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(あらすじ)
ゲーム『艦隊これくしょん』で遊んでいた青年・近衛碧輝(このえ·あおき)。
ある日、突然、碧輝の部屋に艦娘・摩耶が現れた!
そのとき、摩耶を追ってきた深海棲艦も、ゲーム世界から現代日本のどこかに“流出”してしまう。
その夜、山奥のダム湖へ向かった碧輝と摩耶。
摩耶がダム湖で射撃練習を始めたので、碧輝は、ひとり、湖畔で待つことに。そのとき、碧輝は深海棲艦である軽巡ホ級に襲われてしまう。しかし、間一髪のところで摩耶に助けられた。
その後、碧輝が軽巡ホ級に襲われた経緯を話していると、突然、摩耶にキスをされたのだった······。
摩耶が碧輝に抱きついたまま彼の背後に向けて連装砲で速射している。摩耶が速射を始めて数秒後、碧輝は背後から低い唸り声を聞いた。
「よっしゃあ! 撃破だぜ! 背後から奇襲を仕掛けようなんて、この摩耶さまは見逃さないぜー!」
摩耶は嬉しそうにそう叫ぶと、碧輝の身体から離れ、砲撃の標的になっていた場所へ向かって駆け出した。
「背後からの奇襲?」
碧輝は後ろを振り返った。街灯に照らされたアスファルトに何やら黒い物体が倒れている。碧輝も摩耶を追うように、黒い物体のもとへ向かった。
摩耶は、倒れている黒い物体に近づくと、それに向けて連装砲の砲口を近づけた。
「お前、軽巡ツ級だな。答えろ。お前たちは、いったいどれだけの数が、こっちの世界に入ってきたんだ?」
摩耶は怒りを抑えたような低い声で、大破している軽巡ツ級に訊ねた。
「ワレ、カンムス、ハッケン······セリ······」
息も絶え絶えの軽巡ツ級は、地面に顔を伏せながら呟いた。
「あ、ばっか野郎!」
摩耶の怒鳴り声と砲撃音が同時に、暗闇のダム湖に響いた。至近距離で摩耶の連装砲の直撃を受けた軽巡ツ級は、絶命した。
「ま、摩耶。いくら深海棲艦とはいえ、無抵抗の軽巡を至近距離で砲撃するなんて、残酷じゃないか?」
「いま、コイツが無線通信を使って、あたしの事を仲間に伝えたんだ。だからすぐに、とどめを刺したのさ」
碧輝は摩耶の肩に軽く手を乗せると、軽巡ツ級の無惨な骸を見下ろした。やがて、軽巡ツ級も、先ほどの軽巡ホ級のように消えていった。
「どれくらいの数の深海棲艦が、こっちの世界に入ってきているんだ? ちくしょう! いったいどうすりゃいいんだ! こんなときに鳥海さえいてくれたら······」
摩耶は右手で拳をつくりながら悔しがった。そんな摩耶の姿を、碧輝は笑みを浮かべながら見つめていた。
「なあ、摩耶。さっき、いきなり俺にキスをしたのは······」
「あ? ああ、あれか? 軽巡ツ級が碧輝の背後を狙っていたから、あたしがわざと碧輝にキスをして軽巡ツ級を油断させたのさ! まんまと引っかかった軽巡ツ級が油断したところを、あたしが速射で大破させたってことよ!」
摩耶は得意げな顔で答えた。一方、碧輝の顔からは、笑みが消え失せていた。
「じゃあ、摩耶は軽巡ツ級を油断させるためだけに、俺にキスをしたのか?」
「あ、あったり前じゃねーか! どうして、それ以外の理由で碧輝にキスなんか······」
摩耶は碧輝に背を向けながら答えた。
俺、何を期待していたんだろ。馬鹿馬鹿しい!
碧輝は、摩耶に好かれている、と勘違いした自分に腹が立った。
「摩耶、帰るぞ」
碧輝は摩耶の反応を待つことなく駐車場へ向かった。
「え? もう帰るのか?」
摩耶は碧輝の背中に向かって尋ねた。しかし、碧輝は何も答えることなく駐車場へ向かって歩き続けている。
碧輝は、自分のクルマ、黒いプリウスに戻ると、すぐに運転席に座った。
俺は、本当は金剛ちゃんが好きだったんだ! 摩耶みたいな男勝りな女なんて好みじゃない! 好みなんかじゃないんだ!
碧輝は、こちらに向かって歩いてくる摩耶を見ながら、自分に言い聞かせた。
摩耶がドアを開けて助手席に座った。摩耶は助手席に座るなり、運転席の碧輝を見つめた。碧輝は、わざと摩耶を見ないようにしていた。
「なあ、碧輝。あたしがキスしたこと、怒ってるのか?」
「別に」
碧輝は、わざと冷たい口調で返した。
「なんだよ、その態度。怒ってるじゃないか!」
「別に怒っていないよ。さっきのキスは、深海棲艦を倒すための作戦だったんだろ?」
摩耶は何も答えなかった。さらに、碧輝が言葉を続ける。
「摩耶は敵に勝つためなら、どんな男とでもキスができるもんな」
次の瞬間、突然、碧輝は左頬に衝撃を受けた。驚いた碧輝は、助手席の摩耶を見つめた。摩耶は、右手で拳をつくりながら、碧輝を睨んでいた。
「な、なんだと? お前なんかに女の気持ちが分かってたまるかよ!」
摩耶は、目を丸くしている碧輝に怒鳴りつけると、助手席から車外へ飛び出した。そして、暗闇のどこかへと消えてしまった。
碧輝は、摩耶に殴られた左頬をさすりながら、摩耶が消えた方向を見つめ続けたのだった。
(つづく)