摩耶さまが行く!   作:皇南輝

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(あらすじ)

ゲーム『艦隊これくしょん』で遊んでいた青年・近衛碧輝(このえ·あおき)。

ある日、突然、碧輝の部屋に艦娘・摩耶が現れた!

そのとき、摩耶を追ってきた深海棲艦も、ゲーム世界から現代日本のどこかに“流出”してしまう。

その夜、山奥のダム湖へ向かった碧輝と摩耶。

摩耶が湖上で射撃練習をしていると、湖畔で待っていた碧輝は、深海棲艦である軽巡ホ級に襲われてしまう。間一髪で、摩耶に助けられた碧輝。さらに、碧輝は軽巡ツ級の奇襲を受けそうになったが、摩耶が機転を利かせて阻止する。そのときに、摩耶が碧輝にキスをしたことを巡って2人は口論する。やがて、激怒した摩耶は、碧輝を殴って行方をくらませてしまったのだった······。



第25話 ダム湖に消えた摩耶さま

摩耶がダム湖の闇へと消え去ったあと、碧輝は、しばらく車内で呆然としていた。摩耶に殴られた左頬には鈍い痛みが残っている。

 

女の気持ち······。確かに、摩耶、そんなことを言ったよな。

 

碧輝は、摩耶に左頬を殴られた場面を頭の中で何度も繰り返して、彼女の言葉を思い返した。

 

「俺、摩耶を傷つけちゃったのかな······」

 

碧輝は罪悪感を覚えて、深いため息をついた。

 

「とにかく、摩耶を探さないと!」

 

碧輝はヘッドライトをハイビームにすると、クルマを発進させた。

 

碧輝が運転する黒いプリウスは、街灯さえ無いダム湖沿いの山道をゆっくりと進んだ。ヘッドライトに照らされた白いガードレール、枝が好き勝手に伸びた不気味な樹木、墨のような湖面。そんな心霊スポットの景色を見ていた碧輝は、幽霊が出やしないか、と恐怖心でいっぱいになった。

 

「まったく、こんな心霊スポットで、俺さまをひとりにするなんて······」

 

おどおどと運転しながら呟いた碧輝は、ふと思うことがあって言葉を切った。

 

「俺さま?」

 

碧輝は、再び、そう呟くと苦笑いを浮かべた。

 

自分を「さま」付けするなんて。摩耶の口癖がうつっちゃったのかな······。

 

そのとき、碧輝は摩耶とのキスの場面を思い出した。摩耶の唇の温かさ、柔らかい感触が脳裏に心地よく甦る。その瞬間、心霊スポットでの恐怖心を忘れていた。

 

「摩耶······」

 

碧輝は、摩耶のことが心配になって彼女の名前を呟いた。

 

もしかしたら、このダム湖には、他にも深海棲艦がいるかもしれない。もし、摩耶が深海棲艦に襲われていたら······!

 

碧輝はアクセルを強く踏んで加速した。ダム湖を囲むように延びる山道を鮮やかなハンドルさばきで走り抜けていく。

 

5分ほどクルマを走らせると、ダム湖をひと回りしたらしい。自販機がある駐車場に戻ってきた。しかし、駐車場の様子がおかしい。自販機から白い煙があがり、そのすぐ傍には黒い影が見える。

 

碧輝は、駐車場にクルマを停車させると、恐る恐る自販機の傍で突っ立っている黒い影を見つめた。碧輝は、不安と恐怖で生唾を呑み込んだ。そのとき、黒い影がこちらに向かって動き始めた。

 

「うわあ!」

 

碧輝は、あまりの恐怖心から叫び声をあげると、クルマをバックで発進させた。黒い影がさらに近づいてくる。駐車場のガードレールに衝突寸前までクルマをバックさせると、次は前進させようと、正面のフロントガラスに顔を向けた。

 

そのときだった。黒い影が、碧輝が乗る黒いプリウスの正面に立ちはだかった。

 

「おい! 碧輝! あたしだよ!」

 

それは、摩耶だった。黒い影の正体が摩耶だと気づいた碧輝は、安堵のため息をついた。運転席側に近づいてくる摩耶を見ながら、碧輝は運転席の窓ガラスを開けた。

 

「なんだ、摩耶かよ。驚かすなよ······」

 

碧輝は、そう言いながら、摩耶が何かを抱えていることに気がついた。

 

「ほらよ」

 

突然、摩耶は自分が抱えているものの1つを碧輝に手渡した。それは、よく冷えた缶コーヒーだった。碧輝は、手にしている缶コーヒーを見つめた。そして、摩耶が大量に抱えているものに視線を移す。碧輝は驚くと、彼女の顔を見つめた。

 

「摩耶、そんなにたくさんの缶コーヒー、どうしたんだよ?」

 

「ああ、これな。あそこに飲み物が入った箱があったんだけどさ、どうやって開けりゃいいか分かんなくて、軽く砲撃してやったんだ。そうしたら、たくさんの飲み物を隠してやがったのさ!」

 

摩耶は意気揚々と答えた。碧輝が、摩耶が指差す方向を見ると、大破した自販機が微かな煙をあげている。そして、その周辺には大量の缶が散乱していた。

 

「あーあ、やっちゃった······」

 

呆れた碧輝ではあったけれど、摩耶らしい、と思い、微笑んだ。碧輝は笑みを浮かべながら摩耶を見つめた。

 

「摩耶、乗れよ。帰るぞ」

 

「お、おう。そうだな、帰るか!」

 

摩耶は碧輝の顔色を窺いながらも、明るい笑顔で応じた。

 

摩耶は大量の缶コーヒーを抱えたまま、助手席に座り込んだ。

 

「なんでまた、ブラックコーヒーばっかりなんだよ?」

 

運転席の碧輝は呆れながら助手席の摩耶に尋ねた。

 

「ああ? だってさ、碧輝の部屋に珈琲の缶ばかり置いてあったじゃねーかよ。好きなんだろ、珈琲」

 

摩耶の返答を耳にした碧輝は、思わず彼女の顔を見つめた。摩耶は満面の笑みで碧輝を見つめている。

 

摩耶、俺がコーヒー好きだと知って、こんなにたくさん取ってきたのか······。

 

碧輝は、摩耶の気持ちを知って嬉しくなった。

 

「なあ、碧輝。さっきは、いきなりキスして悪かったな。もう、あたしからはキスしないからさ、だから、勘弁してくれな」

 

摩耶は、碧輝を伏し目がちに見ながら謝った。そんな摩耶からの謝罪を受けた碧輝は、複雑な気持ちになった。

 

もう、キスしてくれないの······か。

 

「碧輝、どうかしたのか? ボーッとしちまってさ」

 

摩耶の言葉に、碧輝は我に返った。

 

「あ、いや、なんでもない。じゃあ、帰るか」

 

碧輝は、クルマを発進させた。その直後、2人が乗る黒いプリウスは、大破している自販機の近くを通り過ぎた。

 

「摩耶、もう2度と自販機を壊すなよ。これは犯罪だからな」

 

碧輝は、壊れた自販機を横目で見ながら、摩耶をたしなめた。

 

「やっぱり、そうなんだなー! ああ、次は気をつけるぜ!」

 

助手席で明るく答える摩耶。そんな摩耶を横目で見ながら微笑む碧輝。2人が乗る黒いプリウスは、ダム湖を離れて、眼下に見える夜景へと下っていくのだった。

 

 

 

(つづく)

 




お読みいただき、ありがとうございました!
1日1話のペースで投稿していくよう心がけています。
(*´-`)
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