか」

 

 青髪の少年は呆れ半分に鼻を鳴らした。

 

「俺が“デイビッド役”ってことか?」

「ご名答」

 

 デイビッドは悪びれもなく頷いた。

 

「最低限怪しまれないように、表層の個人情報も俺のデータに合わせる。内部ストレージとか認証系とか。……昔よくやったろ、アカデミー時代」

「さすが。教師の端末ハックして成績弄った問題児ならではの発想だ」

「はぁ?お前も一緒にやってただ――」

「証拠は?」

 

 首筋を撫でる黒髪の少年へカツオは食い気味に言葉を被せた。

 全身で冷静を装っているが一点だけ隠しきれていなかった。

 彼の血走った目がそう物語っている。

 

 あのレベッカが呆れた顔で二人を見ていた。

 

「お前ら、昔っからロクでもねぇな……」

 

 カツオは肩をすくめると、再びホログラムへ目を向けた。

 

「で? 変装した俺が、そのままファラデーに捕まるってわけか」

「ああ。ファラデーは“俺”とルーシーを連れてタワーに向かう。その間、お前は位置情報を更新し続けてくれ」

「なるほどね……」

 

 カツオは顎へ手を当てる。

 

「つまり俺は、お前の仕草まで真似しろってことだろ? 面倒くさすぎるな」

 

 そう言いながらも、口元には薄く笑みが浮かんでいた。

 デイビッドも小さく笑い返す。

 

 そして、彼はソファの方へ目線を移した。

 

「その間に、俺たちは別行動だ」

 

 別のホログラムが展開される。

 

 巨大な倉庫群。

 周囲を巡回する警備ルート。

 赤いマーキングで示された警備部隊。

 

「ファラデーが隠してる≪サイバースケルトン≫の保管庫に侵入する。レベッカ、ファルコ。二人は警備部隊を無力化してくれ」

「任せろ!」

 

 レベッカが勢いよく拳を握る。

 ソファが軋むほど前のめりになった彼女を横目に、ファルコは表示された地図を見て低く唸った。

 

「倉庫の場所は……ここか。はぐれ傭兵どもの縄張りが近ぇな。こりゃ骨が折れる」

「キーウィから警備体制の情報ももらってる。裏を突けば突破できるはずだ」

「なるほどなぁ」

 

 ファルコは頷くと、わざとらしくレベッカへ視線を向けた。

 

「じゃあ嬢ちゃん任せた。俺ぁ後ろで見守ってるからよ」

「はぁ!? あーしが全部やる前提かよ!」

 

 即座に噛みつくレベッカ。

 

 ファルコはケラケラ笑いながら肩を揺らした。

 

「だって俺よりお前の方が強ぇじゃねぇか」

「……っ」

 

 一瞬だけ言葉に詰まる。

 

「頼りにしてるぜ、お嬢ちゃん」

「……ふん!」

 

 レベッカはそっぽを向いた。だが、耳だけがほんの少し赤い。

 その様子にファルコがまた笑う。

 

 デイビッドは苦笑しつつ、次のウインドウを開いた。

 

「その後、二人は倉庫内で装備を整えて、すぐタワー直下へ向かってくれ。次は陽動フェーズだ」

 

 ホログラム上で、ナイトシティ中心部のマップが表示される。

 赤いライン2人の陽動経路が市街を通過してがタワー下層へ伸びる。

 

「2人の陽動でコーポの警備を、なるべく下層の一点に集中させる」

「OK! 暴れるのは得意分野だぜ~?」

 

 レベッカがニヤリと笑う。

 

「了解だ。派手にやって観客を沸かせるとするか」

 

 ファルコも口角を上げた。

 

「陽動が始まれば、タワー上層の警備は薄くなるはず」

 

 そこでデイビッドは、自分の胸を指先で軽く叩いた。

 

「そこに、別経路から倉庫へ侵入して≪サイバースケルトン≫を拝借した俺が……上空から強襲する」

 

 言葉が落ちた瞬間、レベッカの表情に、ほんの影が差した。

 照明の青白い光が、その曇りをいっそう際立たせる。

 

 デイビッドはその変化を見逃さず、肩をすくめるようにして苦笑した。

 

「大丈夫だよ、レベッカ」

 

 わざと軽く、わざと明るく“平気なふり”をした声だった。

 

「二人の陽動が上手くいけば、≪スケルトン≫の起動時間は最小限で済む。それに――」

 

 彼はポケットから薬剤アンプルを取り出し、指先で軽く弾いて見せる。

 淡い薬液が光を反射した。

 

「レベッカがくれた、ドク特製の抑制剤もある。……ちゃーんと戻ってくるよ、俺は」

 

 軽口の裏に、どこか無理に押し込めた焦燥が滲む。

 その焦燥をごまかすように、デイビッドは笑った。

 

「それにさ。もし発着ポートで取引するなら、タワーのてっぺんまで行けるんだぜ?」

 

 ホログラムに映るアラサカタワー最上階。

 その光景を指差しながら、彼は続ける。

 

「極上のナイトシティの夜景、独り占めできる……!あとでアーカイブ共有してやるよ」

 

 ――きっとそれは、ただの空元気だった。

 

 レベッカには、それが痛いほど分かってしまう。

 胸の奥がきゅっと縮む。

 言葉を返せば、彼の覚悟を揺らしてしまう気がした。

 

 だから彼女は何も言わず、小さく息を吐いた。

 

 もう覚悟は決めた。

 なら、自分がやることは一つだけだ。

 

 ――デイビッドを、生きて帰す。

 

「……戻るって約束。絶対だかんな」

「ああ」

 

 短い返答。

 だがその声は、思ったよりずっと穏やかで真っ直ぐだった。

 

 万感の思いを胸に押し込み、レベッカはゆっくり目を伏せる。

 デイビッドはそんな彼女を見つめたあと、最後のホログラムへ視線を移した。

 

「最後は挟撃フェーズだ」

 

 彼は隣でホログラムを眺めるカツオに目を向ける。

 

「タワー内部で、お前の位置情報を頼りに俺が強襲。その後、合流して――」

「障害を挟み撃ちにして即撤収、か」

 

 カツオは静かに笑った。

 

「思ったより形になってるじゃないか」

「だろ? 泥船からアップグレードだ」

「沈む時は全員まとめて沈むけどな」

「それ、船の宿命だって」

 

 2人の不良少年の間で軽口が交わされる。

 ほんの数秒前まで張り詰めていた空気が、少しだけ緩んだ。

 

 ソファに腰掛けたレベッカが呆れたように鼻を鳴らす。

 

「はぁ~こんな時にまでくっだらねぇ……ほーんと野郎って単純だぜぇ」

 

 そう言いながらも、その口元は少しだけ緩んでいた。

 ファルコも低く笑う。

 

「ま、空気が重いまま突っ走るよりはマシだろ。死地に向かう時ほど肩の力は抜いとくもんだ」

 

 長年修羅場を潜ってきた男らしい言葉だった。

 

 青白いホログラムがゆっくりと明滅する。

 その光の中で、デイビッドは仲間たちの顔を一人ずつ見渡した。

 

 レベッカ。

 ファルコ。

 カツオ。

 

 ここにいる全員が、これから無茶をする。

 下手をすれば、誰一人戻れない。

 それでも。

 誰も逃げるとは言わなかった。

 

 和やかな空気は、ほんの束の間。

 デイビッドはゆっくりと表情を引き締める。

 

「この作戦、全員の役割が連動してる」

 

 彼の声に、部屋の空気が再び静まった。

 

 ホログラムに映る複数のルート。

 侵入。陽動。強襲。

 

 どこか一つでも崩れれば、全部終わる。

 

「でも裏を返せば――」

 

 デイビッドは仲間たちを真っ直ぐ見据えた。

 

「全員上手くやれば、100%成功する作戦だ」

 

 その言葉に。

 三人の視線が、静かに彼へ集まる。

 

 レベッカは拳を突き出す。

 その拳は震えていなかった。

 迷いも、恐れも――全部飲み込んだ“決意の拳”。

 

 ファルコは静かに、深く頷く。

 その仕草には、若い連中を信じて前へ送り出す“大人の覚悟”が滲んでいた。

 

 カツオは壁にもたれたまま、静かに口角を上げる。

 その笑みは皮肉でも虚勢でもない。

 “同じ船に乗った仲間”としての笑みだった。

 

 デイビッドは三人の顔を順に見て、ゆっくりと息を吸い込む。

 そして、不敵に笑った。

 

「オペレーション:ナイトフォール――スタートだ」

 

 青白いホログラムが揺れ、四人の影が長机の上に重なる。

 

 

 さぁ。

 夜を落とせ。

 

 ファラデーに。

 アラサカに。

 この狂った街そのものに。

 

 無理を通せ。

 道理を蹴り飛ばせ。

 

 

 そして――。

 

 

 逆転の一手を、掴み取れ。

 

 

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