摩耶さまが行く!   作:皇南輝

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摩耶さまが行く
第1話 嫌いな艦娘


令和の日本。今日は8月の、ある日曜日。

都内のワンルームのアパートで一人暮らしをしている近衛碧輝(このえあおき)、22歳。そんな碧輝が暮らすアパートから早朝の蒼空に向けて叫び声があがった。

 

「うわあああ! 金剛ちゃーん!」

 

寝癖はそのままに白いルームウェア姿でノート型パソコンを見つめていた碧輝は、両手で寝癖がついた髪をくしゃくしゃにしながら焦茶色の冷んやりとしたフローリングに仰向けに倒れ込んだ。

 

碧輝が見つめていたパソコンの画面には『艦娘轟沈』という暗くて沈痛な文字が表示されている。

 

碧輝はポカンと口を開けたまま、小さな部屋の白い天井を生気がなくなったような目で見つめた。

 

「俺の金剛ちゃんが······轟沈した」

 

碧輝が忙しい仕事の合間に1年かけて育成してきた艦娘の金剛が、艦娘たちの敵である深海棲艦の空母艦載機によって撃沈させられてしまったのだった。

 

「せっかく、ケッコンカッコカリまでしたのに······」

 

碧輝の頭のなかで、世界一可愛い嫁艦の「バーニングラブ!」という叫び声がリピートしている。金剛を失って心の中にポッカリと黒くて重い穴が開いた碧輝の両目に、うっすらと涙が浮かんだ。

 

「金剛······俺の嫁艦······俺のカノジョ······」

 

どれくらい冷んやりとしたフローリングの上で横たわっていただろう。真夏の明るい日差しが差し込む冷房が効いた部屋で、碧輝は力無く上半身だけを起こした。すぐに、震える右手でマウスを掴むと轟沈画面をクリックした。すると、金剛を失って5人だけの艦隊となった艦娘たちが目に入ってきた。碧輝は深くため息をついた。

 

「どうしてこんなことになってしまったんだ! いつもなら赤城や加賀の零戦が制空権を握って······いや、待てよ。今回、対空カットインが発動しなかったよな」

 

碧輝はパソコンの画面を食い入るように見つめた。その視線の先には艦娘のひとりである摩耶がいた。正確には『摩耶改二』だ。

 

「お、お前が対空カットインしていれば、俺の金剛ちゃんが沈むことはなかったんだ!」

 

碧輝はパソコン画面に向かって唾を吐くような勢いで不満をぶつけた。パソコン画面の中の摩耶は、当然、何も反応しない。

碧輝は、虚しい気持ちで、再び深いため息をついた。

 

愛する艦娘、金剛を失った碧輝は茫然自失となりながら、戦闘で中破や大破した艦娘たちを入渠させた。その中には中破した摩耶も含まれていた。

 

そのときだった。

 

「こき使いやがって、クソが!」

 

パソコンのスピーカーから摩耶の罵声が飛んだ。摩耶の入渠時にそんなセリフが吐かれることは十分知っていた。しかし、愛する金剛を失ったばかりの碧輝にとって、いつもなら聞き流している摩耶の罵声は彼の怒りの炎に油を注いでしまった。

 

「なんだと?」

 

金剛を失い沈痛していた碧輝は、完全に頭に血が上った。それからの数秒間、碧輝は自分が何をしていたのか記憶がなかった。気がつくと、摩耶が碧輝の艦娘リストから消えていた。

碧輝は怒りの衝動に駆られて練度80の摩耶改二を解体してしまっていたのだった。

 

「あ、ついムカついて摩耶を······。まあ、いいや。あんな口が悪くて役に立たない摩耶なんて、嫌いな艦娘だからな」

 

碧輝はノート型パソコンの画面をパタンと勢いよく閉じた。そして、深くため息をついた。

 

「なんかもう、やる気が失せたな」

 

金剛を失った碧輝は、シャワーを浴びて重く沈痛な気分を洗い流そうと立ち上がった。

 

 

 

(つづく)

 

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