摩耶さまが行く!   作:皇南輝

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(あらすじ)

ゲーム『艦隊これくしょん』で遊んでいた青年・近衛碧輝(このえ·あおき)。

ある日、突然、碧輝の部屋に艦娘・摩耶が現れた!

そのとき、摩耶を追ってきた深海棲艦も、ゲーム世界から現代日本のどこかに“流出”してしまう。

その夜、山奥のダム湖へ向かった碧輝と摩耶。そこで、初めて深海棲艦の軽巡2体と遭遇したが、摩耶によって撃破された。

深夜、碧輝の部屋で寝ていた摩耶が、突然、「鳥海」の名前を口にして外へ飛び出してしまった。碧輝は摩耶を追ったが見失ってしまう。碧輝はクルマに乗って摩耶と鳥海を探し始める。

やがて、碧輝は、倒れている男の近くで鳥海を見つける。碧輝が鳥海に声をかけると、彼女は「男を殺してしまった」と泣き続けるのだった······。



第28話 軽装重巡艦娘・鳥海

鳥海からの思わぬ言葉に、碧輝は「え!」と声を出して驚いた。

 

「まさか、そこで倒れている人を鳥海が殺してしまったの?」

 

「はい」

 

鳥海は、うつむいて鼻をすすりながら小さく答えた。碧輝は、路上で倒れている中年の男を、信じられない、という思いで見つめた。

 

鳥海の性格は、ゲームの中でのセリフを聞く限り、礼儀正しくて、おとなしい、真面目なキャラのはず! そんな鳥海が、殺人だなんてありえない!

 

碧輝は鳥海に顔を戻した。

 

「鳥海、何があったのか説明してくれるかい?」

 

「はい」

 

鳥海は小さな声で返事をすると、殺人に至った経緯を説明した。

 

鳥海は“解体”されたあと“舞台”から降りてトンネルを歩いていたら、いつの間にか、知らない街に入り込んでしまった、という。それで深夜の街を歩いていたところ、おじさんに声をかけられ、胸を触られたので、思わず連装砲で殴ってしまった。そうしたら、おじさんは動かなくなった、ということだった。

 

鳥海からの説明を聞き終えた碧輝は、路上に倒れている中年の男を呆れながら見つめた。

 

「何だよ。コイツ、痴漢かよ」

 

碧輝は、中年の男に近づくと、再び屈んで身体を揺さぶった。

 

「おい、おっさん、起きろよ!」

 

碧輝が中年の男の左手首から脈を取ると、ピクンピクンと問題なく動いている。

 

「おっさん、生きてるんだろ? 起きないと警察を呼ぶぞ?」

 

碧輝が中年の男の耳元で声を張ると、突然、目を見開いて頭を上げた。

 

「おっさん、そこにいる女の子に痴漢したそうだな。早くここを立ち去らないと警察を呼ぶよ?」

 

碧輝がニヤリとした笑みを浮かべた。すると、中年の男の顔が引きつった。

 

「死んだフリして、女の子が近づいたら抱きつくつもりだったんだろ!」

 

碧輝が問い詰めると、中年の男の顔がさらに強ばった。

 

「ゆ、許してくれ。でも、あの子に殴られて気を失っていたのは本当なんだ」

 

中年の男が早口で答えると、碧輝は自分のスマホをポケットから取り出した。

 

「今夜起きたことは忘れるんだ。もし、今夜のことを誰かに話したら、警察に被害届を出すからな」

 

「分かった。言う通りにする! ところで君は、あの子とどういう関係なんだ?」

 

「俺か? あの子の······カレシだ」

 

碧輝は嘘をついた。とにかく、ゲーム世界から現れた鳥海に殴られた中年の男には、早くこの場から去ってもらいたかった。

 

中年の男は、ゆっくりと立ち上がった。中年の男の頭や顔に傷がないことが分かったので、碧輝は安心した。

 

鳥海に殴られて本当に死なれては、非常にややこしいことになるからだった。

 

中年の男は、碧輝と鳥海に深々と頭を下げると、逃げるように去っていった。

 

「あの方、死なれてはいなかったのですね。安心いたしました」

 

鳥海が碧輝に近づきながら礼を述べた。そのとき、ヘッドライトに照らされた鳥海の全身をはっきりと見ることができた。

 

鳥海は、摩耶と同じようなセーラー服を模したノースリーブのジャケットに身を包み、スリットが入った白いミニスカートを履いている。摩耶と同じアンテナ型のカチューシャを装着し、首からはペンダントをぶら下げている。よく見ると、そのペンダントの先には、22号対水上電探のような、小さな双眼鏡に似たものが付いていた。

 

碧輝は、そんな鳥海の武装に違和感を覚えた。

 

2連装砲などを幾つか装備した『鳥海改二』の状態で“解体”したわりには、かなり軽武装だな。2連装砲が1基しか装備されていないし、対空機銃や高角砲が見当たらない。

 

碧輝が鳥海の艤装品を観察していると、彼女は照れたような笑みを浮かべた。

 

「そんなに見つめられると、私、恥ずかしいです」

 

鳥海の声に気がついた碧輝は我に返った。

 

「あ、ごめん。鳥海、ひとつ聞いていい?」

 

「はい、何でしょう」

 

「解体されるまで装備していた武器は、どうしたの?」

 

「艦娘が解体されるときは武装解除されるよう司令官さんがお決めになっていますが、この2連装砲だけ特別に頂いてまいりました」

 

碧輝は鳥海の返答を耳にしながら、さすが摩耶の話し方と違って品がある、と感じた。

 

「そっか、分かったよ。突然、解体しちゃって、ごめんね」

 

碧輝が申し訳なさそうに謝ると、鳥海は何かに気づいたように驚いた表情を見せた。

 

「は! もしかして、あなたが司令官さんでございますか?」

 

「そ、そうです。近衛碧輝と言います」

 

碧輝は照れ笑いを浮かべながら、鳥海に敬礼して見せた。すると、鳥海の表情がぱっと明るくなった。

 

「あなたが司令官さんなんですね! お会いできて光栄でございます!」

 

「こちらこそ、会えて嬉しいよ」

 

碧輝は笑顔で鳥海に挨拶をしたものの、内心では焦っていた。夜が明けたらバイトに行かなければいけない。それまでに、摩耶を見つけ出して連れて帰らないといけない。

 

「鳥海、さっそくだけど、摩耶を探さないといけないんだ。今からクルマに乗ってもらってもいい?」

 

「はい、かしこまりました!」

 

碧輝と鳥海は路肩に停車中の黒いプリウスに向かった。碧輝が運転席に座ると、鳥海は物珍しそうに黒いプリウスを見ながら、ゆっくりと助手席に座った。

 

碧輝は、鳥海が助手席に座ると、彼女にシートベルトを着けてあげた。そのとき、ちらりと鳥海の胸を見た。

 

姉妹だけあって、2人とも胸が大きいな。

 

碧輝が素直にそう思ったとき、鳥海からの視線を感じて彼女の顔に視線を移した。すると、鳥海が恥ずかしそうな笑みを浮かべながら、碧輝の顔を熱い眼差しで見つめていたのだった。

 

 

 

(つづく)

 

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