チャンプルジムリーダー見習い(仮)   作:ホネホネ

25 / 33
あなたと踊りたい

 

ヤシオは平日に毎日ポケモン勝負をして、家に帰ってから夕飯の後アオキへどんな戦術でどんな戦略でどう考えてどう勝負をしてどんな結果だったのかを話す。

そしてアオキから問われる「じゃあこの時こうだったらどうしていたのか?」「相手がこんなことをしてきたらどう判断していたか?」という様々な仮定を考えて答えを出すという指導を、2人はずっと続けていた。

 

つまるところ、実践をした上で、実践では得られなかったパターンについて思考するという作業の繰り返し。

 

この指導の真意についてヤシオは一度アオキに聞いたことがある。「なんでこんなことしてんの?」と。その問いかけにアオキはこう答えた。

 

「……そうですね、これは何事においてもなんですが、いわゆる強い人というのは様々な視点を持てる人だと思っていいです」

「視点?」

「はい、勝負の全体を俯瞰的に把握できる大きな視点を持ちながら、相手のごく小さな一挙一動を見逃さない細かい視点を持つ。その上で、それらをさらに多角的な視点で見ることができる人……。視点を持つ人に、視点を持たない人が勝つというのは不可能です。見えない人は、そもそも自分が見えてないことに気が付かないものですから」

 

アオキはいつも通りのぼそぼそとした話し方で言葉を続けた。ヤシオはそれに静かに耳を傾ける。

 

「だからあなたにはそういう視点を持って欲しいんです。あなたが勝負をして見えた視点を聞いた上で、自分から見える視点をあなたに伝えて、あなたに考えてもらう……。これまで平日に毎日しているのはそれです」

「ふーん、そう思うと贅沢なことしてもらってんだな。ジムリーダーから見えてる視点ってわけなんだもんな」

「……まあ、あなたにとって有益であれば何よりですが」

 

平日に1日1人とポケモン勝負をするというアオキからの回数制限はすでに解かれていて、最近では相手が見つかれば1日3回くらいは勝負をしている。

 

「なんで最初1日1回だったんだよ?」とアオキに聞いたら「1日に何回もやったら勝負の内容を忘れてしまうかもしれんと思ったので」と返された。

単純に記憶力の問題だった。確かに1日に何回も勝負したら最初の勝負とか忘れがちになってしまうけれども。

別段記憶力がいいわけでもないヤシオは早々にメモをつける癖がついた。

 

メモを見つめながらヤシオはふと口を開く。

 

「さっきバトルした人、先週も戦った人じゃん?」

「んきゅる」

「やっぱこの辺りに住んでるトレーナーとはほぼ戦ったと思うんだよな」

「ア」

「遠出したいけど、午前に洗濯とか掃除とかして、夕方には晩飯の用意で家帰るってなると、あんま遠く行けないし……」

「アア」

「もし遠く行くとしてさ、行くならそのままもうジムチャレンジしに行った方が良さそうじゃね?」

「プルァ……」

「今夜にでもアオキさんに聞いて確認するか」

「ラッキー」

「…………」

 

相槌を打ってくれる手持ちたちの中、聞きなれない鳴き声にヤシオは恐る恐る隣へ視線を向けた。

 

なんか、いるんだよなあ……。

 

当然のようにヤシオの隣に別に手持ちでもなんでもない桃色のポケモンが腰掛けていた。

そして、反対側のヤシオの隣にいるプクリンがやけに殺気立っている。

怖い……とヤシオは素直に思った。

 

 

トレーナーとのバトルを終えて、原っぱで手持ちの子たちと弁当を食べて簡易的なピクニックをしていたヤシオ。

天気はいいし、風は穏やかだし、バトルには勝ったしで悪くない気分だ。ワッカネズミの世話を焼くイエッサンに、ヤシオの腕を取ってぎゅっとそばにくっつくプクリン。そこまでは普通のいつも通りの景色だ。

 

その輪の中に何故か当然のような顔でいる、ラッキー。

 

そう、ヤシオの唯一の懸念が、朝からヤシオを出待ちしていたこのラッキーなのだった。

このラッキーは少し前にヤシオが怪我の手当てをしてやり、そのお返しとして昨日花をくれた彼女である。

 

そんなラッキーは今日、ヤシオが家を出たら普通に玄関先にいた。

それだけでもヤシオは驚いたが、それ以上にラッキーを視界に入れたプクリンが何の躊躇いもなくビンタしたのにも本当にびっくりした。1発じゃなかった。往復ビンタだった。怖かった。びっくりしすぎて咄嗟に左胸と股間を押さえた。

 

「ワー!やめろプクリン暴力はだめ!」

 

しかし構わず手を振りかぶるプクリンの目が本気すぎて、ヤシオは慌ててその小さいおててを掴んで止める。その可愛いおててからなんであんな「ゴバァン!」みたいな音と威力が出るのかわからなかった。

 

しかし、プクリンにノータイムで殴られたラッキーはその拳を黙って受け入れ、受け入れた上で微笑んだ。

それを見たプクリンが(……ほう、やるな)みたいな顔をしていた。ヤシオは怖かった。目の前で何が起こってるのか全然わかんなくて怖かった。仕事中の師匠の迷惑とか一切考えずに鬼電をしようかと思った。

 

よくわからないながら、ヤシオはラッキーに「こんにちは……」とだけ言って、プクリンが殴りかからないようその手を取って家の敷地を出た。

 

……が、ラッキーはついてくる。

何も言わずにずっとついてくる。

プクリンに殴られたのに気にせずついてくる。

ポケモン勝負の最中も、休憩している時もそばにいる。

 

こちらに敵意や悪意はないようだし、ラッキーがここにいたいなら別にいていいのだが、その目的がわからない。

ヤシオは一度深呼吸をして、それから隣にいるラッキーに声をかける。

 

「……あ、あの、ラッキー……?」

「ラッキー」

「えっと、オレに用とかあんの……?」

「ラッキー」

「……え?」

「ラッキー」

 

そう鳴いたラッキーは微笑みながら、ヤシオを見つめてうなづいた。それから小さくて短い手を伸ばして、ヤシオの頭を彼が被っているキャップ越しによしよし撫でる。

それだけだった。なにもわからない。全然わからない。降りる沈黙と降り注ぐ暖かい日の光。吹き抜ける風は心地よいのに、妙に居心地が悪かった。

 

「えーっと、ラッキー?」

「ラッキー」

「あの、手当したことなら気にしなくていいから。オレが勝手にしたことだし、昨日お花くれて、オレも嬉しかったたから、それでチャラっていうか、おあいこっていうか……」

「ラッキー」

 

ラッキーは微笑みながらうなづくばかりだ。今度は頬をふにふにと撫でられる。

もしかしてオレの手持ちになりたいんかな、と思っていると、ヤシオとラッキーの間にプクリンが入った。

そしてヤシオに触れているラッキーの手をべシンと叩き落とす。

ヤシオを背中で守るようにしながら、彼女はラッキーと向き合った。

 

「プクプ、プリャ?」

「ラッキー」

「……プリャァ」

「ラキ、ラッキー?」

「グググァ……?」

「……プクリンそんな怖い声も出せんだ……」

 

急にラッキーに対して低い声で唸ったプクリンに、ヤシオが思わず呟くと、即座に振り返ったプクリンはきゅるるんという瞳で「プリュ?」と可愛子ぶった。

その可愛い顔にヤシオはちょっとホッとする。ヤシオはプクリンにはちゃめちゃに甘やかされてきたので、プクリンの怖い顔とか怖い声とか全然知らなかった。

プクリンはそれからまたすぐにラッキーへ視線を向けると、なにやら彼女と会話を続ける。

 

「プリリ、ププリ、プリ」

「ラッキー……?」

「プリ!」

「……ラッキー」

「……プリャァ゛……?」

 

ヤシオには2匹の会話の内容がわからないが、会話を重ねるほどに2人の間の空気が悪くなっていることだけは理解できた。明らかに至近距離で2匹がガンをつけあっている。

それから突然2匹は立ち上がったかと思うと、ヤシオから少し離れたところにある原っぱで向かい合う。

 

「プリャァ……」

「……ラッキー」

 

2匹はそう一言だけ交わした。

次の瞬間、躊躇いなく殴り合った。

 

間違いなく顔面に決まる拳。しかしどちらも倒れることなく第二撃の拳を放つ。丸くてふわふわでころころのピンク、そんな可愛らしい体を俊敏に動かして2匹はお互いを殴る、殴る、殴る。

 

穏やかな昼下がり、風は優しく吹き、日は暖かに降り注ぐ。

そんな原っぱで、ゴッ!とかガッ!みたいな殴打の音が響いていた。

 

「ワ……!ワア…………!」

 

そんな2匹をヤシオは怯えながら見ていた。

怖くてもうなんかちいさくてかわいい声しか出せなかった。

思わず近くにいたイエッサンを引き寄せて抱きついたし、黒いキャップを被ったヤシオの頭に乗るワッカネズミも互いを抱き締めあって震えている。

 

ヤシオにとってプクリンは可愛い女の子だし、ラッキーも大人しくて可愛いイメージだった。

そんな2匹のHiGH&LOWみたいなタイマン。女の子に対する幻想しか知らない少年には刺激が強すぎた。

 

イエッサンにしがみついて「エーン!」と泣くヤシオ。

くっつかれたイエッサンはニコッと笑うと、慣れた手つきでヤシオのスマホを操作して躊躇いなくアオキへ電話をかけた。

 

さて、営業の途中にサボタージュ……いや、休憩中だったアオキは急に弟子から来た電話に驚いて、それからすぐに出た。

 

「はい、アオキです。……ヤシオ?」

『んきゅ、きゅるる、る』

「ああ、イエッサ、」

『エーン!』

『『アーー!!』』

『ンルルルゥクィー!』

『プルルルゥリャー!』

 

泣き声と悲鳴と怒号。それから殴打の音。

アオキは弟子が集団に暴行されているのかと思った。

 

「……っ、ヤシオ……!ヤシオ、大丈夫ですか。無事ですか」

『エーン!アオキさんん……』

「ヤシオ……何があったんですか……」

『うええ、プクリンが、ラッキーとタイマンはってるぅ……』

「……はい?」

 

思わず聞き返した。半泣きになっている弟子の声の後ろからは変わらず殴打の音とプクリンとラッキーの気合の入った声が聞こえてくる。

プクリンとラッキーがタイマン。そうか……全然よくわからない。

 

「……よくわかりませんが、わかりました。ヤシオ、緊急事態のようなので今からそっちに向かいます。場所を教えてもらっても……」

『きゅ!』

「ああ、もう位置情報が来てますね……」

 

イエッサンはできる女なので、アオキに電話をかけてすぐに位置情報を彼に送っていた。

アオキに電話をかけ、位置情報を送り、念のためプクリンVSラッキーの証拠動画を撮りつつ、半泣きのヤシオの背中をよしよし撫でる。判断の早い、できる女なのである。

 

 

 

そんなこんなで位置情報の場所に来たアオキが見たものは、原っぱに座っているヤシオが自分で作ったお弁当をラッキーにあーんされているところだった。……何故?

ニコニコ顔で卵焼きを差し出すラッキーと、恥ずかしがりながらも口を開くヤシオ。思わず気が抜ける。

 

「……ヤシオ、あなたはまた女性を……」

「またってなんだよ!」

 

またヤシオがメスポケモンを引っ掛けてきた……。

そう思って肩を落とすアオキに、ヤシオがきゃんきゃんと噛み付いた。

 

──余談だが、アオキはこの時、以前自分が買ってやったキャップをヤシオが被っているのを見てちょっと嬉しかった。普段アオキとヤシオは家の中で話をすることの方が多いため、ヤシオがキャップをかぶっている姿を見ることはなかったのだ。閑話休題。

 

「……こちらのラッキーは?」

「昨日お花くれた子だよ」

「ラッキー?」

 

ラッキーがアオキを見てきょとんという顔をしたので、アオキはヤシオのそばに近寄ってから名乗った。

 

「ああ、はじめまして、アオキと申します……。自分はヤシオの兄で師匠で保護者です」

「え?……ああ、まあ、そうか……」

「ラッキー!」

 

そう言うと、ラッキーはアオキへ握手を求めてきた。とりあえず応える。それからアオキは周囲へ向けた。

ヤシオのスマホをいじっているイエッサン。ヤシオの肩に乗っているワッカネズミ。それから顔中に手当てをされたプクリンがあぐらをかいたヤシオの脚の上でスヤスヤしている。

 

「とりあえずヤシオ、何があったのか聞かせてもらっていいですか」

 

アオキはヤシオのそばに座ると問いかけた。

ヤシオはどう説明すべきかと少し困った顔をしつつ、アオキを見上げて口を開く。

 

「……あー、えーっとまず、家を出たらラッキーが玄関前にいて、」

「……まあ、はい」

「ラッキーがずっとついてきて、」

「……はい」

「怒ったプクリンがラッキーとタイマンしたんだけどさ、」

「はい」

「決着つかなくって、結局2匹でいろいろ話をしたらしくてよ、」

「はい」

「プクリンが言うにはさ、」

「はい」

「ラッキーはオレのお母さんになりたいんだって」

「…………ヤシオ」

「いや嘘じゃなくて、だってプクリンがそう言うんだもん」

「いえ、嘘だと思ってるわけではなく……」

 

肩を落とす。ヤシオが人当たりがいいのはわかっているし、押しに弱いのもわかっている。しかし何事にも限度があるだろう。

 

「……優しいのはあなたの良いところですが、時には嫌なものは嫌、駄目なものは駄目と言えることを必要かと……」

「別に嫌じゃねえけど」

「ヤシオ……」

「だってさあ、こんなのどうせごっこ遊びだろ?なあ、ラッキー?」

「ラッキー」

 

ラッキーは否定も肯定もせずにただ微笑むだけだ。

アオキは思わず警戒の目でラッキーを見る。

 

確かにラッキーはイエッサン同様に人の世話をすることが好きなポケモンだ。気に入った相手の世話をしたい、と思うのは別に悪いことじゃない。

しかし何事にも距離感はある。

ポケモンとしてトレーナーを世話したい。それならまだいい。

しかし、自分を母親、トレーナーを息子に見立てて世話をしたがるのは、側から見ているアオキとしては流石に恐怖が勝る。

そんなアオキへヤシオは苦笑した。

 

「大丈夫だよ、アオキさん」

「……どうしてそう思うんですか?」

「多分だけどさ、この子、オレを通してなんか別のものを見てるだけっぽいんだよね」

「それは……」

「オレに構って世話して、それでラッキーが満足するならいいだろ」

 

ヤシオはラッキーが差し出してきた唐揚げを「ん、ありがと」と言って口にする。

それだけでラッキーは幸せそうに微笑んだ。

 

アオキは大人として、トレーナーとして言いたいことがないわけではなかった。

トレーナーとポケモンという関係をベースとするのなら、ヤシオとラッキーの関係は明らかに健全なものではないからだ。

……しかし、ヤシオがその関係を受け入れたのも事実だ。

それに何より意外なことにプクリンやイエッサンがラッキーを受け入れている。

ラッキーが本当に害のある存在ならば、2匹は彼女を受け入れはしないだろう。

 

「……わかりました、あなたがそう言うのなら」

「ん、ありがとな」

「ですが、もし自分があなたたちを見ていて看過できないと感じることがあったら、その時はまた話をさせてください」

「おう、了解」

 

ヤシオもラッキーが普通ではないらしいことくらいわかっていたし、だからこそプクリンが過剰に反応したこともわかる。

 

そして、今アオキが自分を心配してくれているということも。

 

「んふふ……」

「……なんで笑ってるんですか、ヤシオ」

「あ?別になんでもねえよ。ってか、アンタ仕事放って来ちまっていいのかよ」

「ああ、大丈夫です。外回りなので……ちょうどサボっているところでしたし……」

「大人のくせに……」

「適度に力を抜くのが大人のやり方です」

「…………ん、まあ、でも、仕事中だったのに、その、わざわざ来てくれて、あ、ありがと……」

「はい」

「……おう」

「…………」

「…………いや、仕事に戻れよ!」

「え?」

「え?じゃねえ!」

「ヤシオ」

「あ!?」

「……腹減りませんか?」

「オレは今食ってんだよ!」

「あ、そうか……」

「…………」

「…………」

「ああもう!弁当は夜に回すから旨いとこ連れてけよ!」

(ちょろ……)

 

ヤシオのこういうところが他人につけ込まれるんだろうなあと、アオキは思った。

 







イカれた擬似家族を紹介するぜ!

・アオキさん
ヤシオの兄であり師匠です。通してください。

・プクリン
ヤシオの運命です。ヤシオが望むなら妻でもいいです。通してください。

・イエッサン
ヤシオのお姉ちゃんでーす!通してくださーい!

・ワッカネズミ
ヤシオの両親です。ヤシオは我々『イッカ』の一員です。通してください。

・ラッキー
ヤシオの母です。通してください。
(生まれるはずだった卵をなくして精神を病み、自傷行為を繰り返していた時に何も知らないヤシオから手当てを受けた。現在はヤシオを自分の卵から生まれた我が子だと思い込むことで心を保っている。この事実をヤシオは把握していないが、ヤシオの手持ちは全員なんとなく察した上でラッキーを受け入れている)

・ヤシオ
実の親と、戸籍上の親と、親を名乗るポケモンが複数いるが、ガラルにいる実母(人間)しか親と認めていない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。