現地に転生しまして。   作:ナハトAB

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序章
第1話


 

"人間には無限の可能性がある"。誰かが、そう唱えた言葉である。

 

その意味とは、名の通り"人間には可能性が無限大に広がっている"という事であり。己がその可能性を掴んで見せる、とそう決意を込めてどこまでも愚直に努力し続けてこそ初めてその可能性を掴めること。

 

それが、たとえどんなに困難を極める可能性であろうとも。

 

ならば、ならば。その無限の可能性があると言われている()()()であれば、どこまでも愚直に努力し続ければ――――人間をはるかに凌ぐ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

血を吐く思いをしながらも。

 

死への恐怖に駆られながらも。

 

身が千切れるほどの激痛がしながらも。

 

気を抜いたら、瞬く間に心が崩壊してしまうほどの苦痛にさらされながらも。

 

それでも、それでも尚、"可能性"を掴むために努力し続ければ……誰にだって、何でも、打ち勝つことができるのではないだろうか──────────

 

 

 

 

――――ある日、法国の近くにある村でいつものように両親の農作業を手伝っていた少年がいた。

 

「スヴェルーそろそろ終わるわよー」

「わかったー」

 

農作業をしていたところ、母からの声が聞こえそちらに振り返って、母の方に向けてそう返事をする。

そんな母のそばには、農作業に使う農具を片付ける父の姿もあった。

 

「ん……」

 

振り返る際、自分の金髪が一瞬視界に映った。それほど素早く振り返ったようで自分の金髪が目に少し入ってしまったが事なきを得た。

 

「今行くよー」

 

いつものように、農具についた土を手を使って適当に土を振り払ってから、両親の元へ戻ろうと一歩を踏み出したところだった。

 

「……?」

 

ズキッ、と一瞬だけ頭が痛みが走った。それはすぐに収まったため、さほど気にしなかったのだが……

 

「っ……」

 

さらに一歩踏み出すと、さらにズキッ!と先ほどよりも強い頭痛が頭を襲ってくる。一体何が――――と頭を手で抑えていたら、いきなり目の前にある光景にノイズらしきものが走り始めた。

 

ノイズを認識すると同時に、ズキッと痛む頭痛が激しくなっていき、今にも誰かが頭を殴ってくるような激痛が走る。ガンガンとすぐそばで鐘が鳴るような耳鳴りもする。

 

「ッ、が……はッ」

 

それに思わず呼吸が止まってしまい、その次の瞬間ひどく乾いた咳が出る。

 

なんだ、なんだこれは。身体は強張り指一本とも動けなくなり、ぶわっと身体中から嫌な汗がにじみ出る。

 

――――<Yggdrasil>

 

ガンガンとする頭痛と耳鳴り、ノイズが走る中……どこからか機械的な声が聞こえた。

 

――――<Yggdrasil>

 

――――<Yggdrasil>

 

――――<Yggdrasil>

 

――――<Yggdrasil>

 

よくわからない、理解もできぬ、文字のような何か。

 

その次の瞬間、自分の視界にはノイズが走りながらも先ほどまでいたであろう場所の光景ではなく。

 

見知らぬ誰かが、見知らぬ誰かと魔法を打ち出す光景。見知らぬ化け物が、人を殺す光景。見知らぬ誰かが、化け物を殺す光景。見知らぬ誰かと見知らぬ化け物が共線を張る光景。見知らぬ誰か。

 

「あ……ぁあ」

 

見知らぬ男の人。見知らぬ女の人。見知らぬゴーレム。見知らぬ耳が長い人。見知らぬ悪魔のようなモノ。見知らぬワニのような人。見知らぬゴブリンのような人。み、見知らぬ……見知らぬ、見知らぬ、見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ見知らぬ。

 

自分では到底知り得ないことであろう何かの映像が視界に映る。

 

「あ、あぁ……あ、あ゛ぁ、あああああああああぁぁぁぁぁあああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

脳の処理をはるかに超える情報量。頭がどうにかなってしまいそうで、気がついたら僕は叫びを上げていた。

 

――――――――<精神自然作用抑制>が発動されました。

 

「――――ァ」

 

また、どこかからか聞こえる機械的な声によって、強制的に感情が抑えられたような感覚がした。

 

「ァ……ア、ァア」

 

あまりにも急激な感情の揺れ幅に、ただそう声を漏らすしかできなかった。

 

「――――」

 

誰かも分からない、声が頭中を埋め尽くし……自分が立っているか倒れているかどうかも分からない極限な状態にまで陥る。今にも少しずつ意識が暗くなっていき、やがて視界が黒く染まっていった。

 

 

 

 

「……はっ、はぁ、ぁ!?」

 

沈んでいた意識が急浮上し、飛び跳ねるように身体を起こし反射的に激痛が走っていた頭を抑える。

 

「スヴェル!!?」

 

そんな時、すぐ近くにいた母の声が聞こえると同時に自分の肩に何らかの感触を感じさせる。

 

「あなたっ、スヴェルが!!」

 

俺の肩をキツく掴んできたと思ったら、気がついたら俺のすぐ前に母の顔があり……鋭い瞳が自分を突き刺さっているようにも見え、震えたような声を絞り出すように自分に呼びかける母がいた。

 

「あ……かあ、さん」

「スヴェルっ、スヴェル……!」

 

覚束無い意識の中、しっかりと目と目を合わせられたからか母は安心したような表情をするもそれは一瞬のことですぐに不安を帯びた表情に戻る。

 

そこに、勢いよくドアが開かれる。母の声を聞いてすぐ駆け寄ってきた父だった。息が荒いことから、慌てて駆け寄ってきたことがわかるぐらいだった。

 

「スヴェル……!」

 

膝立ちしている母の隣に同じく膝立ちする父は、母と同じくひどく不安そうな表情をする。

 

「大丈夫か、今、医者を呼んだからな……ッ!」

 

母に一瞥してから父は、医者がいつ来るのかをそわそわしていると言った様子だった。

 

(……ああ、僕は倒れたのか)

 

そこでようやく、僕が家の中にあるいつもの部屋にある、ベッドで寝ていたことを理解した。

 

────結局、村にいる医者によって僕の診察が行われたが、特にこれといった異常は見つからず今日は安静にして様子を見るということになった。

 

時刻は進み、その日の夜。僕が横たわっている大きなベッドの両隣には両親が寝ていた。いつも通りの光景といえば光景なのだが、僕の手には優しくもどこか心強さを感じる感触がある。それはもちろん両親の手であった。

 

「……」

 

そんな夜、僕は一人でに目が覚める。

 

(あれは、あれは……ユグドラシル、なのか?)

 

今日、突如目の前の映像が変わり、そこで目にした光景。あの光景に既視感を持った。

 

ユグドラシルという名前。自分がかつてはどこかの世界で働いているしかない会社員だった、という事。そしてそのユグドラシルで自分は人間種という種族を選んだプレイヤーであったという事。

 

自分が知り得ないはずの情報が突如入ってきたのだ。戸惑ってしまうのも無理はなかった。

 

なぜ、今になってユグドラシルの記憶が戻ってきた? それに……

 

(……<精神自然作用抑制>、か)

 

思わぬ情報が入ってきて、発狂しかけたその時にどこからか機械的な声でそう聞こえた。

 

確かにユグドラシルでは、数え切れないほどのスキルや魔法があることは知っている。

 

それでも、ユグドラシルの記憶に残っている限りでは<精神自然作用抑制>というスキルは知らない。

 

似たようなニュアンスだとアンデッドの種族が持つ基本特殊能力の<精神作用無効>があるが……記憶に残っていないだけで、<精神自然作用抑制>というスキル自体は存在していたのか。

 

そもそもスキルとは、種族レベルや職業レベルに合わせて得られるモノだったはずだ。

 

僕は人間種だから種族レベルはない。となると職業レベルになるわけだが……少年とも言える年齢の僕が、果たして<精神自然作用抑制>を得るほどの大層なレベルに達したと言えるのだろうか。

 

それとも僕が知らないスキルということは、ユグドラシルには存在していない職業があるのか。

 

……少なくともそれだけでは、分からないことだらけだ。

 

「……?」

 

ここまで思考を巡らせていて、ふと気がつく。

 

──なぜ、()()()()()()()()()()()()

 

年齢的にはまだ少年といえる年齢。成人しているのであればまだ説明はつくが、精神が未成熟である少年というのであれば、こんなに冷静なのはおかしい。

 

……これも、<精神自然作用抑制>の効果なのか? それとも記憶が流れ込んだ影響で、僕の性格に変化が起きたのか?

 

――――分からない。

 

記憶が流れ込んできたのは何故だ? これといった特殊な行動はしていないはず。

 

――――分からない。

 

今思えば、こうしてユグドラシルの記憶が流れ込んできた人間は、自分以外にもこの世界にいるのだろうか。

 

――――分からない。

 

何もかもが、分からないことだらけだ。こうして考え込むと、頭がどうにかなってしまいそうな感覚がするが……やはり、その感情が一定まで高ぶると急激に発散するように静まり返る。

 

「……ハァ」

 

ついさっきまでの自分と、今の自分とでは、天と地の違いがある。そう思わざるを得ないほどの思考を巡らせていた。ただ、ひとつ確実に言えることは……

 

(僕は、スヴェル・クインティア……いや、それはもう捨てた名だ。今はスヴェル、その名だけだ)

 

僕は、スヴェルという名を持つ少年であり、今まで過ごしてきた人生があるということだけは、確かに言えることだった。

 

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