Emigre   作:Flyer

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空腹を覚えその場を立ち去った彼女、グッドフェローズは爆発跡地に向かいながら道を歩いている"人間"に声をかけることにした。ただ、よくよく見渡してみても人間は存在しない。灰色のモヤがかかってきたところで跡地が近づいてきたと察していたが、そこで1人の男性を見つけた。路面電車を待っているようにも見えるし、ただそこに立ち尽くしているだけかのようにも見えたがグッドフェローズはその男性に声をかけた。

 

「すみませ〜ん。ちょっといいです?」

 

男性は彼女の方を見た。少なくとも人間だ。機械ではない。男性は答える。

 

「なんでしょうか」

「ここら辺に栄養食以外で食べれるもの売ってる場所ってあります?食糧切れちゃったみたいで」

 

彼女は申し訳なさそうに言った。一方の男性は5区で見ることのないような純然な笑顔に少々安堵の表情を浮かべていた。

 

「では。ここの通りを真っ直ぐ行き、二つある建物の間の路地を通れば地下への階段があります。そこでは1区の追放された伯爵の隠れ家がある。彼はお人好しだからきっと助けてくれるはずさ」

 

グッドフェローズは感謝の辞を述べ、その場を去った。男性は通りすがる時に彼女の目を一瞬だけ見た。

彼女は7区の人間だった。彼女がその場を去り、男が路面電車に乗るまで彼は7区の人間が5区にいる理由を考え続けていた。7区といえば貧困と犯罪の都市であるという偏見があるためにこうした目の内の分別化に差別は生まれやすい。

彼女は言われた通り、5区の裏路地に消えた。地下への階段とやらは蓋をされていて、開けるには相当の力と慎重さがないと無理に思えたが、彼女は少しずつ蓋を開け、自分が通れるぐらいの隙間を作ってそこに体をねじ込んだ。

 

「...オーケー?少なくとも洞窟みたいな自然物ではないね。あっ、さっきの人にそっからの行動聞いてなかったな」

 

降り立った場所は白を基調とした単調な廊下で、いかにも5区が好みそうな無機質さを醸し出していた。彼女はゆっくりと目を閉じ、過去を見た。ここを通る人間の服装は様々で、皆一様に彼女の体の向いている先に行っている。瞬きを一つして、またも目薬を垂らす。彼女はボイスレコーダーを記録し、メモを裏ポケットから胸ポケットまで移動させた。グッドフェローズの足音だけが反響し、強固な扉に着くまでそれは揺るがなかった。

ちょうどそこから男性が出てくるところだった。服装は5区郊外と大して変わらず、一見貧しくも見えるが、1区が施したのだろう伯爵のバッジだけは変わらずつけているままだった。

 

「...おや、君は誰だろう?」

 

伯爵はグッドフェローズを見つけると即座に反応した。彼女も冷静を保ち、答える。

 

「7区出身のグッドフェローズと言います。僭越ながら栄養食以外を食べられるのはここ以外無いと聞きまして」

 

彼女は「へへ」と顔では笑っていた。伯爵も、その返答に笑みを持つ。

 

「そうか。私は1区出身のデヴォン伯爵。ここで出会ったのも何かの運命。どうぞ、この先に進んで少し待っていてください」

 

彼女はその言葉に甘え、デヴォン氏の開けた扉に入っていった。内装は廊下と大して変わらないが、必要なものは揃っている執務室といった様子だった。椅子に座り、メモを開くと、これまでの動向を書き、最後にデヴォン伯爵と記し、下に箇条書きのための点を用意した。

 

彼女は待っている間、デヴォン氏とどのような話をしようか悩んでいた。1区の位を持つ者でありながら5区に左遷されるというのは珍しいことで、こんな施設を作るぐらいだからさぞ5区を知っているに違いない。更には1区の数年前だとしてもその時の状況を知ることは価値がある。このような情報源をグッドフェローズは望んでおり、まさに運命とも思った。

十数分すると足音が聞こえ始め、グッドフェローズはメモを閉まった。扉が開かれると、デヴォン氏が彼女の前のテーブルに料理を置く。パンとバター、コーンポタージュにサラダ、スクランブルエッグ。彼女の目は輝いた。

 

「どうぞ、お食べになってください。毒か何かを仕入れる資金もないので安心しても大丈夫ですから」

 

グッドフェローズはパンにバターを塗り、頬張った。久しい食事であり、彼女は喜んでいた。

食べ進め、パンは無くなり、サラダが半分を切ったところで彼女は一度食事の手を止め、伯爵に問うた。

 

「5区はどのような場所だと思っています?」

 

デヴォン氏は手を組み、暫く彼女から視線を逸らし、考えていた。彼からしてみれば一介の訪問者に教える意味はあるのかどうか。教えたとしてそれが瑕疵にならないかを心配していた。しかし、グッドフェローズが返答を食事の手を止めてまで待っているのを見て罪悪感が湧いたか、答え始めた。

 

「5区...つまりは4番目に裕福な区とは言われていますが、結局のところ彼らの収入源というのは特別認可の利用料や、罰金政策などが主流であるので7区と生産の部類で張り合えるかどうかと言われればそれは無理な話です。結局の所、5区は極端に貧しく、極端に富んでいます」

 

彼女は「ほうほう」と相槌を打った。伯爵は続ける。

 

「その特別認可も最近は取りづらく、利用価値の低いもので溢れ、それでは元の信念である『優れた研究は優れているだけ優遇されるべきである』という理想は崩壊してしまいます。既に1区や2区は同じような条例を作り、5区産の認可は殆ど現在では利用されておりません」

 

それは仕入れられていない情報だった。2区の区特有特別認可は知っていたが、1区のも既にあるとは。彼女が意外そうな顔をしていると、デヴォン氏は彼女に同じような質問をした。

 

「7区はどのような場所でしょうか?」

 

彼女はすぐに答えることができた。

 

「『自然が人々を侵し、人々は技術を蝕んでいる』。ある本からの引用ですけど、それが一番7区を指しているわかりやすい例えだと思っています。7区は技術革新を無理に進めた結果、生産量や負債が釣り合わずに崩壊した場所ですし。あぁ、旅行にはいい場所ですけど」

 

伯爵は冗談めかして話すグッドフェローズの目を見つめた。正真正銘の7区の住民。他の区へ行くことすら相当の勇気が必要だったろうに、相当の経験があってのことだろうか。

 

「確かに7区は会談にもよく使われるくらいのどかで平和です。暴動や革命戦争なんて起こらないでしょう。しかし、貴女はそんな生活から抜け出した。それはなぜですか?」

「明らかに私は世界において行かれていると思ったから、ですかね。度々新聞を届けに来てくれた人がいるんですよ。その人はいっつも陽が沈んだ頃にやってくるのですが私はその人に無茶を言って新聞を見せてもらい、通訳までしてもらいました。そこには私の知っている世界より明らかに広い世界がありました」

 

彼女は半分嘘の話を続ける。

 

「そこで私はもっと世界を広くしたいと思い、徒歩で7区から脱出しました。しかし空腹で倒れ、目を覚ました場所は2区でした」

「2区?」

 

伯爵は思わず聞き返した。区の中では比較的良心的な2区だが、7区から出てきた少女を救出し、治療するほどだろうか?

 

「多分気紛れでしょう。彼らの中でも優しい人間が私を癒してくれました。そこからは自分をおいてくれる場所を探し、最終的には5区にも来られるようになりましたし」

「てっきり、私は君が7区から5区に来たのかと思っていた。確かに、その服は5区のものではないだろうし、私が浅はかだった」

 

いやいや、と彼女は手を動かした。間違ってもしょうがないという意味だ。彼女はサラダにフォークを刺し、口に運ぶ。

 

「その、君を置いてくれる場所について私は目星があるのだが...確か、ヘイダルという組織ではなかったか?」

「...あぁ、まぁ、そうです」

 

グッドフェローズは内心焦っていたが、一応の返答は為した。伯爵は回想しながら話した。

 

「その組織は有名ですよ。特に陰謀論関連ですが...1区の王が関わっているという噂があってですね。何せ、1区直属組織である諜報機関『金枝』から派生したものだと言われていて、開示された文書にもその機関のメンバーの名前が複数載っていたものですから。ただの噂で済む話ですけどね。ノイズの研究や難民救済など、立派なことじゃないですか」

 

グッドフェローズはそれに苦笑いで返した。実際の活動などは大抵闇に紛れている。表出していっているのがその活動...というだけにヘイダルをみていた。

 

「掲示板は見たかな?2区の研究所が5区にも展開すると聞いていてね。話を聞くうちに関係者かと思ったからだ。パンはもっといるかい?」

 

グッドフェローズは首を横に振った。出された料理は完食し、手を合わせた。

 

「今後、君や仲間達がきた時にもし緊急の事態があった場合ここに来なさい。私も私の使いもきっと歓迎するはずだ」

 

グッドフェローズは席を立ち、お礼を言うと廊下に出た。デヴォン伯爵は去る彼女の背中をぼーっと眺めていた。彼女はメモを取り出し、箇条書きの点から言葉を並べる。不思議な体験もあるものだなと思うし、デヴォン氏の喋り方は安心をもたらしてくれる。しかし実際、彼の話したことに彼自身のことは一切含まれていなかったのでは?

研究所は研究をするだけではなく、爆発跡地の監視も含まれる。あの跡地には何かがある。寄り道をしてしまったが、一歩一歩真実に近づいていることはわかる。

グッドフェローズはボイスレコーダーを切った。

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