遠山キンジに転生したので、女の子とイチャイチャする 作:なーお
時計の秒針が刻む音が響くだけの室内。
ピりつくほどの静寂が包む中、俺とアリアは向かい合っていた。
顔にアリアの指が食い込んだ跡が付いた俺と、熟したトマトのように顔を真っ赤にして俯くアリア。
俺の大暴露から暫くの間、暴れていたアリアだがようやく落ち着いてくれた。勢いでどうにかしようとしたのが失敗だった。俺ももっと冷静さを保てるようにしないとな。
それにしてもまだ顔が痛い。……顔、変形してないよな?
「アリア、急に色々言ってすまんかった。俺が言ったことは馬鹿なことに思えるかもしれない。――だが、俺は馬鹿だが嘘はつかない。これだけは本当だ。俺はアリアを信用しているし、尊敬している」
アリアが、フルフルと震えながら顔を僅かに上げて上目遣いでこちらを見つめてくる。その表情には戸惑いや困惑、そして羞恥の感情が浮かんでいる。
「……ごめん、正直すぐには全部を受け入れられない。でも、キンジが大変なことはキンジの様子や態度で分かった。……その、正直に教えてくれてありがとう。……後、馬鹿にしてごめん」
「……いや、いいんだ。俺もすぐに受け入れてくれるとは思っていない。寧ろ、そう言ってくれて嬉しい」
この言葉に嘘偽りは無かった。アリアは戸惑いつつも俺のことを受けれようとしてくれている。
キスしただけで子供ができると思っているエ〇耐性ゼロのアリアがこうまで言ってくれているのだ。感謝でしかない。
「――後、言い忘れていたけど俺はアリアの母親を救うことに協力する。大丈夫、俺とアリアが力を合わせれば必ずアリアの母親に罪を被せたイ・ウーのメンバーを倒すことができるさ」
アリアが驚いたようにこちらを見つめてくる。
「……協力してくれるの? 本当に?」
不安と希望が混じったアリアの問いかけ。
アリアは、これまで母親を救う為に戦ってきた。
味方がいないその状況は、きっと孤独で精神が削がれる毎日だったろう。
「あたり前だろ? だってパートナーじゃん」
「――そ、そうね、そうよね!」
元気よくそう答えるアリアの笑顔は今日見た中で一番のものだった。カメリア色の瞳はキラキラと太陽のように輝いている。
「……うん、だから私もキンジに協力するわ! パートナーとしてね! ……そ、その、協力できる範囲でね?」
俺の夢が夢だけに、最後は尻すぼみに声を小さくし、顔を赤く染めながらもそう言ってくれた。
「あ、でも私に手を出したら風穴だからね」
「大丈夫だ。さっきも言ったけどアリアには手を出さない。大事なパートナーだからな」
俺がまっすぐな目で、アリアを見据えてそう言い切る。
「…………あ、そう。……ならいいけど」
アリアはぶっきらぼうにそう言うと「あーあ、お腹空いた。ももまん他に無いの?」と、もうこの話は終わりだとばかりに伸びをしながら冷蔵庫の方に向かっていく。
……急にどうしたんだ?
唐突なアリアの切り替えを不思議に思う。
だが、俺の秘密を暴露した上でもアリアが俺を見限ってこなかった安堵感もあり、俺の緊張の糸も途切れる。思考を放棄する。
その時、俺のポケットに入れている携帯が震えていることに気付く。これはメールの通知だ。
携帯を取り出し、メールを確認する。差出人は白雪だった。
『キンちゃん様。ごめんなさい。今日はご飯を作りにいけないです。タケノコご飯を作ろうと思ったんだけど……。少し外せない用ができたの。これもキンちゃん様の為だから! また行きます!』
このような内容だった。外せない用とは何だろうか……? 俺の為というのが気になるが……。
これも原作に無い流れだ。気になりつつも、アリア同様に空腹感に襲われ意識が逸れてしまう。
「……ももまん無いじゃないの。ねえ、キンジは夕食どうするの?」
「そうだな、俺は外で済ませるかな。……ていうかあれだけももまん食っといてまだ食うつもりか?」
「ももまんは別腹よ。……キンジが外食するなら私も行く」
「……すげえな。まあ分かった。ならついでにその荷物も持っていけよ。そのまま帰れるだろ?」
アリアが持ってきたバカでかいトランクを指さしながらそう言う。その中身がお泊りセットであることは知っている。
本来アリアが俺にパートナーになれと迫って来て、おれがOKを出すまで部屋に張り込む為のもの。
しかし、既にパートナーになるという目的はクリアしている。俺の部屋に泊まる必要も無い。そう思ったのだが。
「…………だめよ。そのトランクにはお泊りセットが入ってるの。私、しばらくこの部屋に泊まるから」
「いや、なんでだよ。ここ男子寮だぞ」
アリアはバツが悪そうに俺から顔を背ける。そしてトランクを手にすることなく、そのまま玄関に向かっていく。
「とにかく! 私が泊るって言ったら泊まるから! ほら、早く行くわよ!」
そしてそんなことを言ってくる。
こうなるとアリアがいう事を聞くとは思えない。
既にアリアは靴を履いて玄関の外に出てしまっている。
……何考えているんだろうな。
そう思いつつ俺もアリアの後を追う。
アリアは玄関の外で、仏頂面で俺を待っていた。
「――で、何食べるつもりなの?」
「……そうだな。じゃあ牛丼だな、吉野〇でどうだ?」
「…………普通、レディーを連れて牛丼食べようとする?」
「激しい戦いをした後はなるべく牛丼を大量に食うようにしてるんだよ」
「なんでよ」
「なんか力が身に付く気がするんだよ」
「…………何、その頭の悪い考えは? …………キンジには女性との付き合い方についても教えていく必要があるみたいね。当然、牛丼は却下よ」
「……さようですか」
アリアは、それ以上は特に文句を言うことも無く、口を閉じて俺の横に並ぶ。
男子寮を出て、しばらくお互い無言で歩いていく。
しかし、急に「…………ん?」と、アリアは何かに気付いたのか立ち止まる。
「どうした?」
俺がそう聞くも、アリアは何かを考えている様子である。
そして。
「――あんたヒステリアモードとやらになると性格が変わるって言ってたじゃない? ……もしかしてだけど、本気を出す時もそのヒステリアモードになる必要があるんじゃないの? 模擬戦で本気を出してた時のキンジ、性格変わってたように見えたし……」
そう質問するアリア。嘘だと言ってくれとばかりに青ざめた表情でワナワナと震えている。
「――アリア、早く行こう。もう腹ぺこなんだ。無駄なおしゃべりをしている暇はない」
「や、やっぱり……。あ、あんた、じゃ、じゃあ、あの時…………」
俺の反応で全てを察したアリアが顔を今日一真っ赤にし、ぷるぷると震えだす。
やっぱりばれるよなー。
「――――ああ、お察しの通りだ」
「やっぱりかああ!! このエ〇キンジ!!! 信じられない!! あの状況でよくそんなことできたわね!!」
「アリアだって、本気を出せって言ってきただろうが!!」
「うるさいうるさいうるさい!!!」
その後、二人でぎゃぎゃー騒ぎながら夜の街を歩いていった。
……昨日色々あってなんかしんどいな。
朝陽が昇る少し前、まだ世界が暗闇に包まれてるこの時間。全身に疲労を感じつつも朝の修行をする為、起き上がって支度を進める。
ちなみに本当にアリアは俺の部屋に泊まっていった。よくあの流れで俺と一緒の部屋で泊まれるわ。俺が言うのもなんだけど。
だが、原作通り寝室の真ん中に油性のマジックで線を書かれて、『ここから入ってきたら〇す』というありがたいメッセージを頂いた。
俺と反対側のベッドで眠るアリアの「……ももまんピラミッド」という謎の寝言を聞きつつ、玄関に向かっていく。
靴を履き、玄関の扉を開けた瞬間だった。
予想外の光景が目に入った。
「あ、キー君!! ちょ、匿って!!!」
そこにボロボロになった峰理子がいた。