遠山キンジに転生したので、女の子とイチャイチャする 作:なーお
ボロボロの理子と寝間着姿のアリアが互いに牽制し合い、ビリビリと緊迫した空気が辺りを満たす。
俺はお口チャック。下手に刺激しないほうが良いと判断。ただ、ドンパチが始まりそうになったら止めれるように警戒は続ける。
アリアは理子の正体をはっきりと理解していないはず。しかし、理子から向けられる敵意と、『オルメス』と呼ばれたことから、理子が唯のクラスメイトでないことは流石に理解しているようだ。理子の正体を探りながら、そのカメリア色の瞳に力を込めて理子を睨み返している。
「――――キーンジ。どーして、アリアがここにいるの?」
沈黙を破ったのは理子。
こちらを向き、楽し気な口調で、笑顔を浮かべて問いかけてくる。
――ただし、その目は全く笑っていない。
目の周りの筋肉がピクピクと痙攣しており、本気で怒っているのだと理解する。
…………変に誤魔化したら逆効果だよな。
なんかもう、白雪が来て無茶苦茶になったほうが楽な気がしてきた。
「……えーとだな、その、……色々あって昨日からアリアとパートナーとして組むことになった――うげっ!」
俺がそう言うや否や、無言で理子に再び胸倉を思い切り掴まれる。
そして先ほどと同様に引っ張られて無理やり顔を近づけさせられる。
なのに不思議だ。全然ドキドキしない。別の意味でドキドキしてるけど。
「な~んで、よりによってアリアなのかな? 理子が余計なことしたから? もう理子はアリアとキンジがパートナーになることは望んでないんだけど。そんなことキンジなら分かってるでしょう? まだあのイカレ巫女とかとイチャイチャしてもらった方がマシだよ。アリアはキンジに興味は持ってたみたいだけど、そんなに二人の仲が進展してたとも思えないし。…………ねえ、昨日、白雪と理子がリアル鬼ごっこしてる間に何があったの?」
「お、鬼ごっこか、はは、理子はとことん鬼と縁があるな。な、なーんて」
「キンジ、怒るよ?」
――あぁ、理子の顔にアリアに負けないレベルの血管が浮かんできてる。
なんで俺ってこう馬鹿なんだろうな……。いや、和ませようとしたんだよ。
「……悪かった。――昨日アリアと模擬戦をしたんだ。気が合ったからパートナーになりたいって思って、アリアに申し出た。そしてパートナーになった。アリアがここの部屋で寝泊まりしてるのは本人の希望だ。動機は不明だ」
俺がやや早口でありのままを説明すると。
「――――え?」
理子が短くそう呟き、その瞳を大きく見開く。
「……え?」
俺がそう聞き返す。
「――――キ、キンジが、ア、アリアにパートナーになりたいって言ったの?」
震える声でそう言った理子は、俺の胸倉から手を離し、一歩、二歩と後ずさりする。
理子は、――心からショックを受けたように、先ほどまでの怒りに包まれた表情から一転、驚愕へ――そして、悔しさと悲しみが交じりあったようなものへと変わっていく。
その金色の瞳が潤みを持っていく。
一瞬、これも理子の演技ではないのかなんて可能性が頭をよぎる。しかし、こんな理子の姿を見るのは初めてだ。
――これは理子の演技ではなく、素の反応であると直感的に理解する。
そして、そんな理子の乙女な姿を見せられて童〇の俺が冷静でいられるわけもなく、慌てて弁解する。
「ち、違うぞ? 俺はアリアを『武偵として』尊敬して、考え方とかも似てるから、一緒に組みたいって思ったんだ」
しかし、理子は俯いて「……何が違うのさ」と力なく答えてくる。
俺は、さらに慌ててしまう。何とかせねば。
――だって理子のことは好きだし。
「えーと、理子は努力家で、その、か、可愛いと思うし、……なんなら昨日も模擬戦の時、理子のことを思い出してヒステリアモードになったし…………ん?」
あ…………、やべ、パニックになりすぎて余計なこと言った。
あ、ああ……、俺の馬鹿。
か、完全に変態じゃないか。
まじでやべえ、ああ、んあああ!!
こんなことになるなら、とっととヒステリアモードになっちまえば良かった。
理子は、驚いたように顔を上げて、目をまん丸に開いてこちらを見つめている。その頬が徐々に赤みを増していく。
ちなみにアリアは、「……は?」とドスのきいた声を出して俺を睨んでくるが、パニックになっている俺は気付かない。
状況が混沌へと向かっていく、その時だった。
――キンッ。
と、何かが斬られた音が聞こえる。
それは玄関の扉が斬り開けられた音だったらしい。扉がガラガラと崩れていく。
「み つ け た」
地獄の底から響いて来たような絶対零度を伴った声が響く。全身に悪寒が走ると同時に、反射的に声のした方を振り向くと。
――いた。
巫女装束に、額金、たすき掛けといった戦装束姿の『白雪』が。
――あぁもう、さっきから全てにおいてタイミングが最悪すぎる。流石は、主人公だな、畜生。
ていうか合鍵渡した意味。
と、文句を言っていても仕方がないので急いで意識を切り替えて白雪を観察する。
白雪の瞳からは、完全に光が失われている。その瞳に映っているのは標的である理子のみ。紅く輝く日本刀を握りしめ、ゆらりとこちらに近づいてくる。子供が見たら確実に泣くだろう。
……完全に我を忘れているな。なんなら俺がいることにも気付いていないんじゃないか?
たまにこうなっちゃうんだよな。原因はいつも俺だけど。
重い愛ゆえに、と考えれば可愛いと思っていたが、流石に今回の件はやりすぎだ。まあ、それも好感度を上げまくった俺のせいなんだろうけど……。
ちょっと、本当に対策を考えないとな。
ただ、理子と長く戦闘をしたためか、よく見るとその足取りには力強さが無い。巫女装束も理子ほどではないが、かなりボロボロだ。
散々愚痴を垂れていた理子だが、白雪をここまで追い詰められる奴もそうそういないぞ。
「――ひっ、し、白雪!? なんでここに!? 完全に撒いたはずなのに!」
何をされたらここまで怯えるんだというほどに怯える理子。無意識だと思うが俺にすり寄りつつ白雪にそう叫ぶ。アリアも「げっ」と渋い表情を浮かべている。
白雪は、ゆっくりとした動作で日本刀を構える。
――というか今気付いたけど、本当に外してるぞ、白いリボンを。
「――レキに、あなたがここにいるって聞いたの。――まあ、そんなことはどうでもいいの。キンちゃん様を傷つける奴は死んで償いなさい」
「な、なんでレキが――、くそっ、無害そうなフリしてとんでもないことしてくれたな!」
理子がキレつつも臨戦態勢に入る為、スカートからワルサーを引き抜こうとする。
――――しかし、遅い。
不意を突かれたからなのか、疲労がたまっていたからなのかは分からないが、理子の反応が遅れた。
それでは本気を出した、『超偵』としての白雪には対応できない。
下駄を鳴らしながらの超速の踏み込みによって、一瞬で理子に詰め寄った白雪は、理子の脳天目掛けて刀を振り下ろす。理子は、何とか頭を逸らして、さらにロザリオの力で髪の毛を操り、斬撃をいなそうとしているが、ダメージを受けることは免れないだろう。
――――バチィッ!!
俺は、理子の横合いから腕を伸ばして白雪の刀による攻撃を、片手での『真剣白刃取り』で受け止める。白雪の刀は、俺の人差し指と中指によって挟まれ、動きを止める。
ついでに理子を俺の後ろに隠すように体の位置を入れ替える。理子は「――きゃ」と女の子らしい小さな叫びをあげるも、大人しく俺の後ろに収まる。これで理子に被害は及ばない。
理子を守る事には成功した――が、
――――あっっっつっ!!!
刀剣が能力でなのか、灼熱のように熱せられており、滅茶苦茶熱い。じゅうっという肉が焼ける音が聞こえるほどだ。
――く、くそ、ただでさえ銃弾掴んで火傷してたのに。刀剣が紅くなってたから嫌な予感はしてたけど。
でも俺も丸腰だし他に手を思い付かなかった。白雪を攻撃するわけにもいかんし。
……しばらく右手は使えんな。
――――痛い。
――――けど、我慢だ。
これくらいの痛み、イチャイチャする為ならいくらだって耐えられる!
激痛によって反射的に手を離したくなり、目に涙が浮かびそうになるが、それらを耐えて、刃先にふれないように刀剣をがしっと力を込めて握る。
刀剣越しに伝わる白雪の力を読み切り、力をコントロールし、白雪から日本刀を奪い取る。体力の消耗した白雪を相手には容易いことだった。
「落ち着け、白雪」
「――――え? キ、キンちゃん様? え? わ、私一体――」
刀を取られたことでようやく我に返ったらしい白雪。目の前にいる俺の存在に混乱しているようだ。
俺の後ろにいる、顔を赤くした理子が俯いて「――いいこと思いついちゃった」と小さく呟いた。