チャンプルジムリーダー見習い(仮)   作:ホネホネ

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眠りにつくまで日曜日【後編】

 

「埃まみれで真っ黒になっていますが、あれはワッカネズミというポケモンです」

 

ヤシオは呆然とした顔のまま、ぺたりと床に座り込んでいた。

完全に思考が停止している弟分を見てプクリンが彼の頭をよしよしと撫でている。

アオキもまた彼のそばに膝をついて「大丈夫ですか」とその背中に手を置いた。

 

ヤシオを驚かせた真っ黒なワッカネズミはそのまますぐに逃げ出そうとしたのだが、イエッサンのサイコパワーで宙に浮かされて捕まっている。

宙で足をバタバタしながら浮いている様は落ち着いて見るとむしろ可愛らしいのだが、今のヤシオはとにかく思考が停止し切っていた。

 

「………やばい、心臓超痛え……」

 

ようやく意識を取り戻したヤシオの最初の言葉はそれだった。両手で左胸を押さえて息を深く吐く。

 

「え?なに、え?ポケモン……?」

「はい、餌か巣の材料を探して入り込んだのでしょう。古い家ですから」

「2匹いる……」

「2匹で1つのポケモンです」

「え?……ああ、ダグトリオみたいな……」

 

ヤシオは立ち上がると、宙に浮かされたままのワッカネズミを恐々と見た。ワッカネズミはそれぞれヤシオを見ると大口を開けて「「ア゛!」」と鳴く。

正体がポケモンだとわかったからか、ヤシオはもうビビることなく「声デカ……」と呟いた。アオキは無言でブーメランだと思う。

 

「オレが聞いてた音ってこいつらの足音とかってこと?」

「はい。さっきオドリドリが天井裏でクッキー缶を見つけてくれました。金属音というのはそれだと思います。キッチンから盗んだんでしょう」

 

埃で少し汚れたオドリドリが羽を大きく掲げてドヤッ!とする。

それを見たヤシオが「先輩、かわい〜」と言うと、プクリンが(浮気……!)とばかりにヤシオの脚を小突いた。

片脚をカクつかせたヤシオはプクリンへ言い返す。

 

「でもプクリンはさあ、おばけの正体がポケモンってわかっててオレのことビビらせたじゃん……」

「ププププ!プククー!」

「何が?」

「プクプ!」

「……まぁたそういうこと言う……」

 

ヤシオはプクリンの頭を撫でてから、ヤシオはアオキへ顔を向けた。

 

「とりあえずこの子ら外に逃してくるわ」

「はい、自分は天井裏の戸を戻しておくので」

「ん、ありがと」

 

イエッサンとプクリンと共にヤシオは階段を降りた。

そのまま玄関からワッカネズミとやらを放り出しても良いのだが、埃まみれなのが気になって一旦洗面所でそのポケモンを洗ってやることにした。

洗台に栓をしてから、ぬるま湯を出してそこにポケモン用のシャンプーを垂らしてから軽く泡立てる。

 

「イエッサン、いいよ」

「きゅ!」

 

サイコパワーで浮かせていたワッカネズミを洗台の中に移動させると、能力を解除した。

 

「ア゛!!」

「ア゛!!」

「夜だから静かにしろよな。洗ったら外に逃してやるから」

 

自分がおばけにビビって散々大声を上げたことを棚に上げたヤシオは2匹を泡のお湯で撫でるように埃を拭ってやる。

少し洗ってやるだけでお湯が黒く変色していく。

 

「汚れやば過ぎじゃん」

「ア゛!」

「ア゛!」

「お前らほんとは何色?あ、白いな」

「ア゛」

「ア゛」

「お湯熱くねえ?気持ちいい?」

「ア゛〜」

「ア゛〜」

「何言ってんのか全然わかんねえ」

 

思っていたより大人しく洗われるワッカネズミをウォッシュしてから、自分のバスタオルで水気を拭ってやる。

ある程度乾いてからその2匹の首根っこを掴んで、玄関の外へ出て、地面に置く。

それから視線を合わせるようにしゃがみ込んで2匹へ言った。

 

「じゃあな、ちゃんと野生で暮らせよ」

「ア゛!?」

「ア゛!?」

「声でか……そんなんじゃ天敵にすぐ見つかっちまうぞ。って、コラコラ家に入ろうとすんな」

「ア゛?」

「ア゛?」

「いやアオキさんち居心地いいのはわかるけどよ」

「ア゛」

「ア゛」

「だからここはアオキさんち……っていうか、アオキさんのテリトリー!領土!縄張り!ってこと!ほら、ここは怖い鳥ポケモンとかいっぱいいるから、別んとこ行ったほうがいいって」

「ア゛ー」

「ア゛ー」

「クソ全然逃げねえ……ああもう、ほら!ここにいるとお前らなんかすぐ喰われちまうぞ!ガオー!」

「……」

「……」

「急な無反応やめろ」

 

ヤシオはガクリと肩を落とすと溜息をついた。

それから「……まあいいや、じゃあな」と呟いてワッカネズミに背を向けると、そのままさっさと家の中に戻る。

これ以上構うと情が湧く気がしたからだ。

 

玄関に入って靴を脱ぐ。

すると、その時ちょうど上の階から降りてきたアオキと鉢合わせした。

 

「あいつら外に逃してきたわ」

「…………そうですか」

「ん」

「ひとつだけ聞いてもいいですか」

「なんだよ」

「あなたの足に引っ付いてるのはなんですか?」

「……ウォワ!」

 

外に逃したはずのワッカネズミに足にしがみついていた。

びっくりしたヤシオが見下ろすと2匹は大口を開けて「「ア゛」」と口を揃えて言った。

 

「なんだよお前ら。そんなにアオキさんちがいいのかよ……」

「いえ、多分ですが自分の家がというよりは……」

「ア゛」

「ア゛」

「マジでお前らが何考えてんのかわかんねえ……」

 

しゃがみ込んで2匹の頭を指でつつくヤシオ。

それを尻目にアオキはリビングに一度引っ込んでから、あまり普段使っていない棚を軽く漁って、それからまた玄関に戻った。

 

「ヤシオ」

「ん、なんだよ、アオキさん」

 

アオキは空のモンスターボールをヤシオに渡した。

ヤシオはそれをキョトンとした顔で見つめる。

 

「……え、なにこれ」

「懐いてるようなので……」

「懐いてはないだろ別に」

「まあ、それは別に良くてですね、」

「いいのかよ、適当だな」

「追い出すにも抵抗するようですから……それなら一旦きちんと捕まえて、あなたの保護下に入れたほうがいいかと」

「オレ、こいつらのこと何も知らないんだけど」

「何事も初めはそういうもんです」

「まあ、そうだけどさあ」

 

渋々といった顔でボールを受け取ったヤシオは、それをワッカネズミに近づけてから問いかける。

 

「入る?」

「「ア゛!」」

「声でけえし、何言いたいのかわかんねえし……って、勝手に入ってる……」

 

ヤシオはどうしようとばかりにアオキを見上げる。

しかしアオキは静かに首を横に振った。

どうしようもこうしようも、人間の意思に関係なくポケモン側から懐いてきた時は割ともうどうしようもない。

人間側に拒否権がないという意味で。

 

「……明日からバトルを、と昼に言いましたが、少し延期にしますか。そのポケモンと交流するのが優先かと」

「交流ねえ……」

「捕まえて手持ちにするにしろ逃してやるにしろ、相互の対話と納得は必要ですから」

「確かにな。ま、とりあえず明日考えるわ。今日はもうねみいし」

 

ボールを手にヤシオは立ち上がって、それからひとつ欠伸をした。

それから階段に足をかけて、何かを思い出したように立ち止まって肩口で振り返る。

 

「あ、そうだ、アオキさん」

「はい」

「アオキさんの部屋のベッドの下にいた子ってアンタの手持ち?」

「……はあ、どの子のことでしょうか」

「どのって言われても、ベッドの下にいた黒くて毛の長い子だよ。見たことねえ子だったし、ベッドから出てる毛しか見えなかったから、名前とかはわかんねえけど」

 

……先んじて言っておきたいのだが、アオキの手持ちでヤシオと顔を合わせていないポケモンはいない。初対面の時に全員と顔を合わせている。

 

それに、例えヤシオの見間違えであったとしても、毛の長いポケモンなどアオキの手持ちにはいなかった。

 

……果たして彼は一体なんの話をしているのだろう。

 

「まあ人見知りとかなら無理させなくていいけどさ、そのうち挨拶させろよ」

「……え……あの……ええ……」

「んじゃ、おやすみ」

 

欠伸を手で隠しつつ階段を上がっていくヤシオの背を、アオキは困惑を隠せないまま見送る。

 

そんなアオキを階段の途中に立って見下ろしていたイエッサンが苦笑……というか「あーあ」となんだか可哀想なものを見る目をして、静かに首を横に振った。

それから、ヤシオに続いて2階へ上がっていってしまう。

 

「…………え?」

 

アオキだけがひとり、取り残された。

 






ププププ!(ほんとに!)プククー!(いるのー!)
「何が?」
プクプ!(おばけ!)
「……まぁたそういうこと言う……」
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