「うわぁ…こんなにいっぱいあるんですね!」
ミツゴシ商会に到着し、初めて来たシェリーは店舗内に並ぶ商品の数々を前に圧倒されてしまっているようだった。
「ところでシェリー、もうすぐ昼だが昼食はどうするんだ?」
「え…………あっ!」
どうやらそこまで考えてなかったようだ。
「す、すみません」
「気にしなくていい。確か最近ここの屋内に飲食店ができたみたいだ」
「え?お店の中にあるんですか?」
「ああ、行ってみるか?」
「は、はい!……えへへ、お友達と一緒にお食事」
鍛冶屋を出てからずっと考え事をしていたアイリスにも声をかけることにする。
「殿下はどうしま「ヴァイス君」はい?」
「少し、お話いいですか?」
アイリスは真剣な眼差しでオレを見据える。
「話…というと?」
「ここでは人に聞かれてしまうので、その…」
内密の案件の様だな。
「なら静かな場所を知っています。食事をしながらでもよろしいでしょうか?」
「はい、構いません」
オレからの提案に乗る形でアイリスも飲食店に向かう。
「!いらっしゃいませ!何名様ですか?」
「3名で。個室をお願いします」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
飲食店の女性店員(シャドウガーデンのメンバー)に案内された席はVIP用である特別個室だった。見ただけで分かる程に高級感が溢れている。防音処理されてるのはいいがやり過ぎだ。
「ご注文の際はベルを鳴らしください」
案内した女性店員は微笑みながら退室する。
「な、なんか凄いですね」
「……そうだな、取り敢えず何か注文するか」
テーブルにあったメニュー表を見て注文が決まったオレ達はベルを鳴らす。すると数分も経たないうちに扉が開いた。
「お呼びですかお客様?」
「えっ」
「?どうしましたヴァイス君?」
「あ、いや、なんでもない」
アブな。個室に入ってきた店員を見て思わず固まってしまった。ミツゴシ商会の制服に身を包み営業スマイルを浮かべる蒼銀髪のエルフの少女……オレ直属の部下のモニカだった。
『なにやってるんだお前?』
『いやあ、この前の学園の選抜大会でこっそり賭け事で大儲けしたのがバレちゃって。罰として手伝わされたんだ』
『本当になにやってるんだ』
アイコンタクトを取ってみると実にあほらしい内容だった。
そういえばオレとクレアとの試合での賭けでほとんどの生徒がクレアに賭ける中、一人の見覚えのない女子生徒だけがオレに賭けていたとかヒョロとジャガが言っていた。
あの時なんか覚えのある魔力を感じたと思ったが、どうやらコイツが懐を温めていたようだ。
「それじゃあこのミドガルマグロの赤身ステーキわさびソース入りとコーヒーをお願いします」
「かしこまりました。しばらくお待ちください(女性二人侍らせていい御身分だね)」
「わかりました(成り行きでこうなっただけだ)」
オレ達が注文を終えた後にモニカは営業スマイルを顔に貼り付けたまま個室から退出した。
「それで殿下、話とは?」
料理が来るまで時間があるから本題に入ることにする。
「そうですね……単刀直入に言います。ヴァイス君、紅の騎士団に入団しませんか?」
「えっ!?」
「…」
思ってた通りの内容で、シェリーが驚く傍らでオレは内心ため息を吐いた。
「理由をお聞かせ願いますか?」
「グレンから話を聞いてると思いますが、現在紅の騎士団は『ディアボロス教団』と【シャドウガーデン】について調査をしています」
「存じています。ですが、その騎士団はこの前のアレクシア王女誘拐事件の真相究明のために設立されたはずですが…………ひょっとして、首謀者のゼノンが関わって?」
アイリスはオレの質問に頷く。
「お察しの通り、貴方達も知る剣術指南役のゼノン・グリフィは『ディアボロス教団』の信徒でした」
「……そうですか」
「それに彼のアジトと思しき施設から回収した物の殆どを何者かに燃やされてしまいました。既存の騎士団は最早信用できない。故に私が信頼した者達で新たな騎士団を作ろうと思いまして…」
そこにオレを加えたいと
「ですが会って数回のオレが信頼に値すると?それにオレは学園に入学して数ヶ月しか経っていない見習いの中の見習いです。殿下に勧誘されるだけの実力はないと考えます」
「謙虚ですね。先日の選抜大会でクレアさんが手も足も出ない程と聞いていますし、先ほどの試し切りでの腕を見てかなりの実力をお持ちだと確信しました。それに人となりはグレンが保証しています」
「買いかぶりすぎです」
それだけで信頼できると判断するのは早計過ぎる。
「恥ずかしい話、人手が足りないのは事実です。学生の身分である貴方に頼らなければならないことも情けないと思っています。申し訳ありません」
そう言ってアイリスはオレに礼儀正しく頭を下げた。
「『ディアボロス教団』、そして《シャドウガーデン》……今この国に潜む者達に対抗するために少しでも力のある騎士が欲しい」
想像通りの内容に、オレは用意していた答えを返す。
「………なるほど。殿下の考えはわかりました」
「では――――」
「尚更無理ですね」
「「えっ?」」
断られると思っていなかったのか、アイリスは(シェリーも)間の抜けた声を溢した。普段凛々しい女性ともなるとギャップを感じる。
「理由としてはオレが殿下の足を引っ張ることになるからです」
「足を引っ張るだなんて……貴方の実力は今いる団員達を上回ってるはずです」
「いえ、力云々の話ではありません。グレンさんから聞いてるかは知りませんが言っておきます。オレはネーベル家とは血縁関係にない子供…いわゆる養子です。赤ん坊の頃にネーベル家に引き取られていたとは言え、出自が怪しいオレがこの国の王女お抱えの騎士団に入るなんて不自然でしかない」
「私はそんなことを気にしませんよ」
「殿下自身はよくても周りの貴族達はそうはいきません。『恐れ多くも王族に取り入った』などと騒ぐこと間違いなしです」
王族に近寄り親交を深めようとする貴族など総じて腹に一物を抱えている者ばかりだと相場は決まっている。入学当初からアレクシアに特に仲良くもない連中が大勢告白していたのが証拠だ。
「それに、ディアボロス教団の息のかかった連中なら紅の騎士団を目障りな存在と判断すれば邪魔してくる可能性もあります。その時一番に狙われるのはこのオレです。最悪ネーベル家の人達も」
「っ……」
「オレの入団は自分にとっても殿下にとってもあまりいい結果を生みません。身に余る光栄ですが、謹んでお断り申し上げます」
「……貴方の考えは分かりました。今回は大人しく引き下がることにします」
残念そうな表情を浮かべて、アイリスが小さく笑う。
今回は、って次があるのか。
「初めて会った時から思っていましたが、グレンの言っていた通り先を見通す程賢いのですね。すぐに引き込めないのが残念です」
「大袈裟ですよ」
「大袈裟なんて…シャドウガーデンの名を騙る通り魔がディアボロス教団の策略である可能性のこともですが私でもそこまでのことは思いつきませんでした」
どうやらちゃんと伝わった様だな。あとは…………
「あの殿下、1つ気になることがあるのですが…………」
「?はい、なんでしょう?」
「先ほど殿下はディアボロス教団とシャドウガーデンに対抗するためとおっしゃいましたが、紅の騎士団の敵はシャドウガーデン、ディアボロス教団、どちらだと?」
「…………両方です」
へぇ。
「その理由は?」
「えっ?」
「ディアボロス教団は殿下の妹を攫ったからというのはわかります。では教団と敵対しているというシャドウガーデンを敵と判断したのは?」
「……貴方も知っているはずです。王都の夜を染めた光を、あれはシャドウガーデンがアーティファクトを暴走させて引き起こしたものです」
あれをアーティファクトの暴走と解釈したか。普通の人間ならあの威力は出せないからな。馬鹿やオレは例外だが。
「そうですか……他には?」
「他?」
「アーティファクトを所持していること以外で」
「………っ」
オレの質問に、アイリスは答える事が出来なかった。まさか具体的な事まで聞かれるとは思って無かったので、答えを用意してなかったと言う方が正しいのかも知れないが。
「答えられないんですか?」
「あの……その……」
アイリスがシャドウガーデンを敵視している理由………オレに少し心当たりがある。
『観客は観客らしく、舞台を眺めているだけで満足していなさい』
フェンリル派アジト襲撃の際、アルファがアイリスに吐き捨てた台詞。仮にも王国最強と謳われる自分を除け者(弱者)扱いするような言動に相当頭に来ていたようだった。更になにもできないまま事件が終わる始末。蚊帳の外にされたことで彼女のプライドは大きく傷付いただろう。
そんなこと他人に言えるわけないか。
「…………部外者が聞く話ではありませんでしたね。申し訳ありません」
「い、いえ」
話を終えたところで、タイミングを見計らったようにドアがノックされた。
「はい」
「お待たせしました。ご注文された品をお届けに参りました」
「どうぞ」
「失礼します」
ドアが開かれて、モニカが料理を運んできてテーブルに手際よく並べた。
「話はこのぐらいにしていただきましょうか」
「そうですね」
「はい」
三人で食事を手を付け始める。
控えめな価格ながらも品質や味付けなどが他より優れているミツゴシの料理は王女にも大絶賛だった。
♢♦♢
ミツゴシでの用事を終え、アイリスと別れたオレ達はその後いくつもの店に寄って帰路についていた。既にあたりの景色が赤く染まり始めている。
「あの………ヴァイス君」
「どうした?」
隣で歩くシェリーがオレに声をかけてきた。
「ミツゴシでアイリス王女に話していた…………その、ヴァイス君が養子って話、本当なんですか?」
「本当だが、軽蔑したか?」
「い、いえ!そうじゃありません!あの、私と同じなんだなって」
「同じ…………ああ、そういえばシェリーはルスラン学園長とは」
「はい、血縁関係にありません。お義父様は元々アーティファクト関連の研究者だった母の支援者でした」
「…………ひょっとして、ルクレイアって女性か?」
「知ってるんですか!?」
「前にその人の論文を見たことがあってな。内容を見てとても優秀な人だとわかった」
特にオリアナ王国にあるアーティファクトの特性についてとても興味深かった。
シェリーの母親であるルクレイアも又、古代の文明とアーティファクト関連で優秀な研究者だった。
過去形なのは………既に故人だからだ。
「確か研究中に何者かに殺されたって」
「はい…………騎士団の方たちの調査だと強盗殺人のようで……でも犯人は未だに見つかっていないんです。当時小さかった私は……その日の夜を忘れませんでした」
「あー………悪い。無神経だった」
「いえ。母が死んで一人になった私を引き取ってくれたのがお義父様でした。お義父様が私を養子に迎えてくれなかったら私はきっと死んでいました。私は……私を救ってくれたお義父様に恩をお返ししたいのです」
「…………ルスラン学園長のことが好きなんだな」
「はい!」
「…………そうか」
どうやらシェリーはあの男を本当の肉親の様に慕っているようだな――――。
「アーティファクトを研究してるのは副学園長に言われてか?」
「ああいえ、母が成せなかった研究を完成させるために自分で選びました。お義父様にも強く勧められたのもありますが――――」
「シェリー、危ない」
「わっ!?」
シェリーの手を掴んでこっちに引き寄せる。
朝の待ち合わせ場所に差し掛かったところで、狭い路地裏から全身黒ずくめに仮面をつけた男が剣を持ってオレ達に襲いかかってきたのだ。
――生憎と、魔力感知で尾けていたのは分かっていた為奇襲の意味がない。
振り下ろされた剣を最小限の動きで紙一重で躱し、相手の手首を掴み取る。
捕まえた腕は放さず、こちら側へと引き込むように引っ張り――
「借りるぞ」
「アガッ……!」
足を払い、そのまま相手の体を空中で一回転させ、頭から地面に叩き落す。
硬い石畳に頭からいったことで首あたりから骨がひしゃげる音がして、男はそのままピクリとも動かなくなった。
「あ、あのヴァイス君これはいったい…!?」
突然のことに状況が掴めないシェリーはあわあわしている。
「殿下が通り魔の話をしていただろ?おそらくそれと鉢合わせしてしまったようだ。それも複数と」
「えっ!?」
他の路地裏からぞろぞろと黒ずくめの男たちが出てきた。数は約20人といったところか。それぞれが『我等はシャドウガーデン』とブツブツ呟いている。
「ヴァ、ヴァイス君!?」
「危ないから下がっていろ」
「で、でも逃げないと…!相手はいっぱいいますよ!」
「安心しろ。なんの問題もない」
こうして剣を奪い取ったわけだしな。
両側から襲い掛かってくる黒ずくめの男達。
だが、シャドウガーデンの連中と比べるまでもないな。
オレは前へと歩いて進みつ、手にした剣で両側の攻撃を打ち払い、僅かに軌道を変えて回避した。
そのまま、オレの前に体を晒した一人は背中を斬りつけ、続いて後ろから来た攻撃を屈んで回避する。
低姿勢のまま左脚を軸に回転し、背後の相手の腹部を振り返りざまに横一閃で切り伏せた。
「ヴァイス!」
「大丈夫か!?」
遠くから見守っていた護衛のグレンとマルコとこっちに駆けつけてきた。
「すぐに加勢を―――」
「いえ、二人はシェリーの護衛を優先してください」
「なっ!?あれを一人で相手するつもりか!?」
「無茶だ!」
「問題ありませんよ。あいつら、オレより弱いので」
オレの挑発に乗ったように、残りの男達が一斉にかかってくる。
一人目の振り下ろしを剣を握る手首を返して受け、手首を返して首を斬る。
二人目の攻撃を一人目の時と同じように受け、柄頭で相手の剣の柄頭に引っ掛け、そのままこっちに引き寄せて奪い取る。奪った剣を左手で握り、丸腰となった持ち主の胴を斬る。
二刀流となったことで剣の役割分担が可能となり、三人目からの振り上げを左の剣で防ぎつつ、身体を回転させつつ回転斬りで首を刎ねる。
四人目と五人目が真正面から同時に攻撃してきたら二本の剣でそれぞれ刀身を以って絡め取り、斜め後方へと受け流し、その重心を前へと崩させる。眼前に差し出された二つの胴体に対して、下段から二本同時に突きを放って心臓を刺突する。
刺さった剣は抜かずに手放し、六人目の背後から心臓を狙っての刺突を上体の右回転で躱し、振り向きざまに相手の頭部に肘打ちをぶち当てる。衝撃で怯んでいる隙に胴を掴んで引き寄せ、七人目からの攻撃の盾にする。
七人目が肉の盾を斬った隙に肉の盾から剣を奪い、切っ先で七人目の喉元を刺突する。
八人目の背後からの奇襲に、左脚を軸に屈みながら右回転して避ける。回転により刺さった剣を引き抜き、流れる動作で八人目に振り下ろす。
その後も剣の動きを止めずに回転させながら相手の攻撃を防いでは斬り、回避しては斬り、斬って斬って斬りまくった頃には石畳の道に複数の死体が転がり、残るは三人だけとなった。
「さて……」
剣を払い血糊を落とす。道に血の一文字が描かれた。
「残るはお前らだが、まだやるか?」
軽く睨んでやると黒ずくめの男たちが動く。
その判断は一瞬だった。
彼らは石畳を蹴り、壁を蹴り、屋根へと登り、逃げ去る。
「…まあこんなものか」
逃げたのは他の連中に任せることにしよう。
持っていた剣を捨て、シェリーたちの方を振り向く。三人ともこの状況を見てあんぐりと口を開けていた。
まあそうなるか。
ゲームのアサシンクリードで複数の敵を同時にキルするコンボがありましたので少し参考にしました。