贄のフェリス   作:peg

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源餐(レゴラ)

 

「あ、源餐(レゴラ)だった!」

「……源餐(レゴラ)? おい、何処にある?」

 

 私は戻ってきたセリスをそっちのけで、瓦礫の間に消えていった源餐(レゴラ)を探した。私に間を外されたセリスの不満げな声が降ってきたが、今は無視した。

 魔力切れであんな大物と戦うのはゴメンだ。

 

「チッ、セーラ! そこの出涸らしを連れて灯台に行け! オリアナはあたしと来い!」

「わかった」

「姉さん!?」

「セーラは少し休んでろ!」

 

 魔力の切れかけた私達は、灯台のところで休んでろってことか。しかし、出涸らし扱いは酷くないか?

 

「おい、フェリス! 源餐(レゴラ)はもういいから来い! 急げって!」

「ま、待って! あった!!」

 

 視界の先に光るものが見えた。

 あったけど届かない。

 

「 く、この思い、届けエリクサー!!」

 

 私は狭い瓦礫に頭から突っ込んだ。しかし、叫んでる最中に尻を掴まれてズサーっと引きずり出された。

 おい、ギャグみたいになったじゃんか。

 

「早くしろ! ぼけ!」

「ぼけってなんだよ! さっき助けてやっただろ!」

「今関係ねぇだろ! それに助けてくれなんて言ってねぇ!」

「……まったく。全然素直じゃないんだから」

 

 引きずり出される瞬間、少しだけ回復した力でなんとか源餐(レゴラ)を絡め取ることができた。動かせるのは指先から出した髪の毛一本分くらいの念糸だったけども。

 そして、その源餐(レゴラ)は、何故かそのまま上に飛んでいった。

 

「は?」

「……ふん。早く灯台にいけ」

「あ、ちょ、おまっ!?」

 

 顔をあげると、源餐(レゴラ)を摘んだセリスが、オリアナを子猫みたいに掴んで慌ただしく飛んでいった。

 大物にとどめを刺す気なのは分かるが、私の源餐(レゴラ)を唐突に奪うとか……お前ジャイアンかよ。

 びっくりしすぎて全然反応出来なかった。

 

「はやく来い、のろま!」

「あ、ちょっと待って! ぱんつズレちゃった」

 

 正確には食い込んだのだが。

 

「クソマイペース野郎がッ!?」

「セーラむんのせいだよ!?」

 

 セーラが変なとこ引っ張るから、ぱんつが変に食い込んじゃったじゃん、もう。

 食い込みを直し、ついでに帽子を被ってセーラの後を追い走り出した。

 

 

 先に飛んでいったオリアナの氷柱のような水魔法が、大物の悪霊に殺到していくのが見えた。次いで、機銃をぶっ放したようなセリスの魔法の音が轟く。

 

 始まった! ヤバイヤバイヤバイヤバイ。

 巻き込まれないように必死に走った。魔力切れの私が巻き込まれればひとたまりもない。

 

 灯台に近づくに連れて背後からの明滅が激しくなり、肉を潰すような泡だったような濁音が響き渡る。

 

「はぁ、はぁ。灯台遠いぞ、クソ」

 

 余力がまだあると思ったが、顕在魔力が枯渇したことで息が上がった。

 普通に苦しい。

 魔力が切れてて探査もうまく行かない。背後の様子も良く分からずに、不安にも思いながらも走った。

 

「!? 伏せろ! のろま!」

「え? ぅわっぷ」

 

 先を走っていたセーラが反転してきて引きずり倒された。

 瞬間、腐った青魚のような生臭い爆風が通り過ぎる。

 あまりの音にひどい耳鳴りがした。

 

 そんな状態であっても、金属を噛み砕く高い音を耳が拾った。音がフォーカスされるように、シンと静まった空間に金属音が響く。

 

「全てをさらえ」

「やべぇ!? ()()でとどめを刺す気だ!」

 

 アレってなんだよ。

 その時、セリスと一緒に空中にいたはずのオリアナが砂に巻かれて高速で迫ってきた。

 

「オリアナ!」

「何だその移動方法!?」

 

 くの字に体を曲げたまま、尻から進む形で突っ込んできた。

 蹴り飛ばされたベジー○みたいなムーブしやがって……。私もどこから突っ込んでいいか分からんぞ、それ。

 

「つかまれ!」

 

 通りすがりのオリアナに片手ずつで捕まれた私達は、あっと言う間に灯台に叩きつけられた。

 

「がはっ!」

「いってぇ!?」

「っ! 盾だ! 急げ!!」

 

 白銀の灯台にセーラとオリアナが手を突っ込んだ。ちょっとギョッとしたが。なるほど。この灯台は聖銀で出来てるのか。

 魔力切れててなんにも出来ないので、地面にうつ伏せのままじっとしておく。

 

「オリアナは姉さんの手伝いじゃなかったのか!?」

「やっぱ邪魔って言われた!」

 

 セーラとオリアナのやり取りをを尻目に、仰向けに転がってセリスに目を向けると、赤熱した砂が球を象り不気味な月に姿を変えていた。利き手を上げたセリスの真上に浮かぶのは、砂嵐と灼熱の坩堝だ。

 

「でっか、何だあれ……」

 

 私の全力槍の数倍の大きさだ。序列高位者ってあんなことできるの……。

 

 オリアナ達二人がかりで創り出した歪な盾が、私達を卵の殻のように閉じ込めた。

 

 金属の殻の中、見下すように空を飛んでいたセリスの祝詞が反響する。

 

滅冷(めざ)めた星が地に堕つように」

「逆巻く風が地を舐める」

「理を犯す者よ、在るべく姿へ戻るべし」

 

「浄化せよ!!」

 

 セリスの鋭い声が響いた直後、先程の爆発なんて比にならないくらいの衝撃が私達を襲った。

 

 

 

 

 

 

 

「ごほっごほっ」

 

 咳き込みながら起き上がり、積み上がった盾の残骸を崩した。

 月明りも薄く暗かったが、身体の性能のせいか薄暗くとも形ぐらいは捕らえられた。

 

「みんなは、……あ」

 

 辺りの様子は一変していた。

 灯台のある岬から見下ろす景色は大物の悪霊がいた場所を中心に大きく抉れ、白い砂浜があった場所は深層にある岩盤が露出していた。まるで、隕石が墜落したクレーターのようになっていて、クレーターの底は赤熱して蒸気を上げている。

 

 追いやられていた海水が、物理法則を思い出したようにクレーターに流れ込み始めた。気を失った気がしていたが、ほんの一瞬程度だったようだ。

 

 こんな一撃なら、あの悪霊の再生力があっても流石に消し飛んだだろう。

 

「破壊力ありすぎだろ……」

 

 振り返ると、灯台は半端に基礎部を残して消滅していた。

 叩きつけられたのか、オリアナとセーラが基礎部へ背を預けて気絶している。

 聖装も所々破れ、セーラ達の帽子はどこかへ行っていた。

 

「おい、しっかりしろ!」

 

 私は容赦なくセーラの頬を張った。

 食い込みぱんつのお礼だ。

 

「うぅ……」

 

 肩口からセーラの銀髪が流れた。

 ピクピクしながら呻いている。呻き声から、そのうち起きそうな気配がしたので放置することにした。

 

 それよりもオリアナだ。身動ぎもせずにぐったりと背を預けている。呼吸は浅くだがしているようだ。

 

「おーい、オリアナ。起きろ」

 

 平坦な場所に仰向けで寝かせてやり、首元を少し緩めてやった。

 

「大丈夫か……?」

 

 素人診断だが、早めに源餐(レゴラ)を与えた方がいいかもしれない。

 カバンは何処だっけ。ってかセリスは何処だ。空から探したほうが早そうだ。

 

「ユーン」

「おわっ、狸じゃん」

 

 キョロキョロしていると、いつの間にかオリアナの横に例の狸がいた。口にオリアナの帽子を咥えている。

 

「お前……。帽子じゃなくて私のカバン持って来いよ……」

 

 私を一瞥した狸は、心配そうにオリアナに鼻を寄せると帽子を置いて丸くなった。

 

「いや、無視かい」

「フェリス、これはお前のものか?」

「お?」

 

 真上からセリスの声が降ってきた。

 見上げると、スリットだらけのくせに鉄壁の聖装がはためいていた。いや、コレって言われても見えんし。二重の意味で。

 フワリと物理法則を無視したような動きで着地したセリスは口を開いた。

 

「カバンをその狸が必死に守っていたよ。私が持っていたオリアナの帽子を奪って走っていったと思ったら、ここに居たか」

「え、まじで」

 

 狸君……君本当はいい奴だったんやなって。

 

「まぁ二個あるうちの一つは足蹴にしていたんだが」

「やっぱ殺そう」

 

 私のカバンには見事に肉球跡がついていた。ブレねぇなこの狸。

 

「一つは私のだ、ありがとう」

「ふん、重い方か。源餐(レゴラ)を貯めとくとは、感心だな」

 

 中身見たのか。

 プライバシーの侵害だぞ。

 

「褒められたくて貯めてた訳じゃない」

「……だろうな」

 

 セリスからカバンを受け取り中身を確認した。

 28個。大丈夫、減ってない。

 

「オリアナに一つ使う。あんたはさっき私の盗ったから無しだ」

「いらねーよ。借りただけだ。必要だったからな」

 

 マジで? 返してくれるんか。お前きれいなジャイヤンかよ。

 そりゃ、消耗した状態じゃ、あんな大技は使えないだろうけどさ。なんか一言あってもよかったんじゃない?

 

 介抱するためにオリアナに近づいた。ボロボロの格好が痛々しい。

 ん、あれ? 待てよ。よくよく考えたらオリアナのダメージは、ほぼセリスのせいだった!(白目)

 

「老師様もどこ行ったか分からねぇ。オリアナが復帰しなければ、明るくなってから探すしかなかったな」

「……」

 

 どの口が言ってんだ。

 しかし、今更パワハラについて揉めてもしょうがない。

 賢い私は文句を言わずにオリアナを抱き起して、口に源餐(レゴラ)を落としてやった。ビクリとオリアナの身体が身じろぎして、魔法的な鼓動が大きくなったのを感じた。再生が始まったのだろう。

 

「そういえば、神殿と灯台が更地になっちゃったけど。これ大丈夫なのかな……? 全然大じょばないですね」

 

 疑問形で吐いた言葉を言い直す。ヤバイことになったという事だけは、言われなくともヒシヒシと感じられる。

 今回の件、責任は私達を差配していた老師側にありそうだけれど。

 

「いや……。そもそもだ。今回の悪霊は、発生の仕方がおかしい。クソ古神が頻繁に来る時期は、数の多い小さい《コケラ》を焼き尽して上位の悪霊の発生自体を押さえるんだ。そのために、探知系の魔法が得意なオリアナを拠点に残していた」

「ふーん」

 

 セリスが出ずっぱりだったのには、理由があったのね。

 

「あ、でも。今回のあの大きい奴は、地面に埋まってる骨だったんじゃないの?」

 

 そういえば、大穴があったのを向かう途中に見つけていた。

 

「あぁ、間違いなく下層の《コケラ》だ。しかし、上層で悪霊が発生しない限り、うんと下に埋まってる骨に辿り着きはしねぇはずだ」

「何らかの要因があったってことか……」

 

 他の悪霊の気配も感じないし、偶発的に湧いたにしてはおかしな話だ。

 

「ってか、埋まってる骨も処理しとけばよかったんじゃ……?」

 

 そもそも骨をもっと燃やしとけよな。そう思うのは私だけだろうか。

 

「あん? 何本あると思ってやがんだお前……。砂の下層部に残っている《コケラ》は、別な時期に処理するもんさ。全部処理しようとしたら、赤魔法の使い手が何人いても足りやしねぇ」

「そういうもんか」

 

 今回は、唐突に下層に埋まってる巨骨に悪霊が乗り移ったということ。

 確かに少しおかしい。

 

「ん……」

「あ、オリアナ。気が付いたか?」

 

 そんな話をしているうちに、オリアナの修復が終わったようだった。薄っすらと目を開けたオリアナは、目を擦りながら起き上がった。

 

「どう、なった」

「セリスがバーンってやって消し飛ばしたみたいよ」

 

 私も見たわけではないので、身振り手振りの適当な説明になった。セリスへ視線を向けると肩を竦められる。なんだよ、なんか言えよ。

 

「セーラは?」

「まだ寝てるよ」

 

 ここへ先に赴任していた矜持だろうか。セーラは大分気を張っていたように思える。

 セリスによって、セーラは砂で運ばれて基礎部の平らな場所に転がされた。

 

「寝かせといてやれ」

 

 オリアナと二人してセーラを覗き込んだら、腰に両手を当てたセリスに釘を差される。

 なんか、セーラには甘いよねセリスって。

 

「オリアナ、悪霊の気配を探ってくれ。範囲は浜全体で朝までだ」

「ん……分かった」

 

 源餐(レゴラ)で回復したオリアナは、すぐにでも動けそうだった。

 

 

 

 

 あれから、3時間程が経った。

 瓦礫に足を組んで腰掛けたセリスが、銀色の煙管(キセル)を燻らせている。

 私達もタバコ吸えるんか。良いことを知った。

 

「付近には、気配はない」

「分かった。そのまま続けろ」

 

 灯台の基礎部の上でオリアナが立っていた。目を瞑っていて、両手で狸を抱いている。

 

「フェリス。魔力は……まだ戻らないか?」

「まだ4割ー」

「ふん。とろクセェな」

 

 私はそんなオリアナを眺めながら、あぐら座になって魔力の回復に努めていた。

 源餐(レゴラ)は使わない。今はある程度安全が担保されている状況なので、エリクサー症候群の私としてはラスボスまで取っておく。

 

 瞑想のようなものをすることで、顕在魔力の回復を高めることができる。顕在魔力が枯渇しても、心臓にある魔力コアから魔力が充填されて、再び各部から念糸を作り出すことができ、その速度は鍛えることで速くなる。

 と、訓練場(モア)では教えられているが、私のイメージ的には、ぶっちゃけ念糸は心臓から生えている。それが心臓から血管を伝って、各部に満ちるのは本体から枝分かれした念糸の毛根のようなイメージだ。

 

 そんな感じなので、鼻○真拳が使えないか試したことも一度や二度ではない。普通に鼻から血が出るだけだったが。

 最近の新説では、実は私達は心臓から毛の生えた新生物なのかもしれない、と思っている。

 このロリコンどもめ……!!

 

「顕在魔力の回復は、生き残るために重要なスキルだ。フェリス、今のお前では遅すぎるぞ」

「ムッ」

 

 アホなことを考えてると、セリスに釘を差された。知っとるわい!

 

「ふぅ……」

「ふん」

 

 ビー・クール。落ち着け私。こいつにキレてもしょうがない。

 セリスの顔を窺い見た。普段よりも、何処か焦燥に駆られているように感じる。

 セリスはセリスで、この状況に焦りを感じているのかもなぁ。

 

 そういう意味じゃ、至らなくて申し訳無い限りなわけだけども。

 

「ユーン? ヴァ……ヴゥ」

「どうした? オムレツ、あ」

 

 オリアナの抱えた狸が唸るように騒ぎ出した。そして、オリアナの腕から逃れて岩陰に走っていってしまった。

 

「チッ。何なんだよ」

「さぁね……」

 

 ピリピリした様子のセリスがそれを見て舌打ちした。わかるわけねーだろ。

 

「オリアナもさぁ、なんで食べ物の名前なんかつ」

「ごほ……?」

 

 血を吐いたオリアナが、不思議そうな顔をして倒れた。

 オリアナの背後に立っていたのは、黒い骸骨。

 突き出した右腕がオリアナを刺したことを示すように、赤く染まっていた。

 赤から青へ。まるで受肉するように水に覆われていく。

 

「アァァァァァア!!」

「なっ」

「オリアナァァ!」

 

 セリスの落とした煙管(キセル)の音が響いた。

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