チャンプルジムリーダー見習い(仮)   作:ホネホネ

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眠りにつくまで日曜日【前編】

 

深夜、屋根裏の方から妙な音がするのだという。

 

「妙、とは?」

「足音いっぱいみたいな音とか、あと、なんかガリガリってひっかくみたいな音とか、金属を引きずるみたいな音とか呻き声とか……」

「どっかから入り込んだポケモンじゃないですか」

「ポケモンじゃなかったらどうすんですか!!?」

「声がデカい……」

 

怯えて縮こまるヤシオへ「じゃあ今から屋根裏を見に行きましょうか」とアオキが提案したら「今から!?夜だぜ!?!?」と裏返った声を上げられた。

 

「明日でもいいですが、明日は自分が仕事で日中いないのでヤシオ1人で頑張ることになります」

「やだ!!!ムリ!!!今来て!!!!」

「声がデカい……」

 

懐中電灯を手に持って階段を上がる。騒ぎに目を覚ましたオドリドリがアオキの肩に止まって付いてきてくれた。

 

前々から思っていたがやはりプクリンとイエッサンが姉貴分で、ヤシオが末の弟といった関係なのだろう。

アオキたちの後ろをプクリンとイエッサンに手を繋いでもらったヤシオがへっぴり腰でついてくる。

 

(……今脅かしたらすごい勢いで転がり落ちていきそうだな)

 

ふと思い浮かんだ考えは、オドリドリの羽根ビンタで止められた。流石にしませんよ、という意味も込めて喉元を撫でてやる。

 

 

 

階段を上がって少し廊下を進んだ右手、1週間前まで空き部屋だったその場所が現在のヤシオの部屋である。

ちなみにヤシオの部屋の真下がダイニングキッチンに当たる。

 

中はまだ仮宿といった様子で、以前アオキが使っていた机や本棚などはあるが、そこにヤシオの痕跡はほぼ無く、送られてきたスーツケースが彼の棚代わりになっている。

敷かれた布団を踏まないように、彼の部屋に入って、天井を見上げた。

 

音がするのは天井裏だと言っていたが、今は特に音はしない。天井を指差しながら振り返ってヤシオへ視線を向けると、壁際の本棚を背にした彼はブンブンと首を縦に振った。

 

正直よくわからないが、オドリドリは天井のある一点をじっと見つめ続けているので何か感じるものはあるのかもしれない。

 

「ヤシオ」

「ウォァア!なに!?」

「(名前呼ばれただけでビビってる……)……押し入れから天井裏に繋がっていたと思うので見てきます」

「え?マジ?心臓剛毛じゃん……」

 

ビビり倒しているヤシオを背に、押し入れを開けてその上段に登った。狭っ苦しいその空間を広げるように、ベニヤ板の天井を押し上げる。

天井の戸をずらせば、先にオドリドリが天井裏の中へ入ってくれた。懐中電灯を手に、アオキも天井裏へ頭を突っ込む。

当然ながら中は真っ暗で、家にとりあえず置いてあるだけの懐中電灯の明かりではごく一点をぼんやりとしか照らせない。

 

「オドリドリ、何かいますか」

 

そう問いかけるが、決して夜目が効くわけではないオドリドリだ。その目に見えているものはアオキとさして変わらないようだった。

少し奥の方へ入ってくれたが、積もった埃で羽根が黒く汚れて嫌そうだ。無理して入らなくて良いと声をかける。

 

「なんかいんの!?!?」

「今のところいないです」

「いねえ方が怖えけど!?!?」

「暗くてよく見えないので……」

 

一旦、天井裏から頭を引っ込めて、電灯の明かりが眩しい部屋へ視線を移す。

 

「特に音もしませんし、今のところは…………」

 

何もいないようですよ、と言いかけたアオキの視線はヤシオのほうを向いて止まった。

 

正確には、ヤシオの後ろ。

彼が背にしている本棚のある一点。

それでアオキもまたようやく理解した。

 

「なに!?今のところは……なに!?急に止まって長考に入るのやめてくんない!!泣くぞ!!!」

 

ビクビクしながらこちらを見るヤシオ。

彼の隣にいるプクリンとイエッサンはとっくにそのこと(・・・・)に気が付いていて、気がついた上で放っていることが2匹のどこか揶揄うような表情から感じられた。

思えば、アオキの部屋に来た時からこの2匹は変な顔をしていたのだ。

 

今思えば、ただ単に笑うのを堪えていたのだろう。

 

それに気がついて、アオキは心の中で思った。

 

……いいですか、ヤシオ。

姉貴分っていうのはそういう生き物なんです。

それが自分にとって面白ければ、弟が泣こうが喚こうが構いやしないんです。

抵抗?……無意味ですから諦めましょうね。

 

「……ヤシオ」

「なに!?なんなの!?こわいこわいこわいって!!!!」

「泣かないで聞いてください」

「なになになになに!?!?」

「……ゆっくりと、落ち着いて、後ろを振り向いてください」

「なんれえ!!!!にゃんでそんな怖いこというのッ!!!!」

「泣かない泣かない」

「ウッ………ウゥ………」

 

半泣きになりながら、喉を引き攣らせて深呼吸をしたヤシオは右手で左胸を、そしてなぜか左手で股間を押さえながらゆっくりと後ろを振り返った。

 

前述したが、この部屋は元々空き部屋であり、使わなくなった机や本棚がある物置のような場所だった。

 

ヤシオの後ろには空の本棚がある。

そして彼が振り返ったその先、彼の顔の目の前、空のはずの本棚の中にそのナニカはいた。

 

真っ黒でふわふわとした掌くらいのサイズのナニカが2つ。

それがヤシオの視界に飛び込んできた。

 

目の前にいるナニカに気がついてヤシオが固まる。

そのふたつのナニカはヤシオの視線に気がつくと、それぞれ大きな口をカパッとひらいて、鳴いた。

 

「「ア゛!!!」」

「オ゛ォア゛アア゛ァア゛ァア゛ッッ!!!!!」

 

絶叫しながらひっくり返って倒れるヤシオを、イエッサンが笑いながらサイコパワーで抱き止めた。

 

 

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