摩耶さまが行く!   作:皇南輝

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(あらすじ)

ゲーム『艦隊これくしょん』で遊んでいた近衛碧輝(このえ·あおき)。

ある日、ゲームの中で艦娘『摩耶』に八つ当たりした碧輝は、衝動的に摩耶を解体してしまった。すると、その直後に、碧輝の部屋に摩耶が現れた!

そのとき、摩耶を追ってきた深海棲艦も、ゲーム世界から現代日本に“流出”してしまう。

そんな事実を知った碧輝は、深海棲艦の目から摩耶を隠すために、ショッピングモールで彼女のために服装品を買いそろえた。

夜、「射撃練習がしたい」という摩耶を連れて山奥のダム湖へ向かった碧輝。そこは、心霊スポット。射撃練習のためダム湖の奥へ消えていく摩耶。碧輝は、ひとり、ダム湖の畔に残されたのだった······。



第22話 ダム湖の幽霊

心霊スポットである山奥のダム湖。ダム湖沿いに延びる遊歩道は暗闇に包まれている。

 

いま、碧輝が立っている場所は、道路の街灯の光がかろうじて届いているにすぎず、数歩先は完全な闇だった。

 

ダム湖には果てしない闇が広がっており、対岸は全く見えない。そんなダム湖の闇からは砲撃音や銃撃音、水しぶきの音が断続的に聞こえてくる。それは、摩耶がダム湖で射撃練習をしている音だった。

 

ダム湖の畔で摩耶の帰りを待つ碧輝は、恐怖で全身を硬直させていた。

 

摩耶、早く戻ってこいよ。こんな場所、ひとりで居たくないよ······。

 

闇の中からガサッと草の音が聞こえると、驚いた碧輝は身を縮めながら音がする方向へ顔を向けた。そこに何もいないと分かった碧輝は、安堵のため息をついた。

 

ドーン、バシャーン! ダダダダダ······!

 

摩耶が放つ砲撃や銃撃は、まだ止まない。碧輝が、クルマに戻って車内でラジオでも聞こう、と決めたときだった。

 

突然、背後の階段から圧迫感と共に何やら重い気配を感じた。それは、明らかに今まで感じたことがないような重圧感だった。

 

碧輝は、ゆっくりと後ろを振り返った。次の瞬間、碧輝は恐怖の悲鳴をあげながら尻もちをついて倒れた。碧輝の正面には、赤黒い炎に包まれたような、むき出しになった巨大な歯と幾つもの突起物をもつ“幽霊”が立ちはだかっていた。

 

「うわあ! 出たー!」

 

碧輝は、心臓を鷲掴みにされたような恐怖感に襲われてパニックになった。巨大な歯と突起物の“幽霊”が碧輝に近づいてくる。碧輝の目は恐怖で見開き、全身が硬直して声さえ出せないようになった。

 

「オマエ八、ダレダ?」

 

“幽霊”の巨大な歯がゆっくりと動いた。カタコトの日本語を話している。そのとき、碧輝は、いま目の前にいるのは幽霊じゃない、と直感した。

 

「オマエ八、ダレダ? コタエロ」

 

碧輝は“幽霊”の巨大な歯の上にある幾つもの突起物を見つめた。

 

これは、大砲? そうだ、コイツ、見たことあるぞ!

 

いま目の前にいる得体の知れない存在が幽霊ではない、と直感した碧輝は、ゆっくりと腰に右手を伸ばした。ジーンズの腰には、エアガンである拳銃・ベレッタを挟んでいたからだった。

 

「オマエハ、カンムスノナカマカ?」

 

得体の知れない存在が「艦娘」という言葉を発したとき、碧輝は確信した。

 

コイツは······深海棲艦だ!

 

そう確信した瞬間、碧輝が感じていた恐怖は、瞬く間に、闘争心に昇華された。

 

「うあーっ!」

 

碧輝は腰から引き抜いたベレッタを深海棲艦に向けると、雄叫びをあげながらトリガーを引いた。

 

ベレッタから発射されたプラスチックのBB弾が深海棲艦の巨大な歯に当たった。深海棲艦が一瞬怯んだ隙に碧輝は立ち上がると、さらにベレッタからBB弾を発射した。プラスチック弾だから威力は、ほとんど無い。しかし、深海棲艦を怯ませるには十分だった。

 

碧輝は、階段で立ちはだかる深海棲艦に体当たりを食らわせると、そのままコンクリートの階段を駆け上った。階段を駆け上がりながら、何か武器になるような棒がないか探したが、見つからない。次の瞬間、背後からドーンという砲撃音が聞こえた。同時に、ヒュンッと空気を切る音がして碧輝の耳元を何かが高速で飛んでいった。

 

砲撃してきた! このままでは、殺される!

 

碧輝の脳裏に、死の恐怖、が覆い被さってきた。再び碧輝の心を恐怖が包み込んだとき、動揺した碧輝は足がもつれて転倒した。転倒した碧輝は、すぐに後ろを振り返る。すると、深海棲艦がゆっくりと階段を移動して碧輝に近づいてきた。深海棲艦の持つ全ての大砲が、碧輝に照準を定めている。

 

「オマエ、カンムスジャナイ。オマエ、テイトクダナ?」

 

深海棲艦が低い声を発しながら近づいてくる。街灯の光に照らされた深海棲艦の姿を見た碧輝は、その正体に気がついた。

 

コイツは、軽巡ホ級!

 

碧輝が階段で横たわりながらベレッタを軽巡ホ級に向けたときだった。突然、砲撃音が聞こえて目の前が真っ暗になった。

 

 

 

(つづく)

 

 


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