チャンプルジムリーダー見習い(仮)   作:ホネホネ

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なお、タイプ相性のことは考えないこととする




蛇足を解決する妖精

 

「……なんか、いるんですかね」

 

ヤシオが去った後、玄関に立ち尽くしたままのアオキは思わずリビングのその先、自室のあるほうへ目を向ける。

そこまで気にはしないけれど、そんな意味深なことを言われると流石に部屋に戻りづらい。

 

そんなアオキをオドリドリが応援してくれる。かわいい。

その喉を撫でつつ「今日自分の部屋で一緒に寝てくれませんか?」と言ったら、そのふわふわの羽根を顎元に当てて「やだ」の顔をされた。

そっか……やだ、か……怖いですもんね……。

 

とはいえ、明日も仕事なのだ。よくわからないものがベッド下にいようがいなかろうが、明日のためにも寝ないといけない。

アオキはずりずりと足裏を引き摺るような歩き方でリビングへ行くと、籠の中で寝ている何も知らないネッコアラを抱えて自室へ向かった。一蓮托生になってもらう。

 

「お」

 

アオキの自室の前には何故かヤシオのプクリンがいた。アオキに気がつくとニコ!と笑う。

 

「……なにかご用ですか」

「ププ」

(……わからん)

 

アオキが自室の扉を開けると、とたとたとプクリンが先に入った。何の用だろうかと思いながら腕の中のネッコアラを撫でつつ、プクリンを見る。

 

すると彼女は唐突に口を大きく開けて鳴き声を上げた。

 

それは、それを聞いたアオキにそういった分野への知識が少なかったからかもしれないが、そう、感覚としては、鳴き声というよりかは……

 

(……歌?いや、歌というより、これは、もっと……)

 

呪文みたいだ、とそう思ったその瞬間。

 

部屋の中の空気がヒビ割れたような、あるいは何かを無理やり捻じ曲げたかのようなラップ音が一度だけ響いた。

 

突然の音に思わず肩が跳ねる。

……それきり、無音。

 

今のは何だったのか、とプクリンの背を見つめる。

すると彼女はいつも通りの笑顔を浮かべたままアオキの方を振り返った。

それからアオキに向かって「ドヤ!」と胸を張る。……わからん。

 

「ププリ!」

「え、はい、ありがとうございました……?」

「プ!」

「…………?」

「プ!!」

 

もう一度「ドヤッ!」とされる。

それから向けられた「なんか私に言うことあるわよね?」という視線に、アオキも思わず長考。

それから、もしかしたらこれだろうか、と思って口を開く。

 

「……えーっと、あの、かわいいです、とても」

「プリ!」

 

プクリンは満足げな顔をしてうなづいた。

……先ほどヤシオが、クッキー缶を見つけてドヤッとしたオドリドリを「かわいい」と褒めたのを気にしていたようだ。

 

それならば、褒め言葉は自分ではなくヤシオ本人に言ってもらった方がいいのではないかと思ったが、まあ、誰でもいいから自尊心を満足させたかったのだろう。

代用品扱いされたアオキだったが、別に不快ではなかった。ポケモンの可愛らしいジェラシーに巻き込まれただけだ。稀によくある。以前コルサの手持ちポケモンの大乱闘に巻き込まれた時に比べれば……いや、この話はやめておこう。

 

それはさておき、アオキの部屋にいたナニカについては結局よくわからないが、プクリンが終わらせてくれたようだ。

理屈はよくわからないが、きっとそういうものなのだろう。

 

「プクリン、ありがとうございました」

 

改めて礼を口にすると、プクリンは片手を軽く上げたままとたとたと歩いてアオキの部屋を出て行った。

 

結論としてはただそれだけ。

それ以上のことは知らないし、知ろうとも思わない。

 

その後アオキはよくわからないながらネッコアラを抱いて寝たし、朝までぐっすりだった。

 

 

 

 

それからこれは余談なのだけれど、翌日ヤシオは昨晩自身がアオキに言ったことをすっかり覚えていなかった。

 

起きてきたアオキを見てもあの話題を掘り返すことはなかったし、それとなく「昨日寝る前に話したこと覚えてますか?」と聞いてたらこんな回答が返ってきた。

 

「覚えてるよ。ワッカネズミ優先だから1日1バトルは延期って話だろ」

「…………はい」

 

ちらりとイエッサンを見たが、彼女はポーカーフェイスのままアオキに微笑みかけるだけだった。

まあ、世の中知らなくていいこともあると言うことだろう。

 

特にそれ以上のことはなく、アオキもリーグへ出社する。

その日は職員出入り口で偶然上司であるオモダカと顔を合わせた。内心で(ワ…………)と思った。

 

「おや、アオキ、おはようございます」

「……おはようございます……」

 

「今日は良い天気ですね」などと声をかけてくるオモダカに適当に応対しつつ、アオキは彼女を、正確には彼女の長く豊かな髪を見てふと思った。

 

ヤシオが見たという「黒くて長い毛」とは、人の毛髪だったのではないか、と。

……なんとなく今そう思っただけで、別に確信があるわけではないのだが。

 

ふと、記憶が連鎖して思い返される。

ヤシオが言っていた、屋根裏から聞こえたという音の話。

 

(「足音いっぱいみたいな音とか、あと、なんかガリガリってひっかくみたいな音とか、金属を引きずるみたいな音とか、」)

 

(「呻き声(・・・)とか……」)

 

足音やひっかき音や金属の音はワッカネズミが出したものと考えて良いだろう。

 

…………呻き声、とは?

 

あのワッカネズミは特徴的で大きな鳴き声を上げていた。万が一にでも呻き声とは聞き間違えないだろう。

 

昨日プクリンがどうにかしたのはアオキの自室にいたナニカだ。それが屋根裏の呻き声と同一のものならいい。

 

でも、そうじゃなかったら?

 

(……まだ、何かいるんだろうか)

 

……まあ、古い家だしな。

アオキは今の自宅が立地の割にかなり安く借りられたことを思い出して、……それだけ。

害が発生するようならまた考えるが、現状は特に何かをする気もなかった。ヤシオについても近くにプクリンとイエッサンがいるのだから大丈夫だろう。

 

「アオキ?聞いていますか?」

「……はい、聞いています……」

 

まったく聞いていなかったが反射で返事をした。テメェ嘘つけよ……という上司の目線から逃げつつ、営業部の自身のデスクへ向かう。

 

さて、金曜日にどこまで仕事を終わらせていたのだったか。そんなことを思い返しながら、アオキは溜息をひとつ吐いた。

 






ヤシオはおばけじゃないものを「おばけだ!」ってビビるのに、マジもんだけは何故かさらっとスルーするタイプ。
アオキさんはそういう系のものは何も見えないし聞こえないし感じないし気にしないタイプ……というイメージです。


また、活動報告でも書いたんですが、ちょっとエッチな話(単発短編)が書かなくてはいけない(使命感)ので、こちらの更新ペースがゆっくりになるかもしれません。エッチな話は書くのにパワーが必要だからね。
というか今までほぼ毎日更新だったのがおかしいだろ!こちとら社会人だぞ!
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