「パトリックさ~ん」
パトリックさんがいるであろう、小さな稽古場の入り口で僕は彼を呼ぶ。
木製で作られた、パトリックさんの家のすぐそばに小さな稽古場がある。稽古場といっても、パトリックさんの家の裏にありそこそこの範囲内の外に木の板を隙間なくみっしりと並べて立てており、外からは見えないようにしているという簡易的な稽古場となっている。
ここで、時々訓練を希望する村人達や子どもとの触れあいに使う場でもある。
「ん、スヴェル君か」
稽古場で整備をしていたもようパトリックさんは、そこから出てくる。
「おはようございます、パトリックさん」
「ああ、おはよう。スヴェル君が稽古場に来るとは珍しいな」
記憶が流れ込んでくる前の僕は、剣術などといった戦闘技術に興味はなかった。いつも両親の農作業を手伝っていて、いつかは両親の後を継いで農作業をする、という感じだった。だから前までの僕は稽古場に足を運ぶことなんて年に一回あるかどうか。
だからパトリックさんは珍しいとそう言ったのだろう。
「はは……ちょっと"武技"とか"魔法"に興味を持って」
「興味とな? スヴェル君も男の子というわけだ!」
なんだって、男なら"武技"とか"魔法"に憧れるものだからなと豪快な笑い声を上げるパトリックさん。
「――そういえば。スヴェル君、身体の調子は大丈夫か?」
「あ……」
言わずもがな、記憶が流れ込んできて僕が倒れたことを言っているのだろう。小さな村ということもあり、僕のことはすぐに知れ渡り村人のみんなからお見舞いやら何やらもらっていたと両親に聞いた。
「そうですね、少し寝ていたらすぐに治りました。その、何かすみません」
「いや、謝らなくてもいいぞ。大丈夫ならいい」
そう口にしたパトリックさんは、僕の頭を優しく撫でてきた。
「せっかく来てくれたのだし、スヴェル君の言っていた"武技"や"魔法"について勉強していくか?」
「あ、はい! よろしくお願いします」
質問できたらそれでいいと思っていたのだが……パトリックさんが改めて教えてくれるとの事で二つ返事でそう言ったのだった。
◇
「なるほど……“武技”はそうして習得するんですか」
「ああ、そうだ。自分の感覚ではの話になるが……」
パトリックさんは、稽古用の木で出来た剣を持ち構えの姿勢に入る。そんなパトリックさんの目の前には、打ち込むのに最適とも言える形をした藁の人形があった。
その次の瞬間、パトリックさんの身体が一瞬ブレたと思ったら、いつの間にか藁人形から藁の欠片が舞い上がっていた。
「これが<斬撃>だ。最初に習得する武技としては、これが一番多いだろう」
瞬く間に既に剣を振り下ろしていたパトリックさん。確かに普通に振り下ろすより<斬撃>を使う方が振り下ろす速度が上がっている。振り下ろした際の風がこちらまで来ていたことから考えると、威力も上がっていると考えていいだろう。
<斬撃>というオードソックスな名前。だが、オードソックスだから……という理由にはならないことが分かった。自分の武技に対する認識を変える必要があるな。
「パトリックさん、僕も<斬撃>を使うことは出来ますか?」
「そうだな、スヴェル君が懸命に稽古に打ち込めばいつか使える日が来ると思うぞ。俺も、稽古に打ち込んでいたら……なんだ、その。ビビッと来てな……」
「ビビッ?」
つまり、武技が使えるようになるのはあくまで感覚的な話と言うことなのだろうか。
「そう、ビビッときてな。そうしたら自分の思うがままに剣を振ったら<斬撃>ができたわけよ」
「なるほど……」
(ユグドラシルのように、目に見える条件で習得できる訳ではないのか。うーん、どうやら一筋縄では行かなさそうだな)
「いてて……<
パトリックさんは何やら腰に手を当てて魔法を唱える。すると、彼の体が薄い緑色の光に包まれた。
まさしく回復魔法といっても差し替えないものである。
「すまないな、スヴェル君のためにと思って張り切りすぎたみたいだ」
疑問を抱いた僕を見かねて、パトリックさんはそう答える。
どうやら、僕が見ている手前張り切りすぎて腰を少し痛めたようだった。
<
(ライト、ヒーリング……か)
ユグドラシルでは、第一位階魔法なんて序盤の序盤でしか使わない魔法。ユグドラシルのプレイヤーであるならともかく、僕は今この現実で生きている。たかが第一位階魔法とは考えない方がいい。
物は試しにと思い、パトリックさんを目視して先程パトリックさんが唱えた詠唱を真似てみることにした。
「<
(まあ、ちゃんと勉強しないと使えないよな……えっ?)
使えないだろう、と思った矢先、なぜかパトリックさんの体が薄い緑色の光に包まれていた。
「……」
それに気づいたパトリックさんは、大きく目を開いて僕を見た。
(……今のって<
ただ詠唱を真似てみただけで、何故か<
ここの世界での常識では、第一位階魔法といえどそれ専門の勉強をしないと使えないはず。
(やはり、ユグドラシルの記憶が何か関係あるのか……? あぁ、分からないことが増えたぞ)
想定とは違った現象が起こり、混乱する。
「……スヴェル君。今の、どうやったんだ?」
パトリックさんは、真剣な目差しで僕を見つめながらそう口にする。
「――――パトリックさんの魔法を見て、僕もやってみようと思って……」
誤魔化しは効かない。というよりも誤魔化しはやらない方がいい。なんとなくこの場面ではそう判断し、事実を伝えることにした。
「……つまり、俺の魔法――<
「はい」
それから、数秒ぐらいの間が空いて。
「……分かった。ともあれ、君が<
「あ、いえ。どういたしまして……」
結局、そのままパトリックさんとの勉強は終わりとなった。……まさか見よう見まねで<
こうなってくると、やはり自分がどこまでやれるのかを確かめる必要がありそうだな……