司「〇〇を抱いたんだが」類「は?」 作:絹ごしのオカラ
「さて、妹の幼馴染達…もとい、レオニード編ラストだな」
「やめろ編とか言うの」
自称世界のスター天馬司、自らが物語の主役と分かったようなメタ発言。流石と言えるのかもしれないが正直やめてほしい。
「レオニード編ラストは…リーダーの一歌だ。類、一歌のことは知っているか?」
「なんとなく寧々が最近仲良くしてるって言っていた程度かな。いくら僕といえどもあまりご存知ないねぇ」
「まあそうだろうな」
逆に詳しく知っていたらドン引きである。
「一歌はだな…まっすぐで頑張り屋ないい子だ。誰よりもギターに打ち込む姿を俺は見てきた」
「これまた健気…君は健気な娘に対する特攻ウイルスかなんかかい?」
「誰がウイルスだこの色味バ◯キンマンめ」
「なんてこと言うんだバイキ◯マンに謝れ」
「え、そっち?」
とりあえずお前ら2人ともやな◯たかしに謝れ。
「まあ一歌を抱いた話なんだが…実は一歌を最初に抱いたのは結構前のことだな」
「ふうん?いつごろ?」
「そうだな…俺がまだ高校一年生の時だから1年前だな」
「その頃にはまだ僕らは出会っていない頃だね」
「なんかキショいからその言い回しやめてくれ類」
「お前ぶち転がすぞ」
煽る司。キレる類。コレぞ青春だと思う奴は脳内にお花畑が咲いているんだろうな。
「それで?何があって何に困っているんだい?」
スムーズになってしまった恒例のやり取り。本来慣れてはいけないのだろうが、悲しいことに類は慣れてしまった。かなちいね。
「一歌はだな…特にない」
「は?」
なんと、特にないらしい。これは驚きである。
「え、いつもの流れでいくなら何かしらのアピールに君が困っているとかいうクソみてえな自己中惚気に付き合わされるのに、ないの?」
「なんて言い草だこの野郎」
司はキレているが類の言うことは何も間違っていない。
むしろ間違っているのは
「まあ確かに抱いてすぐの頃は色々あったが…今は週一ぐらいでデートに誘われたりするぐらいだ。まあ、バンドを頑張っているようだからな」
「なるほど、青春だねぇ…でもデートのお誘いが来るあたりまだ君のこと好きなんだろうね…」
「青春…青春なあ…」
「おや、何か思うところでも?」
「いや、一歌を抱いた時も『青春』が絡んでいたなと…」
「うわしまったこれプレミか?」
類、痛恨のキラーパス!(対象は自分)
「そうだな、あれは…
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星乃一歌、15歳。彼女は今悩みを抱えていた。
「…ギター、下手になっちゃったな…」
いつからだろう。こんなにギターを弾くのが辛くなったのは。
いつからだろう。こんなにギターが重く感じるようになったのは。
「はあ…ソロだと味気ないや…」
いつからだろう。ギターの音に寂しさが乗るようになってしまったのは。
「…散歩でもいこうかな」
部屋着を着替え、特に何かするでもなく外へ一歌は歩きだした。歩きながら、都度目に入るのは楽しそうな少年少女達。
「楽しそうだなぁ…」
何故かはわからないがとてもよく目に入り、意識が揺さぶられた。特に中高生ぐらいの年頃の複数人で楽しそうに話し、遊び、笑い合う姿は視線を向けてしまう。だというのに目をそらしたくなるという矛盾が起きていた。
(咲希…志歩…穂波…)
公園のベンチに座り込んだ一歌の頭の中には3人の少女。
咲希の入院を皮切りに疎遠になってしまったかけがえのない幼馴染達。
一歌の頭にある、幼き頃の記憶。
(本当なら…4人であんなふうに…)
一歌は想いを馳せる。
きっと、本来ならあんな感じで4人一緒に、笑い合いながらの『青春』をすごせていたんだろうと。高校でも4人一緒にいようと笑い合う。そんな空想の『青春』に一歌は首を振った。
(もう…無理だよね…)
今、一歌は中学3年生。もうすぐ華のJK、『青春』の代名詞高校生だ。きっと楽しいことも沢山あるだろう。辛いことも沢山あるだろう。悩むことだってあるだろう。それをみんなで乗り越えていくから青春なのだ。今の一歌には、明るい青春なんて見えてこなかった。
「…帰ってミクの曲でも聞こう」
公園のベンチから立ち上がり、帰ろうとした一歌。
しかしそこへ声をかける者がいた。
「む?そこにいるのは…一歌ではないか?」
「…?え、司さん…?」
声をかけたのは咲希の兄である天馬司であった。
「こ、こんにちは」
「こんにちはだ、一歌。こんなとこで何をしていたんだ」
「…ちょっと散歩です。司さんは何を?」
「無論、将来のためにショーの練習だ!公園だとアクロバティックな動きの練習ができるからな!」
一歌は疑問に思った。
「え?別に司さんおうちでも練習できるじゃないですか。広いんだし…」
「まあウチでもできるが…砂場のが危なくないのでな。それと公園だとオーディエンスの反応をもらえるんだぞ!」
司がいたであろう砂場には沢山の子供達や一歌と同年代に見える男女がおり、まばらに解散をし始めたようである。
「ちょうど今日は終わりでな。今から帰るところなのだ!今日も大成功だったぞ!ハーッハッハッハ!」
「そ、そうですか…」
相変わらずのハイテンション。昔を思い出した一歌は、司と一緒に笑う咲希を幻視しクスッと笑った。
「変わりませんね、司さん」
「そうか?そういうお前は…随分と変わったな。可愛くなった」
大真面目な顔で言う司に一歌は少しドキッとした。こういうところも、彼を変わっていないと感じるところである。
「ありがとうございます、お世辞でも嬉しいです」
「お世辞なんかじゃないが…そういえば一歌」
「はい、なんでしょう」
「お前、何か悩みでもあるのか?」
「ッ!?」
「その顔、図星のようだな。お前達は顔に出るからすぐわかるぞ」
見られていたのか。ボンヤリと周りを見ていた姿を。しかもズバリと言い当てられるとは思わなかった。こういうところに鋭いところは兄妹を感じる。
「ええ、まあ。ちょっと『青春』について悩んでいまして…」
「ふむ…」
こういう時は一部ホントのこと、つまり本音を微妙にもらすことでホントの本音を隠す。いつぞやの本で読んだ気がする。
「一歌」
「?はい」
「ダウトだ」
「!?」
ニヤッと笑う司と驚く一歌。一歌はまさか、という驚きでいっぱいである。
「まあ完全なダウトでなく…まあ悩みの一部といったところか?おおよそホントの大きな悩みは…そうだな、咲希や志歩、穂波達とのことか?」
「…すごいですね、司さん」
「まあ、コレぐらい造作もない。お前達が今ちょっと関係が悪いというのは雫から聞いていたことだしな」
「そうですか、雫さんですか…」
志歩の姉、雫。一歌達が幼馴染である以上、その兄姉である司とは自然と面識があるようで。
妹が大好きな彼女は、同じく妹大好きな身として司とは今でも交流があるらしい。
「まあその話を聞いて以来心配はしていたんだが…思ったより深刻そうだな」
「…はい」
咲希がいなくなって以降、まるで留め具を失った紙のようにバラバラになってしまった。ずっとまともに話せてすらいないこの状況は深刻以外の何物でもないだろう。
「一歌、これから暇か?」
「えっ、はい。一応暇ですけど…」
「そうか、じゃあウチに来るかお前の家に俺がいくかどちらがいい?」
「!?えっと…わ、私の家に来る方で…??」
「そうか、ならシャワーを浴びてから向かわせてもらう。一度解散しよう」
「え?は、はい…?お、お待ちしてます?」
よくわからぬうちに何やら一歌の家に司が来ることになってしまった。
それから1時間後ぐらい経ってから司はやってきた。過去に咲希の送り迎えに来ていた司は一歌のの家を知っている。
「お邪魔するぞ、一歌。ご家族はいらっしゃるのか?」
「い、いらっしゃいませ司さん。きょ、今日は家族はいないです…」
「そうか。それじゃ、コレ渡しておいてくれ。美味しい和菓子だ」
「あ、わざわざありがとうございます。後で家族でいただきますね…え、えっと、どうぞ?」
結局一歌は家に司を招き入れた。自分の部屋へ案内し、お茶と茶菓子を用意する。
「お茶です…」
「おお、すまんな」
一歌も座る。しかし頭の中ではいまだに混乱は続いていた。
「あの…司さん。それで今日は何を…?」
「ん?いや、何をってわけじゃないが」
「え…?」
「話でもしないか?一歌。何を意図するわけでもない、他愛のない雑談をしよう。互いに話して聞き合う、そんな時間をと思ってな」
「は、はあ…わかりました…」
「よし、ソレじゃあまずは──
それから雑談は続いた。始めは司の話を聞いていた一歌だったが、少しずつ自分の話を聞いてもらおうと思った。最近の悩み、寂しさ。家族にも言えなかったコトバがするすると出てくる。最終的に、一歌がずっと話す側になっていた。その間司はただ優しい笑顔で話を聞いてくれた。一歌はそれがとても嬉しかった。
「おや、もうこんな時間か。そろそろお暇しないとな」
気づけば、もう夜になっていた。そんなに話していたかと一歌はビックリした。
「す、すいません長々と。最後は私が話してばっかりで…」
申し訳なさそうにする一歌の頭をポンと撫でながら司は言った。
「いや、別に構わん。そもそも、お前の話を聞いてやるのが目的だったからな」
「えっ」
「家族にも話せないことはあるだろう。咲希たちのことで悩んでいるならなおのことだ。こうやって話せる存在がいれば変わるだろうと思ってな」
そういうとズイッと司は顔を近づけて
「ふむ、顔色が良くなったな。悩みが軽くなったなら何よりだ」
そして太陽のようにニッコリ笑う。一歌は司の笑顔から目を離せなかった。
「あ、ありがとうございます…」
「いやいや、礼には及ばん。俺にとってはお前達も妹みたいなものだからな!」
なぜだか、気分が良くなかった。
「こ、今度お礼を…」
「いやまあ、そんなのいいが…そうだな」
司は部屋の隅のギターを見て
「久しぶりに一歌のギターと歌、聞かせてくれないか。それで十分すぎるほどのお礼だ」
ドキリとした。だって、わたしのギターは。
不安が頭をよぎる。もし、ガッカリさせてしまったら?
どうしても、怖かった。幼馴染達との大切な約束を違え、置いてしまったギター。また、親しい人との繋がりを切るものになってほしくない。
思考の海に沈む一歌を明るい声が手を差し伸べた。
「いやなに、別に上手い演奏とかじゃなくていい。ただ、
「っ…!」
嬉しかった。こんな私の音を好きと言ってくれるなら。
一歌はギターを取り出した。久しぶりに感じる、この感覚。今なら、
「じゃあ…弾かせていただきます」
「うむ、よろしくな」
一歌は奏でた。きっと、今までで1番見栄っ張りな演奏だった。今まで、離れていたことなんて気づかせない。私の音は、1番だ!
「…ありがとうございました」
「素晴らしかったぞ!」
司は拍手と称賛の声をくれた。とても嬉しかった。つぎは、もっと。そう思った。
「いい演奏だったじゃないか。楽しかったか?」
「はい。とっても」
「そうか、それは何よりだ」
司は立ち上がり、帰り支度をすませる。
一歌はとても寂しさをかんじた。
「それじゃあ、またな一歌。また演奏を聞かせてくれ」
「……」
玄関でなんだか不満そうな一歌の顔をしている一歌を見てフッと笑った司は、一歌の頭に手を置き、
「いつでも甘えてくれていいんだぞ」
笑顔で優しく撫でた。一通り撫でていざ帰ろうとしたとき、後ろから抱きつかれた。
「じゃあ…今夜寂しいんです。甘えさせてください」
「…やれやれ」
この後、一歌は甘えに甘えた。その夜、一歌がどんな音を奏でたかは言うまでもないことであり、それ以降定期的『甘える』ようになったのは別の話。
────────────────────
「と、まあ一歌はこんな感じでな。この日以降ちょくちょく一歌の家に呼び出されて一歌の演奏を聞いたり、甘える時間をとったり…という感じだったな」
「ふむ、思ったより純愛感があってビックリだよ。てっきり事案かと」
「事案なんてあるわけないだろ」
「中学生抱いてるのは事案じゃないってか?」
「いや一つ違いだし…おじさんでもないんだからセーフだろ」
「うーん…セウト」
「どっちだよ」
「アウト寄りのセーフ」
事案じゃだろうと事案じゃなかろうとヤらかしていることには変わりはないのである。
「その…『甘える』日は今でも続いてるのかい?」
「月一ぐらいだがな」
「君はなんでアフターケアもしてるんだろうね…クズなのに」
「逆に放置の方がクズじゃないか?」
「それはそう」
それはそう。
「さて、じゃあ次の話にいこうか」
「もうここまできたらとことん聞こうかな」
類さんもうヤケクソ気味である。
「おっ、とうとう前向きになったか?」
「んなわけないだろこの女タラシめ」
んなわけないのである。
おまたせしますた。
前回のアンケートで全員に入れた読者ニキのことはこれから強欲の壺って呼ぶんでヨロシク。
もしよろしければ感想と評価いただけるとモチベになります。
それでは、また。
さ〜って、次の被害者は〜?※瑞希は都合によりナシです。
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