贄のフェリス   作:peg

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仲間の

 もうすぐ夕暮れになる頃合い。

 私は3人のゾルドの前で右手を差し出した。

 

「私は黒の61、フェリスだ。よろしく頼む」

 

 まずは、黄色い聖装を着た私と同じくらい背の高い女。私と違って出るとこが出ている。

 左側に流した長い前髪で片目を隠していて、左目は欠損しているか傷でもあるのかもしれない。

 というか、目つきが悪い。昭和の不良っぽさみたいなオーラがすげぇな。威圧感が半端じゃない。ここに居る内で、絶対序列が上だ。

 

 

 前に突き出した私の手は、いつまで経っても握り返してはもらえなかった。

 

「……チッ。補充が新任50位の次に60位……? くそったれ」

 

 支給されている通常の聖装と異なるスリットだらけの聖装を着た黄色いゾルドは、私の数字に噛み付いて悪態をついた。帽子も被っておらず改造制服が許されてる辺り、彼女は()()()なのかもしれない。

 

「まぁまぁ、姉さん。怒ってもしょうがないよ。それにこいつは――」

 

 それを宥めてくれた横の首輪付きの赤は、なんか見覚えがある女だった。

 私よりも頭一つ分低く、片袖がない。

 残念ながら彼女は、私の右手を物理的に握れないようだ。

 

「久しぶりだなフェリス。黒で、しかも61位の落ちこぼれちゃんが、何でここにいるか知らないが。あたしらに従ってもらうぞ」

 

 思い出した。

 こいつは同期のホープで赤の28位。

 不敵に笑う赤いゾルドは、私の同期だったセーラだ。

 ツリ目で気が強そうな雰囲気をしている。しかし、目の下に隈があったりと、昔より顔色が悪かった。

 昔は私が二つお団子にしてやっていたもんだが、今の彼女の帽子の下はどうなってるんだろうか。

 

「おー、セーラむんじゃん。雰囲気変わったね、元気してた?」

「その呼び方やめろ!! 今はあたしのほうが序列が上なんだ!」

 

 その噛み付くような勢いに、私は思わず降参ポーズを取った。

 結局誰も握手してくれねーの。クソブラック職場だな。

 

「今は……?」

 

 セーラの言葉に反応した黄色ゾルドは、腕組みをしたままセーラへ鋭い視線を向けた。

 

「どうした?」

 

 始終ピリピリした雰囲気だったが、オリアナの幼気な声で少し空気が弛緩した。

 毒気を抜かれたように黄色い女が頭を掻いた。

 

「……あーいや、何でもない。あたしはセリスだ。黄の19で。ここで9年やってる」

「9年……」

 

 ゾルドにとって配属されてからの年数は、序列の数字と同じでスーパーマウンティングポイントのひとつだ。それだけ長く生き残ってきたということだから、良い指標なんだけど。

 しかもこいつ、超序列が上だ。一体、どれほどの強さだと言うんだ。

 

 しかし、悪名高きモグタン将軍と同じ名前とか……よく笑わなかったな、私。

 きっと普段の一期一会の任務地とかだったら、唐突に笑っていたところだ。私えらい。

 

「おい、新人。今からお前の力を測ってやるよ。構えろ」

 

 全く関係のないことを考えてニヤつくのを我慢していると、何故かセリスが獰猛に笑った。

 

「!?」

「!?」

 

 セーラとオリアナは、青ざめた顔色になってセリスから一気に距離を取る。

 

「遅い! 歯ァ食いしばれ!」

「え? なんで??」

 

 展開についていけずにいると、突然目の前に移動してきたセリスに顔面を殴られ、遅れてやってきた強烈な突風に弾き飛ばされた。

 

「がっ」

 

 身体が浮き、景色が流れていく。

 しかし、墜落した先の砂が優しく私の身体を受け止めてくれた。

 

「……」

 

 痛くはなかったけど、めっちゃびっくりした。

 

「いきなり何すんだ!」

「!?」

 

 起き上がって、一応抗議した。

 頭から瞬発的に生やしていた念糸を解く。殴られる直前に、頬の表面にケープ側の粒体金属を盾として現出させたんだ。

 まぁ、なんだ。出来るようになっといてよかった……。

 

「へぇ……。器用なことができるんだな? 生やせるのは全身かい?」

「……。試してみれば?」

 

 しばらく睨み合っていたが、セリスが肩を竦めて緊張した雰囲気を解いた。

 

「脅かして悪かったな。61位がどのくらいなのか試したかった」

「……。言えば、ちゃんと組手くらいはした」

「はっは。こういうのは不意打ちじゃないと分からないもんさ。悪霊だって、待ってはくれんだろう?」

 

 いやそうだけどさ。肩透かしを受けた。

 

「くく、セーラ! 安心しろよ、こいつは多分死なねぇ。あたしが守るからな」

「な、姉さん!」

 

 絶句といった表情でセーラが反応し、そのまま赤くなった。

 お~、なんか微笑ましいね。

 私ら完全に置いてけぼりだけど。

 

「なぜ、顔が赤い?」

「うるせぇ!」

 

 無知なオリアナが不思議がった。

 オリアナと私が配属される前に、仲良くなった先任とかが死んでんな、こりゃ……。

 

 

 

 

 

 残念な自己紹介会が終わり、セーラの顔色も落ち着いた。

 

「んじゃぁ、今日のノルマ分を集めるぞ。オリアナもいいな?」

「わかった」

「……」

 

 揶揄われたセーラは、頬を膨らませて黙り込んでいる。

 

「……なぁ、聞いてもいい? どうして骨を拾ってんの?」

 

 聖装に纏わりつく砂を払った私は、改めて意味を見出せない骨拾いについて尋ねた。

 出汁でも取るのか? マジで意味が分からんもんよ。

 

「あぁ? んなもん決まって」

「フェリス。お前が新任で配属されていたのは、中央か?」

 

 セーラが答えてくれそうだったが、セリスが遮った。

 

「そうだけど?」

「ふん。なら、知らないのも無理はない。中央に行けば行くほど人口分布は密になり、信徒の数が増えて神々の守護領域になる。辺境ほど、強力な悪霊は湧かないってことだ」

 

 辺境程、悪霊は強いってこと?

 んーなんか違和感があるな。

 

「人がたくさんいる町で、憑依を繰り返した色付きの悪霊の方が強そうだけど?」

「……。考える頭も多少はあるようだな。そうだ、憑りつきを繰り返した悪霊は強い。だが」

 

 そう説明しながら、セリスは念糸を操って銀色の巨腕を作ると、先程引きずっていた骨を掲げた。

 

「見ろ」

 

 骨には腐肉がまだついていた。そして何より、まだ骨の中から髄が滴っている。

 

「こいつは、この辺を泳いでいる糞古神の断片だ。あいつは、自身の身体から生えた余分な骨を自切しやがるんだ。そして何より、見てろ」

 

 セリスは右手に黄の魔法を発現させた。

 

「うわっ」

 

 ダウンバーストが巻き起こり、吹きあがった砂が彼女の手に密集していく。風に巻き込まれた砂が薄く広がり、高速回転で擦れ合い甲高く音を放った。

 うわ、気〇斬やんけ。

 私は異界の言葉を飲み込んだ。 

 

 セリスは、そのサンドソーとでも言うべき斬撃を骨にぶつけた。

 抵抗も見せず、骨はあっさりと切断される。

 しかし。

 

「……この骨はまだ生きてんだ。腐っても古い神の一部。文字通りな」

「うわぁ……」

 

 切断された箇所から神経の様な腐った肉が何本出てきて、切断された片方を拾い上げると再びピタリと結合された。

 びっくりするほど気持ち悪い。

 

「こいつに悪霊が乗り換えると、とんでもねぇバケモンになる。色付きの中でも上位の存在が唐突に湧くと思え」

「えぇ……」

 

 だから、『境界』のある東の海ってやばいのか。

 

「北、東、南、西。それぞれの『境界』に、この()()()をまき散らす古神共がいる。比較的おとなしいのは、西と南くらいなもんさ」

「それで骨を集めているのか……」

「バケモンが湧かないのに越したことはない」

 

 そりゃそうだ。

 

「しかし、神の骨を集めて……。殺せるもんなの、これ……?」

 

 殺せるって表現はあっているんだろうか。

 そもそも、再生するんだったら殺すの無理じゃね?

 

「セーラ、答えてやれ」

「ま、当然の疑問だな。集めた骨は、あたしら赤が焼くから大丈夫だ。灰にすれば再生はしない。それに、姉さんだって燃やせる」

「ふん。あんまり得意じゃないがな」

 

 セリスは指先に火を灯した。

 東の海に赤いゾルドは必須らしい。

 というか、セリスは赤の魔法も使えるのかよ。

 

「拾った」

 

 そんな空気をぶっちぎって、いつの間にかオリアナがビチビチと震える骨を拾ってきた。しかも指先に火を灯したセリスに、押し付けるように渡そうとする。

 

「お、おう。よくやったな」

 

 さすがのセリスも、どう褒めていいのか困惑していた。

 ……空気読めよ。

 

 

 

 

 その日の夜。

 格子状に積んだ骨に火を放った。

 場所は浜辺だ。

 燃え上がる炎を見上げていると、前の世界のキャンプファイヤーが思い浮かんだ。

 

「全てが灰に帰すように」

「あるべき理に戻るべし――」

 

 片膝をついて祈るように傅くセーラの祝詞が響き、灰が天に上っていく。

 赤い魔法の焔は祝詞の言葉に相違なくオケアノスの体の一部を破壊していった。

 再生を許さない炎。

 セーラの性格になんとなく似た光に思えた。

 

「お前らは眠って、明日に備えるといい」

「姉さん! また一人で夜に行くつもりかよ! 仲間が補充されたんだ、もう止めてくれよ!」

「……これで9年やってきたんだ。止める理由にはならねぇな」

 

 燃やす最中。セリアがそんなことを言いだした。

 セリアは夜中も骨を拾い続けるらしい。

 

 試したことはないが、ゾルドは睡眠も必要としないのかもしれない。

 そういえば私も、例の悪夢を見続けるときは、一週間以上毎日1時間しか眠れないというのはざらだった。ゲームは1日1時間。そんな軽いノリで、睡眠を邪魔してくるあの夢はマジで許せない。

 

「後輩を頼むぞ」

「あ! 姉さん!! 私も」

 

 セリスは砂風と共にスリットをなびかせて飛んでいった。黄色のゾルドって空も飛べるのか……。魔法の力ってすげー。

 人員が補充される間、夜中も動き続けてたみたいだなぁ。夕方の話を思えば、当然かもしれない。

 

「あぁ、行っちゃった……」

「セーラむん」

 

 セーラは肩を落とした。その姿は親においていかれた子供のようだった。さっきキレてた呼び方にも反応しない。よほど悲しいらしい。

 

「なぜフェリスは、セーラをセーラむんと呼ぶ? 本当は、セーラむんだったのか?」

 

 おーっと、更に幼いやつが反応した。

 

「セーラむんはあだ名だよ、あだ名」

「あだ名……親しいものが呼び合う言葉。親しいのか?」

 

 なんつったらいいかなぁ。

 

「髪の毛をいじり合えたくらいには、仲良しだよ」

「いじる。……髪を触り合うのは、親しいのか?」

「そうそう」

 

 素晴らしきキャッキャウフフワールド。布教しなきゃ……。どちらかというと、本当は眺めている方が好きなんだけど。

 

「お前ら、集中の邪魔だ!! 朝まで寮で寝てろ!!」

「ほーい」

「分かった」

 

 真横でだべっていると、正気に戻ったセーラが流石にキレた。

 昔は私の口調を真似してきたもんだが、言葉遣いが乱暴になっちゃってまぁ。真似してくるのが面白くて、同期に色々仕込んだけど。今はどうなってんのかな、皆。

 

 

◇◆

 

 

 浜の上で赤い魔法の光が煌々と燃えていた。その近くには、赤く光る目をした女が佇んでいた。赤のセーラだ。

 

「あ、姉さん! 全部焼いたよ」

 

 感知したのか、セーラはセリスのいる虚空に向かって手を振り上げながら話しかけた。

 新任の前では偉ぶっていたが、セリスの前ではまだ幼さを残す振る舞いをする。

 セリスはセーラへ向けて急降下した。

 

「ふん。……赤の火は早いな。追加だ」

「わかったよ!」

 

 セリスが銀腕で骨を積み上げた後、セーラが再び魔法を行使した。

 赤の魔法を行使するセーラの横に座り、セリスはしばらく考え込んでいた。

 

「おい、セーラ」

「ん? 何、姉さん」

 

 セーラは声だけで反応した。魔法への集中を切らさないためだ。

 

「お前、フェリスと同期なんだってな」

「うん、そうだよ」

「あいつ変じゃないか?」

「変? ……あいつは、変に器用なやつだった。なんで61位になったか分からないくらいには――」

「可笑しいのはそこじゃねぇ。最初お前もそうだと思ったが、フェリスとは違う。……たった半年外に出ただけで、あそこまで()()が育つもんかよ」

 

 セリスの知識では、外に出て1〜2年くらいのロールアウトしたてのゾルドは、全員オリアナ程度の知識や感情しか持っていない。それは、ある程度の道理を叩き込まれた感情の醸成していない子供と変わらない状態だった。

 

「性格……? いや……、あいつは最初からあぁだった、とおもう」

「なに?」

 

 セリスは疑念を深めた。

 

「何がおかしいんだよ、姉さん」

「早すぎんだよ」

「え?」

 

 集中が切れたセーラの魔法が止まった。焼き尽くす前に止まった為、古神の骨が再生し始める。

 

「だから早すぎるんだ。普通、『形成期』ってやつになるのは、5年越えてからだ。早いやつは2年くらいか。……その間に何人も仲間が死んでいくんだ」

「何を言っ」

「お前が味わった事。何度も繰り返して……私達は、ようやく人格を得るんだ。同じ失敗を繰り返さないように」

「……」

 

 セーラとセリスしかいない浜辺に沈黙が降りた。

 セーラが再び魔法の光を灯したのは、しばらく後になってからだった。

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