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(あらすじ)
ゲーム『艦隊これくしょん』で遊んでいた近衛碧輝(このえ·あおき)。
ある日、ゲームの中で艦娘『摩耶』に八つ当たりした碧輝は、衝動的に摩耶を解体してしまった。すると、その直後に、碧輝の部屋に摩耶が現れた!
そのとき、摩耶を追ってきた深海棲艦も、ゲーム世界から現代日本に“流出”してしまう。
そんな事実を知った碧輝は、深海棲艦の目から摩耶を隠すために、ショッピングモールで彼女のために服装品を買いそろえた。
やがて、夜になり、碧輝は摩耶を連れて帰宅する······。
碧輝には気になることがあった。摩耶の身体に関することだった。
「なあ、碧輝。どうしたんだ? さっきからずっと、あたしの顔を見てさ」
助手席の摩耶が運転席の碧輝に尋ねた。
「摩耶、ずっと気になっていることがあるんだ」
「なんだよ?」
碧輝は自分の気持ちを落ち着かせようと深く息を吸い込んだ。
「摩耶は、人間なのか?」
「なんだ、そんなことか。どうして、そんなことを聞くんだ?」
「ゲームの世界は2次元の世界だろ? そんな世界から飛び出してきた摩耶について気になるのは当然じゃないか」
「にじげん? なんだ、それ?」
碧輝は、摩耶に難しい言葉を使ってしまったことを後悔した。面倒くさくなるだけだからだ。
「要するに、もし摩耶がケガをしたら、こっちの世界でも治療できるのかを知りたいんだ」
「ははーん、そっかー。碧輝は、この摩耶さまのこと心配してくれるんだー」
摩耶は笑みを浮かべながら碧輝の目を見た。摩耶と目が合った碧輝は、すぐに目を逸らした。そのときだった。突然、摩耶が碧輝の左手首を掴んだ。そして、掴んだ碧輝の手を引っ張って自分の左胸に押し当てた。驚いた碧輝は、目を丸くした。
「ま、摩耶! いきなり何をするんだ······」
「どうだ、碧輝。あたしの胸の鼓動は感じるか?」
「え?」
碧輝は、摩耶によって押し当てられている自分の左手に意識を集中させた。摩耶の柔らかい胸の感触の中から彼女の心臓の鼓動が伝わってくる。摩耶の胸から感じる鼓動は、まさに人間のそれだった。
「感じる······!」
碧輝は目を見開きながら呟いた。
「どうだ、これで分かっただろ?」
「あ、ああ。分かった」
碧輝は動揺しながら答えると、摩耶の胸から左手を素早く引き離した。
「さ、行こうぜ!」
摩耶は明るい声をあげながら、運転席に座る碧輝の左肩を軽く叩いた。碧輝は、クルマを発進させた。
碧輝が運転する黒いプリウスは、自宅マンションの駐車場に入った。碧輝と摩耶は黒いプリウスから降りた。
すでに日が沈んで周辺は暗くなっているが、点々と規則正しく並んだ街灯が、広い駐車場のアスファルトを点々と照らしている。
碧輝は、ワンルームの賃貸マンションに住んでいる。2人は5階までエレベーターで昇ると、白い照明に照らされた通路を歩いた。通路を歩く摩耶は絶えず周辺に視線を送っている。碧輝は、摩耶が深海棲艦を警戒している、とすぐに分かった。
ゲーム世界から飛び出してきたのは、摩耶だけであってほしい。深海棲艦が、こちらの世界に飛び出したことは嘘であってほしい。
碧輝は、そう願った。なぜなら、深海棲艦が現れたら、それこそ生活が脅かされるからだ。
「なあ、碧輝」
碧輝の隣りを歩きながら周囲を警戒している摩耶が沈黙を破った。
「何だよ?」
「思ったんだけどさー。もし、いま深海棲艦が現れたら、武器なしにどうやって戦えばいいんだ?」
碧輝は隣の摩耶に顔を向けた。摩耶が手にしているものといえば、彼女の服装品が入った紙袋だけだ。連装砲も機銃も装備していない。
突然、碧輝は歩幅を大きくして足早で歩き始めた。それに気づいた摩耶も、遅れないように早足になった。コツコツという摩耶のハイヒールの足音がマンションに響きわたる。数秒後、2人は通路を走っていた。摩耶のハイヒールの音が速いテンポで、いっそう響き渡った。
ガチャガチャ、バタン! ガチャリ。
碧輝は素早く部屋のドアに鍵を差し込んで開けると、摩耶と一緒に室内に入り、すぐにドアを閉めて施錠した。すぐに人感センサーが反応して、玄関の天井から淡い暖色系の光が碧輝と摩耶を照らしている。そんな中、碧輝と摩耶は見つめ合った。次の瞬間、碧輝と摩耶は大笑いした。
「碧輝が急に走り始めたから、あたしも一緒に走ってしまったじゃねーかよ!」
「摩耶が思い出したかのように、武器がない、なんて言うからだよ!」
しばらく碧輝と摩耶は笑っていたが、やがてまた静かになった。2人の間に再び沈黙が訪れる。どこからか、隣人の話し声が微かに聞こえてくる。
碧輝は、摩耶を見つめている自分の鼓動が速くなっていることに気がついた。摩耶が碧輝からのまっすぐな視線に気づく。すると、すぐに摩耶は視線を落としながら顔を背けた。
「な、なんだよ。じっと、あたしを見つめてんじゃねーよ······」
摩耶は動揺しながら言った。碧輝は目を覚ましたように瞬きをしたあと、摩耶から視線を外したのだった。
(つづく)