シャワーで爽快な気分になった碧輝は、ユニットバスのドアを押し開けた。白いバスタオルで濡れた髪を拭きながら、室内のベッドに身体を向けたときだった。
碧輝は、ノート型パソコンが置いてある小さなテーブルの前に立つ、ひとりの女性と目があった。その瞬間、碧輝の思考は停止して頭の中が真っ白になった。
一人暮らしの俺の部屋に女の子がいる。
碧輝は、正面で突っ立って自分を見つめている女性を思考が停止したまま見つめた。そのとき、碧輝を見つめる女性の視線が下に向けられた。その動きにつられて碧輝も自分の視線を自分の下半身に落とした。次の瞬間、碧輝は慌てながら白いバスタオルで自分の股間を隠した。
「う、うわあ! だ、誰だよ、お前! ここは俺の部屋だぞ!」
碧輝は股間に白いバスタオルを押しつけながら叫んだ。そのとき、ようやく女性の全身姿が碧輝の視界にしっかりと入ってきた。
女性はノースリーブの胸元だけを隠したような変わった制服のようなものを着て、少し動いただけでパンティが見えてしまいそうなミニスカートをはいている。茶色かかった栗色の髪はショートボブで、頭の左右からは金属の尖った棒のようなものが2本ずつ飛び出している。さらに、彼女の両腕には2連装砲の形をした金属が装着されている。
そんな女性の全身姿を把握した碧輝は、この女性を初めて見る気がしなかった。
「よっ! お前が提督か?」
突然、女性が日本語で話し始めた。その表情は明らかに不機嫌そうだった。
いきなり提督呼ばわりされた碧輝は、相変わらず思考が停止したまま、ただ首を傾げた。
「お前が提督かって、この摩耶さまが聞いてんだよ。答えろよ」
「摩耶さま?」
碧輝は呆気に取られながらも聞き返した。
「おう、あたしの名前は摩耶っていうんだ。で、お前は提督だろ?」
自らを摩耶と名乗った女性は、碧輝を威圧するような険しい目で見つめた。
「お、俺は提督なんかじゃない。というか、お前、どこから入ってきたんだよ! 勝手に他人の部屋に入るなんて不法侵入だぞ!」
「ふほーしんにゅー? なんだそれ」
そのとき、碧輝は、目の前にいる女性が、ゲーム『艦隊これくしょん』に登場する艦娘『摩耶』にそっくりであることに気がついた。
「不法侵入の意味も分かんないのか? しかも、お前。なんで、摩耶のコスプレして他人の部屋にいるんだよ」
摩耶と名乗る女性の全身姿を怪訝そうに見渡す碧輝ではあったけれど、目の前にいる摩耶姿のコスプレイヤーは、なかなか良くできている、と感心さえした。
「こすぷれって何だよ。難しい言葉ばかり使って不愉快な奴だな」
「不愉快は、こっちのセリフだよ! いきなり他人の部屋にコスプレ姿で入り込んで来てさ! 撮影するなら、どこかの公園に行けよ!」
「あー、もうわけがわかんないや! いっそのこと、ぶっころしてやろうか?」
摩耶と名乗る女性は、叫びながら右腕に装着している小型の2連装砲を碧輝の眼前に向けた。突然、銃砲のような金属を向けられて驚いた碧輝ではあったけれど、すぐに自分に向けられている金属製の銃砲を興味深そうにジロジロと観察を始めた。
「お前さ、摩耶のコスプレにしては本当に良くできているよな。この20.3センチ連装砲なんか、まるで本物みたいじゃないか!」
「あったり前だろ! 本物に決まってるじゃないか!」
摩耶と名乗る女性がそう答えた次の瞬間、碧輝の目の前で20.3センチ連装砲が轟音と同時に火を吹いた。
(つづく)