CyberPunk EDGERUNNERS Ver1.6.3 作:甘井モナカ
薄暗い修復工房。
天井の配線がむき出しになり、火花が散るたびに影が一瞬だけ跳ね上がる。
巨大な躯体が鎖で吊り下げられ、その金属表面には溶接の焦げ跡がまだ赤く残っていた。
焦げた金属とオイルの匂いが重く漂う中、黒外套の人影が静かに佇んでいる。
外套は光を吸い込むように黒く、フードの奥は完全な闇――。
人の顔がそこに“存在しているのか”すら分からない。
『進捗はどうだ?』
金属を擦るような低い声。
漆黒の傭兵――髑髏顔のインターフェースを持つ巨躯が、片目の赤光を向ける。
その赤は、工房の闇を切り裂く“警告灯”のようだった。
「あと数日あれば修理は完全に済みますよ。その後、あなたがお望みの“端末”の再構築に移ります」
黒外套の人影は、端末から視線を上げて柔らかく答える。
その声だけが妙に人間的で、工房の冷たさと不気味なほど対照的だった。
傭兵は腕を組み、赤光を細める。
『……楽しみだな。俺を退けた力が、今度は俺のものになるんだからな』
黒外套の人影は、わずかに肩を揺らした。
笑ったのか、ただ呼吸しただけなのか判別できない。
「それは良いことです。あの力は、扱える者の手に渡るべきですから」
そして、ふと話題を変えるように声を落とす。
「ところで――あの噂は本当だったのですね。あなたを前に“生き延びた者”が居たというのは」
傭兵は金属の顎を鳴らし、赤光をわずかに強めた。
『……ああ。威勢のいいのが二人ほどな』
外套の奥で、くぐもった笑いが漏れる。
その笑いは、工房の闇に溶けて消えた。
「実に興味深いですね」
傭兵はしばらく黙り、やがて低く問いかけた。
『……で、なぜ急に協力を申し出た?初めは断ってたはずだろうが』
黒外套の人影は、外套の袖を軽く払った。
その仕草は優雅ですらあるが、袖の内側で何かが“蠢いた”ように見えた。
「以前『端末を盗まれた』などと言いましたが――訂正します。あれは方便です」
傭兵の眼光が静かに揺れる。
「私は“端末”を撒き、あの“力”を扱える者を選定していました。そして――あなたが選ばれました」
『……俺はモルモットってわけか?』
「いいえ。あなたの持つ“衝動”はこの街で最も私に近い。きっと我々の望む光景が見られますよ」
傭兵は無言で嗤った。
金属が軋むような、低い笑い。
黒外套の人影は続ける。
「それと――もう1つ、お願いがございまして」
『なんだ』
「あなたに、連れてきてほしい人が居るのです。私の――『半身』のような存在なのですが」
『……俺に人探しをさせる気か?』
「いいえ。近いうちきっとあなたの前に現れますよ。どうやらこの街で傭兵を始めたようですので」
傭兵は鼻で笑う。
『サイバーパンクか……。ふん。いいだろう。そいつの名は?』
黒外套の奥で、人影はゆっくりと息を吸った。
その瞬間――。
外套の内側で紅い光が“脈打つように”微かに揺れた。
金属反射でも、生体反応でもない。
異質な冷たさを滲ませるそれは、遠くの何かに呼応するように震える。
「彼の名前は――」
工房の闇が、その名を告げる前にひときわ深く揺れた。