チャンプルジムリーダー見習い(仮)   作:ホネホネ

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「火炎放射と大文字、アンタならどっちにする?」

「そうですね……自分なら、」

「アンタなら?」

「フレアドライブです」

「この脳筋物理戦法がよ!」

「先手を取って高火力で殴る。シンプルなのが一番強いので……」

 

 

「ごめん!アオキさん!バトルで倒されたワッカネズミがしょげてトイレに立て籠ってるからまだ晩飯出来てねえ!」

「そうですか……じゃあ今日は外に肉でも食いに行きますか」

「おい聞いたか!ネズミども!アオキさんの金で肉食えんぞ!」

「ア!!!」

「ア!!!」

「出てきた!!!」

「タカられた……?」

 

 

「チャンプルタウンの外の坂の上に変なトンネル?っていうか、門が閉まってるところあるじゃん。あれってなに?」

「……心霊スポットらしいですよ」

「は!?!なんでもっと早く言わねえの!?!?」

「夜は割と…………なんというか、まあ、近寄らんほうがいいです」

「なに!?なんで言い淀んだ!?怖い怖い怖い!!ぜってえ昼も近寄んねえけど!!!」

「はい、そうしてください」

 

 

「飛行タイプってずるくない?」

「よくこの家でその発言ができましたね……」

「ぐぇっ……待ってチルタリス先輩違うから、悪口とかじゃなくて……はい、すみません……申し訳ありません……」

「それで、その心は?」

「いやなんか普通にこっちが手ぇ出せない上空に行かれるとどうしようもねえから……」

「そういう相手を上からタコ殴りにするのが快感だとムクホークも言っています」

「それアンタの気持ちだろ……ムクホーク先輩すげえ首を横に振ってっんぞ」

 

 

「アオキさんってさ、10代の頃に手に入れられなかったものってある?」

「なんですか、急に……」

「んーん、心理テストみたいなもん」

「はあ……」

「なんでもいいから」

「……じゃあ、そうですね、」

「うん」

「…………強いて、言えば、」

「おう」

「一等賞、とかですかね……」

「ふーん」

「なんなんですか」

「それってさ、一生執着するもんなんだって」

「……確かに心理テストじみてますね……」

「実際のところ、どう?」

「…………あまりピンと来ないです」

「ま、そんなもんか」

 

 

 

 

日々は緩やかに、しかし確かに流れていく。

 

季節の変わり目。

上着を羽織らなくなった。

窓を開けるのに抵抗が無くなった。

日が伸びてきた。

ここに来てもう随分経って、季節が変わりつつある。

 

この生活に慣れつつある。

異邦人ではなくなりつつある。

「おかえり」と「ただいま」に違和感を覚えなくなった。慣れていく、慣れている、異常だったはずの過去が今という普通になっていく。自分の生活、暮らし、日常。この日々を楽しく幸福だと思うたびにそれがなぜあの場所だとできなかったんだろうと思う。どうしてうまくできなかったんだろう。何がだめだったんだろう。その理由がわからないからきっと今の安寧の日々もいつか過つとわかっている。この日々の終わりを考えないといけない。このままでは良く無い。知っている。変わらない生活の果てに何も残せないまま。きっと期待には答えられない。期待?違う、前提が、あれは期待ではなくて、ここにいていい理由を提示されただけだ。見たくない事実から目を逸らす。背く。何も変わらないとわかっている。眠っていたら夢を見た。夢の中の自分には姉がいて彼女は笑って手を引いてくれていたから母さんも父さんもいるということになっていたということになっていたということになっていたということになっていた。あ?都合の良い夢だと気がついた。だって姉はいない。手を引いてくれる人はいない。魘されている自分の声に気がついて深夜に目を覚ます。熱い寒い痛い。喉が酷く渇いていて水を飲みにキッチンへ行く。ぐらつく階段、どこまでも長い廊下、誰もいないリビング、その向こうにある部屋から溢れる微かなあかり。電話をしている声が聞こえた。何故なのかを知っている。どうしてなのかを知っている。誰のせいなのかを知っている。だから本当は間違っているとわかっている。曖昧な所在。空中に浮かんでいて地に足がついてないみたい。なんでここにいるのか。ゆらゆらふわふわぐらぐらがたがた。いつもそう。自分は誰かにとっての負担で障害で錘で不要な鎹。そんなものになっている。いつもリカバリーを考えている。平らにするため。1を与えられたら、1を与える。そうして0にする。そういうふうになっているはずだ。そうでないといけない。変わらないための理由が欲しい。普通であり続けるためにも努力が必要だ。ここにいるために走りつづけなくてはならない。そんなことしてもいつか転がり落ちて無意味になるのに。いつか、いつか、いつかいつかいつか、いつかって、そう終わりを考える。うまくやれないのなら誰もいないところで1人になったほうがいいのに。なんでここにいるんだろうって自問自答。ダイニングテーブルが目に入ってフラッシュバックする脳髄。暖かくて明るい部屋。笑ってみせる。凍りついたみたいに静まり返った食卓でみんながオレを見ている。笑ってみせる。視線視線視線視線。さっきまでのみんなの明るくて楽しい笑い声が耳に残っている。酸の臭い。ぬるま湯みたいな温度。流れ落ちるドロドロとした感触。汚い。気持ち悪い。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。全部がめちゃくちゃになってんだって、オレがめちゃくちゃにしたんだって気がついた。早く戻さないと早く戻さなきゃ早く戻して早く戻す早く戻せ早く口の中ごめんなさいごめんなさいごめんなさい気がつかなくてごめんなさいこんなことさせてごめんね苦労させてごめんね××にしてあげられなくてごめんねってねえなんで謝るの。オレ謝って欲しいなんて一回も言ったことないよ。ずっと楽しいよ幸せだったよ。ちゃんと××にされてたよ。オレが受け取った愛情はあなたにとっては違ったの。これは愛情と呼べるものじゃなかったの。ならきっとおかしいのは、おかしいおかしい、おかしいから、オレがおかしい、オレが悪いから。普通になれなかったのが悪くて、普通にできればよかったのに。普通に生きたい。普通になりたい。普通に、普通が、普通でよかったのに。手に入れられなかったら、きっと、一生執着する。嫌だ今欲しい。今じゃなきゃダメなんだ。普通に、まともになって、生きてみたい。だけどあなたみたいにはなれない。だって、オレは、

 

「ヤシオ?」

 

深夜、電気の落ちたダイニング。ぼんやりとした背の高い影がそこにあった。

心配そうな声の中に、大人が隠し事をする時の色もあって、相手からは見えないのをいいことにオレは笑った。

 

「ちょっと喉が渇いてさ」

「……そうでしたか」

「うん」

 

冷蔵庫を開けた瞬間、眩し過ぎる人工的な光が目を焼いた。すぐにミネラルウォーターのペットボトルを手に取って、閉める。目の裏に残る光の影。眩しいものは苦手だ。心地良いくらい微かな光源を頼りにグラスへ水を入れて、それから飲む。半分ほどまで減ったペットボトルを揺らして向こうに見せる。彼は受け取った。

オレは戻ることにした。何事もなかったみたいに部屋に戻って、何事もなかったみたいに寝て、何事もなかったみたいに明日を迎えればいい。そうすればなかったことにできるから。きっと彼も気がつかない。だって隠し事は得意で前だって誰も気がつかなかった。だから、

 

「ヤシオ」

 

名前を呼ばれる。引こうと思っていた脚を、どこに着地させればいいのかわからなくなる。

まるで陰を踏まれたみたい。明かりなんてほとんどなくて真っ暗なのに。どれが誰がなにがどこまでどうしてなんで影なのかわかんないのに。

 

「……どうかしましたか」

 

問われる。どうしたんだって、聞きたいのはこっちのほうなのに、その人はそう言ってどこか心配そうな声を出すから、オレはそれが嫌だったから笑った。笑った。笑ってみせた。笑ってみせた。笑ってみせた。みせた。みせた。

 

「なんでもない。大丈夫」

 

そう言った瞬間、あの人が怯んだのがわかった。

 

その理由は知らない。脚を引いた。おやすみって言って、背を向けた。大丈夫。明日になれば何事もなかったみたいに出来る。覚えてないって顔をして、また変わらない日々を継続できる。……ほんとうに?浮かんだ疑念を振り払う。部屋に戻る。待っていてくれたイエッサンが悲しそうな顔をしている。彼女が、彼女たちが助けを求めて欲しいことを知っている。手を握ることしかできない。握り返されたことが嬉しかった。許してほしい。

 





「10代の頃に手に入れられなかったもの」云々の話については、大好きなイトイ圭先生の漫画『花と頬』より
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