ややこしくなるとあれなのでイメージCVは内田直哉さんを追加します。
某忍者アニメの動画見て思いついたとかそんなんじゃないです。
「えっと……これはこれで……あっ、なるほど」
夕日の光が差し込む学術学園の研究室にて、桃色の髪の美しい少女が分厚い書物に目を通していた。
「シェリー、入るよ」
ノックをして研究室に入ったのは初老の男性。 白髪混じりの髪をオールバックにしている。
「ルスラン・バーネット副学園長……」
「二人の時は父と呼ぶ約束だよ」
「…はい、お義父様」
ルスランは笑って言う。シェリーは困ったような微笑みをした。
「それで、アーティファクトの件は順調かい?」
「まだ、はじまったばかりです」
「それもそうだね」
「ただ、一つわかったことがあります。あのアーティファクトには特徴的な暗号が使われているのです」
「特徴的な暗号?」
シェリーはルスランの前に資料を広げた。
「おそらく、古代の国か組織で使われていたものです。そして……母が研究していた暗号とも酷似します」
「そうか、ルクレイアの……彼女もまた優秀な研究者だった」
ルスランは昔を思い出すかのように目を閉じた。
「母が死の直前に研究していたこの暗号の意味を、私は知りたい」
資料を見据える彼女の横顔は、研ぎ澄まされた研究者のものだった。
「……いい依頼を受けたね」
「はい」
ルスランに頭を撫でられて、シェリーははにかんだ。
「…それにしても、昨日の今日で暗号が古代の国か組織のものだってわかったね」
「その、実は昼休みに図書館で魔剣士学園の男の子に勧められた本に載っていたんです」
「ほう?魔剣士学園の生徒が?」
ルスランは口髭を触った。
「どんな子なんだい?」
「えっと、以前ぶつかった人です。髪は茶色で目がとても澄んでいて、それに、とても……その………か、かっこよかったです…」
シェリーは説明の後半から頬を赤く染め、次第に言葉が尻すぼみになっていく。その様子を見てルスランはふむ、と確信した。
「シェリー、さてはその子に一目惚れしたね?」
「ひ、ひひひとめ惚れ!?」
ルスランの言葉を聞いたシェリーはボンッ!と顔から湯気を発した。
「と、ととととと突然何言いですかお義父様!!?」
「いやはや、研究一筋でろくに友達もいない娘にも春が訪れたことを父として喜ぶべきだろうね」
「ち、ちちち違いますよ!そういうんじゃないです!!」
顔を夕日よりも濃い赤で染めながら珍しく大声でで否定するシェリーに、ルスランは『ははは、すまないすまない』と上品かつ楽しそうに笑いかけながら謝罪する。
「一目惚れ云々はひとまず置いておくとして」
「置いておかないでください!」
「手伝ってくれたのだからなにかお礼をした方が良いのかもしれないね。それに友達をつくるいい機会だ」
「と、友達……ですか」
「研究だけじゃなく、人との付き合い方も学んだ方がいい。学園とはそういう場所だ」
「は、はぃ……」
俯くシェリーに、ルスランは優しく微笑んだ。
「そういえばもうすぐ魔剣士学園の方で武神祭の選抜大会があるな。もしかしたらその子も出てるのかもしれないね」
「え?」
「ちょっと出場者に特徴が一致する子がいないか調べてくるよ」
「お、お義父様!?なにもそこまでしなくても――――」
シェリーの制止の声に耳を貸さずにルスランは研究室を後にした。
「ど、どうしよう……」
一人残されたシェリーは、本人の意思問わずにとんとん拍子で進む展開にしばらく困惑するのであった。
♢♦♢
ヒョロもジャガもシドもいない平和な一日を過ごしたオレは、一人帰り道を歩く。
「ねぇ君、少し話せる?」
夕日に染まった庭園を抜けると、ふいに女子生徒が近づいて来た。
学術学園二年生の制服、ダークブラウンの髪を団子にまとめて、同色の瞳に野暮ったいメガネをかけている。
二年生に顔見知りは殆どいないが、その人物から発せられる声と魔力の波長には覚えがあった。
「お前、ニューか?」
「はい」
変装が得意という話は本当の様だな。メガネと化粧と髪型でこうも印象が変わるとは。
ミツゴシ商会で会った時は大人の感じだったが、今は同年代くらいに見える。
「本日はご報告に……詳しくはあちらの方で」
「わかった」
庭園を一望できるベンチのそばには人気がない。一先ずオレ達は座ることにする。
「まさか学園の生徒に変装してくるとは…大胆だな」
「ガンマ様にはナイショにして下さい。日中の学園に潜入したなんて知られたら怒られてしまいます」
「わかった……それで、昨日偽者を尋問したそうだが」
「もう耳にしてましたか」
「モニカから話を聞いている。何か話は聞けたのか?」
「いえ、残念ながらどのような方法でも情報は引き出せませんでした。強い洗脳によって既に精神が壊れていました。その他の特徴からも、黒ずくめの男はディアボロス教団の先兵、チルドレン3rdであると思われます」
「ディアボロス・チルドレンか……」
ディアボロス・チルドレンとはディアボロス教団の戦闘員の殆どを指す言葉だ。
孤児や貧しい平民の子から、僅かでも魔力適性が見つかれば攫い専門の施設で育てる。そこでは厳しい訓練と洗脳教育、そして薬剤投与が繰り返され、生きて施設を卒業する者は一割に満たないといわれている。
出来損ないの使い捨てを3rd、精神の安定化を図れた者を2nd、実を結んだ成功例を1stと呼んでいる。
シャドウガーデンの名を騙る偽者は捨て駒の3rdで、精神が壊れているため情報が漏れることもないが戦闘力はそこらの騎士を遥かにしのぐ。
「一連の事件の裏に教団の影があるのは明らかです。そしてその目的は我らを誘い出すことであると想像できます。しかし目的はそれだけではありません。先日、王都でネームド・チルドレンが確認されました」
ネームド・チルドレン。
ディアボロス・チルドレンの中でも特に組織に貢献した者に与えられる名前。ほとんどのネームドが1stだが、ごく稀に2ndでネームドとなった者もいる。
さらに、ネームドからナイツオブラウンズにまで上り詰めた者もおり、組織の中ではネームドがラウンズへの登竜門とも言われている。
「誰だ?」
「チルドレン1st『
ダサい二つ名だな。考えた奴はネーミングセンスが最悪なのか、単にそいつへの嫌がらせなのか…………前者だな。身近にヒョロ・ガリとかジャガ・イモとかいう名前の奴がいるし。
「ネームドが展開しているとなると、さらなる目的があることは明白です」
「そうか」
「それで、他になにかあるか?」
「いえ、報告は以上となりますが……」
「いや、ある筈だ。尋問した後そいつをどうした?」
「?シャドウガーデンの名を騙る愚か者は始末して見せしめに大通りに吊し上げ「誰がそんな指示した?」は?」
「オレはお前に尋問を任せたがそこまでしろとは一言も言っていない。それに知らない連中はシャドウガーデンが冷酷非道の殺人集団だと誤解するだけだ。オレがそれを避けたがっていたのをこの前のガンマとの話に立ち会っていたお前ならわかっていたと思うが………」
「…………あっ」
オレの指摘に、自分がしでかした失態にようやく気づいたニューの顔から血の気が引いていく。
「もっ、申し訳ありません!ミスト様のご命令を履き違えた挙句に勝手な判断をっ、如何様な処分も受ける覚悟で――――」
まだ続きそうなニューの言葉を、オレは手を上げることで止める。
「死体は夜が明ける前にモニカが処分してくれたおかげで問題になっていないから責めはしない。次同じようなことがないよう気を付けてくれればいい。仮とはいえオレの部下なら尚更な」
「で、ですが……」
「反省はいい。後悔するのも勝手だ。だが過ちをただ否定的に捉えて自分を責めるのはやめたほうがいい。それはなにも生み出しはしない。ただ認めて次の糧にすればいい」
注意だけでこの話を終わりにするつもりだったが、当の本人はまだ釈然としていない様子だ。
仕方ない。
「そんなに処分を下して欲しいならそうだな…………オレの連絡係の期間の延長とオレの命令には絶対遵守、くらいか」
「私を外さないのですか?」
「そんなことをしてもお前のためにはならない。だから二度目のチャンスをやる。オレの次の指示に従えば失敗を巻き返せるかもしれないぞ?」
「次の指示とは?」
食いついたな。
「まずは簡単なおつかいだ。前にイータに製作を頼んでおいたものがもうすぐ出来上がるころだろうから取りに行ってほしい」
鞄から授業で配られた選抜大会のチラシと魔力に反応してインクが出るペンを取り出し、チラシの裏にリストを書く。書き終えた後にニューにそれを手渡す。
「あの、これはいったい?」
「今後の連携をより効率的にさせるものの試作品とだけ言っておこう」
「今後の連携を…ですか?」
「詳しい話はイータに聞くといい」
本来なら回収はモニカにやらせる予定だったがニューに任せることにする。手の空いたモニカには別の指示を出すことにしよう。
「話はこれで終わりだ。それの回収を頼んだぞ」
「は、はい。かしこまりましたミ――ヴァイスさん」
ベンチから立ち上がり、オレは先にその場から立ち去ることにする。
♢♦♢
遂にその日がやって来た。長い一日になる魔剣士学園の一大イベント、武神祭選抜大会。
オレの気分は二つの理由で最悪だ。
まず一つ目。面倒事が嫌いなオレにとっては参加するつもりのない大会だった。武神祭に参加したいとも思っていないし、無駄に目立つメリットも無い。だがそんなオレの意思とは裏腹に、今こうして競技場のステージに立っている。
そして二つ目は、最初の対戦相手が一番の問題だ。
『一年ヴァイス・ネーベル 対 三年クレア・カゲノー!』
審判がオレ達の名を読み上げる。
そう、オレの序盤の対戦相手はシドの姉で特待生のクレアだった。クレアがこの大会に出るのは分かっていたがまさか一回戦で当たるとは…………オレくじ運ないな。
特待生という肩書と外面の良さからか、観客席から注がれる視線は殆どクレアの方に向いている。その視線を一身に受ける彼女はオレに話しかけてきた。
「…………まさかこういうのに興味がなさそうなあんたが選抜大会に出るなんてね」
「好きで出たわけじゃない」
ちなみに元凶であるヒョロは上級生からのかわいがりで全身打撲で棄権、ジャガはストーカー問題で出場取り消しとなった。ヒョロを絞める機会を失ったが、ボロボロの姿を見れただけで良しとしよう。
「だとしても私は嬉しいわよ。こうしてあんたに勝負できるんだから」
オレは全然嬉しくないがな。毎度生徒会が駆けつけるまで追い掛け回されてるし。
「今までの私だと思わないことね」
「それこの前も聞いた台詞だな」
「う、うっさい!今度こそあんたをギッタンギッタンの滅多滅多にしてやるんだから!」
どこぞのガキ大将の台詞が出てきたぞ。
こいつ試合のルールちゃんと分かってるのか?過剰攻撃は禁止だからな。
まあいい。適当なところでギブアップ宣言か吹き飛ばされたように見せかけて場外に出て負ければ――――
「あんた、今わざと負けようだなんて考えてたでしょ」
何故分かった。
「考えすぎだ」
「そんな真似許さないわよ」
まるでオレの考えを読んでいるかのようだ。
話を終えた後は互いに礼をし、刃を潰した模擬剣を構える。
『試合開始!!』
審判の号令が会場に響く。
号令と同時、オレの眼は勢いよく飛び出したクレアの姿を捉えた。
「――ハァッ!」
地面を蹴ったクレアはオレとの距離を一步で詰め、オレの首めがけて薙ぎ払いを放ってきた。
「危なっ」
オレは上半身を仰け反り間一髪で躱したが、クレアはオレの行動を見越してたようで、薙ぎ払いの後に今度は喉目掛けて突きを放ってきた。
オレは直撃を避けるため、模擬剣を盾に正面から受け止める。切っ先を正面から受け切り激しい衝突音が鳴り響く。
「……クレア、お前オレを殺す気か?模擬剣でもあの威力で喰らってたら普通死んでるぞ」
「あら?この程度あんたにはどうってことないでしょ。それに…………」
「それに、なんだ?」
「殺す気でやらないとあんた真面目にやらないでしょう、が!」
「そんな無茶苦茶な」
突きに力が加わったのを感じ取り、後方へと跳躍してクレアと距離を取ろうとするが、クレアはまるで張り付いたかのようにに追い打ちをかけてきた。
――斬り上げ、縦切り、胴打ち、袈裟切り、突き、切り払い、蹴り、飛び切り、回転切り――
猛攻を凌ぐ時間が続く。
♢♦♢
闘技場に剣戟音が響き渡る。
「クレアさん凄い」
「アイリス王女から目をかけられることはあるな」
「ローズ生徒会長とどっちが強いんだ?」
「太刀筋が速すぎて目で追うのがやっとだ」
「対戦相手よくあの攻撃を凌いでるな」
「ああ、けど時間の問題だろ」
学園の生徒達で賑わう闘技場の観客席に、シェリーとルスランがいた。
「シェリー、彼がそうかい?」
「は、はい。あ、あのお義父様……あの人大丈夫でしょうか?」
「彼のことが心配かい?」
「え、あの、いえその…」
シェリーの不安げな視線が注がれる先には、中央のフィールド上でクレアの猛攻に防戦一方のヴァイスの姿があった。
クレアの模擬剣が未だ当たっていないが、ヴァイスの方はぎりぎりの回避と防御を取るばかりで攻める様子はない。
距離を取ろうとするも、クレアが喰らい付く様に加速で一気に詰めて離れない。
クレアの身体強化を利用した回転切りが放たれ、ヴァイスは即座に防御を取るも後方へと飛ばされた。そのまま場外に出るかと思いきや、クレアが回り込んで弾き、ヴァイスを場内へ留めた。
「あっ…」
「彼なら大丈夫だと思うよ」
「え?」
ポツリとルスランが呟いたのを聞いたシェリーが首をかしげる。
「防戦一方というが、単純ながらも動きに一切無駄の無い回避と防御……まるで相手の動きを既に見切っているようだ」
「で、でも吹き飛ばされちゃったりしてますよ?」
「いや、よく見ると当たるタイミングに合わせて後ろに跳んでいた。恐らく衝撃を軽減するためだろう。その証拠に彼の表情を見てみたまえ」
「表情…ですか?」
言われた通り、ヴァイスの表情を凝視する。すると、ある違和感に気付く。
「あれだけ攻撃を受けてたのに……まったく疲れてない?」
「疲れだけじゃない。彼の表情には焦りも動揺もまったく見えない。まだまだ余力があるだろう」
「あの、それはどういう…」
「ふむ。確証はないがね…ひょっとしたら彼、まったく本気を出していないのかもしれないよ」
♢♦♢
ガキイイン!
剣同士が交差し、つぶれた刃が擦れ合って火花を散らす。鍔迫り合いになり、至近距離でオレをクレアと顔とつき合わせる形になる。
「………いい加減にしなさいよヴァイスっ」
「突然なんだ?」
クレアの怒気を孕んだ瞳がオレを睨む。
「アンタ、さっきから手を抜いている上にわざと負けようとしてるでしょ?」
やっぱりバレてたか。
適当なところで不自然じゃないように負けようかと考えていたが、クレアは想定していたようだった。
わざと攻撃を受けて負けを選ぶのを阻止するために頭、首、胴、胸と急所ばかりを狙ってきて、防ぐか避けるしかなかった。それにギブアップを審判に宣言しようものなら、「はあああああああッ!!」とオレの言葉を搔き消すぐらいの大声を出してくる。
攻撃が当たるタイミングに合わせて後ろに大きく跳んでわざと場外に出ようものなら高速で回り込んで場内に戻す始末。
「アンタにとって私はまともに相手する価値もないってこと?」
「そんなことはない。さっきの言葉通り強くなってることに正直驚いてる」
目の前にいるクレアは本当に今までとはひと味違っていた。
悪魔憑きが完治した影響で魔力量がシャドウガーデンのメンバーに匹敵するだけでなく、オレに勝負を挑んでくるたびに少しずつではあるが剣の腕に磨きがかかっている。
というか、
「……お前、オレの剣技を少し真似てるだろ?」
「なっ!?なななな、なんのことか私にはさっぱりよ!」
「目が滅茶苦茶泳いでるぞ」
わかりやすいな。
どうやらクレアは実家で見せたオレの剣技を見て覚え、自分の剣技に混ぜたようだ。
「だ、だったらなんだってのよ!?文句ある!?」
「いや、別に気にしてない」
正直言って、この世界の戦闘技術は前世で学んだのに比べて未熟だ。
前世の剣術は長い歴史と共にいくつもの流派が分かれては統合を繰り返し、より洗練さを増していった。
だがこの世界の技術は統合も洗練もなく、魔力での身体強化に頼っている。
シャドウガーデンのメンバーは全員悪魔憑きの治療の影響で魔力量が平均以上にあり、シドから教わった前世の剣技のおかげでそんじゃそこらの連中には負けない程の実力が備わっている。フェンリル派アジト襲撃の際、アルファがこの世界基準で王国最強のアイリスを簡単に足止めできたのがその証拠だ。
クレアがオレの許可なく剣技を使ってることをとやかく言う気はない。見様見真似ではなく今までの技と混ぜて、自分の剣技を編み出して強くなれるのなら喜ばしいことだ。
いつか生徒会長どころか王国最強のアイリス、七陰を超えることも夢じゃないだろう。
だが、今のままじゃまだまだ足りない。
「なあ、そんなにオレと勝負したいのか?」
「当たり前でしょ。入学前にアンタに言ったじゃない。”もっと強くなってアンタを打ち負かしてやる”って」
そんなこと言ってたな。まあ、まだまだオレの足元にも及ばないが…………仕方ない。
「……わかった」
「は?なにがわかったのよ?」
「お前の願いに少し応えてやる」
「えっ」
オレの言葉が予想外だったようで、クレアはポカンとなる。
「もしお前が望むなら、今回だけは勝負してやってもいいんだけどな」
「なっ、なにその上から目線の態度?ムカつくわね。というかいつも勝負でも適当に流して終わらせようとするあんたがどういう風の吹き回し?」
まあ、そうだろうな。
学園に入学してからもオレはシドと同様実力を隠してきた。今まで目立つことを嫌い、ここまで平凡にやり過ごしたというのにそれを捨てることになる。そのギャップはどうしても影響として出るだろうが、人間は飽きやすい生き物で長続きしない。この程度ならしばらくすれば元に戻るだろう。
「まあ、お前のあまりにもしつこい挑戦にオレもとうとう折れたってところだ。いい加減鬱憤を晴らしてやらないとなにをしでかすかわからないしな」
「ちょっと、どう意味かしらそれ?」
オレからの安い挑発にクレアは額に青筋を浮かべるも、少しだけ口元を緩ませた。
「まあいいわ。あんたがやっとその気になったのなら……」
今度こそオレたちは距離を取り、仕切り直す。
「勝負の前に、お前に一つ言っとく」
「なによ」
クレアが踏み込んでくる直前に、オレは一言だけ伝えておくことにした。
「――――本気でこいよ」
お前の土俵に合わせてやる。
「言われるまでもないわよ。こっちはこの時をずっと――――」
眼前のクレアから先程までとは比べ物にならない量の魔力が放出される。
「――――待っていたんだから!」
次の瞬間にはオレへと襲いかかる。
放ってくるのは上段からの真っ向斬りか。駆けるスピードは中々のもので、パワーと合わせて押し込もうという魂胆のようだ。
だがどんなに強いパワーでも、一直線ならば横合いからの力で軌道をずらすことが可能だ。
オレは鞘からの抜きあげの形になるように左腕の肘の折り目辺りに剣身を縦に乗せ、グリップを硬く握らず、左手の四本の指先を伸ばすようにし、身体全体の余計な力を抜いて上からの力を受けるように流す。
「えっ――――」
僅かに金属同士が擦れる音と共に剣の軌道が逸れ、オレとすれ違った。真っ向斬りを流すと同時に剣先を右上に回し、驚くクレアにカウンターで袈裟に振り下ろす。
そのまま一撃、と行きたかったが、別に勝つのが目的ではないため、寸止めにする。
『お、おい今のなんだ?』
『クレアさんの攻撃当たった筈なのに……』
『逸れた?』
観客席がざわつき出す。
「いつまで呆けてる?」
「―――っ!」
寸止めの剣を下ろすと、すぐさま突貫してくるクレア。
今度は上段突き…………だがこれはフェイントだ。狙いは防御でがら空きになるオレの胴へ横薙ぎを振るうことだ。
読み通りに襲い来る剣を、オレは上から被せるように迎え撃つ。そして、上から被せた剣をそのままくるりと小手先で回した。
相手の剣を掬い取るように動かすことで力があらぬ方向へ抜けてしまい、いなされたクレアは体勢を崩す。
「なっ――」
回した剣の勢いを保ちながら、驚くクレアの首元へと一直線に奔らせる。
そのまま一撃…………とはいかず。クレアはすぐさま体勢を立て直し、ぎりぎりのところで後ろへ飛び退いて躱した。
「……やっぱり実力を隠していたのね」
「そんなことはどうでもいい。もう終わりか?」
そう問いかけるが、クレアの眼はまだまだ闘志と熱意を保っており、それはまだこの試合が終わらないことを暗示していた。
「―――まだまだよッ!」
仕切り直しと言わんばかりに更に勢いを増して襲い掛かってきた。
だがなクレア…………今度はこっちが攻める番だ。
下段からの斬り上げをオレは右脚を半歩退いて躱し、左脚を軸にして返す剣で袈裟切りを振るうも防がれる。
だが攻撃を止めない。
体軸を使った半身から半身へ動かす動作に、更に腕の振りを付ける。
右脚を軸に左半身を前に出すに合わせて右斬り上げ、次に左脚を軸に右半身を前に出すに合わせて袈裟斬り。上げた剣を下ろし、下した剣を上げるといった流れるような動作で連撃を繰り出せる。
クレアは負けじと諸手で剣を硬く握って応戦するが、それは悪手だ。
諸手では剣の軌道を変える際に手を組む感覚になりやすく、両手がクロスしてしまうと斬り上げで上手く剣身が上がらずに相手に届く前に手を斬られてしまうリスクがある。
だから諸手ではなるべく手を組まないように片手は柄を緩く持つようにするのがベストだ。
現に、手を組まないオレの剣と手を組むクレアの剣との打ち合いを繰り返していくうちに、やがてクレアの方が合わせるのがやっとのようになり受けに徹しだした。どれだけ剣に魔力を流しても上手く振れずに威力を出せていない。
『お、おい…なんかクレアさんが押され出してるぞ』
『あんな動き学園で習う流派にあったか?』
『なんなんだあの一年!?』
「くっ……!」
このままでは不利と悟ったクレアは一気に後方に飛び、一旦オレの間合いから離れてから再び攻撃を仕掛けてきた。
連続での突きがヒュンと空気を裂いて放たれる。剣身の向きと腕の動きから動きを読んで必要最低限の動きで避ける。
オレが攻める姿勢を取ると、くる前に威力が高い攻撃でオレの剣を打つ。打たれたら下に力が働くと同時に、柔らかくした手首で反作用を働かさせてクレアの目の方に振るう。
刃先が眼前に迫ってきたら反射的に半身を後ろに傾けながら半歩後方に引くことでそれを避ける。
勘が良いな。崩れたと思ってさらに前に進んでいたら失明するところだ。
「……まだ続けるか?」
負けず嫌いのコイツならノーと言うと分かっているが敢えて問う。
「――――当然でしょ!」
返答と同時、再びクレアが突貫してくる。
そうしてオレとクレアは、都合十分ほどの打ち合いを演じた。
そして…………
ガキイイン!
甲高い金属音と共に一本の剣が宙を舞った。
肩で息をするクレアがついに膝をつく。オレは彼女の首に剣を添えたまま見下ろしていた。
「――――お前の負けだ」
「そ、そこまで!勝者!一年ヴァイス・ネーベル!」
審判の高らかな声に合わせて、怒号のような大歓声が闘技場中に響き渡った。
チャイナ服を着たクレア…………最高じゃないか。
そういえばクレアはよう実一年生編の堀北と特徴が似てるところがありますね。
長い黒髪とか赤い目とかブラコンとか…………性格は違いますけど。