色々と用事があり過ぎて遅れましたが、待っててくださった方々。すいません(汗)
それでは、どうぞ。
「……それじゃ、あそこに居たのは単なる偶然なのね」
「誰が狙ってあんな危ねぇ場所に転移するかっての。……まあとにかく、そういう事なんで―――そろそろ離してくんねーかな、嬢ちゃん」
「やー……」
研究施設から脱出して約五時間後。何度かの転移や移動を繰り返し俺は、時空管理局地上本部とやらのある一室にて桔梗色の髪の女性―――クイント・ナカジマ捜査官から事情聴取、そしてこの世界や時空管理局について色々と説明を受けていた。
―――研究所で助けたちびっ子の、髪の長い方に服の裾を掴まれたまま。
戦闘機人、それがこのちびっ子の正体で、あの施設で研究されてた存在。
脱出からの少し後、クイント捜査官の仲間が合流するまでの間、彼女にこいつらや研究施設にて研究されてたものの正体について尋ね、返って来た言葉がソレだった。
人の身体と機械を融合させ、常人を超える能力を得る為に鋼の骨格と人工筋肉を持ち、遺伝子調整を受けた改造人間モドキ。モノによってはガッチガチなアンドロイドみたいなのもいれば、ちびっ子達の様な骨格と筋肉の人工化及び特殊能力を付加された程度等、色々。
といっても、ちびっ子達程度ならば殆ど普通の人と変わらないと説明された。
で、その説明の後にちびっ子たちは目を覚ましたのだが、どういう訳か髪の長い方に懐かれてしまった。目覚めた瞬間は多少怯え気味であったものの、まだ数時間しか経ってない現在ではこれでもかと言う程にくっついてくるなり、今に至る……。
なお髪の短い方は、髪の長い子を引っ張り「やめようよ」とでもいう風に涙目になりつつ
俺から離れようと努力している
「しっかりと懐かれちゃったわね。刷り込みってヤツかしら」
「だとしても幼女に懐かれても嬉しかねぇよ……」
どうせ引っ付かれるなら金髪巨乳の美人を所望したい。
まぁともかく、今この子らに何か言っても離してくれなさそうだし、このまま話を進めてしまった方が良い。クイント捜査官に視線を向けると、「そうしましょうか」と肩を竦め、背を正した。
「さて、君があそこに居た事についての取り調べやこの世界の事について色々と説明し終わったけど、何か質問や言いたい事はあるのかしら?」
「次元世界はともかく、時空管理局の在り方については正直ツッコミ所が多くて何も言う気が起きねぇな、俺としちゃ。各異世界の平和維持なんて掲げてる割に、人員不足とかの初歩的な問題が如何にか出来て無い時点で駄目じゃねぇか」
「まぁ確かに、それを言われると痛いわね。上や、『海』―――本局の方もその点に関しては頭を悩ましているし」
「救えねぇなオイ。まあ、掲げている理想はそんなに嫌いじゃないんだがなぁ……」
ウンザリと、だが態度を出来るだけ顔に出さない様にそう答える。
管理局―――正式名称、時空管理局は今俺が居る第1管理世界ミッドチルダを発祥とする、次元世界を統治する組織で、簡潔に言えば警察や裁判所といったものがごっちゃになった司法組織だそうだ。ちなみに俺が今居る部屋がある施設を地上本部、次元空間と呼ばれる世界と世界を繋ぐ空間に総本部である本局があるという。
そしてその管理局が管理観測出来ている百数十以上の世界を総じて次元世界と言い、その中でも直接的に干渉していない世界を管理外世界、している世界を管理世界もしくは観測指定世界等と呼称しているという。
なお俺の出身である地球は管理局からすれば第97管理外世界として扱われているそうだが、話を聞く限りでは俺の住んでた地球と違い魔法技術が無いらしい。
まあ所謂数ある並行世界の内の一つだろう、それも次元レベルでの。
しかし……数多ある並行世界、並行次元に手を広げて活動しているうちの一族も大概ではあるが、人員不足の状態でよくもまあ百数十近い世界を管理しようとするもんだ。呆れる以前に創始者、というか次元世界を纏めようとした連中の頭の中を覗いてみたい。
その後、幾つかの確認事項を終えると話題は俺の処遇についてへと変わる。
魔法使用によるミッドへの無断渡航―――要は密入国に当たる事を俺はしてしまっているらしく、普通なら数週間の手続きの後に強制送還という流れらしいが……今回が初犯である事、そして偶然という名の事故による転移ミス、管理外世界からの次元漂流者等と言った様々な要素から、厳重注意を受けるという程度になるそうだが……
「……嘱託魔導師にならないか、だぁ?」
「短いとはいえ、君の戦闘記録から一応実力はあるみたいだから……あぁ、別に強制じゃないから断っても大丈夫だから」
でも今後次元世界を回る事を考えると色々と融通が利くわよ、とクイント捜査官は聴取記録を纏めながらそう提案してくる。
それを聞いて俺は、強引に膝上へよじ登ってきた幼女を降ろしながら思案する。
嘱託とはいえ、雇用……。人員不足なのはわかるが、それでいいのか時空管理局。
俺としては、嘱託として管理局入りとなれば合法で此方側に滞在出来る上に職も手に入るから、断る理由は無い。むしろ魅力的で、なっても構わない。構わないのだが……、
『魅力的ではある……が、そう簡単になれるものではあるまい?』
そこへ、今までだんまりを続けていた烈龍が口を開き、俺の代わりに疑問を投げかける。
だが、いきなり響いた聞き覚えのない声に反応しビビったのか、ひゃっ、と膝上によじ登ろうとしていた長髪の子が小さな悲鳴を上げよじ登る事を中断し、裾を掴める位置に戻った。短髪の子の方はというと、長髪の子に寄り添い声の出処である俺の腰に掛けられた烈龍を涙目で見つめている。
ちびっ子をビビらせるなと、ジト目を向けるが『む…、失礼』とこちらに一言入れてから烈龍は言葉を続けた。
『戦闘記録に目を付けたという事は、それ相応の実力を見せねばならないという事。つまり、そういうことだろう?』
「えぇ。嘱託とはいえ管理局の職員、様々な世界に送られたりするから相当な実力を要求される。認定試験自体は筆記と戦闘の二種だけど、採用率はあまり高くないしかなり厳しいわ……でも」
『実際に時空管理局に勤め、捜査官という職についている貴女から見ればマスターにはその試験を受けるだけの実力はある、と?』
「人員不足だからっていうのもあるけど、私自身はそう思ってる」
そうまっすぐこっちを見ながら、彼女は言う。
……参った。身内以外から評価されるのは嬉しいが、美人にそこまで言われると断るにも断れない。だが、それ以前に幾つか面倒な問題がある事に気付き、了承の意を言おうと開きかけた口を閉ざす。
それ見かねてか、烈龍はワザとらしく溜息を吐き、再度言葉を紡ぐ
『何だ、何か不満な点でもあるのか』
「いや、不満は無い。むしろ大歓迎だ。けどな……」
「けど?」
「そうなると今後の活動拠点……もとい居住地をどうするか、なんだよなぁ」
当面の生活資金は後で換金出来るならそうして貰えばいいし、食料も最悪木の根っこでも食えばどうとでもなるし、俺の場合最後の手段があるからまだいい。
……だが、今後の拠点として使う事になるであろう場所だけは何としても確保しておきたい。
こうなったらいっそ穴倉生活を覚悟するべきか……等と呟いていると、クイント捜査官は「ふむ……」と一つ頷き。
「ま、今すぐにという訳でも無いし、今日の所はじっくりと考えておいた方が良いかしらね」
「……そうしてくれると助かる。あ、無論嘱託を受ける事に関しちゃ賛成だからな?」
「分かったわ……じゃあ、聴取もこれで終りね。さーて、それじゃあ……」
と、空中投影式のパネルを呼び出すや何かを打ち込んでいき満足げに頷くと、
「今すぐには無理だけど、暫くの間君が宿泊出来そうな場所はこっちで用意するけどいいかしら?」
「冷たい床の上で寝る事にならなけりゃ別に留置所だろうが牢獄だろうが、何処でも」
そうなると犯罪者みたいに見られそうで嫌だが。
肩を竦めながらそういう俺に対しクイント捜査官は苦笑しつつ、これからちびっ子共の検査に立ち会わないといけないからと二人を連れ部屋を出て行き、俺はそのまま待機となった。
……ただ、出て行く際に何か悪戯でも企んでいるような笑顔を浮かべていたのが無性に気になったが。
その後、特にする事も無かったのでホルダーに収めていた鍵を机の上に並べ、丁寧に磨く事で退屈を紛らわせる事にした。今後、荒事に巻き尾まれたら確実に酷使する回数が増えるであろう魔導具だ、日頃から手入れしておかねばなるまい。
『手馴れているな』
その様子を、同じく机の上に置かれた烈龍がコアを明滅させながらそう漏らす。
「ま、修業でも同じ事やってたからな。ましてや、自作の品なら手馴れてても当然だ」
『自作、だと?』
あぁ、と頷きながら磨き終えた鍵を置き、別の鍵を磨き始める。
天津家当主の証であり意思を持つ魔導具『古龍の珠』、その力を引き出すための道具が、この鍵。これ一つに魔法の詠唱文と大量の魔力がつぎ込まれてあり使い方を間違えれば魔力爆弾ともなり合える代物。
基本的には『古龍の珠』の力を引き出し、鍵に刻まれた魔法を発動させるというものだが、これ単体でも使おうと思えば使えたりする。適当な大きさの魔方陣を展開し、そこに挿しこむ等とか、そんな感じでだ。
「ついでいうとお前の今の器でもある銃も俺の作品兼修業時代の道具だ。しっかし、爺さんめ……『正しく使う為の道具』とか『これから先必要になるモノ』って言っておきながら、起動用の鍵を除いた修業時代の奴殆ど詰め込みやがるとはな……」
おかげで戦闘に手古摺る事は無かったが、耐久度が微妙なレベルになり掛けていたモノばかり寄越しやがって。大声でそう怒鳴ってやりたいが生憎ここは司法機関の一室で、本人は遠い次元の彼方。喚いたところで時間の無駄だ。
『そうか……しかし、これは足りるのか? レリーフ部分から種類分けしても9種2セット程度しかない様に見えるが、壊れたり紛失した時どうするつもりだ』
「んー、耐久度自体は微妙に落ちているとはいえ結構頑丈に造ってあるからそこまで心配はしてないし、紛失しようが俺の魔力が染みついてんだ、魔力残滓を辿ればわか……ん?」
ふと、鍵を磨いている途中で妙な違和感に襲われる。
そして烈龍の言葉を思い出しながら鍵を数え直していき、顔を青ざめる。
研究施設ではさっと確認するだけで気付かなかったが、まさか……
「じ、ジジイ……あの野郎っ、鍵半分しか入れてないじゃねえか!?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……どうしよ、ジジイ困っちゃった」
手元にある数本の異形の鍵を見て、天津隆三は冷や汗を垂らしながら少しでも平静を保とうとおどける様に呟いた。
それに気付いたのは、彼の孫であり新たな当主となった司が転移魔法で旅立って三十分後の事だった。
孫の旅立ちを見送った後、茶でも飲むかと居間にあがった彼はちゃぶ台の上にあったソレを見つけてしまった。
『次期当主用』と、デカデカと書かれた紙が張られてあった少し小さめの白いケースを。
最初は「あ、アタッシュケースに入れなかった余りか」程度の認識だったが、中身を見てその認識を撤回する事となる。
中にあったのは、余りの鍵等ではなく司が修業時代にとても重宝していた変身用と契約獣の召喚、その他補助魔法用の大量の鍵や小物魔導具等々。
「……まさか、重要な鍵の殆どを間違えてこっちに入れてしまったとは……ヤバい、九十歳にして遂にボケ始めたか、儂」
せめて曾孫が出来るまではボケる気は無いと誓っていたがここまでか……等と冗談を思い浮かべながら、さてどうしたものかと腕組みをし真面目に考える。
幸い鍵自体の作成は問題無いだろうから、向こう側で作るかもしれんが……魔導具の方はそうはいかんだろうなぁ。
ケースの中にあった眼鏡型の魔導具を手に取り、溜息を一つ。
「レンズに魔法鉱石を使用したコイツなんぞ、転移先でも作れるとは限らんしのぅ」
だからと言って、転移先に送りつけようと思ってもなあと開け放たれた襖の向こうに見える庭先の『惨状』に目を向ける。
元々数十世代前の時代から使ってきた魔導具だった故か、次元転移に使った魔導具は最後の力を使い果たしたとでも言うかのように黒い煙を上げながら力尽きていた。
転移先の座標は既に抜き出しているから問題ないが、もう転移するのは不可能だろう。
一応、天津家には他にも次元転移用の魔導具があるにはあるが……
「儂自ら届けに行こうもんなら説教確定だしのぅ」
「じゃあアタシが届けに行ってやろうか?」
不意に背後から掛かった声に隆三はびくっとする。
そして振り返り、声を発した人物を見て「はぁ~」と息を吐く。
「モルト嬢ちゃん、背後に立たんでくれ。儂驚いてチビってしまうぞ」
何時の間にか背後に立っていた人物は「悪りぃ悪りぃ」と言いながら隆三の正面に腰を下ろす。
見た目から年の頃は十代後半ぐらい。腰まで伸ばされた見事な緋色の髪はまるでルビーの如く輝きを持ち、その双眸はガラス玉のように透き通っている。細くきりりとした眉は、まだあどけなさを残す顔つきに凛々しさを加えていた。すらりとした肢体に纏った白いワイシャツに黒いズボンというラフな格好は、スレンダーなその身をより一層引き立てていた。
その人物の名はモルト。
五年前に現高天原家当主と偶然知り合い、訳ありという事で天津家に居候する事となった姉妹の片割れだ。
「脅かす気は無かったんだが、まあ何を見てるか気になってな……しっかしまぁ、アンタもミスはするんだな」
「儂とて人間じゃ、失敗くらいする。まあ今回のは流石にちと面倒だが……で、言うからには頼まれてくれるか?」
言いながら転移座標を書き記した紙片をモルトに差し出し、ケースに鍵を掛ける。
座標を見たモルトはケースに手を伸ばしながら「ふーん……」と顎を一つ擦り、
「―――まさかこの次元とはな。因縁とでもいうべきか……?」
ぽつりと、隆三には聞こえないほど小さな声で呟いた後「オーライ、任された」と言いながら立ち上がる。が、ふと思い出したように振り返り一言。
「そうだ、黄龍の旦那とうちの姉貴から伝言」
「ん?」
「黄龍の旦那の方は調査に進展があったとかなんかで暫く戻れないってさ。で、姉貴も別次元の地球で新しいバイト先見付けたからこっちも暫く戻らないだと」
「え、ジジイまたボッチ飯?」
ガーンと器用に魔力光で擬音語を形作り背後に浮かべショックを受けている隆三を背に、白いケースを片手にモルトは居間を出た。
鼻歌を奏でながら、今頃困っているであろう弟分の姿を想像しながら。
謎のヒロイン登場でござる。
と、今回はあまり動きが無かったかもしれませんが、次回で多少は……(汗)
次は出来るだけ早めに挙げたいなぁと思いつつ、餌を求めつつ執筆に戻ります。
感想、誤字報告、アドバイス、待ってます……(汗)