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(あらすじ)
ゲーム『艦隊これくしょん』で遊んでいた青年・近衛碧輝(このえ·あおき)。
ある日、突然、碧輝の部屋に艦娘・摩耶が現れた!翌日には、鳥海も現れる。同時に、摩耶を追ってきた深海棲艦も、ゲーム世界から現代日本に“流出”してきた。
碧輝、摩耶、鳥海の3人は、深海棲艦が現れた深夜のダム湖を偵察。そこで、3人は数体の深海棲艦と遭遇、交戦する。
ケガを負いながらも無事に帰宅した3人。帰宅後、『艦これ』にログインして新たな仲間を探す碧輝。しかし、深海棲艦と戦うためには莫大な資金や物資、施設が必要だと気づいて意気消沈してしまう。
そんなとき、ゲームを通して手紙が届く。碧輝たちは、手紙によって指定された場所・艦首島へ向かうことに決めたのだった······。
翌日の正午近く。碧輝、摩耶、鳥海の3人は、艦首島の廃工場に到着した。
市内を流れる大河に中洲があり、その中洲の南端の形状が軍艦の舳先(へさき)に似ていることから『艦首島』と呼ばれている。
艦首島には軍事関連の工場が集中していたが、数十年前に突如として閉鎖されて立入禁止になった。
その頃から、艦首島は極めて危険な心霊スポット、と噂されるようになり、誰も近づかなくなっていたのだった。
碧輝たち3人は、黒いプリウスから降りると、周辺を見渡した。
広大な廃工場群を有刺鉄線付きのフェンスが囲んでいる。廃工場群のゲートには古びた小さな守衛室があるが、当然、守衛はいない。入口である両開きの金属製扉には、幾つもの南京錠がぶら下がっている。さらに、ゲートの横には監視カメラ付きの電柱が立っている。
「廃工場にしては、ずいぶんと警備が厳重だな」
碧輝は、エアガンのベレッタを手にしながら呟いた。
戦闘用の艤装に身を包んだ摩耶と鳥海も、2連装砲を構えながら周囲を警戒をしている。
「万が一、これが深海棲艦の罠だったら、すぐにクルマで逃げるぞ」
「まあ、逃げるしかないよなー。弾薬も少ないし、鳥海は眼鏡がないから砲撃させるわけにもいかないしな」
碧輝の言葉に、摩耶は同意した。
「司令官さん、正午になりました」
鳥海が、碧輝から借りている腕時計を鼻先まで近付けて見ながら報告した。
3人は周辺を見渡した。何も変化はない。ただ、夏の青空の下で沈黙した廃工場群が広がっているだけだ。
約束の正午から10分が過ぎた。誰も現れる気配もない。
「誰も来ないじゃねーか。騙されたんじゃねーのか?」
摩耶が警戒を解いて真っ青な空を見上げた。
「そうだよな。そもそも、ゲーム世界の管理人が、リアルに現れるはずなんて······」
「司令官さん、何かが接近してきます!」
突然、碧輝の言葉を鳥海がさえぎった。鳥海は目を閉じて、水上電探のペンダントを握りしめている。
「廃工場とは反対方向、私たちがやって来た方向に、非常に小さな反応があります」
鳥海からの報告を受けた碧輝と摩耶は、廃工場群とは反対の方角に顔を向けた。碧輝はベレッタを、摩耶は2連装砲や高角砲を人気(ひとけ)がない道路に向けている。
「弾薬が少ないんだ。深海棲艦なんて現れてくれるなよ」
摩耶が呟いた。そのとき、艦首島の北辺に向かって延びる道路の彼方から何かが近づいてきた。
「何か来る!」
何かの接近に気がついた摩耶が叫んだ。碧輝と鳥海も直線道路の彼方に視線を向けた。
「え? 何だ、あれ······」
「ん? 誰かが何かに乗ってるぜ?」
「あれは何でしょう? 初めて見る乗り物ですね」
碧輝、摩耶、鳥海が呟いた。
「どうやら、お婆さんが変な乗り物でこっちに向かってくるようだな」
摩耶は呟きながら2連装砲を構えるのをやめると、その砲口を地面に向けた。
「あの婆さん、凄いな。キックボードに乗ってるよ」
碧輝は笑みを浮かべながら、ベレッタをジーンズの腰にはさんだ。
黄色のキックボードに乗ったお婆さんが、地面を蹴りながら3人に近づいてきた。
「遅くなってごめんなさーい!」
甲高いお婆さんの声が3人の耳に届く。やがて、キックボードに乗ったお婆さんは、3人が立っている場所を突き抜けると、ゲートに激突して止まった。その衝撃で、お婆さんは地面に転がった。
「だ、大丈夫ですか!」
地面に横たわるお婆さんに駆け寄る碧輝。すると、お婆さんは横たわったまま、碧輝に笑顔を向けた。
「あなたが司令官ですね?」
「はい。近衛碧輝と言います」
摩耶と鳥海が駆け寄ってくると、3人でお婆さんを支え起こした。
お婆さんは、深紅の長袖のチャイナ服を着ている。その顔は、皺こそ刻まれてはいるが、若い頃は美女だったと誰もが予想できるくらい顔立ちが整っている。そして、大きな瞳だけは年齢を感じさせない程の輝きを備えていた。
「初めまして、司令官! 私の名前は、李紅陽でぇす!」
李紅陽は自己紹介をした。その声は年齢の割には高い声で、明るく、特徴的だった。碧輝は、李紅陽の声を、どこかで聞いたことがあるような錯覚を覚えた。
「初めまして、李さん。中国の方なのに日本語が上手なんですね」
「うーん。中国といっても、今は台湾に住んでいます!」
李紅陽は碧輝に答えると、明るい笑顔を摩耶や鳥海にも向けた。
「摩耶さんに、鳥海さん、お久しぶりの初めましてですね!」
摩耶と鳥海は、李紅陽の挨拶の意味が分からず、顔を見合わせた。
「んと、挨拶がよく分からないけど、あたしは摩耶だ」
「鳥海です。お名前だけはお聞きしていましたが、会えて光栄でございます」
摩耶と鳥海は、李紅陽に挨拶をした。李紅陽は、2人の顔を笑顔で見つめたあと、碧輝に顔を向けた。
「初めてキックボードに乗ってみたら、なかなか慣れなくて、時間がかかってしまいましたね!」
「は、はあ······」
「じゃあ、本題に入りますね!」
李紅陽は明るい声をあげると、その大きな瞳で碧輝を見つめたのだった。
(つづく)