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(あらすじ)
ゲーム『艦隊これくしょん』で遊んでいた近衛碧輝(このえ·あおき)。
ある日、ゲームの中で艦娘『摩耶』に八つ当たりした碧輝は、衝動的に摩耶を解体してしまった。すると、その直後に、碧輝の部屋に摩耶が現れた!
そのとき、摩耶を追ってきた深海棲艦も、ゲーム世界から現代日本に“流出”してしまう。
そんな事実を知った碧輝は、深海棲艦の目から摩耶を隠すために、ショッピングモールで彼女のために服装品を買いそろえた。
夜、マンションに帰宅した碧輝と摩耶。何を思ったのか、突然、摩耶が「射撃練習する」と言い出した。碧輝は仕方なく、再びクルマで外出するのだった······。
夜のバイパス。土曜日の夜だけあって交通量が多い。碧輝が運転する黒いプリウスは、週末の夜で賑わう街から離れて、静かな山間部へと向かった。
碧輝が運転している間、助手席の摩耶は両腕に装着した連装砲や機銃を調整していた。それがひと段落すると、今度は、流れていく夜の景色を見つめていた。その間、ずっと車内は静かだった。
やがて、黒いプリウスは山の麓に近づいた。峠へと続く国道の交通量が極端に少なくなった。
「なあ、碧輝。民家がなくなっちまったけど、どこへ向かってるんだ?」
景色が闇に包まれたことに不安を感じたのか、摩耶が口を開いた。
「この先にダム湖があるんだ。そこなら、滅多に人は来ない。心霊スポットだからな」
碧輝は、カーブが続く山道を慎重に運転しながら答えた。
「しんれいすぽっと?」
「幽霊が出る噂がある場所って意味だよ」
「ふーん、幽霊かー。まあ、いいや」
「摩耶は、幽霊は怖くないのか?」
「全然怖くない。碧輝は怖いのか?」
碧輝は答えなかった。なぜなら、突然、ブレーキを踏んでクルマを急停止させたからだった。
「な、なんだよ! いきなり停めるなよ!」
驚いた摩耶が叫んだ。摩耶の声が届いていないのか、碧輝は、ヘッドライトに照らされた前方の路面を呆然と見つめていた。
「碧輝、どうしたんだ?」
「いま、人影が横切ったんだ。しかも、凄い速さで······」
「あはは! 幽霊でも出たんじゃないのか?」
摩耶が愉快そうに笑い声をあげた。摩耶の言葉に、碧輝は鳥肌が立った。
「変なこと言うなよ」
碧輝は声を震わせながら呟くと、再びクルマを発進させた。
こんなところ、ひとりじゃ、絶対に来られないよな······。
碧輝が運転する黒いプリウスは、一筋のヘッドライトを頼りに山の奥へと進んでいく。
やがて、ダム湖の駐車場に到着した。10台分の駐車スペースがある駐車場には、碧輝の黒いプリウスしかいない。駐車場には白い光を放つ街灯と公衆トイレ、自販機があるくらいで、ほとんどが闇に包まれている。
ダムの施設には、誰もいない。心霊スポットであるダム湖には、碧輝と摩耶の2人しかいなかった。
「おー! 星が綺麗じゃねーかー!」
摩耶が空を見上げながら明るい声をあげた。碧輝は、摩耶が明るい性格で良かった、と安堵した。
「摩耶、ここなら思う存分、砲撃できるよ」
「そうだなー。よし、ちょっと連装砲で直接照準射撃したいから、そうだな、碧輝のクルマを標的にしていいか?」
「ふざけんな!」
碧輝が怒鳴ると、摩耶は笑い声をあげた。2人の声が静かな山奥に響く。
「あはは! 冗談だよ。よーし、湖面でも走るかなー」
摩耶はダム湖の湖面へと続く下り階段に向かった。駐車場にひとり残された碧輝は、周りの闇を見渡したあと、慌てて摩耶を追った。
「おーい、摩耶! その艤装みたいなブーツで湖面を移動できるのか?」
「当たり前だろ? あたし、艦娘だぜ?」
摩耶は後ろを振り返らずに答えた。やがて、摩耶は湖面へと続く階段を下りていく。しかし、階段は途中から遊歩道となってダム湖に沿ってその奥へと延び始めた。摩耶は、遊歩道の柵をまたぐように乗り越えると、法面を歩いて湖面へと下っていった。
碧輝は階段を下って遊歩道にたどり着くと、急斜面を下っていく摩耶の背中を見つめた。
「本当に、あんな船首みたいなブーツで水面に浮くのか?」
碧輝は、ひとり呟きながら、摩耶の動きを見守った。
摩耶は、碧輝の心配をよそに、当たり前のように湖面に立った。
「よーし! 行っくぞー!」
摩耶は威勢よく叫ぶと、湖面を颯爽と走り始めた。やがて、摩耶は闇夜の中に消えていった。湖岸にひとり残されてしまった碧輝は、ここが心霊スポットであることを思い出すと、恐怖で身を縮ませたのだった。
(つづく)