チャンプルジムリーダー見習い(仮)   作:ホネホネ

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ねずみばくおんぱ

 

「ヨーグルトが一番いいっぽいんだよな」

「……はあ」

「ほら、食いつきが良い」

 

ダイニングテーブルの上に置いた浅い皿に大きなスプーンで5杯ほどヨーグルトをよそってやると、ワッカネズミはそこに頭を突っ込んで食べ始めた。

あっという間に粗方食べ終えると皿まで舐めるほどだ、確かに食いつきが良い。

 

皿まで舐めているワッカネズミを見たヤシオは「ハッ、浅ましいネズミ共め……」と悪役みたいな台詞回しで言った。

急な悪役ムーヴどうした?と思っていたら、それから「いっぱい食えよ……」とヨーグルトをさらに数杯よそってやっている。ツンデレのツン発言だっただけのようだ。

 

「思い返せば作ってた飯がなんか減ってるとか、そういうことはちょこちょこあったんだよな」

「そうでしたか、自分は気がつかなかったです」

「アオキさんかなって思って放ってたけど」

「……え?」

 

15歳の少年から、摘み食いするような大人だと思われていたらしい。……え?

 

 

勝手に住み着いていたワッカネズミを発見したその翌日のこと。

アオキが仕事を終えて帰宅し、夕食を終えた後に──今日の夕飯はグリルチキンだった。チキンを漬けるのにヨーグルトを使ったとかなんとか──新しい手持ちの様子を聞いた結果が冒頭だ。

 

「そうだ、ヤシオ」

「ん」

「昼飯の弁当、作ってもらってありがとうございました。うまかったです」

「ああ、別にいいよ、オレの分のついでだし」

「だとしても助、」

「ア!!」

「ア!!」

 

ワッカネズミのクソデカボイスにアオキの米粒ボイスが掻き消された。それにヤシオがちょっと笑って、それからワッカネズミたちに言う。

 

「うるせえって。つかお前らのおかわりはもう無しな。太んぞ」

「ア!?」

「ア!?」

「……なんか、声変わりました?もっとガラガラ声だったような」

「埃まみれのとこにいたから喉悪くしてたっぽい。ちょっと治ってきたよな」

「アー!!!」

「アー!!!」

「あんまデカい声出すなって。安静にしろ」

「ア……」

「ア……」

「素直……」

 

アオキは「手持ちに入れるのか?」を聞くつもりだったがやめた。少なくとも逃す・逃がされると言う選択肢は双方になさそうだったからだ。

 

「……ワッカネズミはバトルに出すつもりですか?」

「本人たちには割とその気があるっぽいんだよな」

 

テーブルから降りていったワッカネズミは2匹揃ってリビングにいるウォーグルに歯を剥き出しにして突っ込んで行っている。

が、気だるげなウォーグルの羽根の羽ばたきでかるーく吹き飛ばされていた。

それを見たヤシオが苦笑した顔でアオキを見た。

 

「……あー、とはいえこいつらがまともにバトルできるかどうかはわかんねえけどな」

「……育成もトレーナーの仕事ですから」

「ま、確かにな」

 

ヤシオは吹き飛ばされてリビングの床をコロコロ転がるワッカネズミの首根っこを掴んで回収すると、それぞれをスウェットの左右のポケットに突っ込んだ。そこから頭だけひょこりと顔を出すワッカネズミ。

 

ちょっと可愛いなと思っていたら、近づいてきたプクリンがヤシオのポケットからワッカネズミの片割れを引き摺り出して突然走り出した。

 

「あ!こらプクリン!いじめんな!」

「アアー!」

 

引き離されたもう片割れがポケットの中から悲痛な鳴き声を上げる。捕まえたワッカネズミを手に、走りながらその手をブンブンと振り回すプクリン。それを追いかけるヤシオ。

 

そんな彼らを見て溜息をついたイエッサンがプクリンの足元にサイコキネシスをかました。

途端に「プ!」とすっ転んでワッカネズミを手放したプクリン。

イエッサンはその勢いで床に転がり落ちたワッカネズミの片割れを拾い上げると、その頭をよしよしと撫でた。

 

……まあ、新しい手持ちと既存の手持ちのポケモン関係もなかなか大変だ。トレーナーが上手く取り持ってやらないといけない。

 

「家の中で対話をするより、ある程度外で発散させた方がいいかもしれませんね」

「あー、なるほど、それもそーかもな」

 

プクリンを抱き上げて……というより、両手で引っ捕まえたヤシオがうなづいた。プクリンはその短い手足をバタバタして暴れているが、その度にヤシオに抱え直されて逃げられないでいる。

 

「明日から始めてみましょうか」

「1日1バトルを?トレーナーとのバトルだろ?今の状況で?」

「ポケモンは割と実力主義的なところがあるので、手っ取り早いかと」

「アンタも意外と脳筋的なところあるよな……」

「わかりやすいでしょう。プクリンは新人に自分の実力を見せられるし、新人はそこでやる気を見せれば良い」

 

アオキはヤシオに捕まっているプクリンへ視線を向けた。その大きな瞳が合う。

 

「どうであれ、今はあなたがヤシオのエースなんでしょう?」

「プ!」

 

プクリンはその小さな手をギュッと握って拳を作って自信満々に見せた。

ヤシオはその頭にコツンと拳を落として「ワッカネズミいじめたことについてはオレまだ怒ってるからな?」と叱る。

 

「今日はプクリン1人だけで押し入れで寝ろよ」

「プク」

「やだじゃない」

「プクー!」

「やだじゃない!」

「リビングで喧嘩しないでください」

 

こうして見ると本当に姉弟みたいだな、と思った。

 

アオキはふと自分の幼少期に姉とした喧嘩のことを思い出す。

脳裏に想起される、泣きながらこっちへ向かって「あんたなんかもうしらない!」と喚いた幼い頃の姉の姿。

 

あの時、姉貴はなんで俺を殴ったんだったっけか。

……どうして、泣いていたんだったか。

 

 

 

 

 

さて、話は翌日の夜まで飛ぶ。

 

夕食を終えたアオキとヤシオはダイニングテーブルで向き合っていた。ポケモンたちはみなリビングで過ごしていて、その楽しそうな声が2人がいるキッチンまで届く。

 

「どうでしたか?」

「バトル?ワッカネズミ?」

「……では、バトルのほうからで」

 

1日1回ポケモン勝負をして、そして自分がどんな勝負をしたのかをアオキに話すこと。

それがアオキからヤシオへの最初の指導だった。

 

どうぞ、とばかりにアオキが目で示すと、ヤシオは少し考えるように視線を上に向けながらぽつぽつと話し始めた。

 

「んんえっと……街を出て、とりあえずぶらっとしてたら、トレーナーっぽいお兄さんがいたから、声かけて勝負さしてもらってえ……」

「はい」

「待って、メモ帳見ていい?」

「どうぞ」

 

ヤシオはポケットからメモ帳を取り出すと、走り書きで書かれたそれをざっと眺めてから、再度アオキを見て口を開いた。

 

「ん…………うん。で、相手が手持ち1匹だって言うから、オレもプクリンだけで行った。んで、お兄さんが出したのがワナイダーって子で、オレその子見んの初めてだったけど、見た目的に多分虫タイプ、ワンチャン草複合……?って思って、最初は様子見の意味も込めて冷凍ビーム打った」

「はい」

「そしたら一瞬でワッと張った糸で塞がれた」

「スレッドトラップですね。それでどうしましたか?」

「冷凍ビームを地面に打ってあっちの足場を悪くした。動きづらくさせたのと、妙にこっちに近づきたがってたから、それ対策」

「はい」

「あと糸を飛ばして拘束しようとしてきたりしたから、遠いとこからマジカルシャインで削り切ったって感じ」

 

おしまい、とばかりにメモを閉じてこちらの顔を見るヤシオにアオキは小さくうなづいた。

 

「まずはお疲れ様でした」

「うす」

「聞いている限り、タイプ相性のわからない相手にも考えて立ち回れていますのでそれは良いかと」

「ん」

「遠距離攻撃というプクリンの得意状況を保ち続けられていたというのも良いです」

「……ダメなところは?」

「特には無いです」

「え、ねえの」

「はい、聞いている限り良くできていたと思います。というかバトルの内容はそこまで心配していません。あなたならそうそう下手は打たないでしょう」

「そ、そーお……」

 

アオキがそう評価すると、ヤシオは照れたように視線を揺らしてから小さくうなづいた。アオキはヤシオのメモ帳へ一度目を落としてから口を開く。

 

「むしろあなたの中で反省点や疑問点があるのなら話してください。むしろそれがメインなので」

「あー、えーっと、じゃあ、勝負の後にワナイダーが虫タイプってのをトレーナーのお兄さんから聞いたんだけど、」

「はい」

「だとすると、オレの手持ちだと決め手がねえなって」

「……なるほど。弱点をつかれるわけではないが、安定した立ち回りができない、ということですか」

「ん、そうなるな」

 

今のプクリンの技構成では弱点はつけないし、イエッサンはむしろタイプ相性が悪い。

テーブルの上で自身の両手の指を絡ませたヤシオは、アオキの言葉にうなづいてから見つめる。その視線を受けてアオキは口を開いた。

 

「まあ、当たり前ですが、幅広いタイプに有利を取れるよう対策はしますね。とはいえ、等倍相手ならば戦術や立ち回りで対応は可能です。今日のヤシオがそうだったように」

「ああ、うん、まあ、それはそうだよな」

「なので、むしろ優先的に考えるべきは弱点タイプと半減タイプです。例えば、自分の手持ちの場合はノーマルタイプが中心なだけあって格闘に弱く、鋼と岩相手には威力が弱まります」

 

相槌を打つヤシオに、アオキは言葉を続ける。

 

「岩対策として草技、鋼対策として格闘や地面技は確保してますし、格闘相手にはムクホークが、……まあ、結果論的にではありますが、いますね」

「まあ、そりゃそうだよな……そういうことをジムリーダーのアンタが考えてないわけねえよな」

「あなたのプクリンは幅広く刺さりやすい氷技を持っている分、誰相手でも立ち回りやすいのがいいと思っています」

「うん」

「反面、苦手な鋼タイプへの対策が取れていないのが弱点かと」

「やっぱ炎技あった方がいいよな……そしたら今日も有利取れたわけだし」

「そうですね。まあ、とはいえ技構成にも限界もあるので、いろいろな障害をすっ飛ばした自分個人の意見としては、ぶっちゃけ仲間を増やした方がいいとは思います。これは簡単な話ではありませんが」

「あー、新しい仲間……。うー、育成知識、新しい子の生活環境整備、育成、既存手持ちとの関係……」

 

テーブルの上に突っ伏して呪文のように呟くヤシオにアオキも肯定するようにうなづく。

 

「その通り、容易ではありません。出会いや相性もありますし」

「だよなあ。現状できることっつーと、プクリンに炎技覚えさすことかな……いや、そうなるとプクリンへの負担が、んんんん……火炎放射大文字問題……」

 

頭を抱えるヤシオにアオキは小さく息を吐いてから「たくさん考えてください」と少しだけ口元を緩めて言った。

 

「既存のチームで新しい立ち回りを考えるのか、負担を増やしてでも新しい仲間を入れるのか、その判断もトレーナーの仕事です」

「はあい」

 

テーブルに片頬をつけていたヤシオは上体を起こすと、すとんと肩を落としてそう返事をした。

 

「困ったらいつでも相談してください」

「…………ん」

 

アオキは再度テーブルに突っ伏したヤシオを静かに眺める。そうしていると、ヤシオの服や髪を使ってワッカネズミが彼の頭頂部までクライミングしてきた。2匹コンビと目が合う。

 

「ワッカネズミはどうでしたか?」

 

アオキはヤシオに向けてそう問いかけたのだが、名前を呼ばれたと思ったのか、アピールするようにワッカネズミたちが彼の頭の上でぴょこぴょこと跳ね始めた。

その度に突っ伏していたヤシオの額がテーブルにゴツンゴツンとぶつけられる。

 

「痛、痛。ねえ、オレの頭の上でジャンプすんのやめてくんない……」

 

そう言いながらヤシオが顔を上げると、頭から振り落とされないようにワッカネズミたちが彼の髪を掴む。それはそれでまた痛かったらしく、ヤシオが呻いた。ちょっと涙目になりながらヤシオはアオキからの問いかけに答える。

 

「あー、それで、ワッカネズミなんだけどさ、」

「はい」

「なんか、バトル終わってから3匹をそのへんに放ってたら勝手に交流してたらしくて、なんか仲良くなったみたいなんだわ」

「それはよかったですね」

「それで、ハイパーボイスをさ、プクリンがワッカネズミに教えてやったらしくて、」

「仲良くなりましたね」

「それはいんだけどさ、オレが弁当食ってて、プクリンもイエッサンも目を離してた隙に、ワッカネズミがハイパーボイスで近くにいた野生のポケモンの鼓膜を片っ端から破壊してて、」

「お」

「慌てて野生のポケモン抱えてポケモンセンターに連れてって事情説明したら、お姉さんに「手持ちの子の行動はちゃんと制御できるようになってくださいね」って怒られた……」

「ああ……」

「オレもめっちゃ叱ったけど、なんか、こいつらに効いてる気がしないんだよな……」

 

ヤシオの頭からテーブルに降りてきたワッカネズミは、ヤシオがテーブルの上になにげなく揃えて置いていた両掌の上に乗ると2匹ぎゅっとくっついて寝転がった。

お前たちの話をしているというのにこの態度。

むしろ指の位置が悪くて寝辛いのか、ヤシオの指を好き勝手に引っ張ったり曲げたりして良い感じの寝やすい角度を模索している。

 

それを見下ろして眺めていたヤシオは、ふと顔を上げてアオキへ問いかけた。

 

「オレ、舐められてんのかな?」

「……懐いてはいるようですから……単にそういう性格なんじゃないですか?」

「だとしてもふてぶてしいな……」

 

手持ちとの関係や距離感に悩むのもトレーナーの仕事なので頑張ってほしい。アオキはそう思った。

 

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