チャンプルジムリーダー見習い(仮)   作:ホネホネ

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飯は黙って食う派

 

チャンプルタウンに到着したアオキは少年──ヤシオを連れて宝食堂に入った。

昼時からは少し外れていたからか、食堂はそう混んでおらずアオキはヤシオと共にカウンターに座ることができた。

 

「……あ、ヤシオくんはアレルギーとか無いですか」

「そういうのは店に入る前に聞いとけよ……ねえけど」

「あと食べたいものありますか?」

「それこそ店入る前に聞けよ……オレがカロス料理食べたいとか言ったらどうすんだよ」

「……ここはホウエン料理がうまいです」

「じゃあ聞くなよ」

 

半目で(なんだよこいつ……)という視線を隠しもしないヤシオにアオキはなんとなくそっちの方が楽だな、と思った。

大人だからといって過剰な期待をされるのはむしろ困る。

アオキは妹弟はいないし、育児の経験もない。年上の同僚のように教鞭を取る立場でも無いから、ティーンエイジャーに対する正しい接し方もわからない。ならばハードルは下げておいたほうがいい。

頼り甲斐のない大人、そんな評価で十分だ。

 

「あら、アオキさん、珍しいお連れさんだねえ」

 

声をかけてきたのは宝食堂の女将だった。

カウンターの内側からいつも通りの明るい笑みを向けられてアオキは軽く頭を下げてからヤシオを手で示した。

 

「親戚の子です。色々あって少し預かることになりまして……」

「……っす」

 

思春期特有の恥じらいからか少し素っ気なく会釈するヤシオの態度に女将はさして気にする様子もなく「ま〜若い!」と笑った。それから2人の顔を見比べて言った。

 

「確かに!よく見たら目元なんかアオキさんそっくりだねえ!」

 

その言葉に、アオキとヤシオは顔を見合わせる。

言うまでもなく、1ミリたりとも血など繋がっていない。

そんな2人の微妙な表情に気がつくこともなく、女将は他からの注文を受けてさっさと調理場へ向かってしまった。

 

「ハッ、そっくりだってよ」

「世の中適当なもんですよ……」

 

ヤシオは手に取っていたメニュー表をカウンターに置くと、片肘をついてアオキを見た。

 

「てかアンタここの常連なんだ」

「まあ、そうですね」

「いつも何食ってんの」

「……ざる蕎麦とかですかね」

「好きなの?」

「それもありますが、食べてる途中で仕事で呼び出されても蕎麦なら伸びないし、冷めるとかも無いので……」

「嫌な理由過ぎるだろ。オススメなら食おうと思ったけど食欲失せるわその理由」

「ああ、そういう意味ならここはなんでもうまいです」

「全部うまいってそれが一番困るんだよ。メニュー多いから迷ってんだろうが」

「自分は生姜焼き定食にします」

「……アンタさあ……いやもういいわ。オレもそれにする」

 

ヤシオはそう言うと店員に向かって手を上げて、よく通る声で「すいませーん!生姜焼き定食2つお願いしまーす!」と注文をした。自分には出せない声量だ、と思った。

注文を待つ間、アオキはふと言いたいことがあって彼の名前を呼ぶ。

 

「そうだ、ヤシオくん、」

「あのさあ、そのヤシオくんってやめてくんね」

 

隣の少年に少し見上げるように睨まれた。

なんのことか分からず彼を見つめたまま黙り込むと彼は続ける。

 

「君付け、きしょい。呼び捨てでいいから」

「はあ……わかりました。では、ヤシオと」

「おう」

「そういうふうに言ってもらえると助かります」

「は?なにが?」

「嫌なことは嫌だ、と。言ってもらわないと伝わらないですし……正直自分は察しが良くないのでそういう気遣いを期待されると困ります……」

「……あっそ。じゃあそのボソボソした喋り方もやめたら?」

「改善できるかは別ですが……」

「ハッ」

 

ヤシオは鼻で笑う。少しバカにしたような笑い方だったが、嫌そうな声ではなかった。

 

運ばれてきた定食を2人手を合わせてから食べ始める。アオキは食べ始めてすぐに隣から小さく聞こえた「うっま」という言葉で全て満足した。奢りがい、という意味なら十分だ。

それきり、食べている最中に会話は無かった。

 

それから食事を終えて、アオキが食事代を支払う。

レジに立つアオキの少し後ろに立っていたヤシオは「アオキさん、ありがと」とさらりと礼を言った。

不良少年然とした態度を見せるヤシオだったが、ところどころで育ちの良さを見せることにアオキは気がついていた。

今は反抗期だが元々は案外礼儀正しい子なのかもしれない、となんとなく思う。

 

……そう思ってから、本当に礼儀正しかったら人に「きしょい」とか言わないか、と自分の考えをすぐに改めた。

多分、普通に年相応なだけだ。

 

「そういやアンタ、さっきなんて言おうとしたわけ?」

 

店を出てから、ヤシオに尋ねられる。

アオキは一瞬何のことかと思って、それから思い出す。食事前に彼に話しかけたちょうどその時、君付けをやめろと言われて話が途切れたのだった。

 

「……ああ、大したことではないんですが、」

 

こちらを見上げるように見つめる少年の目を、アオキは見つめ返す。

 

「ポケモン勝負、しませんか?」

 

ガラルではどうか知らないが、パルデアではこうやってバトルに誘うのだ。

 

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