遠山キンジに転生したので、女の子とイチャイチャする 作:なーお
……ようやくこの日が来た。
開け放ったカーテンから差し込む春の日差しが俺を包み込む。
俺は興奮を隠し切れないと言わんばかりに高鳴る鼓動を感じつつ、窓越しに青空を仰ぎ見る。
まばらに見える白い雲がゆっくりと流れていく様子を見ながら、これまでの人生を振り返る。
俺――、遠山キンジは二度目の生を受けた存在だ。
所謂、転生というやつだ。
俺の前世は日本で暮らす男子高校生だった。アニメとラノベが好きな典型的なオタクだ。そんな俺の前世の最後の記憶は、学校の階段から滑り落ち、徐々に遠くなっていく階段の踊り場の光景だった。恐らくそのまま階段から転落して死んでしまったのだろう。なんとも情けない終わりだったが、俺の人生を振り返れば妥当な終わり方だったのかもしれない。
見た目もコミュ力も平均以下の俺だったが、だからといって勉学に優れているわけでも、運動神経に恵まれていたわけでも無い。
ただただ代わり映えの無い、無味無臭の平凡だった俺の人生。特に成し遂げたい目標があったわけでも無い。
それでも。
そんな俺にも夢があった。
女の子とイチャイチャしたかったと――、と。
しかし、世界は残酷であり平凡な俺に彼女は疎か、女友達がいたことすら無い。
唯一の儚くも淡い夢を叶えること無く、俺は死んでしまったのだ。
だが、しかし。
俺はまさかの二度目の生を授かった。
そこは、前世と同じ日本だった。
しかし、同じ日本でありながら、そこは俺の知っている日本とは全くの別の世界だった。
前世の日本ではあり得なかった、銃や刀、果ては、超能力や魔術が存在する世界。
――ここは『緋弾のアリア』の世界だった。
俺は前世ではアニメは勿論、原作であるラノベも全巻読んでいた。アニメの二期が最後まで来なかったのは、本当に残念だった……。
……さて、なぜ俺がここが『緋弾のアリア』の世界か分かったかというと、俺がその主人公の『遠山キンジ』だったからに他ならない。
俺は、己に舞い降りた幸せに歓喜した。
遠山キンジといえば、根暗キャラの癖に『遠山の金さん』でお馴染の遠山金四郎景元の血を受け継ぎ、銃のスペシャリストであり、遠山一族のある『特性』も相まって、天才的な戦闘スキルを持つ。
ここまででも中二心が擽られるのだが、俺が何よりも幸せだと感じたのはそこでは無い。
遠山キンジは、――モテるのだ。
それはもう……、とにかくモテる。
所謂ハーレム系主人公。
その秘訣は遠山キンジが持つある『特性』――『ヒステリアモード』が大きく関係している。これは、自身の思考力や判断力、反射神経を通常の30倍程度までに向上させるというチート能力。
そしてこのモード中は、何がなんでも女の子を守り、その子にとって魅力的な男を演じる――要はキザになってしまう。そして、そのモードになる為には、性的興奮状態になる必要がある……、つまりはそういうことだ。
この力を使って、作中に登場する数多の美少女キャラ達を惚れさせていくその姿に、俺はこう思ったものだ。
死ぬほど羨ましい、と。
その癖に主人公の遠山キンジは大の女嫌いであり、言い寄ってくる女を例外なく避けていた。まあ、そこがこの作品の面白いところでもあったわけだが……。
しかしだ、その様子を見ていた俺は、こうも思ったものだ。
勿体ねえ…………、と。
キンジの言い分は分かる。ヒステリアモードのせいで、中学生の頃は、周囲の女子にいいようにつかわれていたともあるし。
だが、それは贅沢な悩みってもんだろ!!
いいじゃないか! 世の中には望んだって女友達の一人も出来ない奴だっているんだ! それに比べたらお前……。まあ、今は俺がそのキンジなわけだが。
というわけで俺は決めた。
この世界で女の子とイチャイチャしまくると。
寧ろ神様がそうさせるために俺をこの世界に転生させたとしか考えられない。
しかしだ、俺は油断しない。
作中のキンジがチート級の強さを誇っていたことは充分に理解している。しかし、この世界は、もっと頭のおかしいチート級の強さを持つ輩がうようよしているのだ。作中でも常にキンジが勝利を収めていると言うわけはなく、強敵を相手に敗北することも珍しくない。
だから俺はこう考えた。
……もっと強ければ、原作のキンジ以上にモテるんじゃね? と。
俺は努力した。
物心がついた幼少の頃から時間があればその全てを自身の研鑽の為に使った。先祖代々伝わる遠山の技も積極的に覚えていった。
精神年齢が二十を超えている俺は、五歳の時にヒステリアモードを発現させた。
その時は、祖父がやたらと俺に「お前は才能がある」とニヤニヤとした表情を携えながら褒め称えてくれた。祖母はそんな俺のことを複雑そうな目で見ていた。当時の兄は何のことだか理解していないようであった。
そんなわけで俺は、時にはヒステリアモードのチート学習能力も利用しつつ、技を吸収していった。
またある時は、親戚の星伽家なんかに赴き修行を重ねた。利用できるものは何でも利用した。
すべては、モテる為……。
前世での後悔から創り出された俺のこの揺るぎない信念は、今日この日が来るまでビクともしなかった。これが童〇の底力というものだろう。しかし、苦痛だったわけではない。
というのも、一日中休みなく修行していたが、その分強くなっていく自分を見るのがたまらなく楽しかったのだ。
おかげで俺は強くなった。いや、本当、自分でもびっくりするほど強くなってしまった。
ちなみにどれくらい強くなったかというと、武偵高の入学試験をヒステリアモード無しでも余裕でトップ通過するほどには。
その後、兄の金一が原作通り事件に巻き込まれたりもしたが、兄が健在であることは原作で知っていたので、特に気にすることもなく、今日この日まで研鑽を続けてきた。
そう、ようやく『今日』が来たのだ。
今日――それは、つまり武偵高二年生の始業式、つまり原作の物語が始まる日。
俺の第二の人生がいよいよ始まるのだ。
前世とは違う、俺の煌びやかで華やかな人生が――。
そんな俺は、実はある不安――というか問題を抱えているのだが、それもきっと今日この日から変わるに違い無い。
何せ物語の始まりなのだ、全てがうまくいくに違いない。
俺がそう思った時だった。
……ピン……ポーン。
玄関のチャイムが鳴った。