摩耶さまが行く!   作:皇南輝

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(あらすじ)

ゲーム『艦隊これくしょん』で遊んでいた青年・近衛碧輝(このえ·あおき)。

ある日、突然、碧輝の部屋に艦娘・摩耶が現れた!翌日には、鳥海も現れる。同時に、深海棲艦もゲーム世界から現代日本に“流出”してきた。

碧輝、摩耶、鳥海の3人は、深夜のダム湖で深海棲艦と交戦。傷を負った3人は撤退した。

その後、帰宅した碧輝は『艦これ』にログイン。すると、ゲームを通して手紙が届いた。碧輝たちは、手紙によって指定された場所である艦首島の廃工場群へ向かうと、李紅陽と名乗る老婆が現れた。

李紅陽は碧輝たち3人を廃工場群内へ案内する。すると、そこには真新しい司令部や工廠、宿舎などが存在していたのだった······。



第41話 鎮守府

「司令官、以上で私からの鎮守府の案内は終了です! ちなみに、必要な物資は、毎月1度だけ潜水艦で鎮守府に届けますので大切に使ってくださいね!」

 

「せ、潜水艦だって?」

 

李紅陽の説明に、碧輝は驚きの声をあげた。

 

「潜水艦って、艦娘じゃなくて本物の潜水艦?」

 

「そうなのです! 大日本帝国海軍の伊号潜水艦です! この鎮守府に秘密の潜水艦ドックを地下に建造したのです!」

 

「そんな大げさな······。物資の補給なら、トラックで良かったんじゃない?」

 

「トラックだと鎮守府の場所がバレてしまいます!」

 

「それもそうだけど、川を潜水艦で移動するほうが、散歩中の爺さんにさえ見つかると思うけど······」

 

「大丈夫なのです! この川は深水が25メートルあるので、潜航すれば、まず見つかりません!」

 

「でも、だからといって潜水艦に運ばせるなんて······。ちなみに、潜水艦用の地下ドックはどこにあるの?」

 

「司令部の地下にありますよ」

 

「うーん」

 

突然、碧輝はうつむいて唸った。摩耶が碧輝の肩に手を置いた。

 

「碧輝、気分でも悪いのか?」

 

碧輝は顔を上げると、摩耶を見つめた。

 

「摩耶、俺の頬をつねってくれないか?」

 

「つねる? まあ、いいけど」

 

摩耶は、碧輝の頬を思いっきりつねり回した。

 

「痛いじゃないか! 少しは手加減しろよ!」

 

「碧輝が、つねろ、と言ったからじゃねえか。おかしな奴だな」

 

「でも、これは夢じゃなく現実だ、と分かったよ」

 

碧輝は、赤くなった頬をさすりながら言った。そんな碧輝と摩耶を見ていた李紅陽がクスクスと笑った。

 

「そうだ、李紅陽さんに聞いておきたいことが······」

 

「何でしょう? 司令官」

 

「もしも、雪風をゲームの世界から召喚したらどうなるの?」

 

「なんにも問題ありませんよ」

 

「でも、雪風は過去の自分でしょ?」

 

「うーん。自分であって自分じゃないですね!」

 

「意味が分からない」

 

「そこらへんは、気にすることはありませんよ」

 

李紅陽は笑みを浮かべたまま答えた。

 

「ただ、雪風を大切にしてあげてほしいです!」

 

李紅陽は、碧輝に向かって頭を下げた。そんな李紅陽に対して碧輝、摩耶、鳥海も、李紅陽につられるようにして頭を下げたのだった。

 

 

その後、李紅陽は黄色のキックボードに乗って艦首島の鎮守府から去っていった。

 

李紅陽は、去り際、碧輝だけにこんな言葉を残していった。

 

「司令官、艦娘の死は、本当の消滅です。それだけは肝に銘じてくださいね!」

 

李紅陽からのそんな重みのある言葉を思いだした碧輝は、鳥海と笑いあっている摩耶を遠くから見つめた。

 

「絶対に死なせやしない! 摩耶だけでなく、艦娘の誰ひとりも!」

 

碧輝は、心に誓った。

 

 

その後、碧輝たち3人は真新しい司令部へ入った。

 

司令部の表玄関は両開きのガラスドアになっていた。まるで分譲マンションのようなエントランスを抜けると、正面には高級木材でつくられた艶のある大きな扉があった。

 

「ここが提督の執務室かな?」

 

碧輝は、扉を開けた。次の瞬間、碧輝は愕然とした。

 

「な、なにこれ? ここ、提督の執務室だよね······」

 

碧輝や摩耶、鳥海が見つめる提督の執務室内部は、立派な造りで広々としているものの、ただ、それだけだった。備品が全くない。執務に必要な机さえなかった。ただ、紫色の座布団が1枚だけ執務室の中央に置かれているだけだった。

 

碧輝たちは執務室に入ると、部屋の中央まで移動した。ふと、夏の光が差し込む窓に目をやった。カーテンさえ取り付けられていない殺風景な窓だった。

 

「備品だけは自分で調達しろ、ということか。まるでゲームと同じだな」

 

碧輝が微かな笑みを浮かべながら言うと、摩耶が碧輝の肩に触れた。

 

「まあ、いいじゃないか! 早く、工廠や宿舎も見に行こうぜ!」

 

碧輝は摩耶に促されるように、何もない執務室を後にした。

 

 

その後、碧輝たち3人は工廠や宿舎をゆっくりと見て回った。どの施設も、鎮守府にふさわしい機能を備えていた。

 

 

夕方、碧輝たち3人は司令部の屋上に立っていた。西の山々に沈みつつある太陽が、夏の空にオレンジの色彩を放っている。碧輝は、そんな夕焼けをじっと見つめた。

 

まるで夢のような展開のおかげで、俺は鎮守府の司令官になった。ここから、新たな戦いが始まるんだな······。

 

碧輝の心は希望に溢れていたけれど、不安も大きかった。これは、ゲームじゃなく、本物の“戦争”になるのだから。

 

夕焼けを見つめる碧輝の両側に、摩耶と鳥海が立った。彼女たちも夕焼けを黙って見つめている。

 

「摩耶、鳥海、頑張ろうな」

 

碧輝は夕焼けを見つめたまま、落ちついた口調で言った。

 

「ああ。碧輝、あたしは、お前についていくぜ」

 

「はい、司令官さん。私も全力でお支えします!」

 

摩耶と鳥海が、夕焼けを見つめながら答えた。

 

「ところで、碧輝。せっかく新しい鎮守府ができたんだから、名前をつけたらどうだ?」

 

「そうですね! 摩耶の言う通り、鎮守府には名前が必要だと思います」

 

摩耶の提案に鳥海が笑顔で賛成した。

 

「鎮守府の名前か······」

 

碧輝はそう答えながら、摩耶と鳥海を交互に見つめた。彼女たちの笑顔が夕陽に染まっている。

 

「明日までに考えておくよ。それより、今日は3人で新しい鎮守府の門出を祝うことにしよう!」

 

「そうだな! じゃあ、今夜は美味しいものをたくさん食べようぜ!」

 

碧輝の言葉に摩耶が真っ先に反応した。

 

「もう、摩耶ったら······」

 

鳥海は、摩耶と碧輝を交互に見ながら満面の笑みを浮かべた。

 

碧輝は、夜の帳が下りつつある東の空を見つめながら、覚悟を決めたように大きく頷いたのだった。

 

 

 

(第1章・おわり)

 




第1章 『摩耶さまが行く』は終了です。ここまで、毎回、お読みいただき、ありがとうございました!

引き続き、第2章に入ります。
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