CyberPunk EDGERUNNERS Ver1.6.3 作:甘井モナカ
EX-1話 スターゲイズ
薄闇に沈む観測室。
壁一面に広がるホログラムが、青白い光を脈打たせながら空間を震わせていた。
無数のデータラインが流れ続け、ときおり走るノイズが影を揺らす。
その奥では、夜のナイトシティが淡く浮かび上がっている。
――星々を閉じ込めた宇宙のように。
その前に立つのは、騎士のようなたたずまいをした青年。
背筋は真っ直ぐ、青い光を宿した瞳が揺らぎなく画面を見据えている。
「≪コアドリル型アクセプター≫の安定域到達を確認。適合者も存命。≪プロトコル No.7≫ 全フェーズ完遂。目標達成しました」
淡々とした報告の裏で、ホログラムの光が彼の輪郭を鋭く縁取る。
その隣では、眼鏡を身に着けた女が椅子をくるりと回し、軽やかに足をぶらつかせながら声を弾ませた。
「んー! 今回成功した≪プロトコル≫含めて、あの街に存在する“レジェンド”の数が規定数を突破しましたね!」
彼女の明るい声が、静寂に沈む観測室へ小さな波紋を広げる。
その後方では壁にもたれ、白衣の裾を揺らしながら低く笑う影がいる。
その男は、薄闇の中で青いモニター光を頬に受けながら、喉の奥でくぐもった笑いを漏らした。
「場面がようやく整ったなァ……これで仮初の均衡が崩れ始める」
騎士を彷彿とさせる青年は、街の地図を指先でなぞりながら静かに続ける。
「ここから先は未知の領域だ。古き圧政が再び盛り返すのか。それより前に、新たな希望が芽生えるのか。貴様にはここで立ち止まっている暇などないはずだが……」
彼が一瞥した先では、白衣の男があくびをするように片手で口元を隠し、興味なさげに明後日の方向を見ていた。
青年はそれ以上踏み込まず、眼鏡の女性へ視線を向ける。
「我々はそれに便乗して、あの街に潜んでいる“本命”を叩き潰します。……ですね?」
「えー! そうですとも!」
女の影は勢いよく立ち上がり、胸を張る。
「では我々の作戦遂行に向けて、各陣営に動いてもらうとしますか!」
青年は小さく息をつき、肩をすくめる。
「慎重にお願いします。今度は私も護衛につけますので。私がついていれば “潜入任務中に襲われ、対象と予定外の地点で遭遇する事態”など起こりません」
「もうー! 過保護すぎますよ、騎士君!……っていうかいつまでそれ弄るんです?そんなに記憶喪失の演技ヘタでした?」
白衣の影が、頭を掻きながらため息をつく。
「ったく騒がしいィ……このあたりは初対面の頃から変わんねェな」
そしてふと、ホログラムの中にある『レジェンド』リストの中の見知った顔に目を留める。
伝説を生み、それでもなお日常へ帰っていった少年。
彼との関係は、アバターを介してやりとりしていただけにすぎない。
仮初の姿で触れた一瞬の幻にすぎない……はずだった。
だが――。
あの街で男と一番長く接していたのもまた彼だった。
理由は分からない。それでも白衣の影は、ほんの一瞬だけ寂しげに目を細める。
「それはお前もだったなァ……デイビッド」
背後で戯れる二人を気にすることなく、男は淡く輝くホログラムを見据える。
その奥に浮かぶのは希望と狂気が交差する街。
男は胸に宿る確固たる意思を再確認すると、低く、静かに、しかし確かに呟いた。
「……グッモーニング、ナイトシティ。新たな夜明けの始まりだぜェ?」