4月。今日は全国でも有数の名門校である『高度育成高等学校』の入学式である。そして今、本作の主人公こと繭雪冬は初めて都会の学校に通える事に少しワクワクしていた。彼は子供の頃から北海道山奥のスキー場に住んでおり、生まれてから北海道を離れるのは初めてである。そのため、深夜に初めての飛行機に乗り、朝6時ごろに初めての電車に1時間半ほど乗り、今は駅から出ているバスで本校が建てられている人工島までバスで向かっている。周りには高育の特徴的な赤い制服を着た人たちがちらほらおり、入学してから3年間外との連絡と外出が断たれていることを踏まえれば、同い年なのだろう。そんな今までに経験の無い風景や、窓の外の都会ならではの景色を眺めていると、あっという間に本校についていた。世間一般の高校を見たことがないから憶測でしかないが、人工島とはいえ一つの島全てが敷地内というのはいささか大きすぎるのではないかと、彼は大理石でできたデカデカとした門を眺めていた。
(よし、行くか...)
周りの生徒たちと同じように、左右が桜の木に囲まれた通学路を歩き始めた。内心、通学というのはこんなにもワクワクするものなのかと考えながら200メートルほど進んでいくと、校舎と思わしき場所の前で何人か人だかりができている場所があった。クラス分けが提示されているのだろう。
(繭雪...繭雪...。Aクラス...)
持ち前の視力で少し離れた場所からクラスを確認した彼は、早速校舎に入っていった。Aクラスというのは他のクラスと比べてみればそこはかとなくだが、少し気持ちか昂っていた。政府直属というだけあって、外面だけでなく内面も綺麗で、ずっと田舎暮らしだった彼からすれば期待が高まる一方である。
(監視カメラ多いな..)
しかし初めての事が多くて興奮している一方で、監視カメラの多さにも疑問があった。学校以外の施設(主にスキー場)に配置されている監視カメラの量と比べると多すぎる気もするが、世間一般の学校や都会の施設ではこれが普通なのかもしれない可能性もあるためとりあえずは疑問を頭の片隅に置いといて教室に向かう事にした。
朝のホームルームが始まる20分程前に教室に着いた彼は、自分の座席を確認して時間まで家から持参した英文のSF小説を読んで時間を潰す事にした。ちなみに座席は1番後ろの廊下側から2番目だ。
15分ほど経ち、教室内ではいくつかグループができ始めていた。幼少期から一人を好んでいた彼は、特に誰にも話しかけることもなく教室内の様子を視線の端に置いて黙々と小説を読んでいる。そしてあっという間に5分が経ち、チャイムと同時にガタイのいい男性の教師が書類を抱えて入室してきた。
「初めまして、新入生諸君。私はAクラスの担任を務める真嶋智也だ。担当教科は英語を担当している。この学校には学年ごとのクラス替えが存在しないため、卒業までの3年間、私が担任としてお前達全員と学ぶことになるだろう。今から1時間後に体育館で入学式が始まるが、その前にこの学校に関する特殊なルールの説明をさせてもらう」
そう言って真嶋先生は合格通知と同時に送られた資料をクラス全員に配布し始めた。特殊なルールとはSシステムのことだろう。
「今から学生証カードを配る。この学生証は身分証であると同時に、敷地内の施設を使用するためにも必要となるので、無くさないよう気を付けるように。学生証にはポイントが蓄積されており、このポイントが金銭の代わりとなる。この学校の敷地内に存在するものならば、何でもポイントで購入可能だ。ポイントは1ポイントにつき1円の価値があり、毎月1日に支給される決まりとなっている。新入生には既に平等に10万ポイントが既に支給されているが、不具合があれば申し出るように。」
真嶋先生の言葉に驚きを感じた生徒は多いようで、特に支給額10万円という高校生に持たせる金額としては異常とも言える部分に周囲とコソコソ話している生徒が伺える。冬にとって先生の説明にはいくつも無駄に協調しているように聞こえ、思考をやめていた監視カメラの多さについても教室内も変わらずといった様子が加わり、胡散臭さしか感じなかった。
「支給額に驚いただろうが、この学校は実力で生徒を測る。この学校に入学を果たしたお前達には、それだけの価値と可能性があると評価された結果だ。遠慮なく自由に使うといい。ただ、このポイントは卒業後に全て回収され、現金化もできないので注意するように。使う必要の無いポイントは誰かに譲渡するのも構わない。勿論、カツアゲの類いは当然禁止だ。……さて、ここまでで何か質問があるか?」
ここで疑問に思う部分を質問してもいいのだが、それでは入学早々目立ってしまう。他の生徒にも何人か疑問に感じている生徒がいそうなので、質問はその生徒たちに任せようと考えた。すると、前方真ん中の席に座っているスキンヘッドの男子生徒と前方窓側に座っている杖を持った女子生徒が同時に手を挙げた。
「ふむ……では、葛城から聞こうか」
「来月から支給されるポイントは幾らなのでしょうか?」
早速、冬が気になっていたことを聞いてくれた。葛城というらしい。
「……今はまだ正確には答えられない。が、今後のお前達次第だと言っておこう」
「分かりました。ありがとうございます」
(なるほど...。俺たち次第で変更の余地あり...か)
予想通りの答えだが、この質問のおかげで来月のことも考えながら貯金の考えをする生徒が増えそうである。葛城は皆を率いるリーダー的なポジションになりそうだと冬は感じた。
「先ほど先生は敷地内にあるものならポイントで“何でも”購入できると仰っていましたが、それは常識で考えれば本来購入できないものも可能である、ということでしょうか」
「……ああ、可能だ。勿論あまりに非常識なもの……例えば誰かの命、などでなければだがな」
今度は女子生徒の方が質問をした。これも少し気になっていたことだ。モノだけでなく権利なども変えるのだろう。何回も思うがこの学校は普通の学校とは絶対に違うのだろう。就職率100%という文面につられて入学した生徒が多そうだが、それすらも胡散臭さを感じてしまう。そして坂柳は見た目に反して圧倒的強者のような感じがする。冬の直感でしかないが、葛城とは正反対の性格をしてそうだ。
「他に質問のある者はいないか?……では、入学式までは自由にしていてくれ」
そう言って真嶋先生は教室から退出した。
まだ気になることはあるが、それは憶測の範囲でどうにかなりそうなので質問はしない事にした。
真嶋先生が教室から出て行き、クラスメイトたちが放課後の予定などについて話し始めたすぐ後に、先ほど質問をしていた葛城が供託の前に立ち、注目させるように手を二度叩いた。
「皆、少しいいだろうか」
クラスメイトたちは皆すぐに雑談をやめ、葛城に注目した。どこか優秀さを感じるのは気のせいではないのだろう。
「俺達は今日から三年間同じクラスで学校生活を送る。そのためクラスの親睦を深める意味も込めて、自己紹介の場を設けたいと考えているのだが、どうだろうか?」
「ええ、私も賛成します」
葛城が自己紹介の提案をすると、それに乗じて坂柳が賛同し、先ほどの質問で一目置かれたであろう二人の意見でそのままクラスメイトも自己紹介をする空気が充満していき、自然と自己紹介が始まった。
「ありがとう。ではまずは提案した俺から始めさせてもらう。俺は葛城康平。全頭無毛症で物心ついたときから禿頭で、自分で言うのもなんだが厳つい顔つきをしていて近寄り難いだろうが、どうか気安く接してほしい。小、中学では生徒会に属していて、この学校でも志願する心積もりだ。よろしく頼む」
葛城お手本と言えるような自己紹介に皆盛大な拍手を送った。
「坂柳有栖と申します。私は先天性の疾患を患っており体が丈夫ではなく、手に持ったこの杖が無ければ日常生活にも支障をきたしてしまいます。今後ご迷惑をおかけしてしまうこともあるでしょうが、どうかよろしくお願いします」
坂柳の自己紹介にも葛城と同様に拍手が送られる。このクラスはこの二人が率いていくのだろうかと思いながら、そのまま進んでいく自己紹介を聞き、冬は自分の自己紹介の内容を考えていた。最初の二人に比べると他の生徒はもっと簡潔なモノだった。そしてあっという間に自分の右隣まで進んだ。
「神室真澄。よろしく」
隣人となる神室の自己紹介は聞く人からしたら冷たさしか感じないような自己紹介であったが、冬からしたらむしろ好印象なモノだった。一部冷めるような目で見る人もいたが、これまでと変わらず皆拍手を送っている。そして冬の初の自己紹介が回ってきた。
「繭雪冬です。話すことが苦手ですが、3年間よろしくお願いします」
同学年に対しては少し丁寧すぎるのではないかというおじぎをした冬だが、どこか落ち着いた印象を与える彼の自己紹介はむしろ好印象であった。
(ふぅ...。まぁ、無難かな...。緊張した...)
その反面、彼の内心はバクバクであったが。ポーカーフェイスである。
その後も自己紹介は着々と進んでいき、全員の自己紹介が終わったとほぼ同時のタイミングでちょうどチャイムがなり、皆入学式のため講堂へ移動し始めた。
入学式も終わり、放課後。真嶋先生のホームルームも終わって、クラスメイトは皆これからの予定について話し合っている。特に葛城と坂柳の大きな二つのグループができており、8割程はそちらで話している。どうやら各自で親睦を深めるために昼ご飯を共にするらしい。冬も参加しようか迷ったが、10人を軽く超えるほどの大所帯隣そうなため、大人数が苦手な冬は1人で校内を回る事にした。
教室を出ようと準備をしていると隣から、同じくグループに参加せずに1人でいる神室に声をかけられた。
「ねぇ、繭雪も参加しないの?」
「ま、まぁ...。大人数は苦手なので...」
高育に来てから初となる同年代との会話、それも冬からすれば他の子と比べて好印象の女子である神室。本人に自覚はないのかもしれないが、同い年なのに何故か敬語になっていた。
「そ...。私も参加しないし、席近いから連絡先だけ教えて。あとタメ語でいい」
「あ、あぁ...。俺も交換したいと思ってたし、助かる」
そう言って連絡先を交換した2人。冬にとっては人生で初めての同年代の連絡先、それも女子。彼は内心ガッツポーズをしていた。しかし連絡先は交換したものの、2人共積極的に話したがらないタイプであり、その後は特に話すこともなく「また明日」、と軽い挨拶だけして、冬は教室から出て行った。
時刻は14:30分頃。食堂で昼ご飯(カレー)を食べた冬は、今後のために1日では回れないほど広い敷地内を探索している。今は教室などがある本校舎とは別の、特別棟にいる。本校舎は全て見終わった冬は、特別棟に少しばかり違和感を感じていた。
(監視カメラ...。ないな...)
あれだけ本校舎に仕掛けてあった監視カメラだが、何故か特別棟にはほとんど存在しない。勿論最低限教室内などには設置されているのだが、それでも本校者と比べたら少なすぎるのではないだろうか。ここはむしろ一般的な施設よりも少ない。そんなことを考えていると、ふと前方の階段から足音が聞こえてきた。
「新入生か?こんなところに何のようだ?」
丁度冬も階段を利用しようとしていたので、誰かと対面するのに特に問題はないと判断した冬は、そのまま足音の主と対面する事になった。見るからに真面目そうで、どこか威厳の感じる男子生徒だ。隣には二つのお団子結びが特徴的な女子生徒も控えている。
「今日からここで過ごす事になるので、少し校内探索をしています」
無難な解答だとは思うが、何か思うことがあったのか男子生徒の方は少し目を細めた。
「そうか。確か繭雪冬と言ったか。今年の入学テストの主席らしいな」
なぜ彼が自分の個人情報 を知っているのか知らないが、どうやら少し興味を持たれているらしい。
「えぇ、まぁ。そういうあなたは誰なんですか?いささかこの学校の個人情報の取り扱いに問題があると思うのですが...」
「名乗るのが遅れたな。生徒会長を務めている、堀北学だ。隣にいるのは同じく生徒会の書記、橘茜だ」
堀北会長の言葉に、橘先輩はペコリと少し頭を下げた。にしてもこの学校、生徒の個人情報は生徒会に開示されているのだろうか。
「そう、ですか」
「あぁ。俺たちはこれから会議がある。これは俺個人の連絡先だ。登録しておくといい。では、これからに期待しておこう」
そう言って胸ポケから取り出した連絡先の書かれた紙切れを渡して去っていった。橘先輩は一瞬驚嘆した顔をしてからもう一度ぺこりとお辞儀して去っていった。
(目、付けられたな...)
そう思い、朝の先生の発言、食堂での無料の山菜定食や、それを食べていると思わしき上級生の多さ、監視カメラの量、今去っていった生徒会長のことを考えながら、冬もまた特別棟を去っていった。
特別棟を去り、ケヤキモールなどの人が多い施設を回ることは後日に回した冬は、丁度コンビニで何故か片手にビールの缶を持った神室を見ている。すると同じ様子を見ているのか、クラスメイトとの交流が終わったのであろう坂柳がスマホを構えて隣に歩いてきた。
「こんにちは、繭雪君」
「あ、あぁ...」
何故かとびっきりの笑顔をこちらに向けている。スマホは神室の方を向いたままだが。笑顔の裏に少し威厳を感じるのは気のせいではないだろう。
「どうかしましたか?」
「いや、隣の席になった奴を見かけてな」
「確か、神室さんでしたか...」
脅しの材料にでもするのだろうか。彼女の顔はおもちゃを見つけたような表情をしている。高校に来て初の知り合いが脅されるのは心苦しいので、今後のクラスリーダーになるかもしれない坂柳と敵対するのはごめんだが、どうにか許してもらえないか説得を試みる事にした。
「許してやってくれないか。隣人が脅されるのは俺としては見過ごせない。注意はしとくから考えてくれないか?」
「何のことでしょう?脅すなんてそんなこと...」
そう言いながらも満面の笑みを向けてくる。強者の余裕というやつなのだろうか。すると、支払いもせずに神室がコンビニから出てきた。一見手ぶらに見えるが、懐には缶ビールが入っているだろう。コンビニの前にたむろしている俺たち、正確には坂柳が構えているスマホを見て顔を少しこわばらせた。
「こんにちは。神室さん」
「...」
(まぁ...こうなるよなぁ...)
撮影されていたことを確信し、坂柳の言葉を待つ神室。冬も坂柳の言葉を待ち、そこからどうするかを考えている。
「それで、先ほどはコンビニで何を?見たところ何も買われていないようですが」
「はぁ...。どうせ見てたんでしょ。学校にチクる?」
「そうですね。報告するのは簡単ですが、その前に聞かせてください」
「は?」
坂柳の言葉に神室は顰めっ面になっている。そんな様子に構わず、坂柳は言葉を続ける。
「あなたの手際は見事でした。何よりその冷静さには驚きました。あなたの中で万引きは日常のようなモノなのでしょう。まさかお酒を常飲してるわけじゃないでしょう。あなたにとって万引きとは日常を満たす行為、スリルを味わうモノなのでしょう?」
冷静に分析する坂柳。先ほどのコンビニの場面のみでここまで考察できるのは驚嘆を通り越してむしろ恐怖まで感じそうだ。
「だから?あんたが冷静に分析できるのは分かったから、さっさと学校にチクれば?あんたがしないから私からする」
そう言い、スマホを取り出す神室。流石にいきなり退学になんてなって欲しくないので止めようとするが、その前に坂柳が口を開いた。
「気に入りました、神室真澄さん。あなたは私の最初のお友達になってもらいます」
「何言ってんの?」
「あなたの秘密を守る代わりに、色々と私に協力してください」
それは協力しなかったら学校に報告するぞという脅しではないのだろうか。
「それ、友達って言わない」
「そうでしょうか?」
「それに、素直に従うと思ってんの?」
「えぇ。それに私は万引きをするなと言っている訳ではありません。協力してもらえるだけで結構です。それに、私についてくれば退屈しないと思いますよ?万引きでしか満たされないあなたの心を、別のモノで埋めることができるかもしれません」
おそらく彼女もSシステムの全貌はほとんど把握しているのだろう。これからの学校生活は面白いことが起こると言わんばかりの返答だ。
「そ...。分かった」
「では、よろしくお願いしますね、真澄さん」
どうにかして説得しようと考えていたが、その必要はなく、俺はいつの間にか空気と化していた。そして何故かこっちを向いた坂柳。その顔はまた満面の笑みを浮かべている。
(嫌な予感がする...)
「さて、では繭雪くん。あなたにも話すことができましたね」
「?」
話すことと言われても心当たりがなく、冬は首を傾げた。その様子に坂柳はふふふと微笑んだ。
「先ほど真澄さんを一緒に見ていた時ですよ。彼女を許してやってくれと私に必死に頼み込んできたじゃないですか」
「いや、そこまで必死になってないんだが...。まぁ...許してやってくれとは言ったが...」
「はい。私はあなたのお願いを一つ聞きました。あなたも私のお願いを聞くべきじゃありませんか?」
坂柳のその言葉に、神室は同情の視線を送ってきた。冬としては特に無茶なお願いでない限りは別に構わないので了承する事にした。
「まぁ...。できる範囲でなら。でも条件がある」
「何でしょうか?」
「さっき撮影してた動画。今俺の目の前で消してくれないか」
その言葉に神室は少し目を見開いた。坂柳はまたもや微笑み、スマホを操作し始めた。
「分かりました。これでいいですか?」
思ったよりすんなりと了承した事に意外だと感じた冬は、撮影された動画が普通のフォルダとゴミ箱フォルダから消されたのを確認した。
「あぁ。それで?俺に何を求めるんだ?」
「真澄さんと同じく、お友達になってください。聞いたところあなたは私と同じく入学テストでは全教科満点なようですし、Sシステムの全貌などにも既に気づいていそうです。協力してくださったら心強いです」
父親の坂柳理事長から聞いたのか知らないが、堀北会長と同じく彼女も冬の試験結果は知っているらしい。全教科満点の主席が目の前に二人いることに驚嘆を隠せない神室だが、これに関しては誰もが同じだろう。
「それくらいなら全然構わない。改めてよろしく、坂柳」
「ふふ.。よろしくお願いします。まゆ君」
「まゆ...?」
「ええ。お友達なので、親しみを込めてあだ名をつけてみました。繭雪君だと少し言いにくいですからね」
「なんかいいなそれ。神室も、友達としてよろしく」
「ん...。よろしく、まゆ」
「ふふふ」
自然と神室も坂柳と同じくあだ名で呼ぶようになったが、指摘すると怒られそうなのでやめておいた。
コンビニでの出来事の後、冬たち3人は生活必需品を買うために一緒にスーパーに来ていた。道中、3人でSシステムの概要について話し合っていたが、冬と坂柳の意見を聞いていた神室は超能力者でもみているかのような何とも言えない顔をしていた。意外と表情豊かではないのだろうか。
「坂柳は元からやばいと思っていたけど、まさかあんたまでもとはね」
「そうですね。私もここまで正確に考察できているとは思いませんでした。クラスごとで変動が起こる点以外は全て同じでした。その点も今日だけでは普通は分かり得ない箇所だと思うので素晴らしいと思います」
「ありがと。先生の言い回しに監視カメラや無料の品物、先輩たちの様子とか色々考慮してるうちにな。校内探索の途中で生徒会長と少し話した時にほとんどが確信に変わった。まぁ、生徒会長も直接何かを言った訳でもないけど」
冬にとっては初めての学校で少々気合や警戒が入りすぎている部分もあったのかもしれないが、それでも素晴らしい推理力だと二人は素直に感心していた。
「そうですね。おそらく全ての答えは5月にわかると思います。まだ葛城君のことは詳しく知りませんが、私と彼でクラス内での派閥争いが始まるでしょう。その時はよろしくお願いしますね?」
そう言う坂柳に、神室はため息を、冬は苦笑いをこぼしたが、二人とも感じたことのない温かさを心中に宿していた。
そして話しているうちに買い物は終わり、時刻は16時を回っていた。特にこの後予定のない3人は、寮に向かう事にした。
「そういえば、まゆ君は何故神室さんを助けようとしたのですか?あなたは面倒事に関わるのが苦手なタイプだと勝手に思っていますが」
確かに冬は面倒事が嫌いだ。だが彼にとって初の同学年の友達がいきなり不利益を被るのは見過ごせなかった、それだけである。
「人生で初の友達がいきなり不幸な目に遭うのは見過ごせなくてな。神室の助けになると考えたら全然面倒とは思えなかった」
しかし今までまともに会話などしてこなかった冬、本人は気づいてないのか、側から見れば恥ずかしすぎる言葉を易々と言い放った。その証拠に神室は少し顔を赤くしており、坂柳はくすくすと微笑んでいる。
「あんたよくそんな恥ずかしい言葉言えるわね」
言われてから気づいたのか、冬の顔は神室の倍以上に赤くなっていき、指摘したことで余計に恥ずかしくなった神室もまた顔をさらに赤くしている。それをみた坂柳は、相変わらずくすくすと微笑むのみだった。
あの後散々坂柳に揶揄われた冬は、寮で二人と別れ、3年間過ごすこととなる5階の自室に来ている。6畳ほどのワンルームで、キッチンやトイレ、お風呂など、生活するにおいて必要な設備が完備してある部屋だ。スキー場の大きめな山小屋で母と二人で暮らしていた彼にとっては少し狭く感じたが、それでも学生にとっては十分だろう。早速お風呂に入ろうとお湯張りのために浴槽の掃除をし、給湯器のスイッチを入れた。お風呂が沸くまでの間に買ってきた生活必需品を定位置に置き、晩飯と翌日のために米研ぎを始めた。彼にとって料理は昔から日常であり、一人暮らしになってからもそれは変わらないのだろう。そうこうしている内に、お風呂が沸いたので、水にひたしている米の入った炊飯器のスイッチを入れ、そのまま着替えを持って洗面所に向かった。山奥毎日入っていた露天風呂とは比べ物にならないが、それでも慣れない都会での1日は肉体的にも精神的にも堪えるもので、沸き立てのお風呂は冬にとっては十分だった。そのまま、1時間ほどお風呂でゆっくりした彼は、入浴後炊き立てのご飯とスーパーで買ってきた冷凍食品をおかずに食べ、食後は特にすることもなく、学校のシステムのことや、今後の生活のことなどを考えながら、21時前には眠りについた。
初めまして、isseyです。初の投稿となります。更新頻度は作者の都合次第になりますが、なるべく早く投稿できるようにはしたいと思っています。今後の展開や、感想など、コメントくださると嬉しいです。ちなみに作者の推しは、神室真澄と姫野ユキです。タイトルはまだ仮決定なので何か案あればコメントでお願いします!ではまた次回で...!