贄のフェリス   作:peg

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奉仕の

 何日も経ってくると、拾い集める骨の量も減り、自然と皆で集まるようになった。寮ではなくて、浜辺で行う骨キャンプファイヤーの前でだが。

 

 個人的には絵柄再現板(パルテラ)を使ったあの遊戯をやりたかったが、実はあの遊びは魔力の消費量が半端ないらしく、連続で遊べるものでもないらしい。

 

「あん? なんで魔法を複数使えるかって?」

 

 手持ち無沙汰になったセリスに、どうして複数の魔法の適性があるのかを聞いてみた。何種類も使えるなんて、聞いたこともなかった。

 

「ふん。神殿側も完全に把握してることじゃないらしいが……」

「ん、分からないってこと?」

 

 腕組みしたセリスは、少し言葉を選ぶように話した。

 

「いや、そうじゃねぇ。あたし等の中でよく言われているのは……色違いの仲間と過ごす期間が長いと、自然と使えるようになるってやつだな」

「自然となのか……」

 

 要するによく分かってないわけね。

 

「あたしも、ここでは赤の仲間と過ごすことが長かったからな。そんなに間違ってるとは思えねぇ」

「おぉ」

 

 つまり、私もミーアグリーンとかオリアナブルーとかセーラレッドが使えるかもしれないわけか。ちょっと興奮してきた。

 魔法をいじっているときだけは、荒んだ私の心が創作意欲のようなもので癒やされているのを感じる。

 魔法はいい。やはり魔法。魔法はすべてを解決してくれる。

 

「うひひ」

「……なんというか、喜んでいるところ言いづらいんだが」

 

 隣に座り、少し言いづらそうに身じろぎするセリスと目があった。

 

「黒の魔法が《伝染》したり、《伝染》されたなんて話は聞かないんだ。辿り着くやつは少ないが、4色を使えるやつは《白》って言うらしいぞ」

「真逆(白目)」

 

 私の喜びは秒で終わった。

 

「……。黒が味方の力とか魔法の効果を増幅させてくれるっていうんだから、あたし等としては助かるんだ。ある意味特別だな。ま、元気だしな」

 

 一般的に黒の魔法は、念糸の力を増やしたり、味方の発現した魔法を増幅させたりと補助的な部分を担っていることが多い。多分、ほかの娘の黒い魔法に対するイメージが、フワーッてしてるからそうなるんだと思う。

 物理法則に割り込む知識無いだろうし、そりゃそうなるわな。

 

「白に会った」

「あん?」

「ここまで連れてきてもらった」

 

 そんな話に割り込んできたのは、オリアナだ。この岬の神殿に来る前、白い仲間に送ってもらったらしい。

 

「そいつは何位だった?」

「9、って」

「あぁ、グウェンか。あいつも元々は黄色だな」

「ふーん……」

 

 序列上位の仲間ともなれば、名前が売れているようだ。

 

「あたしも全員を見知っているわけじゃないが……。だが、15以下は、ほとんど白らしいな」

「黒は、いない?」

「さぁな」

 

 というか何だ。

 私は陰気な案内人のスカラベ馬車だったんだが。推察するに、オリアナは空飛ぶ清純派お姉さんの白タクシーで来たという事。この落差は何だ。61位と54位でそんなに差をつけるの?

 

「何故、フェリスは崩れ落ちてる?」

「さぁ?」

 

 

 

◇◆

 

 

 

 いくつもの蝋燭が灯された部屋。蝋燭の明かりでは、その部屋の暗闇を取り払うには心もとなかった。

 灯台の神殿にある祈りの部屋、その隣の小さな控室に立つのは老師アズイーラだった。

 

「チッ……クソが」

 

 口汚く独り言を言うアズイーラが、手に持つのは中央からの紙の手紙。

 そこには周囲の村々の嘆願が、優先順位を付けて書かれていた。多くは喜捨の多寡によって順位付けされているものだ。

 

 過去、この過酷な海の灯台にある神殿に仕える老師は、中央から都落ちしてきたものが多い。アズイーラの来歴をフェリスが知れば、マウント合戦に敗れた哀れなハゲのオッサンという誹りを受けるだろう。

 しかし、都落ちした彼らは、少ない手札でこの過酷な東の海を乗り切らなければならなかった。

 

 この灯台にある神殿が簡素な作りになっている理由は、先任達が悪霊の上位種に負けて何度も更地になったためである。いずれも境遇はアズイーラと同じだった。

 彼も選択肢を誤れば、先任達と同じ道を辿るだろう。

 

「せめて、19位が白になれば……」

 

 中央への復権。

 彼の頭にあるのは常にそれだった。

 上位の白いゾルドを持つことは、それだけで誉れ高い。評価も上がれば、自ずと中央へ戻れるはずだった。

 しかし、実際に配属されたのは、序列の低い青と黒。

 

 19位が持たない青はともかく、本来は生まれついてながらに序列の高いはずの黒。そして、欠損した赤。

 彼が今必要としているのは、黄色を白く育て上げるための序列の高い青だった。

 

「……上手く間引かなくては」

 

 バランスを崩せば全て水泡と帰す。

 しかし、19位が保有する赤い魔法はいらない。

 多くの神殿で、そんな舵取りが行われていた。

 

 

◇◆

 

 

 仲間との仲を深めたり、骨を焼いたりしている生活にさらに飽きてきた中。

 ある日、ハゲのオッサンである老師アズイーラから、祈りの間へ呼び出された。

 源餐(レゴラ)を貰うほど何かしていたわけではないけど、何の用かね。

 

「――ザルスの町。で、御座いましょうか?」

 

 小さな神殿の祈りの間で、私はオリアナと一緒にお祈りポーズで跪いて答えた。

 突然、老師に呼び出されて来てみれば、町に奉仕に行けという命令だったのだ。

 セリスは別の奉仕で既にいない。セーラは守りのために、ここへ残すらしい。

 そりゃそうだ。

 

「うむ。この町で勝手に物が無くなることが頻発している。調べてほしいと嘆願が入った。悪霊が出ているのではないか、とな」

「……」

 

 悪霊と関わりが薄そうな様々なことに、ゾルドを駆り出す村々も少なくはない。私には悪霊に対する不安が、喜捨と信仰の根幹にあるように思えた。

 ……実際脅したら、めっちゃお金くれるみたいだし。

 

「何もなければそれで良い。……54位よ、61位と伴に向かいなさい」

「はい」

「……」

 

 高速飛行物体セリスのワンオペで回してると思ったが、これまで閑散期だっただけで簡単な奉仕なら振ってもらえるようだ。

 今回の場合、序列が上のオリアナに付き従って奉仕に当たることになる。

 もう嫌な予感しかしなくて、すんげぇ嫌なんだが。

 

 ザルスの町は、私が案内人と辿ってきた街道を少し遡ったところにある中規模な町だ。

 しかしながら、情報の出入りが多そうな町での仕事を振られたのは僥幸かも。正直この頃暇すぎて、すこし刺激が欲しかったところだ。

 予想じゃあ、近隣漁村への奉仕が先だと思っていたんだけど。

 

 

 

 

 

 朝霧の中。

 寮に寄ってカバンを取ったあと、オリアナと二人街道へ向かった。昨晩から出かけていたセリスはまだ戻っておらず、セーラの炎が浜でくすぶっているのが見えた。

 手を振ると左手が上がった。

 

「オリアナは、ザルスの町に行ったことあるのか?」

「ない。わたしは、人の町に入ったことはない」

「え?」

揺り篭(モア)を出て、直ぐにここに来た」

 

 Oh……。

 オリアナは、びっくりするほど箱入り娘だった。

 オリアナの言う揺り篭(モア)ってのは、あのクソみてぇな訓練場のことだ。

 私は間違っても揺り篭なんて呼びたくないけど。

 

「んじゃあ。人の町は、楽しいってこと教えないとね」

「町は楽しいのか? 」

「そりゃ、楽しいさ」

「楽しいのか」

「あぁ。本もあるよ」

「そうか」

「買えばお前の物になるよ。壊れない限りはね」

「ほんと!? フェリス、早く」

「あちょ、おま」

 

 無表情のまま、ウキウキとした様子のオリアナが私の手を取ってが走り始めた。

 テンションの上がり具合がジェットコースター過ぎんだろ。

 本って言っても、市販のは薄い陶器製なんだが。

 普段、私の布製で慣れているオリアナが、がっかりしないかちょっと心配だ。

 

 ザルスへは、徒歩での移動となる。

 私達の足では、町には一日足らずで到着できるだろう。

 到着は夕暮れ時かな。

 

 

 

 

 町に入る厳重な門の前。

 私達は町の自警団と思われる兵士二人の前で足止めを喰らっていた。ある程度の大きさの町でよくあることだけど、クッソめんどくさい。

 私らの場合は、目と銀髪見ればわかりそうなものだけれど。彼らのお仕事上の判断に、私達としても下手には突っ込めない。後でトラブっても困るしね。

 しかし、いろんな宗派に言えるけど、神殿側は各聖装が通行証みたいな発想をやめてほしい。

 そんなのある程度セキュリティのしっかりした街では、「ちわーっす、〇〇電力でーす」からの玄関先でシャイニング・ウィザード強盗案件を疑われて普通に通過できない。

 

「嘆願を聞いて来た」

「ふん。小娘二人で、か……?」

「おい、東側から来たんだ。それにこの格好だ。たぶん、浄士様だろ? ……君たち本物だよね?」

「はやく、依頼主に会わせろ」

「いや、話聞いてる?」

 

 安っぽい門の前で、オリアナと門兵2人が騒ぎ合っていた。むしろ騒いでいるのは門兵二人で、オリアナに至っては高圧的に命令している。

 まずもって、オリアナが突撃したのがまずかった。無表情で不遜な印象を与えてしまったようだ。

 私達の頭から足元の先までを不審気味に眺めている様子を見ると、ヲーフィリア信徒の聖装を見たことがない様だ。

 ……多分セリスの不良スタイルしか見たことがないのだろう。天罰神ヲーフィリアの威光は、残念ながらここには存在していない。

 

「あちゃー」

 

 後方腕組みスタイルで様子を見守っていた私は、片手で顔を覆った。

 

「……まぁ、しゃーないか」

 

 余りの面倒臭さに悟りの扉を開きかけた私は、お姉さん風を吹かせ謎の喧嘩腰で門兵とやり合うオリアナを遮って前に出る事にした。

 そして、祈る様に手を組んで猫を被る。

 

「セリスお姉様を、ご存じではありませんか? わたくし達は、彼女ほどではございませんが、砥礪切磋と使命に準じております。どうか、他ならぬ無辜なる民草のためにも、道をお譲りいただけませんか?」

「フ、フェリス……?」

 

 外行き言葉で、うまいこと勘違いを煽る。

 門兵になるような脳筋なら、ちょっと難しい丁寧語を使われると相手の立場が相当上なのだと、勝手に勘違いしてくれるだろう。

 

 多分セリスは、この町に結構出入りしているはずだ。なんたって、毎日近隣の町や村々のしょうもない嘆願を奉仕として解決してるはず。それも彼女が勤める9年近く。

 虎の威を借りる狐じゃないけど、序列が上の浄士様の威光は通るような気がする。

 ま、ダメもとだけど。見た目不良だし。

 

「えー!? もしや、セリス様のご同輩の方々!? 失礼しました!!」

「どうぞお通り下さい!」

「えー……?」

 

 あっさりと通行を許可された。

 ちょっと待って。想像してたリアクションと違う。

 普段、中央付近の街とかで邪険に扱われてるんだけど。どんだけセリスの評価が高いのよ、これ。

 

「フェリス。せっかく町に入れたのに、なぜ目が遠くを見ている?」

「不良シスター以下の私……」

「……?」

 

 そりゃ、関わる年数による名声ってのはあると思うけど。あれか、不良が雨の日に猫拾ったら評価が高まる、あれか?

 

 

 

 

 白いレンガ造りの町並みが、視線の端を流れていく。砂を固めたような四角い壁が多かった。私が浜で作った砂レンガみたいな作り方なのかもしれない。

 いや、私が作ったやつよりはまともなんだろうが。

 

 

 私達は町の自警団に挨拶済ませると、クマみたいな男に先導されて白い町並みを歩いた。

 クマみたいな男は、自警団の副団長アロンというらしい。

 

「ハッハッハッ! いやぁ。セリス殿のご同輩であれば、安心だ。今日はごゆるりと休まれよ」

 

 アロンは快活に笑う男だった。

 私達は見上げてしまうような大男の背中を追った。

 大男を見上げた先、白い町並みは丘の上まで続いている。

 

「……ザルスの町では、失せ物が多いと聞き及びました」

「うむ。先月からそう言う町人が多くてなぁ。我らが見ていないところで、人が拐かされていないかも見てほしいものだ」

「……」

 

 人が居なくなっていないのに呼ぶなよ、なんて思うのだが、嘆願の不文律のようなもので要は金払うからなんとかしろというやつだ。

 

 自警団と名乗っているが、要は腕っ節が強いだけで町の治安を担っている連中だ。対人トラブル以外の面倒事を避けるのはザラだった。

 自警団ができるってことは、ここの領主はあまり真面目な領地運用をしていないらしい。

 

「単刀直入に言いますが、検討はついておいでですか?」

「……。そうさなぁ、盗っ人か物忘れか、はたまた悪霊か。何にしても不気味なもんさ。さて、ここだ」

 

 私の質問への回答もソコソコに、そこそこのグレードの宿に案内された。

 

「今日はごゆるりと休まれよ」

「あ、ちょっと」

 

 これ以上会話する気はない様で、取り尽く島もなく、大男アロンは片腕を上げて去っていった。

 

 

 

 

 

 通された部屋は、宿場町で泊まった場末のうらぶれた宿と雲泥の差だった。

 部屋の片隅には、今回の依頼での注意書きが書かれたボードがおいてあった。

 あーはいはい、嘆願出したくせにあんまり関わりたくないわけね。

 しかしながら、これでも中央寄りの嘆願と雲泥の差があるくらいには待遇がよかった。

 

「悪霊、ではないのに奉仕するのか? 良く分からない」

「そう。私も……全っ然、納得がいかない」

 

 中央寄りの依頼では、こんな良い境遇で迎えられたことなんてなかった。中央付近の村なんて、信仰がブッキングしまくって武闘派のヲーフィリア信徒の肩身が狭かったくらいだ。

 なんでこんなに境遇がいいの。

 

 そんなことを考えながら、私はふかふかのわらベッドに大の字になった。

 

「あ〜〜〜。もうどうでもいいや」

 

 香り立つわらの匂いに、考えていたことが秒でどうでもよくなった。

 ぽかぽかのいい匂いがする。……とりあえず依頼は明日から。今回はガチのボランティア(奉仕)になりそうだけど。

 

「フェリス。いったいどうした? 町に着いてからのお前は変だ。いや、いつも変なのだが」

「まって。普段から変っていう認識は、どういうことなの!?」

 

 扉の前に立ったままのオリアナへ、起き上がる勢いのまま人差し指を指した。なんで、私が変人扱いされにゃいかんのだ。

 

「なぜ、町の人と話すときに、いつもと違う話し方になる」

「あ~。そっからかぁ……」

 

 なんていうか。

 ある程度知識があって、常識の無い奴に説明するのって難しいんだよね。

 違う国の習慣を説明するような感じに近い……のか。

 んー、いやこれはあれだな。そう、例えるなら、排泄したことのない奴に、う〇この利用価値からバイオマス発電の優位性を説明するくらいには難しい。すなわち、材料代が有料になると詰みます。駄目じゃん。

 

「それから、ここではどうすればいい? 宿に来るのは初めてだ」

「鞄そこらへんに放って、適当に寝な」

「……え?」

「借りてるんだから、自分の寮と同じだよ」

「……そうなのか」

 

 所在なく立ったままのオリアナに、私の隣のベッドを親指で指した。

 

 宿って知識はあるけど、自分が使うときに考えが至らないのか。そりゃ、あの案内人も馬小屋にぶち込むわな。

 

「……。かさかさ、音がする」

「そりゃ、フカフカわらベッドだからな」

「……ふかふかなのか。匂いもする」

「たぶん新しいよ、これ」

 

 ベッドは新調したてなのだろう。ラッキーだった。

 しかもこのベッド、底敷が板じゃなくて多分網だ。意外にも、スプリングベッドみたいな反発力がある。初めて乗ったわ。

 寮のやつも、そのうち改造しよう。

 

「いい……」

「だろ?」

 

 このベッドも結構いいが、やはり前世の高反発マットレスが恋しい。この世界での最高級ベッドは、きっと魔法エアーベッドだ。いつか私が金持ちになったら、セリスみたいな風魔法使いを一晩中酷使して、車で時速80kmくらい出したときの圧力で出来たベッドを作らせて快適な睡眠を得るんだ。

 

 そんなことを夢想しているうちに、夜が更けていった。

 

 

 

 

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