陰の実力者(笑)の相棒にさせられて   作:嫉妬憤怒強欲

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人はそれをデートと呼ぶ

 オレとシェリーとの関係をクラスメイト達に根掘り葉掘り聞かれて数日が経ち、約束の休日が訪れた。

 オレは待ち合わせ場所に着き、時刻を確認する。

 あと20分ほどで約束の時間か。

 そう思い顔を上げると、こちらに向かって歩いてくるシェリーがいた。オレを探しているのか、どこか落ち着かない様子で辺りを見回している。

 

「お、おはようございますヴァイス君!」

 

 程なくしてオレと目が合うと、小走りに距離を詰めてくるシェリー。

 

「早かったな」

「ヴァイス君だって……も、もしかして待たせちゃいました?」

「いや、ついさっき着いたところだ」

 

 べたなセリフだが事実なのでそのまま伝える。

 予定の時刻までは数分あったが、早めに行動する分には問題ないだろう。

 

「あの、ヴァイス君……私のこの格好、変じゃないですかね?」

 

 突然シェリーが不安げに自分の服装の感想を聞いてきた。

 

「いつもの学術学園の制服とは違う新鮮さがあっていいと思うぞ」

「……!あ、あの……あ、ありがとうございます」

 

 素直な感想を述べると、褒め慣れてないのか顔を赤くしながら嬉しそうに礼を言った。

 

「それで、どこに行く?」

「そうですね………最初はあのお店に入りましょう!」

 

 そう言ってシェリー指揮の下、リボンや髪飾りが売っている店に入る。

 

「あのヴァイス君、このリボン、可愛いですか?」

「シンプルな感じ制服と合いそうだな」

「そうですよね!実は私もそう思ってました!あっ、でも個性を出すならこのリボンも捨てがたいです」

 

 いくつも手に取って物色するもなかなか決まらないようだ。

 

「一つに決められないなら気に入ったのをいくつか買ったらどうだ?」

「あっ、そうですよね!」

「一応聞くが予算はどのくらいあるんだ?」

「大丈夫です。予算なんてあってないようなものですから!」

「えっ」

 

 つまり小遣いの心配がないくらいあるってことか。

 

「支払いしてきます。ちょっと待っててください!」

「あ、ああ」

 

 結局全種類のリボンを買ったようだ。

 

 リボン購入後、店を出て今度は露店通りを見て回る。街は活気に満ちていた。

 

「あれ?」

「?どうしたシェリー」

 

 アンティークの小物を扱う露店の前でシェリーが立ち止まった。

 

「こ、ここの商店、ちょ、ちょっとだけ見てもいいですか!?」

「別に構わないが…………」

 

 なにか気に入ったのが見つかったのか?

 

「えっ、これって――――」

 

 シェリーはいくつかのアンティークの小物の中で、赤い石がはめ込まれている以外何の変哲もない古いブローチに目が留まっていた。それを見てからシェリーはオレに小声で話しかけてくる。

 

「あ、あの…ヴァイス君、ちょっといいですか?」

「急に小声でどうした?」

「あれは………その…アーティファクトかもしれません」 

 

 え?

 

「確かか?」

「前にオークションのカタログで写真を見たことがあります」

 

 だが感知してもなにも出てこないが……。

 

「かつてあのブローチは、とある大富豪がオークションで競り落としたところまでは知られています」

「そんなものがどうしてここに?」

「うーん………所持者が死亡して、ドロドロの相続争いが起きた最中、紛失したと聞いてます。流れ流れて、真価を見出されないまま、露店であんなに安く販売されてるのかと………」

「やけに詳しいな」

「へ?そ、それはですね……せ、専門家ですから!日々勉強していて知ってるんです!」

 

 まあそりゃそうか。

 

「…あの、私買ってきます」

「研究用に買うのか?」

「は、はい。まだ効果についてはよくわかっていませんし」

 

 通常効果の大きいアーティファクトは高価で小遣い程度で買えるものではないのだが、今はかなりの安値で売ってある。絶好のチャンスと言えよう。

 

「あれの価値を気付かれないうちに買ってきますね」

「ああ」

 

 色々と不安だったが、無事安い値段でアーティファクトを購入することができた。

 

「無事に買えました」

「そうだな。それで、そのアーティファクトにはどんな効果があるんだ?」

「それは……そのっ…いえっ……まだよくわかっていないんです」

 

 なんか歯切れが悪かったが詮索しないことにした。

 

「そ、それじゃあ次行きましょう!」

「ああ」

 

 

♢♦♢

 

(うう、とっさのことでヴァイス君に噓ついちゃった……ヴァイス君ともっと仲良くなりたいから…………なんて恥ずかしくて、口に出せるわけないし!)

 

 ヴァイスの前で知らないと言ったが、シェリーはこのアーティファクトの効果を知っていた。

 なんでも、実は身に着けていると異性を魅了する効果がある、とされている。

 ヴァイスと出会って以来、自然とそんなアーティファクトにばかり目が行くようになっていた。

 

 シェリーは横を歩くヴァイスへとちらちらと視線をやる。

 

(もしこのアーティファクトをヴァイス君に使ったら………いまよりもっと仲良くなれるのかな………って私、何考えてるんだろ。ヴァイス君の心をアーティファクトで魅了しようだなんて……ダメダメ!)

 

 シェリーは一瞬頭に思い浮かんだ考えを、慌てて首を横に振って否定する。自身の手の中のアーティファクトの効果を使用したいという誘惑に駆られて悶々としている最中、人混みの中で衝撃を感じた。

 

「きゃっ!?」

 

 通行人とぶつかった衝撃で手の中からアーティファクトが滑り落ち、重力に従って地面へと落ちてゆく。

 

 そして地面にぶつかった次の瞬間――――

 

 パキン

 

 ブローチにはめ込まれていた赤い石が台座から外れ、地面にコロコロと転がった。

 

「……え、ええええっ!?こっ、壊れた……!?」

「壊れた?」

「ヴァイス君、ど、どうしたら……!アーティファクト………アーティファクトが壊れちゃいました」

 

 一瞬なにが起きたか判断できず、シェリーの身体がわなわなと震える。

 

「落ち着けシェリー」

「こ、これが落ち着いてられますか!」

「よく見ろ」

「え?」

 

 慌てるシェリーとは対照的に落ち着いているヴァイスがブローチを拾い上げ、石と台座の接着部分に刻まれている文字をシェリーに見せる。

 

「なんて書いてあるか読んでみろ」

「えっと…………れぷ…………れぷリ…………レプリカ!?」

 

 なんと、アーティファクトだと思っていたものはレプリカだった。

 

「そ、そんなぁ………」

 

 ショックでへなへなと座り込んでしまうシェリー。

 

「……まあ、ある意味よかったんじゃないか?」

「よ、良かった?」

「本物ならこの程度で壊れはしないだろうが、なにかの拍子で暴走すれば周りにどんな被害が出るかわかったもんじゃないしな」

「あっ………」

 

 はっ、とシェリーは周りを見渡す。活気に満ちてるだけに、露店通りには人混みが多い。もし本物なら大変なことになっていた。

 

「……私、自分のことばかり考えて、周りを見ていませんでした」

「それは今度から気をつければいい。アーティファクトじゃなかったのなら周りの心配をする必要もないし、気軽に身に着けることができる。それに、この後の買い物でもアーティファクトを持ち歩いてると気が気じゃないだろ?」

「……た、確かにそうですね」

 

 ショックから立ち直ったシェリーへと、ヴァイスはブローチを持っているのとは反対の手を差し出す。

 

「立てるか?」

「は、はい!」

 

 最初に会った時のと少し似た状況にシェリーはドキドキしつつその手を取って立ち上がる。

 

「あ、あのヴァイス君」

「なんだ?」

「はぐれないように、このまま手を繋いだままでいいですか………?」

「手?まあ、人混みが多くなってきたし、別にいいぞ」

 

 その言葉に落ち込んだ気分が一気に吹き飛ぶ。ヴァイスと手を繋ぎながら歩き出す。

 

(ヴァイス君の手…………大きくて温かいな)

 

 シェリーの足取りは先程より自然と弾んでいた。

 

 

 

 

「……グレン副団長、これもうデートみたいですね」

「………言うな」

 

 

 

 そのままいくつか店に入るたびに店員にカップルと誤解され、あまりの気恥ずかしさにやむなく手を離すこととなった。

 

 

 

♢♦♢

 

 

「次はどこに行くんだ?」 

「あ…えっとですね――」

「あれ?ヴァイス君……それにシェリーさん?」

 

 いくつか店に寄り、シェリーに次の行き先を確認していたところ所で後ろから聞き覚えのある声が聞こえ。その声はシェリーの耳にも届いていたようで、振り返ったのは二人ほぼ同時だった。

 

「あれ?アイリス王女?」

「どうも、殿下」

「久しぶりですねヴァイス君。こんなところで会うなんて奇遇ですね」

 

 数週間前に会ったばかりの王国最強(仮)にしてミドガル王国第一王女のアイリス・ミドガルだった。ひと目でわからないようにつば広のハットを被っている。

 

「あの………ヴァイス君はアイリス王女とお知り合いだったんですか?」

「ん?まあちょっとな」

「以前彼の友人がアレクシア誘拐の容疑で連行された際、彼が捜査を見直すよう直談判したことがあるんですよ」

「直談判したのはあいつの姉の方で、オレは少し質問しただけですがね。あとあいつはただの昔馴染みなだけです」

「ふふっ、そういうことにしておきます」

 

 事実を言ってもアイリスがオレとアイツとの間柄を勘違いし、七陰同様変な方向に解釈してるようだ。

 

「お友達のためにアイリス王女に臆せず直談判するなんて……ヴァイス君はとても友達想いなんですね!」

 

 シェリーも勘違いしたままオレをキラキラとした視線を向けてきた。

 

「別にそういうのじゃないんだけどな」

「ふふっ、ヴァイス君は照れ屋さんなんですね」

 

 全然違う。シェリーもオレとアイツを友人認定しないでほしい。ホント。

 

「ところで、お二人はその、デートの最中、ですか?」

「で、デデデデデデデデートッ!?」

「いえ、シェリーとは友人で彼女の買い物に同伴しているところです」

 

 どっかの末期の中二病患者と違い、オレは誤解されないよう丁寧に説明する。

 

「そ、そうなんです……」

「そうですか。私の勘違いでしたか」 

「殿下の方も買い物ですか?」

「ええ、一件寄った後にミツゴシの方に向かう予定です」

「アイリス王女もミツゴシに通ってるんですか。大人の女性ですからやっぱり化粧品とか買うのですか?」

「え?……え、ええ。まあ」

 

 シェリーからの質問にアイリスは少々言葉を濁してから答えた。 

 どっちかというと子供向けの熊のぬいぐるみが目的で通ってる、なんて流石に言えないか。

 何も知らないシェリーは「わあ、やっぱり」と目をキラキラさせている。

 

「あ、あの…よろしければアイリス王女もご一緒にミツゴシ商会に行きませんか?」

「え、ええ…それは構いませんが、途中で鍛冶屋に寄りますけど……」

「大丈夫です!あっ、ヴァイス君はどうですか?」

 

 オレに確認を取るシェリー。アイリスには申し訳ないが、ここで断ったら色々と気まずくなるので、

 

「シェリーがそうしたいのなら問題ない」

 

 イエスと答えた。

 

 

 

 

「ここが騎士団ご用達の鍛冶屋です。平均の質が良く、我々の装備は大体ここから仕入れているんですよ」

 

しばらく歩いていると、どうやらアイリスお勧めの鍛冶屋に着いたらしい。

 

「おお、これはアイリス様」

「こんにちは。少し剣を見させて貰いますよ」

「どうぞどうぞ。そちらのお二人は?」

「学園の後輩でして」

 

 作業場らしき奥まった場所から筋骨隆々の、しかし人当たりのよさそうな店主と思しき者が顔を覗かせる。

 

「そうそう、最近また質の良いミスリル鉱石が入りましてね――」

「なるほど、それはまた我々の装備も――」

 

 騎士団ご用達というのはあながち間違いでもないようで、アイリスと店主は取り留めのない雑談に花を咲かせているようだ。

 

「魔剣士の皆さんってこんなに重い剣を普段から扱ってるんですね」

 

 学術学園所属のため剣に触れたことのないシェリーは店に飾ってある剣の一つを手に取る。

 

「気を付けろよ。魔力を通さなくても切れ味があるから」

「あっ、はい」

 

 見てて危なっかしいため注意しておく。

 

………ってあれ?これも売り物なのか?

 

「よければ試し切りもされますか?」

「え」

 

 一本のロングソードを手に取っていると、アイリスとの会話を終えた店主がオレに声を掛けてきた。

 

「ここではそんなのができるんですか?」

「ええ、良い剣を持つとその切れ味を試したくなるというものなのでこちらで用意しております。奥にスペースがありますのでご案内しますよ」

 

 いや、見てただけで誰もやるとは言ってないが。

 

「ヴァイス君、試し切りするのですか?」

「ヴァイス君の太刀筋ですか。ぜひこの目でみたいですね」

 

 断りを入れる前にシェリーとアイリスが食いついてきた。

 完全に断れる空気じゃなく、店長に案内に連れられ、鍛冶屋の奥へと歩を進めた。

 

「こちらです。どうぞ」

 

 鍛冶屋の奥は手頃なスペースとなっており、巻き藁が幾つか並べられている。おそらく出来上がった剣の試し切りの場も兼ねているのだろう。

 

 まさかこんな剣でやるとは………まあいつも通りにやるか。

 

 ロングソードをまっすぐに構え、巻き藁と対峙する。

 よく研がれた包丁を用いてすら魚の骨を断つにも力を込めねばならない。細かく編まれた植物繊維は人間の胴体に近い耐久を持ち、普通の鉄の剣なら斬るどころか刀身が曲ってしまうことも少なくない。

 

 剣の切れ味は、腕力ではなく振るう者の精神力と比例する。

 余計な雑念は取り払い、『小さく・鋭く・速く・滑らかに』を意識する。

 

 精神の波が、完全なる水平を保つ瞬間を待つ。

 

――――ここだ。

 

 限界まで尖らせた鋭気を刃に乗せ、最小限の力で加速して居合斬りを放った。

 

 こんなものか。

 力がそんなに込めていなかったため、巻き藁の上半分は床に落ちずに切り口の上に乗ったままだった。

 

 

「まさかこれ程とは……」

「剣技とかよくわかりませんけど、本当に凄いです」

「いや、これくらい剣を多少嗜めば出来るでしょう?」

 

 二人ともオレを褒め過ぎである。たかが巻き藁を斬っただけだぞ。このレベルならちょっと剣を振るえば誰でも、とまでは言わないが、多少の才があれば造作もない。

 

「藁を斬ることは出来るでしょう。ですが上に乗ったままというのは初めて見ます」

「そんなに力を込めてませんからね。これ返します」

 

 試し切りを終えたロングソードを店主に返しておく。

 

「あの、買わなくていいんですか?」

「オレの持ち合わせじゃ買えないしな。それに――」

「それに、なんですか?」

「いや、なんでもない」

 

 何も買わなかったオレたちはそのままミツゴシ商会へと直行した。

 

 

 

 

♢♦♢

 

 

「こらぁお前らぁ!!」

 

 数分後、ヴァイスが試し切りをしたロングソードを手に持った店主が、奥の工房にいた作業員に向けて怒鳴り散らす。

 

「この剣は仕上げ前のなまくら(・・・・)だ!誰が店に並べていいと言った!」

「す、すみません!」

 

 仕上げ前のミスリル剣は魔力伝導率がほぼゼロな上に切れ味が普通の鉄剣にも劣る。そんなものを魔剣士が買ってしまえば命取りになる。そうなれば鍛冶屋の信用にも関わってしまう。

 数分間の作業員達への説教をし、店主はふと巻き藁の断面を見て、もう一度取り違えたロングソードの刀身を見る。

 

「本当に………なまくら、だよな?」

 

 




続きます。



バイオハザード4のゲームがリメイクされたみたいで、動画を見てみたら色々とヤバかったです。
新しく配信されたカゲマスの七陰列伝で登場する狂信者達がもしバイオの生物兵器を手にしたら絶対ろくなことにならないでしょうね。
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