スヴェルが寝静まった深夜。スヴェルの家にある居間では、スヴェルの両親とパトリックが互いテーブルを遮って向き合っていた。
「息子に関して話があると聞きましたが……息子が何か……」
スヴェルの父は、息子に関して話があると聞き少なくとも平常ではいられず妙に緊張していた。それは母も同じく。
「……そうですね、今日スヴェル君と"武技"や"魔法"について勉強をしていたのですが」
今朝、スヴェルが"武技"や"魔法"を知りたいとそう言いパトリックの所に足を運んでいた。そこで何かあったのか――そこで、彼は一旦話を切る。ただならぬ様子のパトリックに、両親は息を呑むしかできない。
「スヴェル君は……何らかの"
「な……ッ!」
それを聞いた父は、思わずそう声を上げ。母は思わず口を手で抑える。
「あの子が、"
「――スヴェル君が、<
スヴェルが、<
「本来、"魔法"とは学ぶ環境が整えた場で学んでこそ、行使できるものです。それでこそ、学ぶ環境があったとしても才能がなければ魔法は使えない」
それは、両親としても知っている事だ。この村では"魔法"を行使できるのはパトリックだけしかない。そんな彼が言うからこそ説得力があるものだった。
「スヴェル君が、行使した<
それがいかにとんでもないことなのか――それを理解した両親はもはや二の句が継げなかった。
「む、息子は……一体、どのように<
「私が<
「そ、それは……」
それじゃあ、息子はパトリックさんが使う魔法を一目見てその技術を学ぶかのように魔法を行使したというのだろうか。もしそうだとしたら……
「……なるほど。それで息子が"
「ええ。
それに、とパトリックは二の句を継ぐ。
「……これは、私の気のせいかもしれないのですが。スヴェル君、以前と比べて大人びた感じが出ていたといいますか……」
パトリックは元騎士。相手の強さを見極めて引き際を知る力を騎士には求められる。そのおかげか、そんなに顔を合わせていないとはいえ、今のスヴェルからは違和感を感じ取った。
「――やはり、パトリックさんもそう思いますか」
それに、肯定的な返事を返す父。それは母とて同じ事。仮にも両親なのだから息子のささいな変化に気づかぬはずはない。
「息子が倒れてから――妙に大人びたなとは思っていたのですが。それは気のせいではなかったようですね」
息子であるスヴェルの変化にいち早く気づいてはいた両親。その変化をパトリックも感じ取っていたことから、やはり息子に何かあったのだろうと確信を得た父。
「そうだったのですか。……大きなきっかけを機に、価値観が変わる話はよくあります。恐らくそれではないかと」
「価値観……ですか」
確かに価値観に変化があったのであれば、納得はできる。いわば"子の成長は早い"というものだろうか。
その成長の仕方はあまり心臓に良くないのだが、結果的に成長につながったのであれば……と納得する。
やがて色々と話を済ませた後、パトリックが家から去っていく。そして居間には両親二人だけのみとなった。
「……やはり、"あの家"の血を濃く継いでいる、という事か」
「あなた……」
「――それでも、スヴェルは俺達の息子であることは違いない。だろ?」
「――ええ、そうね。"あの家"の血を継いでいるとしても、私達の息子に変わりはないもの」
両親は、改めてそう口にするのだった。
◇
(“異能”……そういう事か)
同時刻、僕は両親とパトリックさんの話を偶然耳にし、歩みを止めていた。
(僕がいきなり第一位階魔法を使えたのも、異能が関係するかもしれないのか)
異能とは、生まれもった能力の一つでありその能力の種類は人それぞれ。中には生活に役立つ程度しかない異能もあれば戦闘において有利に立てる異能もある。
ユグドラシルにはない能力……ともあれ、偶然にも情報を得ることが出来た。
(妙に大人びたように見える、ね)
やはりユグドラシルの記憶は、僕の性格に影響を与えているようだ。
自分では完全に自然体でやってきたつもりだったのだが、両親やパトリックさんには変化を悟られた……つまりそういうことなのだろう。
そもそもの話、こうして思考を巡らせている時点で既に以前のスヴェルという人物とはかけ離れているのだ。
(……これ以上はよそう)
盗み聞きしてしまったことに、少し罪悪感を抱きながらもその場を離れようとする。
(っ……?)
そこで、またもやあの頭痛が襲ってくる。といっても今回の頭痛は、ユグドラシルの記憶が流れ込んできたあの時と比べたらだいぶマシだった。
前回と同じく視界にノイズが走ると、その直後またもやユグドラシルと思われる光景が目に映る。
何人もののプレイヤーが、自分に向かって襲い掛かってくる光景。だが、その記憶の中の僕は、難もなく応戦する。
どれもレベル百はあるプレイヤー。それだけではなく、パッと見て何十人もいる。だというのに、その記憶の僕は対峙するプレイヤーをも越える力と速度を以って殲滅させた。
――――まるで、僕が僕でないように。それでこそ、自分という存在が
「――ッ、はぁ」
そこで、光景は終わり……気が付いたら今に戻っていた。一粒の汗が頬をつたうのを感じ、腕でそれを拭う。
(ユグドラシルにいた僕は、一体……何者なんだ?)
レベル百はくだらないプレイヤー数十人を相手にして、それすらも殲滅できるほどの力を持っている。それほどの力量を誇るプレイヤー……
(……分からない)
その光景は、断片的であった。ユグドラシルにあったであろうどこかの場所で、数十人のプレイヤーと戦闘があってそれに一人で勝利した、そんな光景だった。
前回に続いて今回もということは、今後も断片的に記憶が戻ってくるのか?
少なくともあり得るとそう考えることにし、まだ話し合いをしている両親とパトリックさんの声を背にして、部屋に戻っていくのだった。