Nameless Daily   作:日々樹

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スカイとキングの同棲生活、年の瀬のお話。

これはせいぜい、5分ちょっとの通話時間。

話し方等々、解釈違いにはご注意ください。
おやつ感覚でご堪能あれ。



「あけましたらおめでとう」

 これはもう数年前に学園を卒業して、今となってはレースからも退いたセイウンスカイとキングヘイローの、そう、たった二人だけの女の子たちのお話。

 

*  *  *

 

[電話していい?]

 

 寒空の退屈に耐え兼ねて、つい、そんな言葉を電波に乗せて送ってしまった。

 聞けばこの時期は、親戚やら付き合いの長い家庭やらとの挨拶回りで忙しく、落ち着ける時間はほとんどないんだとか。流石良家のお嬢様。せいぜい身内が一堂に会してどんちゃん騒ぎする光景しか知らない、平民育ちの私には想像もつかないようなお正月を過ごすらしい。

 だから返事は来ないだろうと思ってた。少なくとも今晩、私が初詣を終えるまでにはないだろうなって。

 確かにすぐには来なかった。それでもせいぜい十分か二十分か。もしかしたら手持ち無沙汰を理由に長く感じていただけで、本当はもっと短かったのかもしれない。

 ともかく、コートのポケットに右手と同居していた携帯電話が小刻みに震え、同棲相手からの返信の到着を教えてくれた。

 

[年越しそばの準備ができるまででよければ]

 

 おや、年越しそばとは聞いていたより意外と庶民的。てっきり上品な人たちと立食パーティーでもしてる最中かと。――なんて言ったら『私の実家をなんだと思ってるの⁉』とか返されそうだ。

 そんな冗談を考えつつも、かじかむ手は彼女の番号を探している。ダメ元のお誘いを、制限付きとはいえ受けてくれたんだから、一秒たりとも無駄には出来ない。

 呼出音が鳴ったかと思えば、コールが二回も鳴らない内に、電波の向こうに彼女が現れる。

 

『どうかした?』

「んにゃ。どうしてるかな~って思って」

『やることがなくて暇だったのね』

「あ、バレた?」

『スカイさんのご家庭なら今頃初詣の列に並んで年越しを待ってる頃でしょう?』

 

 ご明察。私は今、初詣に赴いた人たちが作る長い長い列の中。流石にテレビで放送されるみたいな有名どころではないけれど、それでもこれだけの人が訪れている。年末までご苦労様と、ちょっと皮肉も漏れてしまったり。

 こんな時間はこたつに入って、テレビでも見ながらおそばを啜っている方が大変好みなのは言わずもがな。なのにこうして左程近所でもない神社にまで駆り出されているのは、家庭の習慣という至極簡単な理由によって片付けられる。

 

『スカイさん。そちらにご家族の方はいらっしゃるかしら? 折角だからまだ年明け前だけどご挨拶でも』

「あー、今みんな出店に甘酒とかいろいろ買いに行っちゃってる。私だけが列で場所取り役」

『そうなの。なら年明けにまた改めてご挨拶に伺うわ』

「それは私もおんなじだし、合わせられそうならタイミング合わせよっか」

『そうね。なるべく、早いうちに』

 

 なんとなくで時間を貰って、話す内容なんて考えてすらいなかったはずなのに、こうもあっさり年明け最初の予定が埋まる。厳密に日付も時間も決まってはいないけど、予定は予定。今はそれだけで、充分。

 

「でもキング、年末年始は家の用事で忙しいって言ってなかった? 今もこっちから訊いておいてだけど、まさか電話出来るほどだとは思ってなかったから」

『流石に大晦日の夜中まで続くほどじゃないわ。本番は明日からする、親戚や良くしてくださってるご家庭の方たちへの挨拶回りだから。今日まではそのための準備がほとんど』

「うわぁ、知らない世界だ。大変そう……」

『毎年していれば流石に慣れてくるものよ』

「そういうものかな?」

『そういうものよ。ちょうど、寒がりな貴方が夜風に当たりながら毎年初詣の列に並んでいるみたいにね』

「私はこたつの中で丸くなってたいってずっと言ってるんですけどね~」

 

 電話越し『それじゃあネコみたいじゃない』と笑う声のさらに奥から『キングヘイロー』と彼女の名前を呼ぶ声がする。何度か聞いたことがあるからわかる。それは彼女の母親のもの。

 ご息女曰く頑固でわからず屋で不器用で、お料理がからっきしで、一流の気品と素質があって、今でも変わらず憧れの人。

 私曰く、この子にしてこの親あり。顔を合わせた回数はまだ数えるほどなのに、あまりに似ているものだから、母親の背中に数十年後のキングの姿を重ねてしまうことしばしば。これは口が裂けてもこの親子には言えない。私がお墓まで持っていく秘密の一つ。

 別に悪い意味なんかじゃないから、バレたとして許してくれると思うけど。

 

『それじゃあスカイさん。準備ができたようだから』

「うん。急な暇つぶしに付き合ってくれてありがとね」

『構わないわ。たまたま私も手が空いていたのは一緒だから』

「えっとじゃあ、あけましたらおめでとう」

 

 咄嗟に浮かんだ年の瀬の挨拶。束の間の空白の後、またもや吹き出したような笑い声がたった一人、私の耳元にだけ届いた。

 

『なにそれ?』

「いやさ、キングは年明けからしばらく忙しいみたいですし? 今の内に新年の挨拶をしておこうかなって。だから『あけましたら』おめでとう」

 

 きっとどうせ、明日にはちゃんとした挨拶もするだろうに。無駄にも思えるこんな余興を挟みたくなってしまうのは、ひとえにキミがこうして笑ってくれるから。だから私も調子に乗って、周りに誰がいようとお構いなしに、遠いキミの輪郭へと語りかけてしまう。

 

『えぇ。あけましたらおめでとう』

「うん。来年もよろしく」

 

 明日には、その来年になる。いいや、もう十分もしない内に明日になる。

 同棲してから初めて迎える新しい年。

 傍にいなくともハッキリと伝わる繋がりを胸に抱きながら、特別変わったところもないありきたりな願い事を口にした。

 

「どうか来年も、いい一年になりますように」

 




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