碧輝は丁寧に折りたたんである上下のカラフルな制服を、手元に用意した黒いリュックに押し込んだ。その様子を黙って見つめていた摩耶が口を開いた。
「派手な服を持っていくんだな」
碧輝は、摩耶の好奇心に満ちた言葉に反応することなく、左手首に腕時計をはめた。すぐに、腕時計のデジタル数字を確認した。
「今から出れば、バイトに間に合うな······」
碧輝は、そう呟くと、摩耶が装着している連装砲に視線を向けた。
「摩耶、せめて連装砲くらい外して、ここに置いておきなよ」
「はあ? 連装砲を外して3連装機銃だけで戦えって言うのか?」
「いやいや、連装砲だけじゃなく機銃も外せよ」
碧輝の言葉に、摩耶は呆れたような表情で碧輝を見つめた。
「なあ、提督。いくら摩耶さまが強いと言っても、素手じゃあ、ちょっと厳しいなー」
碧輝は、やれやれ、といった感じで天井を見上げたあと、再び摩耶に顔を向けた。
「あのな、摩耶。これから俺が話すことをよく理解するんだぞ」
摩耶は碧輝を見つめながら少し首を傾げた。
「こっちの日本には、深海棲艦は存在しない。そして、摩耶。お前も本当なら存在していないんだ」
碧輝は摩耶の目を見据えながら、言い聞かせるようにゆっくりと話した。摩耶は黙ったまま碧輝をしばらく見つめていたが、彼の目から視線を逸らした。
「分かったか? 摩耶」
碧輝は摩耶を見据えたまま念を押した。摩耶は碧輝と目を合わさないようにしながら、窓ガラスに映る景色を見つめている。
摩耶の奴、いったい何を考えてるんだ?
碧輝は、本当に面倒な問題を背負い込んだ、と思いながらため息をついた。すると、摩耶が碧輝に顔を向けた。
「分かったよ。連装砲も機銃も外すよ。その代わり······」
「その代わり?」
「何でもいいから武器を貸してくれよ」
「はあ?」
碧輝は呆れて声をあげた。そんな碧輝を摩耶は真顔のまま見つめている。
「提督も武器のひとつくらい持ってんだろー?」
「持ってるわけないだろ!」
「持ってない、だ? それじゃあ、敵とどうやって戦うんだ?」
「摩耶の世界と違って、こっちには敵なんていないんだよ」
「でもさ、もし深海棲艦が······」
摩耶は、そこまで話すと言葉を切った。碧輝は訝しげな表情で摩耶を見つめた。
「深海棲艦が、どうしたんだ?」
碧輝の視線を真正面から受けた摩耶は、目を逸らした。
「な、何でもないさ」
明らかに摩耶は動揺している。碧輝は摩耶の心を見透かそうとするように無言のまま彼女を見つめ続けた。
「とにかく、だ! 何でもいいから武器になるようなものを貸してくれよ!」
突然、摩耶が大きな声をあげた。碧輝は、摩耶を不思議そうに見つめたあと、頭を左右に振った。
「分かったよ。ちょっと待ってろよ」
碧輝は、仕方ない、と言わんばかりの表情をしながらベッドに体を向けた。そして、ベッドの脇から何かを取り出すと、無言のまま摩耶にそれを手渡した。
「おーっ! やっぱり提督も武器を持ってるじゃないかよー! この拳銃なら無いよりマシだなー」
黒光りする拳銃を手に喜びの声をあげる摩耶。そんな摩耶を見ながら、碧輝はニヤリとした。
「摩耶、その拳銃は本物じゃない。玩具だよ」
摩耶の表情から笑みが消えた。
「冗談言うなよ。どう見ても拳銃だろ、これー!」
「それはエアガンと言って、ガスの圧力でプラスチックの弾を発射するんだ」
「えあがん? 聞いたことがない武器だな。だけどさー、提督。武器なら敵を倒せるんだろ?」
摩耶からの問いかけに碧輝は可笑しくなって笑い声をあげた。
「そんな威力はないよ。ちょっと痛いくらいだな」
摩耶は碧輝の説明を耳にしながら、右手で持っている黒光りするエアガンを不思議そうに見つめたのだった。
(つづく)
不定期更新ですが、なるべく間を空けないようにします!今後とも、よろしくお願いします。
(*´-`)