CyberPunk EDGERUNNERS Ver1.6.3 作:甘井モナカ
1
夜に佇むナイトシティ。
ネオンの光が湿った路面に滲み、その反射がゆらゆらと揺れている。
雑多な喧騒を抜けた先。
古びた映画館の看板が、夜の中で静かに輝いていた。
黒いスーツに身を包み、サングラスをかけた男は、指定された集合場所――映画館の前で足を止める。
上映ポスターには、古いSF熱血アクション映画のリバイバル上映が貼られていた。
巨大なドリルを掲げて空を指す少年。
巨大なハサミを肩に担ぐ制服姿の少女。
奇妙な角を持つ青年。
炎を背負った消防士の男。
現実離れした熱量を放つ四人が、爆炎の背景を背に並んでいる。
男はポスターを見上げたまま、わずかに眉をひそめた。
(……なんだこの濃さは)
数秒、男は無言でポスターを見上げた。
理解を拒むような沈黙の直後――。
「……ここで合ってるのか?」
男が呟いた直後、館内の扉が開いた。
短く切り上げられた黒髪。
防弾素材が継ぎ足された緊急医療班のジャケット。
両手にはポップコーン。
かつての“少年”から少しだけ成長した青年は、映画館前で佇む男に気づく。
「お、来たな。悪い悪い。ちょっと観たい映画あってさ。集合場所ここにしちまった」
気さくに笑う青年を見て、男はもう一度ポスターへ視線を向ける。
(……こういうのが趣味、なのか)
黒髪の青年はそんな視線に気づくこともなく続けた。
「……あんたが加入者か。話は聞いてるぜ。“不死身の兵士”って噂。瀕死でも戦闘継続、単身で特殊部隊を壊滅させたとか」
男は苦笑し、肩をすくめる。
「尾ひれが付きすぎだ。……だが、そう言うなら俺も光栄だよ。まさか“ナイトフォール”の当事者に会えるとは」
――ナイトフォール。
一年前、アラサカ中央グリッド区画で発生した大規模停電事故。
“一人の傭兵が眠らない街に夜を落とした日”として、今なお裏社会で語り継がれている事件だ。
青年は肩をすくめ、映画館の灯りに照らされながら笑った。
「大袈裟なんだよ。コーポに喧嘩売っただけだろ?」
男は乾いた笑みを漏らす。
「いやいや。あの日の社内は本当に地獄だったぞ?」
「そーいや、元コーポだったっけか。悪い悪い。迷惑かけたな」
「……構わないさ。辞めるには丁度いいタイミングだった」
両手に抱えていたポップコーンを片手へ持ち替え、青年は男の肩を軽く叩いた。
「はは。いいねぇ脱社畜。後で飯でも行こうぜ? 歓迎会代わりに奢るよ」
「それはありがたいな」
青年は親指で背後を示す。
「じゃ、行くか。ウチの連中、拠点で待ってる」
男は静かに頷き、二人はネオンの海へ歩き出した。
「ところで……その両手のポップコーンは持って帰るのか?」
「実は俺、パシられてんの。リーダーなのに。……映画行くって言ったら『『お土産買ってきて』』ってうるさくってさぁ」
「……」
「リーダーを顎で使うとか有り得ねぇよな?……あの2人何時からあんな仲良くなったんだ?」
「……その、苦労してるんだな」
2
廃ビルが立ち並ぶ区画の奥深く。
薄暗い通路を抜けた先。
青年が扉を押し開ける。
「ここがウチの拠点だ」
扉の向こうから、複数の視線が一斉に向けられる。
最初に口を開いたのは、銀髪の少女だった。
「……27歳。一年前までアラサカ勤務。その後はフリー傭兵に近い活動履歴――ってところね」
冷静な視線が、男をスキャンするように見つめている。
その隣で、長身の女性が呆れたように肩をすくめた。
「会って早々ハック掛けるのやめなよー。一応これから仲間なんだしー」
すると、部屋の奥から小柄な幼女が身を乗り出す。
「また元コーポかよ!ウチこれで四人目じゃーん!」
壁にもたれていた青髪の青年が肩を揺らした。
「なら、そろそろ会社でも立ち上げるかい?」
「絶対イヤだね!」
即座に返ってきた叫びに、ソファへ座っていた髭の男が煙草を弾きながらぼそりと呟く。
「違うだろ。あの男、嬢ちゃんのタイプに近いんだよ」
青髪の青年が「ああ」と納得したように頷く。
幼女の額に青筋が浮かんだ。
「はぁー!? 違ぇよ髭!!青髪も納得してんじゃねぇー!!」
二人は無言でサムズアップする。
「「グッ……」」
「……上等だコラァ!!表出ろぉ!! まとめてぶっ飛ばしてやるっ!!」
部屋の隅で始まる小さな乱闘。
銀髪の少女はその騒ぎを微笑ましそうに眺めていたが、ふと扉際で固まっている青年へ視線を向けた。
「……ねぇちょっと。固まってるけど、大丈夫?」
はっと我に返った青年は、額を押さえて深く息を吐く。
「……はぁ」
彼は手にしていたポップコーンを扉脇の小机へ置き、改めてスーツの男へ向き直った。
「ま、まあ、ちょっと癖は強いけどさ。こいつらがウチのチームメンバーだ」
ばつが悪そうに咳払いをした後、青年は右手を差し出した。
「改めまして――俺はデイビッド。エッジランナーズへようこそ」
男はしばらくその手を見つめていたが、やがて静かにサングラスを外した。
淡く光る碧眼。そして、静かに脈動する紅眼。
片方は人間らしい温度を宿し、もう片方はどこか異質な冷たさを滲ませている。
相反する双眸で青年を見据え、男は差し出された手をしっかりと握り返した。
「……Vだ。よろしく頼む」
【 PROCEED TO THE NEXT GAME? 】
▶ YES / NO