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ゲーム 『艦隊これくしょん』の世界から艦娘・摩耶が、令和の日本で暮らす近衛碧輝(このえあおき)の部屋に現れた!摩耶は装着している連装砲でいきなり砲撃したり、突然、部屋から飛び出したり、と奇怪な行動に碧輝は困惑する。はたして、摩耶は何のために現代日本に現れたのか?
愛車である黒いプリウスでバイトに向かう碧輝。助手席には摩耶が座っている。
ゲームの世界から現れた摩耶は、こちらの世界がよほど珍しいらしく、常に前後左右に顔を向けては嬉しそうにはしゃいでいる。
まるで子どもだな······。
碧輝は助手席の摩耶を一瞥しながら思った。
それにしても、助手席に女の子を乗せるなんて1年ぶりだな。ゲームの世界から現れた摩耶が本当の人間だ、という確証はないけど。
碧輝が運転するクルマはバイパスに入ると、片道2車線の車道を加速していく。
「あははー! もっと走れー! どんどん抜かせー!」
あいかわらず車窓から外を眺めながら独りはしゃぐ摩耶。そのとき、碧輝たちが乗るクルマは、赤信号で停止した。
「碧輝、どうして止まるんだよ?」
信号というものや交通ルールを知らないのか、摩耶が訊ねてきた。
「赤信号だから」
碧輝は赤信号を見つめながら素っ気なく答えた。その直後、一抹の不安を覚えた碧輝は摩耶に顔を向けた。
「摩耶、ゲームの世界では、どんな生活をしていたんだ?」
摩耶は運転席の碧輝をじっと見つめると、首を傾げた。
「あたしたち艦娘には、生活なんてないよ」
摩耶はサラリと答えた。
「生活がないって、どういうこと?」
「あたしたちの世界は舞台みたいなもんなんだ。出番がなくなれば、記憶をリセットされて舞台裏に引っ込むだけさ」
摩耶の返答に碧輝は驚きを隠さなかった。
「それがゲームの世界なのか!」
そのとき、碧輝の脳裏に、轟沈させてしまった愛しの金剛、が現れた。
「じゃあさ、轟沈した艦娘は、どうなっちゃうんだ?」
碧輝からの質問を耳にした摩耶は、無言のまま碧輝の顔に自分の顔を近づけると、じっと見つめた。その無言の圧力に碧輝は動揺した。
「金剛のことだろ?」
碧輝は無言のまま頷いた。
「大丈夫だよ、轟沈した金剛は死んじゃあいない。 ただ、舞台から降りて記憶をリセットされて、後ろへ引っ込むだけさ······」
摩耶は、そこまで説明すると、険しい表情で碧輝の鼻を右手で強くつまんだ。
「解体された艦娘も同じさ!」
摩耶は語気を強めて言い放つと、両腕を組んでフロントガラスからの景色を見つめた。目の前の信号は青になり、前方で停止していたクルマが発進して離れていく。
「解体したはずの摩耶はどうして······」
碧輝がそこまで話したとき、後方からクラクションが聞こえた。信号が青に変わったことに気づいた碧輝は、アクセルを踏んだ。
クルマがバイパスを走る車列の流れに乗ると、碧輝は摩耶を一瞥した。摩耶は黙り込んで不機嫌そうに真正面を見つめている。
摩耶の奴、俺が摩耶を解体したことをまだ根に持っているんだな。でも、どうして俺が解体した摩耶は、記憶をリセットされずにゲームの世界から出てきたんだ?
碧輝は運転しながら同じ疑問を何度も考えた。しかし、いつも通り『艦これ』で遊んでいた碧輝には、摩耶がゲームの世界から現れた原因を見つけることはできなかった。
やがて、2人が乗る黒いプリウスは、商業施設の広々とした駐車場に入った。
「うへえ! 広い場所だな、ここ! もしかしてあの建物は造船所かー?」
もう機嫌が直ったのか、摩耶が好奇心で目を輝かせながら明るい声をあげた。
「違う。ここは······百貨店と言えば分かりやすいかな。要するに、買い物したり食事するところだよ」
碧輝はエンジンスタートボタンを押してエンジンを停止させながら答えた。
「そっかあ! 楽しそうじゃん! 早く行こうぜ!」
嬉しそうな声をあげてクルマを降りようとする摩耶だったが、シートベルトのせいで身動きができなかった。
「おい、碧輝。これ、外してくれよ」
やれやれ、と思いながら碧輝は助手席のシートベルトから摩耶を解放した。今度は、摩耶の胸元を見ないよう心がけた。
その後、2人は商業施設の建物に向かって歩き始めたのだった。
(つづく)