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(あらすじ)
ゲーム『艦隊これくしょん』で遊んでいた青年・近衛碧輝(このえ·あおき)。
ある日、突然、碧輝の部屋に艦娘・摩耶が現れた!
そのとき、摩耶を追ってきた深海棲艦も、ゲーム世界から現代日本のどこかに“流出”してしまう。
その夜、山奥のダム湖へ向かった碧輝と摩耶。そこで、初めて深海棲艦の軽巡2体と遭遇したが、摩耶によって撃破された。
やがて、碧輝の部屋に戻ると、摩耶はすぐに眠ってしまう。碧輝も眠りについた頃、突然、摩耶が飛び起きて「鳥海」の名前を口にしたのだった······。
「鳥海だって? どうして、鳥海が助けを求めてる、って分かるんだ?」
心当たりがある碧輝は、微かな期待を抱きながら摩耶に尋ねた。
「そんなこと、どうでもいい!」
摩耶はイライラした様子で言い放つと、玄関のドアを勢いよく開けて通路に飛び出していった。
「摩耶! 待てよ!」
碧輝は靴を履いて摩耶を追いかけようとしたが、エアガンを取りに戻ってから、通路に飛び出した。そのときには、摩耶の姿はすでになかった。
碧輝は早歩きでエレベーターへ向かった。エレベーターのカゴは1階に向けて降下中だった。
「明日の朝はバイトへ行かなきゃいけないのに、まったく、摩耶ときたら·····」
その後、ようやくエレベーターで1階まで降りた碧輝だったが、エントランスや駐車場に摩耶の姿はなかった。
「摩耶、どこへ行っちゃったんだ」
碧輝は、深夜の人気(ひとけ)が無い駐車場で、ひとり途方に暮れた。
「鳥海が、あたしに助けを求めてるんだ!」
先ほどの玄関で、アンテナ型のカチューシャを装着した摩耶が叫んだ言葉を思い返した。そのとき、碧輝の脳裏に閃くものがあった。
「そうか! そういうことか!」
碧輝は駆け出した。愛車である黒いプリウスまでやって来ると、素早くドアを開けて運転席に座り込んだ。
「鳥海が、こっちの世界に現れていたんだ!」
碧輝はクルマを発進させながら嬉しげに声をあげた。しかし、すぐに碧輝の笑みが消えた。
でも、どうして鳥海が摩耶に助けを求めているんだ? まさか、深海棲艦に襲われたのか?
碧輝は、鳥海の身を案じて不安になった。自然とアクセルを踏み込む力が強くなる。
いま碧輝がクルマを走らせている一帯は、マンションやアパートが立ち並ぶ住宅街だった。治安は、悪くはない。
もし本当に鳥海が、こちらの世界に現れているのなら、戸惑っているに違いない。
「いったい、鳥海は、どこにいるんだ······」
碧輝は、人影を見つけると、減速しながらヘッドライトの灯りで艦娘でないかを確認した。しかし、こんな深夜に歩いている人といえば、飲み屋帰りのサラリーマンか、深夜のウォーキングをしている人くらいだった。
「鳥海のことが心配だけど、摩耶のことも、もっと心配だ······」
運転しながら碧輝は呟いた。
15分ほど、近所をくまなく探したけれど、鳥海や摩耶を見つけることができなかった。碧輝は、クルマを路肩に停車させると、大きなあくびをした。
「眠くなってきた······。コーヒーでも買ってこよう」
碧輝は、近所のコンビニへ向かった。
コンビニで冷たい缶コーヒーを買った碧輝は、駐車場で満月を見上げた。そして、前髪をかきあげると、疲労のため息をついた。
「いったん帰るか。もしかしたら、摩耶が鳥海を見つけて連れ帰っているかもしれないし」
すぐに黒いプリウスに乗り込むと、ゆっくり発進させる。カーナビの時間を見ると、午前2時を過ぎていた。
「もう、こんな時間かよ」
碧輝は、運転しながらあくびをした。
数分、クルマを走らせると、十字路のあたりでヘッドライトに照らされた何かが視界に入ってきた。
碧輝は、すぐに減速すると、その何かを注意深く見つめた。
それは人だった。中年らしき男が路上に倒れていた。
碧輝は、クルマのハザードランプを点滅させながら路肩に停車させると、倒れている中年の男に駆け寄った。中年の男は半袖、短パン姿だ。
「大丈夫ですか?」
碧輝が身を屈めて中年の男の身体を揺さぶる。反応は無い。すると、しくしくと、女の子がすすり泣く声が聞こえてきた。碧輝が泣き声がする方に顔を向けると、数メートル先の闇の中で、うずくまる人影が見えた。すぐに立ち上がって、女の子らしき人影に近づいた。
「どうかしたんですか?」
碧輝が、女の子らしき人影に声をかけると、人影がこちらに顔を向けた。それは、碧輝より幾らか年下の、20歳くらいの女の子だった。しかも、ノースリーブの服にミニスカ姿だ。長い髪には、摩耶と同じアンテナ型のカチューシャを装着している。
「あ! 君は、もしかして、鳥海か?」
碧輝が驚いて声をあげると、その女の子も驚いてすすり泣くのをやめた。
「······え? どうして、私の名前をご存知なんですか?」
鳥海が鼻をすすりながら小さな声で答えると、碧輝は満面の笑みを浮かべた。
「摩耶と一緒に君のことを探していたんだ」
「え! 摩耶と?」
鳥海は立ち上がると、手の甲で涙を拭ってから銀色のフレームが付いた眼鏡をかけた。そして、辺りを見渡した。
「摩耶は、どこにいるんですか?」
「分からない。鳥海を探しに行ったきり、どこへ行ったのか分からないんだ。それより、どうしてこんなところで泣いていたの?」
碧輝は、倒れている中年の男を一瞥しながら鳥海に尋ねた。
「私、人を殺めてしまったんです」
鳥海は、そう答えると、眼鏡を外して指先で涙を拭ったのだった。
(つづく)