ズドーン!
突然の轟音と衝撃の反動で、碧輝は仰向けにひっくり返った。フローリングの上で大の字になって倒れる碧輝。先ほどまで手にしていた白いバスタオルは、その意図通りに碧輝の股間を隠し続けている。
突然の轟音に驚いて仰向けに倒れてしまった碧輝は、呆然と白い天井を見つめた。微かに白煙が視界に漂い、硝煙の香りが鼻を撫でた。鼓膜がキーンと鳴っている。碧輝は瞬きを数回繰り返した。
「な? 本物だろ!」
自らを摩耶だと名乗る女性が、フローリングの碧輝を見下ろしながら得意げに言った。その表情には微かな笑みが浮かんでいる。
一方の碧輝は、何が起きたのか分からない様子でしばらく天井を見つめていたが、やがて我に返ると、股間のバスタオルを両手で掴んだ。そして、そのままゆっくりと立ち上がった。
「どうだ、思い知ったか?」
両目を見開いたまま立ち上がった碧輝を見据えた摩耶は、右腕に装着された20.3センチ連装砲を掲げて見せた。碧輝は無言のまま摩耶の連装砲に視線を向けると、すぐに何かに気づいたかのように左後方を振り返った。
「あー! やってくれたな!」
碧輝は驚きの声をあげた。碧輝が振り返った視線の先には、2つのボール大の穴がぽっかりとあいた蜘蛛の巣のような窓ガラスがあった。
「お前、何してくれるんだよ! 窓ガラスが割れてるじゃねーか!」
碧輝は白いバスタオルで股間を隠しながら叫んだ。そんな碧輝の反応を見て取った摩耶は、おかしそうに高らかな笑い声をあげた。
「あっはっは! こりゃ、愉快だなー」
「愉快じゃねーだろ! この部屋は賃貸なんだぞ! 窓ガラスを割ったら弁償しなきゃいけないじゃないか!」
「ちんたい? ま、そんなことより、これであたしが艦娘だってことがよく分かっただろ?」
摩耶は両手を腰にあてながら、自分より10センチほど背が高い碧輝を見あげた。碧輝は怒りを抑えるかのように息を深く吸い込んだ。
「艦娘······」
碧輝は忌々しそうな視線を摩耶に送りながら呟いた。
「そうさ、あたしたち艦娘はな、深海棲艦と戦う戦士なんだぜ。どうだ、分かってくれたか?」
屈託の無い笑顔を自分に向けてくる摩耶を見て、碧輝の怒りは、いくらか和らいだ。碧輝は、まだうっすらと白煙を吐き出している連装砲の砲口を見つめた。
よく分からないけど、どうやら目の前にいる摩耶はコスプレイヤーじゃなく本物らしい。
碧輝は怪訝そうな表情で摩耶の顔を見つめた。
「わ、分かった。お前が艦娘の摩耶だとしよう。その摩耶が、こちらの世界に何をしに来たんだ?」
すると、摩耶の表情から笑みが消えた。
「そうだそうだ、思い出した。提督、お前さ、この摩耶さまを解体しただろ。今までさんざんこき使っておいて用無しになったら解体だなんて、まったく酷い話だよなー!」
摩耶が碧輝を睨みつけながら顔を近づけた。事実を指摘された碧輝は動揺して摩耶から視線を逸らした。
「だからな、この摩耶さまを使い捨てにするような提督をぶっころしてやる! と思ったら、いつのまにか、こんな湿気た部屋にたどり着いたってわけさ」
摩耶からの返答を耳にした碧輝は、彼女を不思議そうに見つめた。
「確かにゲームで摩耶を解体した。でも、解体したら、ふつう消えるだろ? それなのに、どうして俺の目の前に現れるんだ?」
碧輝の言葉に対して、摩耶は親指を自分の顎に当てながら考え始めた。
「それが不思議なんだよなー。ま、でも、退屈な世界から抜け出せたわけだし、これで、いっか!」
摩耶はそう答えると、再び碧輝に屈託の無い笑顔を向けたのだった。
(つづく)