贄のフェリス   作:peg

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不屈の

 

 既に日は落ちていた。

 遠くにぼんやりとした灯台の明かりが、空にまで届いている。

 あんなに光ってたっけ。ちょっと遠くに行ってただけで普段と感覚がずれるもんだね。

 

 私達は道の悪い街道を、自警団の長である狐男から手配してもらったボロボロの馬車で移動していた。馬車を引くのは夜行性のでかいトカゲだ。目的地まで着くと、勝手に帰るらしい。

 トカゲのくせに頭いいね。

 

「なんにしても、まぁ。……何とかなってよかったね」

「暴れなくなった」

「ユーン……」

 

 オリアナに掲げられてプラーンとぶら下がっているのは、例の狸だった。適当に買った餌を与えると、腹が膨れたのかすっかり大人しくなった。

 

 

 

 あの後のことを端的に言うとだ。

 あの小規模な嵐の後。

 水球魔法で気絶した狸は、野生の勘からか一瞬で目を覚まし、オリアナに縋りついて離れなかった。

 

「た、たた狸。殺すッ!」

「あ」

 

 復活した狐男が短剣を何処からともなく取り出して、血相を変えて近付くと、狸はオリアナの服の中に入って出てこなくなり――。

 

「だせ!!」

「わかった」

「あ。おい、それは……」

 

 止める間もなくオリアナが服を脱ぎ始め。

 

「兄者。長く掛かっているがどうし……」

 

 クマような弟が乱入し。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 完成した絵面としては、『興奮した狐顔の男が幼気な尼僧に短剣を突きつけて、服を脱ぐことを強要している』現場が出来上がった。

 

「兄者ァァァ!――」

 

 

 そのような事があって、自警団の威信を貶めることなく和解するために、ちょっと脅したら帰りの便を用意してくれた。

 

「ホントは宿が良かったんだけど」

「何故、あんなに急いで帰らせたがったんだ……?」

 

 そりゃあれだ。1秒でも町に居て欲しくなかったんだろうさ。狸に。

 

「さぁね」

「む……。フェリス、説明が面倒になってないか?」

 

 私は軽く肩をすくめた。

 この調子なら、オリアナもすぐに空気が読めるようになるだろう。むしろ、なってくれ。

 

 今回の嘆願解消結果として、狸がオリアナに懐いてしまった。自警団は軽く脅しておいたので、源餐(レゴラ)を貰えるよういい風体で手紙をしたためてくれるだろう。

 

 足元に置いたカバンに目を向けた。

 完全回復薬である所の源餐(レゴラ)。私の命のストックと言い換えても良いかもしれない。

 良い子ちゃんポイントに縋れなくなった今となっては、唯一私が頼れる寄る辺だった。

 

「お前も命を拾えてよかったな」

「ユーン?」

 

 命の大事さを考えていると、オリアナによって命を救われた狸にシンパシーを感じてしまった。

 

「るーるるるる」

 

 これは狐呼ぶときのやつか。

 

「ほら、怖くない」

「……ヴャァ!?」

「いてぇ!? く、怖くない……」

 

 狸を撫でようとすると、普通に噛まれた。そして、何故かナウシカごっこチキンレースが始まった。

 

「ヴルルルルアルル」

「あ、ちょっ、痛いって!?」

 

 そのまま様子見していると、狸は指を噛みちぎろうと凶暴に頭を振った。

 

「フェリスは、何している」

「オリアナ! こいつ押さえてて! ちょっとぶっ殺すから」

「殺すのはだめだ」

 

 なんでよ。

 

 

―――

――

 

 

 街道が続く丘の先で、灯台の光が近くなった。あの一際高い丘を越えれば、もうすぐ着くだろう。

 海岸線の砂丘もそうだが、この一帯は無駄に隆起した小さな丘がたくさんあり、街道を外れると浜から飛んできただろう砂地が多くなる。

 海へ向かって続く丘陵地のような地形だ。

 

「うおっ」

 

 もうすぐ着くのに、街道を登っていたトカゲが足を止めてしまい動かなくなった。右足を上げたまま固まっている。

 おいィ? ケチ臭いぞー。最後までいけぇ。

 

「なぜ、止まった?」

「さぁね? おい進めよ。う○こでも踏んだのか?」

 

 馬車から降りて、私が右足を地面に付けようとすると頑なに嫌がった。

 なんで右足を降ろさねぇんだこいつ……。

 私も若干ムキになる。

 

「ムギギギ……!」

「グル……」

 

 それを見かねたオリアナも降りてきた。

 

「フェリス、歩いていこう」

「ユーン」

「……。そだな」

 

 オリアナに片手抱きに抱えられた狸から、“何してんだこいつ”みたいな目を向けられて素に戻った。

 

「!?」

「うわっ」

 

 私が目を離した為か、トカゲはボロボロの荷車を破壊しながら必死な様子で帰っていった。

 トカゲが去った後、反動で飛び上がっていた私の鞄が、寂しく地面に落ちる。

 ……これ、あとで請求されたりしないよな?

 

「えー……なんだあれ」

「……?」

 

 私は小首を傾げるオリアナと顔を見合わせた。

 後ちょっとなんだから、連れて行ってくれてもいいのに。

 

「あーぁ。まぁ、後小一時間も歩けば着くだろ」

 

 そんなことを言いながら鞄を拾う。

 荷車が壊れてなかったら、カバンを追い掛けなきゃならないところだった。

 

 

 

 

 

 登り坂を上りきったとき、燃え上がる灯台が視界に入った。

 

「ぇ?」

「は?」

 

 こじんまりとした神殿は跡形もなく煤になっており、岬の一部も破壊されている。 

 

「な、にが……」

 

 空白になった思考の傍ら、宙空に光が明滅する。

 以前から、セーラが浜で訓練していた炎剣魔法の顕現光だ。

 

 セーラの魔法に照らされて悪霊の姿が見えた。

 巨大な頭部は重なるような牙が無数に生えたマンモス。つながる体は不定の肉塊。そこから、幾つもの人の顔や手足が生えている。タールのような粘性の液体を身体のあちこちから垂れ流す様は、ひどく不気味だった。

 

 鋭く明滅する光に照らされた悪霊の触手が、唐突に割断されたのが見えた。

 セリスの魔法だろう。

 ……2人ともまだ生きている。

 

「フェリス。いくぞ、仲間の危機だ」

「……あ、まって!」

 

 突然のことに思考の回らない私よりも先に、オリアナが判断を下し丘を駆け降り始めた。

 

 

 

 

 

 景色が滑っていく視界の中。

 巨大な悪霊は岬に張り付いている。燃え上がる灯台が辺りを照らしていた。

 光に照らされて、悪霊が出てきた地面の穴が見えた。巨大な悪霊が出てきたにしては小さな穴だった。あそこから出てきたのか?

 

「フェリス、急ごう!」

「あぁ! 魔法を使う! 転ぶなよ!!」

 

 オリアナの声で思考を戻した。

 早く行かなければ、二人がやばい。

 

栄華の樹の実が地に堕つように――

 

 念糸を伸ばして、走る私達の重力加速度、靴裏と地面の反発係数、質量をちょっといじる。

 

「う、えっ!? フェリス、跳ね過ぎる!?」

「オリアナ! 私の念糸を意識しろ!」

 

 声を掛けながら、私は聖銀アンカーを地面に突き刺して、必要以上に跳ね上がる身体を引き戻して加速する。

 ついでに、飛び跳ね過ぎたオリアナを念糸で引き戻して軌道修正する。

 いきなりは厳しかったかも知れない。駄目なら引っ張っていくか。

 

「こう、か!」

「ユーン!?」

 

 しかしながら、オリアナは抜群のセンスを発揮して、1度目で着地地点での力加減を把握した。

 さらに、少しぎこちないが、オリアナは私の見様見真似で適応した。

 前方へアンカー状に打ち込んだワイヤーを起点に、半弧を描くように駆ける。

 普段とは乖離した感覚だろうに、よくやるよ。

 

 私の魔法の紹介のために……ちょっと前にやった砂地錐揉みロケットごっこが、功を奏したかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 フェリスやオリアナが街から帰ってくる前。

 その日の夕方のことだった。

 巨大な魔力の気配が、砂浜に突然湧いたのをセーラは感知した。

 偶々帰ってきていたセリスと2人確認に行くと、フェリスが作った不気味な砂像(外○魔神像)の辺りから、巨大な悪霊が這い出てきていた。

 

 

 

「姉さん! これ以上は無理だ!」

「二人が戻ってくるまで持ち堪えるんだ! 泣き言を言うんじゃねぇ!」

 

 巨大な悪霊の圧に負けて、セーラ達は拠点の神殿を放棄した。中に居たはずのアズイーラ老師の安否を気にしながらも、セーラ達は生き残るのに必死だった。

 

「セーラ! あたしが揺動する! 力を練り込め。お前が燃やし尽くすんだ!」

「そんな!? 姉さん、無理だ!」

「無理でもやれ! 行くぞ!」

 

 セリスから魔力の波動が迸った。

 吹きあがる風がセリスを運んでいく。

 

「姉さん!!」

(あたしはフェリスみたいに、2重3重で魔法を使うのに慣れていないんだ!)

 

 言葉をかける前に、セリスは悪霊に飛びかかっていった。

 

「くそ!」

 

 セーラは灯台の火を維持しながら、時間を掛けて炎の刃を創り出す。

 セリスの魔法に倣った炎剣魔法。顕現した2対の双剣を高速回転させていく。

 時折飛んでくる肉の触手を避けて、セーラは手元に創った聖銀の刃で切り落とす。

 恐ろしく忙しない。

 

「はァァァ!」

 

 セーラが瞬きをする間に位置を変えるセリスが、砂を纏い高速回転する刃で、獣と人を合わせたような巨大な悪霊を切り刻む。

 胴体から飛び出た腕とも足とも判断のつかない触手が切り刻まれて、黒い粘性の液体が吹き出し神殿の瓦礫に降り注いだ。

 灯台から降り注ぐ火の粉が液体に触れた瞬間、急激に発火して燃え尽きる。

 

 神殿が一瞬で燃え滓になったのは、これが原因だ。

 

 岬を抱えるように押し潰そうとする悪霊は、自身の体液が燃え上がったことで、それ以上進むことに二の足を踏んでいた。

 先程から、同じような展開を繰り返している。

 聖銀が練り込まれた灯台の火を維持することで、セーラ達はなんとか堪えていた。

 

「■■■――」

 

 飛び回るセリスへ濁った瞳を向けた悪霊は、背中から折り重なった鱗のような翼を幾つも生やした。鱗は出来損ないの人のナリをしている。

 一瞬だけ7枚の翼に見えたそれは、太い羽の先1点に集まり、急速に膨張して破裂した。

 飛び出した肉塊が一斉にセリスへ集中する。

 

「ぐっ……! ぁあッ!!」

 

 叫ぶセリスの纏う砂風と肉塊がぶつかり合った。高速で打ち出された砂風が肉塊を削っていく。

 

「姉さん!? くそ!!」

 

 セリスは纏っていた砂の風をぶつけることで、難を逃れたようだった。しかし力を消費しすぎたのか、反動でかなり遠くの浜に落ちていった。

 

「■■■――」

「く! もう少しだってのに……!」

 

 セーラが想定していた以上に、遅々として魔法は完成しなかった。

 回転する刃は、ようやく悪霊の鼻先を切り落とせる大きさになった。しかし、首を落とせるほどは大きくない。

 

(……時間が足りねぇ! もう、放つしか……)

 

「■■■――」

「あぁぁ! ちくしょう……!!」

 

 セリスが引き付けていた注意が、セーラへ向いた。

 

(悩んでいるヒマはない)

 

 セーラは弱々しい炎の刃を解き放った。刃が届くまでの時間が、ひどく間延びして感じられた。

 

 届いた火は、鼻先に当たって急速に減衰した。セーラは制御を取り戻すべく力を込めるが、弱々しい炎が回転するだけとなっていた。

 

「そんな……」

 

 片方に集中したために灯台の火が消え、月明かりだけが悪霊と焦るセーラを暗く照らした。

 

「■■■――」

「く」

 

 目を固く瞑ったセーラは自分の運命を呪った。

 

(ダメだ……。このままじゃ、あの先輩と同じように、酷たらしく死ぬ)

 

 セーラが配属されたとき、長く生きていた仲間二人が5体湧いた色付きの悪霊に殺されたのだ。

 

「いやだ!!」

 

 セーラは幼い子供のように叫んだ。

 諦めずに隻腕へ力を込めた。

 

「■■■■」

「え?」

 

 魔法を回転させ続けたセーラの瞼の上に、まばゆい光が煌めいた。

 

 

 

 

 ダッシュで神殿へ近付いたとき、既にセリスは吹き飛ばされ、セーラがなけなしの魔力で編んだ魔法を巨獣へぶつけるところだった。

 距離にして体感200m。

 

「フェリス! 間に合わない!!」

「く。ハァッ、間に合えぇぇっ!!」

 

 カバンを投げ捨てて飛び上がり、全力で集めた粒体金属を放つ。

 限界まで伸ばしたワイヤーが悪霊に届いた。

 悪霊は私が肩口に撃ち込んだアンカーを歯牙にもかけず、セーラを両手で包み込むように潰そうと動いた。

 馬鹿みたいな詠唱してる暇なんてない。

 

そう在れかし(変われよ)!!」

 

 気合を入れ直すために叫んだ。

 魔法でワイヤーのばね定数をイジる。

 現実との齟齬を埋めるように、金属のワイヤーが伸び切った螺旋状に変形して、縮んだ。

 

「ギィッ!」

 

 強烈な慣性によって帽子が飛んでいった。海老反りになり意識が飛びそうになる中、両手を突き出して射程圏内に入ったセーラの魔法に干渉し理を捻じ曲げる。

 熱伝導係数の逆転(マイナス)

 熱量の急激な逆流。

 悪霊の肉に呑み込まれて、蝋燭以下の火力になった炎剣が爆発的に燃え上がった。

 

「■■■■■」

 

 爆音とともに悪霊の気色悪い声が響いた。

 顔面から火を吹き出し、一部が凍りついた巨体が仰向けに沈んでいく。

 不気味な手に攫われそうになっていたセーラを、バネ聖銀の糸を操って一気に空中に引き上げる。

 

「どっこいしょぉー!!」

「な!? フェリスか!」

 

 引きずり込む手は、かろうじて回避できた。

 

「助かっ……、どうやって降りるんだ!?」

「ん?」

 

 至近距離からセーラの声が響く。そういや必死すぎて何も考えてなかった。

 見回すと、私とセーラは空中で粒体金属の紐に絡まってしまっている。

 まぁ、変形させて軟着陸すれば……。

 

 そこまで考えが至ったとき、私の視線の先で銀糸が粒体に解け始めた。

 あれ?

 

「あ。……ごめん、セーラむん。魔力切れた」

「は? はぁぁぁ!?」

 

 一気に魔法を使ったことで顕在魔力が枯渇した私は、粒体金属を元に戻す力も失っていた。そういえば移動でも魔法使ってたんだった。しかも、割と全力で2人分。

 

「どうすんだ!?」

「ふふん、焦るな焦るな。こんな事もあろうかと……あっ」

 

 頭に手をやると、飴を隠していた帽子がない。

 前死にかけたときと同じ轍を踏まないようにと、帽子に飴を入れていたのが仇となったか。このリハクの目を持ってしても……ってふざけてる場合じゃない。

 

「どうしたんだ、おい! フェリス! ……フェリス?」

 

 セーラむんに揺さぶられる。

 マジでどうしよう。残りの飴は鞄の中だ。

 

 自由落下に身を任せ、歪な形の月を見上げる。纏わりついた銀糸が、魔法の力を失ってキラキラと分解されて空に上っていく。これはあれだ、幻想的だ。

 

「わぁ、綺麗ねぇ」

「こんな時に現実逃避してんじゃねぇよ!? くそ!」

 

 分解して煌めく粒体金属を消費して、セーラが地面に向かって歪な盾を形成するのがわかった。

 ……頑張って私も救ってくれ。

 

 しかし地上から、3、40mは跳んでるんじゃないかなぁ。諦めましょう。これはこのまま肉塊END。口さえ残っていれば生き返られるでしょう。

 合掌。

 GG。

 ゲームじゃねぇんだよなぁ。

 私は痛みに対しての覚悟を終えた。

 

「フェリス!!」

 

 地上付近から私に追いついたオリアナの焦る声が聞こえる。

 うん、これもう五体満足は間に合わねぇから、鞄の中の源餐(レゴラ)で全快させてくれぇ。

 

「たのむぅ」

 

 聞こえてることを祈って、とりあえず頼んでみた。もはや出来ることはない。

 しかしせめてもと、五点着地の準備だけはしておいた。

 

「ゴハ!?」

「ゴボッ!?」

 

 水だ。

 セーラの弱々盾を貫通して、いつの間にか私達は水球の中にいた。

 めっちゃしょっぱい。

 

 後頭部がズキズキと痛んだ。

 セーラの盾のせいで後頭部を打ったようだった。

 おい、この盾は邪魔だろ?

 

「……」

「ハボッ!?」

 

 突然のことに藻掻くセーラを肘で打ちながら、水球の横合いから顔を出した。

 

「ブハッ。ぜぇはぁ、ぜぇはぁ」

「フェリス! 無事か!?」

「な、なんとか……助かった。ありがとう、オリアナ」

 

 私に声をかけたのは、両手で家一軒分くらいの水球を維持するオリアナだった。

 海水から引っ張ってきたのか。

 

「バハッ。ゴホッ、ゴホ。フェリス! 何しやがる!」

「はぁはぁ、はは。助けてやったんだよ。セーラむん」

「んだと」

 

 死にかけたけど。

 形を失っていく水球から出て髪を絞る。

 このまま乾いたらガジガジになりそう。

 私はげんなりとした気持ちになった。

 

「まぁ、なんとかなってよかったよ」

「フェリス! まだだ」

「!?」

 

 オリアナの指差す方向を見ると、倒れた悪霊の触手がゆらゆらと揺れていた。

 まじかよ。

 

「オリアナ、私のカバンは?」

「置いてきた。帽子ならある」

「よし、でかした」

 

 オリアナはカバンじゃなくて帽子を取って来てくれていた。空中ジャンプでキャッチしたらしい。

 

「フェリスの魔法で身体が跳ねすぎて、鞄を拾いに戻れなかった」

「それでか」

 

 確かに、あの弾性力で着地して止まるのは難しいわ。

 私は早速、隠していた源餐(レゴラ)を取り出した。

 

「そんなところに源餐(レゴラ)を……。おい、フェリス! まだそれを食うんじゃねぇ!」

「は? セーラむんにも後でやるから」

 

 ほしいのか? 何言ってんだ?

 私のカバンにはまだ大量にストックがある。

 

「違う、そうじゃねぇ!」

「じゃあ何さ。すかぴんであの大きいのとやり合いたくないよ。魔力戻しとかないとやばいでしょ?」

 

 こんなところでまごついてないで、早く回復する必要があった。

 

「――■■■■■■■■」

「!?」

 

 会話を遮るように声が響き、私達の頭上へ影がさしかかった。巨大な手だ。

 

「なん……」

「離れろ皆!」

 

 咄嗟に前に出て手を突き出したが、魔法は出なかった。そりゃそうだ。

 

「あっ」

 

 しかも慌てて手を突き出したからか、手に持った源餐(レゴラ)が手から離れて飛んでいった。

 つるつるとした飴は私の手を離れ3回ほど跳ねた後、岩場の隙間に入っていった。

 

「うそー!?」

「フェリス!?」

「何やってんだ!? くそ!」

 

 オリアナの盾とセーラの炎が上がったが、明らかに間に合わない。

 

「うわああああ!」

 

 叩き潰される刹那、轟音が響いた。

 目を開けると、球体の砂嵐によって巨大な手が微塵に切り刻まれていた。続いて巨大な手が発火した。

 

「姉さん!」

「セリス!」

 

 熱砂を伴う暴風の上に佇んでいたのは、これまで姿の見えなかった獰猛に笑うセリスだった。

 

「……全員揃ったな。反撃開始だ!」

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