遠山キンジに転生したので、女の子とイチャイチャする 作:なーお
防弾ガラスに覆われた楕円形のフィールド上で、俺とアリアが向かい合う。距離は十数メートルといったところ。
「よし、遠山! 神崎! ええぞ! 〇れ! 〇し合え!!」
興奮した蘭豹がそう叫ぶ。蘭豹だけではない。決闘場を囲むように多くの生徒達も同様に盛り上がっていく。Sランク武偵同士の対決ということもあり、噂がすぐに広まり、学校に残っていた生徒たちが集まってきているのだ。
……あまり大勢の前で遠山家の技を使いたくないが仕方ない。
「――じゃあいくわよ」
盛り上がる外野など関係無いというように、アリアが俺だけを真っすぐに見つめてくる。二丁のガバメントを引き抜く。
俺もベレッタを引き抜く形で応える。
アリアが勢いよく駆け出す。俺はその場から動かずアリアの出方をみる。
アリアは、走りながら二丁のガバメントを構えて一発ずつ発砲してくる。銃撃音と共に二発の銃弾が狂いなく俺の上半身と下半身に迫ってくる。しっかりと防弾制服の上に着弾するコース。流石だ。
対する俺もベレッタを連射モードにし、冷静に狙いを定めて発砲する。
アリアと俺が放った銃弾は近づいていき、――やがて二発とも衝突する。
衝突した銃弾は、あらぬ方向に向きを変えて飛んでいく。
流石にこの対応は予想外だったようで、アリアが「嘘でしょう!?」と言いたげに驚愕している。
――よしよし、驚いてくれて嬉しいわ。素の状態で銃弾を目で追いかけられるようになるのに、めっちゃ苦労したからな。できるようになるまで何発この身に銃弾を食らったか……。
驚くアリアを見て内心ほくそ笑みながらも俺は意識をすぐに切り替える。アリアを相手に一瞬の隙は命取りだ。
アリアと対峙するにあたって警戒すべきは、――接近戦。
徒手格闘を得意とするアリアを相手には距離をとって戦うべきだ。
――けど敢えて、接近戦を挑む。
相手の得意分野を避けての勝利なんて意味ない。
何より全力のアリアを見てみたい!
俺は、一瞬動きが鈍ったアリアの足元にすかさず銃弾を撃ち込む。被弾はさせていないが、足元からの衝撃によってアリアは一瞬バランスを崩す。アリアは、しまったとばかりに苦し気な表情を浮かべる。
今度はこちらからアリアに接近する。
アリアの目と鼻の先まで一瞬で間合いを詰めた俺は、脳震盪狙いでアリアの顎目掛けて掌底を叩き込む。
――――入るっ!
アリアはバランスを崩し、重心がやや右側に寄っている。今から体勢を整えての回避や防御では間に合わない。
……と、思っていたのだが、アリアは強引に自身の右足を振り上げると、俺の掌底を繰り出した腕にまるで蛇のように絡ませて無理やり軌道をずらしてきた。さらに絡ませた右足を軸に無理やり体勢を整えてくる。そのまま俺の腕を支えに左足を跳ね上げさせ、お返しだとばかりに俺の顎目掛けて蹴り上げてくる。攻めていたと思ったのに、いつの間にか攻守が逆転している。
――いや、すげえ。神業じゃん。
俺はたまらず思い切りのけ反る形で、アリアの蹴りをぎりぎりで躱す。
アリアは、俺の腕から絡ませていた右足を離し、蹴り上げた勢いのままバク宙の要領で空中でくるりと一回転する。
アリアの攻撃は、それで終わらない。着地を待たずして、空中でガバメントを俺に向けてくる。
――まじかっ!?
全身に冷たいものが走る。俺は、アリアが向けてきた銃口の向きを把握して、咄嗟に右手を動かす。
そのままアリアは、体勢を崩している俺に発砲してくる。
その銃弾は、’予想通り’俺の右肩付近目掛けて飛んで来る。
至近距離からの発砲。先ほどのように銃弾を衝突させて防ぐことは不可能。かといってこのまま食らうと、肩にダメージを負ってしまう。
しかし、俺の右手は既にアリアの銃の射線上に移動させている。
銃弾が俺の右手に吸い込まれるように飛んでくる。
俺は、銃弾を包むように手の平を閉じていく。そして一瞬、銃弾と速度を合わせるように、腕全体を亜音速で引く。
そして、
――そのまま銃弾を掴んだ。
あっつ!?
右の手の平から焼けるような痛みを感じる。相殺しきれなかった銃弾の速度によって手の平を火傷したのだ。
……痛って、ヒステリアモードなら火傷しなかったのにな。
しかし、攻撃を防ぐことには成功した。
俺は平静を装い、アリアに「何かしたか?」と言うように、掴んだ銃弾を見せびらかしながら笑みを投げかける。
アリアは何が起きたのか理解が追い付かないのだろう。ただでさえ大きな瞳をさらに見開いて硬直している。
周囲で見ていた生徒達も同様で、驚きのあまりシンとしている。決闘場に一瞬、沈黙が流れる。そして、理解が追い付き、決闘場が沸き上がっていく。
俺は、掴んだ銃弾を思い切り親指で弾く。ほぼノーモーションで放ったそれをアリアが防げるわけもなく、おでこに思い切り当てることに成功する。
強めのデコピンくらいの威力はあったはずだ。
「みきゃっ!?」とアリアは、可愛らしく叫ぶ。硬直の解けたアリアは、赤くなったおでこを押さえながら涙目を浮かべてこちらを睨みつけてくる。
アリアをおちょくり、敢えて怒らせて冷静さを失わせたところで、今度はこちらから至近距離で、ベレッタを連射していきアリアを追い詰めていく。
しかし、アリアは瞬時に気持ちを切り替えると、三次元的かつ変則的な動きで射線から巧みに逃れつつ俺から距離を取っていく。その動きは大変読みづらく、上手いこと逃げられてしまう。
すげえ、アリア。
こんなに強かったのか。
……そりゃあ、簡単にパートナーも見つからんわな。
これで将来、目からレーザーとか撃ってくるようになるとか反則じゃね?
俺は、アリアと実際に戦っていく中で、益々メインヒロインだとかを抜きにしてもパートナーになってほしいと強く思い始めていた。
どれくらいの時間が経過しただろうか。
数分だった気もするし、数十分経った気もする。
ほぼ満員近くになった決闘場は、大歓声で埋め尽くされている。
決闘場の中心に立っているのは、『俺』だ。
俺から数メートル離れた位置にいるアリアは、地に片膝をつき、「――はぁ、はぁっ」と俯いて荒い息を吐いている。
まだ勝敗が決したわけではないが、今の状況からして俺の勝利はほぼ間違い無い。アリアは完全に消耗している。一方の俺にはまだ余力がある。言うてそこまで余裕は無いけど。
そして俺の中にある考えが浮かんでいた。
――――ヒステリアモードになるつもりは無かったんだけどな。
アリアは全力で俺にぶつかって来てくれた。
しかし、俺はヒステリアモードという奥の手を隠したまま。
アリアから異性として好意を向けられる恐れがあるかもしれないから。そのような理由で奥の手を隠したままではアリアに失礼だと思った。
…………一瞬だ。
一瞬だけヒステリアモードになるんだ。
キザな俺を見せる暇もないくらい。
俺なら可能だ。
その時だった。
「…………キンジ、あんたは私がこれまで見てきたどんな武偵よりも強いわ」
アリアが、そんなことを言ってくる。
「それはどうも。アリアも強いよ。正直驚いている」
俺がそう答えると、アリアはこちらにその小さな顔を向けてくる。
そのアリアの表情を見て驚いた。
全く、戦闘意欲が衰えていなかったから。
――それどころか、これまで以上の凄みを感じる。
アリアは何かを確信しているようだった。顔を見れば分かる。
アリアはぐぐぐ、と膝に力を込めて立ち上がる。
「――――でも、キンジ。まだ全力を出してないでしょう? 上手く説明できないけど、あんたは何か隠している。これは、私の――『勘』だけど。見せなさいよ、キンジの本気を」
アリアは、俺がヒステリアモードを隠していることを見抜いて来た。
この勘こそが、シャーロックホームズから受け継いだ力ということなのだろう。
このアリアの言葉に、俺たちの戦いを見ていた蘭豹もニヤリと笑みを浮かべる。
……やっぱり、アリア。
最高だな。
……よし決めたぞ。
この試合後、アリアには――。
「流石。アリアには驚かされてばかりだ。――じゃあ、俺の全力を見せる。…………覚悟しろよアリア?」
今からの『俺』は半端なく強いぞ?
俺は、目を閉じ、軽く深呼吸をし、意識を集中させていく。
そして――、
全力でエ〇い妄想を思い浮かべる。