遠山キンジに転生したので、女の子とイチャイチャする 作:なーお
……さて、そろそろ来る頃だろうか。
武偵校が見えてきた頃、俺は呑気にそんなことを思う。
これから俺は、武偵殺しの模倣犯である『峰理子』が仕掛けた事件――、チャリジャックに巻き込まれることになる。
俺が今漕いでいる自転車にはプラスチック爆弾が仕掛けられているのだ。乗る前にこっそり確認したので間違いない。
「その チャリには 爆弾 が 仕掛けて ありやがります」
――お、来た来た。
無機質な機械音声が聞こえた方を見ると、そこには短機関銃を装備したセグウェイがいつの間にか並走していた。鈍く光る金属質のその銃口をいきなり突きつけられたら普通はパニックになるだろう。
改めて思うが、理子もエグいことするよな……。
しかし、こうなることを知っていた俺は特に驚くことは無い。寧ろ小説やアニメで見たシーンを実際に体験できていることから興奮しているまである。それにこの程度じゃ俺は死なないしな。
セグウェイに搭載されたスピーカーから、自転車のスピードを下げたり、助けを求めると爆弾を爆発させる旨の説明がなされていく。
俺はそのまま理子の要求に従って大人しく自転車を走らせる。そしていよいよ、運命の場所である女子寮が近づいて来た。
……えーと、確か屋上にいるんだっけ?
――――あ、いた。
女子寮の屋上の淵。そこにいた。
『神崎・H・アリア』が。
正真正銘、この世界のメインヒロイン。
遠目だが、堂々とした姿勢でピンク色のツインテールが風で靡くその姿はやけに様になっていた。アリアは、俺と並走する短機関銃付きのセグウェイを確認すると、何の躊躇も無く飛び降りた。
アリアはそのままパラグライダーを開き、空中で器用に軌道を操り、俺の方に向かってくる。
アリアが近づいてきたことでその容姿もしっかり見えてくる。芸術作品のように整った、そして幼い顔立ちであるものの、集中したその表情はやはり一流の武偵であった。
アリアが太ももに装着したホルスターから素早く二丁の黒と銀の拳銃を抜き、こちらに照準を定めてくる。
その意図を理解した俺は、射線を確保しやすいように素早く頭を下げる。俺のその行動に、少し驚いた表情を浮かべたアリアはそのまま引き金を引く。
轟音が鳴り響くと同時に、アリアによって放たれた銃弾は見事にセグウェイに命中していき、破壊された。
俺もこっちの世界に転生して銃を使っているから分かる。不安定なパラグライダーから二丁の拳銃打ちで命中させることの難易度が。このような曲芸じみた所業を易々とこなすのがアリアなのだ。
……改めて思うとおっかないな。
アリアは拳銃をホルスターに収めると、今度は俺の方に並走する形で飛んで来る。
「感謝する! この自転車には爆弾が仕掛けられている。減速すると爆発する仕組みだ!」
俺は慌てることなく簡潔に状況をアリアに伝える。武偵として緊急の状況における素早い情報共有は当然のこと。アリアに俺ができる奴だとアピールしておくことは大事だ。『対等』なビジネスパートナーになる訳だからな。
できる奴なら、こんな事件に巻き込まれないだろ、なんて突っ込みは受け付けない。
アリアは、「……」と、一瞬何かを考える様子を見せるもすぐに切り替える。
「――分かった! あんたはこのまま全力で漕ぎ続けなさい! なんとかしてみせるわ!」
「了解! 武偵憲章1条――、信じてるぞ!」
「…………ふんっ! 助けられる身で偉そうにしないで!」
俺の迷いない即答に対するアリアの不満と別の感情が混ざったような返答を、俺は受け流しつつ、そのまま武偵校の第二グランドに入っていく。一方のアリアは俺が進んでいく方へ先回りし、俺と対峙する形になる。高さもちょうど自転車に跨った俺と同じに合わせてくれている。
そのままアリアは、両足をパラグライダーのコードに掛けて、逆さ吊りの状態になり、両腕を左右に広げてくる。俺を強引に自転車から攫おうというわけだ。
――素早い状況判断といいこの運動神経、流石Sランク武偵だ。事情抜きでも普通にパートナーとして組んでほしいとさえ思う。
俺は、アリアを信じ切っていると言うように、益々ペダルを漕ぐ足に力を込める。そんな俺にまたも驚き目を見開くアリア。
……まあ、俺も初見ならアリアのこの無茶な対応に驚いたかもしれんけど、既に見た光景なんでね。
そのまま俺とアリアが上下で抱き合う形でぶつかる。アリアからガシッと力強く抱きしめられて俺はそのまま上へと引き上げられていく。乗り手を失った自転車は少し進んだところでバランスを崩し、転倒して大爆発を起こす。
眩い閃光の後、鼓膜を揺らす轟音と爆風が同時に襲ってきて、俺とアリアは吹っ飛ばされる。
――いや、爆弾の威力やばすぎだろ。
理子もヒロインの一人なのだが、やはりぶっ飛んでいるな。
……けど、問題無い。
爆発によって吹っ飛ばされる中、瞬時に体勢を整えると状況を整理する。すぐに体育倉庫の扉が物凄い速さで近づいてくることを察知する。アリアと縺れている今、非常に動きにくいが、……まあいけるだろ。
俺は、比較的自由に動かせる右足を中心に骨格、関節、筋肉を連動させる形で順に高速で加速させていく。――そして、亜音速にまで加速した蹴りでタイミングよく体育倉庫のドアを破壊する。先ほどの爆発にも匹敵する爆音をまき散らしながら、俺たちは体育倉庫の中に飛び込んでいく。
倉庫内にあった色々な備品が体に当たって怪我をしないように丁寧に薙ぎ払っていく。俺は重心をコントロールして、跳び箱を踏み越えてズザザザッと両足でしっかりと着地に成功する。完全にコントロールを失っていたアリアも腕でしっかりと抱えるように支えての着地だ。恩人のアリアにだけ怪我をさせるのも忍びないからな。ちなみにアリアは凄い軽い。
――よし、上手くいった。
やや荒っぽかった気もするが、素の俺ならこんなものだろう。これで原作のようにアリアと縺れた状態で跳び箱の中に入り込むという事故は免れた。それはすなわち、俺が変態というレッテルを貼られずに済んだということ。
一方のアリアは、何が起きたのか分からず俺に抱えられた体勢できょとんとしている様子だ。
…………この子がアリアか。
ぱっちりとした瞳は美しい緋色。小さな顔はシミ一つ無いキメ細かい肌で覆われ、長いまつ毛や桜色の小さな唇。文句なしの美少女――、メインヒロインたる可愛さを誇っている。
…………でも、ロリなんだよなぁ。
そんな感想を抱いていると、アリアが急に何かに気付いたようにその表情を真っ赤にさせ、あわわと慌てふためている。先ほどまでの堂々とした立ち振る舞いとギャップのある様子を不思議に思う。そのアリアの視線は自身の体の少し上の方に向けられている。
……何を見ているんだ?
アリアの視線の先を辿るもアリアを支えるための俺の腕くらいしか見当たらない。
その時だった。複数のセグウェイの駆動音が体育倉庫の外から聞こえてきた。近づいてきている。俺は抱えていたアリアを素早く下ろし、愛用の『ベレッタM92F』を抜く。そのまま跳び箱の前に――、体育倉庫の入り口からよく見える場所に躍り出る。
少し遅れてアリアも状況を把握したのか、先ほどの慌てた様子から一転、その表情に緊張を走らせながら、
「ちょっと! 聞こえてるでしょ! 撃たれるわよ!」
そう可愛らしい声で叫んでくる。
「心配ない。さっきはアリアが助けてくれたからな。――今度はこっちの番だ」
アリアは、名乗ったことが無いはずの俺から名前を呼ばれて不思議そうにするが、俺はそれに気付かない。
――――さあ、アリアに俺の実力を見せつけるぞ。
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