今日は午前中で終わる日。
稽古でもするかと浅打を背負い立ち上がったところで__
”『ピンポンパンポーン』”
っと、教室に着いている虚の仮面のような置物の口が動き始める。
”『一回生、特進学級、日番谷冬獅郎さん』”
周りの生徒の目が一斉にこちらに向けられる
”『至急、特別訓練場壱にお越しください繰り返します_』”
「はぁ…」
痛々しい程の視線を避けながら特別訓練所へ向かう。
通常の訓練場とはちがい、特別な申請書がないと入れない特別訓練場。
壱の扉は開いており、そのまま入る
「失礼しま…」
その瞬間顔を柔らかいものがつつんだ
「隊長〜!この子ですよこの子!生意気なガキ!」
「離せ!!てめぇが呼んだのか松本!」
「松本副隊長でしょー!この前昇進したって言ったじゃない!」
「ふんっ」
「もう!生意気ー!!」
顔を背けた先には羽織を着た2人の男がいた。
「おっ、その子が乱菊のお気に入りか?ほー」
黒髪の男は俺の事を見ると感心したように頷いた
「師範どう思います?」
師匠と言われた男は俺と目が合うとニコリと笑って近寄ってきた__
っと思えば腕を握られ持ち上げられる
「なっ…!」
暴れようにも動かせない。なんつー力だ__
「へぇ、うんうん。君毎日稽古してるんだ」
「…!」
腕を見ただけで分かるとでも言うのだろうか
男は先程とは違い優しく腕を離す
「自己紹介が先だったな。俺は浦原維助、二番隊隊長でたまに講師として院の先生をしてる。そのうち俺の講義を受けることになると思うけど、よろしくな?こっちが」
っと黒髪の男を指さす
「俺は志波一心。十番隊隊長で乱菊の上司だな」
「……んで隊長ら2人が俺に何の用ですか」
「乱菊ちゃんがすごい生意気で凄い強いやつがいるって言ってたんで気になって呼んだんだ」
「生意気とは言ったけど強いだなんて私は言ってませんからね!浦原隊長!!」
「…浦原…浦原?」
浦原維助、流して聞いていたが教本に名前が__。
「浦原隊長は伝令神機と流魂街の偵察無人機を作った人よ?その他にも数え切れないほどすごいの作ってるんだから!ほら流魂街でふよふよ浮いてる機械見たことない?」
確かに、ばあちゃんがアレは死神様が見守ってくれている証だとか言ってたような。それ作った?
「………本当に見に来ただけなんですか」
「うん、そうだよそれと勧誘に」
「…勧誘?」
「そう!せっかく優秀な逸材がいるんだから唾付けとかないとって感じで乱菊ちゃんも気に入ってるし一心も気に入ったようだし、良かったら院卒業したら十番隊に行かない?」
「…」
志波隊長の方に目を向けるとニコリと笑った。
「…考えます」
「十番隊に入ったら私が上司だからね!冬獅郎!」
「…やめようかな」
「なんですって!?」
「はは、2人は仲いいなぁ。冬獅郎。なぜ院に入ろうと思ったの?」
っと首を傾げる浦原隊長
「…力の扱い方を学ぶため…っす」
「ふーん…そっか…なるほどね、うんうん確かに」
またペタペタと身体中を触り始める、この男読めないというかマイペースというか__
そのうち頭を撫でられる
「二番隊でもいいなぁ!君なら大歓迎だよ」
「ちょちょ、師範!そりゃダメだって!ただでさえ最近二番隊志望する隊士多いのに!隠密も隊士ももう要らないでしょう!?」
「えぇ!?部下はいてなんぼだろ〜」
「…考えます」
「うんうん。もし何か困ったことあれば言えよ。放課後も講義で質問あったら聞いてるし鍛錬も付き合ってるし」
「鍛錬も…?ですか」
「おう!俺が教えるのは死なないための技術。打ち合って打ち合って自分自身を向上してもらう。受け身、防御術、反撃もちろんただの攻撃も。俺の鍛錬で使うのは竹刀じゃない本物の刀だ。実戦と似たような感じで鍛錬するからいい経験になるぞ」
「…今からお願いって出来ますか?」
「なっ、冬獅郎!」
っと言う松本を浦原隊長が腕で制す
「いいぞ、死なない覚悟があるなら」
「…あります」
「よし!」
っとまたポンポンと頭を軽くなでられた
───────────
「師範もいやらしい人だ。わざと仕向けたな」
「…全くですね。はぁぁ、心折れないといいけど冬獅郎」
スタスタと訓練場に作られた広場に向かう2人を設置された観戦席に座る
「いーや、ああいうタイプは逆に燃えるんじゃねぇか?」
「私、隊違うし講義も見たことないんです。師範って言ってるぐらいだから志波隊長よりも強いってのは分かるんですけど、実際浦原隊長どうなんです?尸魂界一の剣術使いって本当なんですか?」
「…うーん、師範が四席の時に俺が2番目の弟子になったんだよ。その時から強かったぞ?そもそも尸魂界一の剣術使いって言われるようになったのは師範が護廷十三隊に入隊した時からだしな」
「えっ、そんなに前から?へぇ…じゃあ中級大虚を倒したってのも本当なんですか?」
「そう聞いてるぞ、それを一回生で倒したって言うんだからそりゃ称号ぐらいつくわな。実際強いぞ、当時は何十キロっていう重さの制御装置をつけてて動きも制限されてたらしいんだがそれでも__刀身は見えなかった」
「へえ…」
「へぇって聞いといて反応薄すぎねぇ?」
「だって見ないとわかんないじゃないですか」
「だから見えねぇんだって、ほら始まるぞ」
冬獅郎と維助が向き合い、維助は柄にすら触れていない状態で、冬獅郎が刀を抜いても変わらず棒立ちだった
「はぁぁぁー!!っ」
上から容赦なく真っ直ぐに斬り下ろす__が、
それを
一瞬驚いたような顔をする冬獅郎が1歩下がり斬り込む___が片手で刀を抜いた維助が軽く弾く。
──軽く、そう軽くまるで道の蜘蛛の糸を退かすように軽く。
動きは柔らかくゆっくりに見えるのにそれに反して音は大きく火花が散る。
「がっ…!!」
何度か弾いた時に勢いに負けて冬獅郎が尻餅をつく。
早業でもない、的確に連撃がしづらくなるように弾く技術力。
大きく振っている訳でもないのに片手で握った刀で相手を弾く力。
「私見えますよ」
「ありゃ冬獅郎の実力を計ってんだ。それに見えないのは師範の抜刀術、抜刀術は見せつけにはなるが鍛錬にはなんねぇだろ。師範自身も抜刀術は鍛錬向きじゃねぇっていってたぞ」
すぐに立ち上がった冬獅郎がまた斬り込みに行くがまた飛ばされ尻餅を着く。
それでも諦めずに何度も立ち上がる
何度も
何度も何度も___
砂を蹴りあげ維助の目を潰そうとする冬獅郎
だが、目を閉じた維助は冬獅郎の突きを避け懐に入り込むと刀身を首筋に添えた
「…参りました」
っとか細い声を出した冬獅郎
「うんうん、本当に一回生か?こりゃ一心なみに化けるなぁ」
っと笑い声が聞こえる。
「決して…決して雑な攻撃でも弱い攻撃でもないのに。」
「赤子を相手しているようにみえたか?」
っと一心が驚いている乱菊に聞くと小さく頷く
天才と言われるだけはある、頭も使い的確な攻撃、力もあるし技術もある。
6回生でも、死神でも負けるかもしれない程の実力を持っている冬獅郎だが、維助の前では赤子同然だった。
力も技術力も余裕も全てが上の存在。
見ているだけで、刀を交わしてもいないのに分かる。
「今ので自分の何が悪かったか分かったか?」
維助の問に頷く冬獅郎
「
「そうだな、竹刀とは違うだろう?躊躇いは初めは仕方ない。人に刀を向けて本気で斬るのなんて躊躇って当然だ。まぁたまに躊躇いもなく斬る奴いるけど__まぁ慣れだ慣れ、受け流しも一人でできるものじゃないだろ?こうやって打ち合って学んでけ。経験値を積めば強くなる」
「はい」
「浦原隊長…ちゃんと講師してる」
「お前師範の事なんだと思ってんだよ…まぁ師範は口より身体で教え込むタイプだからなぁ。感覚型?ってやつだな、俺の時もひたすら殴り合い斬り合いだったし。あの人説明自体は下手だぞ」
階段を上がってくる2人。
「始解したら楽しみだな。大きくなるぞ〜こりゃ一心超えるかもな?」
っと笑う維助がワシワシと冬獅郎を撫でる
「やめてくださいよ〜縁起でもない、まだまだ現役ですよ俺」
─────────
「…うーん。なんだろうな、なんか違和感。冷たい霊圧…か。」
握って開いて手を確かめる。
戦ってる途中から冷たい冷気のようなものが空間を包んでいた。
「こりゃ始解喜助よりも早いかもな」
将来が楽しみだ