遠山キンジに転生したので、女の子とイチャイチャする 作:なーお
「キー君…………ううん、『キンジ』」
理子の艶やかでいて、甘えたような声が俺の耳をくすぐる。
「――いけないな、理子。可憐な乙女が簡単に男に抱き着くなんて。ドキドキしてしまうじゃないか――、どう責任をとってくれるんだい?」
芸術作品を扱うように理子の頭を優しく撫でながら、冗談ぽくそう声を投げかける。俺の言葉にぴくりと反応した理子は、俺の首に両手を回した状態で顔だけを少し俺から離す――、ちょうど俺と理子が至近距離で見つめ合うように。
興奮している理子の小さなその顔は熱を帯びており、熱い吐息をつく。
「……’なった’んだね。最高だよ、キンジ。……ゾクゾクしちゃう。……理子、もうキンジ無しじゃあ生きていけないよ」
「俺も理子と出会えて幸せだよ。理子のいない世界なんて想像したくもない」
「…………本当に? 本当に『理子』がいないと寂しいって思ってくれる?」
『理子』の部分を強調したその問いかけ。理子の声は僅かに震え、瞳は不安を示すようにゆらゆらと揺れている。
普段の明るく振舞う表の顔、そして冷酷な裏の顔――、そのどちらでもない、ただのか弱い女の子としての理子の姿。それを見た俺の中に深い悲しみが広がっていく。
理子は、幼少の頃から、『理子』としてではなく、大怪盗、アルセーヌ・リュパンの子孫としてしか存在を認められなかった。
さらに幼くして愛する両親を亡くし、落ちこぼれの烙印を押されてしまった。果ては、優秀な子孫を生み出すためだけの存在価値にまで堕とされた悲劇のヒロイン。
峰理子は、緋弾のアリアの作品の中でも屈指の闇の過去を持っている。
理子に必要なのは――、理子を認めて必要とする存在。
「ああ、本当だよ。寂しいどころじゃない、『理子』がいないとだめなんだ。誰よりも努力家で可愛い理子がね。代わりなんていない。――例え世界中が理子の敵になろうと俺だけは理子を守ると誓おう」
俺の答えを聞いた理子は、驚いたように目を大きく開くと、その顔を真っ赤に染めて顔をくしゃりと歪める。それを見られるのが恥ずかしかったのか、理子は俺の胸に飛び込んでくるとその小さな顔を俺の胸に埋める。
「……もう、ずるいよ。……本当、キンジは私からとんでもないものを盗んじゃったね――。盗むのは理子の専売特許なのにさ」
俺は、理子をそっと抱きしめながら、黙って理子の小さな頭を優しく撫で続けた。
しばらくして落ち着いた理子は、頭を上げて俺の顔を見上げてくる。その表情は先ほどまでの弱々しい理子では無かった。芯の通った、力強いものだった。その姿を見て俺も嬉しくなる。
「……ねえ、キンジ。私のお願いを聞いてくれる?」
「……言ってごらん?」
そう促すと、理子はその表情に一層の力を込める。
「私は……私は、見返したい! 私を馬鹿にしてきた奴らを……。私を冒涜してきた奴らを! 理子は理子だって! この手で直接! その為に力を貸してほしい!」
理子のその勇気溢れる姿に俺は微笑む。
「ああ、勿論さ。理子の力になれるのならなんだってしよう。理子の為なら例え『鬼』が相手だろうとも俺は立ち向かうよ」
俺の言葉に驚いた理子は目を丸くして、「……キンジには敵わないね」とどこか呆れた様子である。
ここで理子は、妖艶でそして鋭利さを感じさせる表情を浮かべる。これは裏の顔である理子。
「……くふふ、今日は人生で一番いい日になったよ。ありがとうキンジ。じゃあその件については、また近々連絡するね。……そ・れ・でー、どうせならもう一つお願いがあるんだけどいい?」
「……欲張りさんだね、なんだい?」
すると、理子は急に黙ってこちらをじっと見つめてくる。恥ずかしいのか、妙にそわそわしてもじもじしている。裏の理子とは思えない程、その様子はとてもしおらしい。
「…………キンジ、私だけのものになってよ」
その理子のお願いに俺の心が痛む。
なぜなら、その願いを叶えることはできないから。
俺のことを必要としている女性は多くいる。
――だから今はまだ。
「…………すまないそれはできない」
「……まあそうだよね。今のキンジはそう答えるしかできないよね。キンジの体質は知ってるよ。……なにせ、キンジの『お兄さん』に聞いたからね」
理子は、ここで俺の兄さんのことに触れてくる。
その理子の表情は、切り札を使ってやったぞと言わんばかりに、挑戦的なものである。
世間的に俺の兄さんは海難事故によって死亡されたとされている。原作キンジはその事件のせいで武偵をやめようとしていた。その兄さんを持ち出されたら、俺はどんな要求を呑んでも理子から情報を聞き出そうとするだろう。
だが、兄さんがぴんぴんして女装に勤しんでいるのは分かっていることである。
「……そうか、兄さんに。そうだ、兄さんに今度会ったなら言っておいてくれ。久しぶりに弟が会って模擬戦をしたがっていると。兄さんは俺の身の回りにいる人では数少ない全力でぶつかれる相手だからね」
「……はは、参ったなぁ。これもだめかぁ。本当、キンジは何でも知っているんだね」
理子は俺の反応から、兄さんが存命していることを知っているのだと理解する。理子はまいったと言わんばかりに乾いた笑いをこぼす。
しかし、理子はまだ手は残っていると言わんばかりに、その目を妖しく光らせると俺に甘い声で囁いてくる。
「……ねえ、じゃあ理子と『いいこと』しよう? 別にいいよね? それがキンジの体質の本質でもあるんだし。あっちのキンジはそれを望んでいるし」
「とても魅力的な提案だ。しかしここはお外だよ? 人が来るかもしれない」
「キンジの特別になれるなら場所なんか関係ない。それに扉には細工をして開けられないようにしておいたよ。くふっ、残念でした!」
そう悪戯っぽく言った理子だったが、その明るい表情を真剣なものへと変える。
そして軽く息を吸い込んだ理子は、
「……それとも断って理子に恥をかかせる? ……こう見えても結構勇気出してるんだよ?」
その理子の言葉が嘘ではないと証明するように、理子の全身は不安と緊張で震えている。今にも壊れてしまいそうな儚さがある。
「……まったく、ずるい子だね、理子は」
こう言われてしまっては俺に断る術は無い。
理子を拒絶すれば理子は深い傷を負うことになる。
そして、それを俺は許すことができない。
流石は理子。女性としての武器の使い方をよく分かっている。
「わかっt――」
俺がそう答えようとしたその時だった。
「――――ぷっ、冗談だよ!」
理子は、耐えきれないとばかりにその顔に満面の笑みを浮かべる。それは、悪戯を成功させた子供のようだ。
「ふふふ、キンジに振り回されっぱなしは嫌だったから、困らせてみました! くふふ、ねえねえ? 困った? んん~? 理子の演技も中々のものでしょ?」
「はは、全く。本当に困った子だよ理子は……」
俺が苦笑いと共にそう呟いたと同時だった。理子は、俺からゆっくりと離れて、スキップ気味に楽し気な様子で数メートル歩いてくるりと俺の方を見つめてくる。
「…………こんな卑怯なやり方でキンジと一緒になることは私のプライドが許さない。何よりやられっぱなしは癪だからね。――正々堂々と、キンジの心を奪ってみせる」
そう言った理子は、背筋は伸ばしたまま、両手で改造スカートの裾を軽く持ち上げ、片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を少し曲げる。
その優雅な振る舞いは、高名な貴族のそれであった。
そして、自信に満ちた理子はその真っすぐな瞳で俺を見据える。
「なにせ理子は――――、『泥棒』ですので」
その堂々とした華麗な理子の姿に俺は心を奪われて、一瞬呆然としてしまう。
理子は、そんな俺の反応に満足したのか、笑みを浮かべると。
「……くふふ、じゃあね~’キー君’! 『鬼退治』のことについては、またすぐに連絡するからね!」
そう言って理子は、普段の明るい様子で元気よく走っていった。
後ろから僅かに見えた理子の耳は桜色に染まっていた。
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