日輪円舞   作:こくとー

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拾参

 四者同時に動き出した戦場。しかし、その狙いがそれぞれに互い違いに、と言う訳では無かった。

 

「ギギ……!」

 

 エニシ、爆弾頭の両者はそれぞれに一目散に、悪魔の下へ。クァンシの矢も同じく、悪魔へと向けられる。

 この場に居る者達の中で、三人には共通する目的がある。

 

 それが、悪魔の討伐(確保)

 

 確かに悪魔以外の相手も厄介だが、そもそもの目標を先に仕留めることが出来たのならば、後は戦う必要もない。

 故に、元凶を潰す。

 当然ながら、悪魔もまた迎撃に動いていた。

 “鉄粉の悪魔”。その操る黒い粒子は、全てが鉄粉である。

 この鉄粉を押し固める事で銃を創り出し、鉄粉の燃えやすい性質と、それから九龍城内部で排出される排泄物、屋上で自然と生えた草木、そして死体を用いた硝石。

 以上を組み合わせた疑似火薬を取り込む事で、“銃”の製造を行うことが出来た。

 これが、現状の九龍城を根城とした三合会の資金源の一つ、武器売買のカラクリ。黒社会の人間は、対価として悪魔へと一定数の人間を与える事で取引を成立させていた。

 そしてこの鉄粉、銃を象るだけではない。押し固めれば硬質な盾にも、そして矛にもなりえた。

 悪魔の周囲に浮かぶ球体が形を変えて板の様になり、それらは迫りくる矢と、爆発から本体を守る働きをする。

 攻守ともに万能。元が弱小悪魔とは思えない鉄壁ぶり。

 しかし、

 

「ヅッ!?」

 

 どれだけ圧縮、硬質化しようとも宛ら豆腐の如し。

 鉄粉の塊よりも更に深い黒をした刀身は、容易に悪魔の防御を切り捨てるとその本体の核ギリギリの所を切り裂いていく。

 エニシにしてみれば、攻守万能な力も言ってしまえば中途半端の域を出ないものでしかない。

 ぶっちゃけ、最初の接敵時の様に核を隠した状態で飽和射撃をする方がまだ勝算があった筈なのだ。

 下がろうとする悪魔。だが、その出足に矢が飛んで来る事で阻止され動けない。防御に回す鉄粉も斬られて霧散し、再構築、と言う流れを繰り返すばかり。

 しかしここで、目的の差異が如実に表れる。

 爆弾頭にしてみれば、半殺しにしてでも悪魔の確保を求められる。最悪、死ななければそれで良い。何なら、適当な死体でも使って魔人を生み出しても良い。

 だが、殺されるのはダメだ。その点で、エニシとクァンシの二人とは共同歩調をとる訳にはいかなかった。

 その戦闘スタイルは、実にシンプル。

 まだまだ粗さの目立つ格闘術に、爆発を加えて一発一発の破壊力を底上げする。若しくは、密着状態の自爆などだろうか。

 エニシも幼いが、爆弾頭の体つきは更に幼い。寧ろ、貧相と言っても差し支えない。

 それでも任務遂行の為に戦わねばならないのは、忠誠心などではなく、()()()()()()()()

 爆発が、今まさに悪魔を切ろうとするエニシを襲う。

 一瞬で、その体は爆炎の向こうへと消える。が、しかし次の瞬間には悪魔の防御板と纏めて切り刻まれて陽炎となって消えていた。

 傷一つ無いエニシの姿に、爆弾頭が僅かに震える。

 力を得て、並大抵の人間はおろか、悪魔だろうと爆殺できるだけの実力を得た。今回の任務に単独に送り出されたのも今までの成功あってこそ。

 にもかかわらず、今はどうか。自分よりも僅かに年上だろう子供に手も足も出ない。

 今のところは、自分にヘイトが向いていない為あくまでも攻撃に対する防御止まりだが、少しでも相手の考えが変わればまず間違いなく膾切りにされる。

 恐怖。与える側である悪魔ですらも震え上がらせる、圧倒的な力。

 

(化物め……)

 

 相手によっては自分に向けられるであろう言葉を、クァンシは内心で呟く。

 粗雑な造りであるとはいえ、ビルを一棟刀一振りで倒壊させる実力もそうだが、今も悪魔を攻め立てつつ爆弾頭の攻撃を斬り捌き、()()()()()()()を余裕を持って見もせずに躱している。

 疑似的な三対一ともいえる状況。だが、掠り傷の一つはおろか、毛筋の一本も飛びはしない。

 ()()という言葉すらも、最早陳腐に思える。

 

「ギ、ガァアアアアアアアアア!!!!」

 

 悪魔が作り物の口で吠える。

 数年前の一件で、強くなった。少なくとも、己を馬鹿にする様な他の悪魔を血祭りに上げた事もある。

 今も、爆弾頭と歪な矢を放つ同族の様な敵の攻撃を鉄粉の盾で防ぐことが出来ていた。ジリ貧かもしれないが、それでも瞬殺されるようなことはない。

 問題は、斬りかかってくる子供。

 爆弾頭と、()()()()()()が無ければ勝負は一瞬で決していた事だろう。

 それほどまでに、その漆黒の切っ先が狙う先は悪魔の核に近かった。

 このままでは殺される。悪魔にもある生存本能がプッシュしてくるその背中。

 

「オ゛ォォォォ…………オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!」

 

 仕込んでいた鉄粉含めた、九龍城内部に張り巡らされていた悪魔の鉄粉の全てが悪魔自身の下へと集まってくる。

 圧倒的な装甲と、同時に攻撃能力を有した形態。漆黒の、巨人の様な姿。

 だがしかし、得てして追い詰められた状態での巨大化と言うのは負けフラグ。

 そもそも、見上げる十数メートル程の巨体など、エニシにしてみれば()()()()()

 彼は知っている。更なる暴力の化身を、彼でなければ文字通り木っ端微塵にされて殺されていたであろう相手が居るという事を。

 何度目かの爆発を切り払って、エニシは跳んだ。

 彼の目には、悪魔の核がどこにあるのかハッキリと見えている。

 例え、巨体内部を出鱈目に動かして狙いを外そうと画策しようとも、()()()()()()()()()()()()()()()

 引き絞られる右腕。左手を前へと突き出しサイト代わりに狙いを定める。

 出鱈目に動き回る核。しかしその実、どんな動きにもパターンというモノは存在した。

 これは、巨大化した体が人型である事にも要因の一つとされる。

 胴体内部を動き回るだけではなく、腕や頭部、足に至るまで動き回ってしまっていた。そして、体の末端へと移動すれば、どうしても“戻る”というプロセスが必要になる。

 如何に、巨木の様に大きな腕や足をしていようとも、胴体内を動き回るよりは圧倒的に動ける範囲が狭い。

 

「――――フッ……」

 

 その切っ先は空気の壁を優に越えて、音を置き去りにした。

 突き技だ。だが、その破壊力は宛ら迫撃砲のソレ。

 

「ギッ……ガッ……………!?」

 

 悪魔の左肩を中心にして、巨大な円柱でも突き抜けた様な大穴を穿たれてその巨体の動きは止まる。

 同時に、少し離れた地点で肉の塊が潰れる音と共に、薬莢の様な肉片が転がった。

 ぶち抜いた核の行方を目で追っていたエニシは、その肉片が落ちる様子を見ていた為、着地と同時にそちらへと足を進める。

 拾い上げれば、脈の様な皺が浮かぶ代物。

 

「………?」

 

 首を傾げるが、ポケットから取り出したハンカチで包んでそのままジャケットの内ポケットへとねじ込んだ。

 事態はこれにて終了、とはいかない。

 その場にエニシがしゃがむと、彼の頭部が在った地点を爆発が通過していった。

 

「僕としては、ここで手打ちでも良いと思うんですけどね」

「ッ!」

 

 下がるエニシを前に、遮二無二爆弾頭が突っ込んでくる。

 力量差が分からない訳では無い。無いが、何の成果も無く国へと帰れば、どんな目に遭うのか分からないのだから必死にもなる。

 それ程までに、先程エニシが拾い上げた肉片には価値があった。

 

『ソレを寄こせ!!』

 

 拙く甲高い子供の声。加えて、その言語はロシア語。

 如何に訓練を施されていようとも、実態は七歳の子供でしかないのだ。どうしても堪えきれない部分があってもおかしくはない。

 目当ての悪魔は殺された。敵は、自分が苦労するような相手を苦も無く殺した。悪魔の力を使っている様子もない。

 

 怖い、恐い、怖い。透明すぎる目を向けられるだけで、背筋が凍る。

 

 そして、恐怖は人の頭を曇らせた。

 

「ガッ――――!?」

「隙だらけだな」

 

 そんな声が聞こえたかと思えば、次の瞬間には爆弾頭の両腕が肩の辺りを境目に吹き飛ばされる。

 同時に、エニシが切り払ったのは二つの矢だった。

 

「ボウヤ、ソレを貰っても良いかい?」

 

 矢を放った主であるクァンシが顎をしゃくって示したのは、項垂れて座り込む爆弾頭。

 

「手土産の一つでもあれば、こっちも色々と都合が良いんでね」

「…………」

 

 クァンシの言葉を受けて、改めてエニシは爆弾頭を見下ろした。

 目的の悪魔は打倒した。それはつまり、クァンシたちの協力関係も終わりという事。だからといって直ぐに敵対するほど、エニシは情を捨て去れるタイプでもないが。

 そして、考える。

 このまま引き渡したとして、どうなるのか。

 

(十中八九、実験にでも回される)

 

 別段関りなど無いのだから放っておいても良いのだが、自分よりも年下で尚且つ()()()

 見捨てるには、少々後味が悪すぎた。

 左手で少し顎を撫でると、改めて顔を上げる。

 

「クァンシさん」

「ん?」

「僕と戦う事になっても、彼女は欲しいですか?」

 

 ゆっくりと持ち上げられる右手の刀。

 切っ先を向けられただけだ。距離にしたって十分に空いている。クァンシならば、大抵の相手は近づける事無くハリネズミへとジョブチェンジさせることが出来るだろう。

 だが、エニシは違う。この程度の距離は一跨ぎであるし、不意を打っても殺せるビジョンが見えない。

 クァンシの脳内で算盤が弾かれる。この間、僅か0.5秒。

 

「…………ハァ、降参」

 

 言うなり、変身も解けて緩く両手が挙げられた。

 もし仮に、力づくで奪い取ろうとすれば相応の反撃を貰うだろう。その結果、死ぬような目に遭い、尚且つ今後もしも接触の機会が回ってきた時に不都合が生じる事になりかねない。

 どんな悪魔を前にしても死ぬ姿を想像できない少年のヘイトを買うぐらいならば、クァンシは安全な道を選ぶことにした。

 目下の懸念事項を一つ解消し、改めてエニシは爆弾頭へと目を向ける。

 

「僕として、これ以上君と戦う理由がありません。このまま退いてくれるのなら何もしない事を約束しましょう」

「…………」

 

 ロシア語でスラスラと語ったエニシ。

 そんな彼を見上げる爆弾頭は、迷っているらしく返事が直ぐに返って来る事は無かった。

 補足をすれば、爆弾頭にも、そしてクァンシにも、明確な“死”は存在しない。

 一時的に死亡させる事が可能でも、一定の動作、或いは血を摂取させる事で復活する。悪魔以上の不死性を有し、魔人を超える力を人型で振るい、より強く血液という存在に依存する。

 

 この日の邂逅は、後にちょっとした厄介事を運んでくる。無論、今のエニシがそれを知る事は無かった。

 

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