「どうだった」
「何者かの襲撃があったようです。規模は恐らく学園全域」
グレンの言葉に周囲を見回ってきたマルコが答える。学園がなんらかの勢力に襲撃されていた。
「ヴァイスの方はどうだ?」
「駄目ですね。魔力が全然練れません」
「そうか…………」
更に別の問題が発生していた。突然この場にいる魔剣士全員どれだけやっても魔力を練れなくなったのだ。魔剣士は基本魔力で身体能力を向上させたりをミスリル剣に流して威力を高めて戦う。魔力を封じられている現状ただの人も同然だ。
「魔力が使えんとなるとこちらも下手に動けんな」
「やはりあのアーティファクトを狙っての襲撃でしょうか?」
すぐにでも安全な場所にシェリーを避難させたいところだが、肝心の本人は銀色のアクセサリーのようなアーティファクトの解析に集中していて爆音やヴァイス達の会話も全く耳に入っていないようだった。
「まさか……まさか……」
それほどまでに、彼女はアーティファクトに集中していた。
普段から彼女は研究に集中すると周りが見えなくなる性質を持っているが、いつもはここまでではない。このアーティファクトには彼女の意識を奪う重大な何かがあったのだ。
カリカリと羽根ペンが動く。
桃色の瞳は、もうアーティファクトの真実に、あと一歩まで迫っていた。
その時。
突然、窓が吹き飛び、研究室に一人の黒ずくめの男が乗り込んできた。
ガラス片が、シェリーの頬を少し切った。
「いたっ……!?」
「何者だ!」
三人が剣を構える。
頬の痛みに、シェリーはようやく状況に気づいた。
「え?え?」
シェリーはアーティファクトを抱えて机の下に隠れた。
そっと頬を撫でると、少し血が付いた。
「我らはシャドウガーデンっと。シャドウガーディアンだっけか? まあいい、俺はレックス、『叛逆遊戯』のレックス様だ」
黒ずくめの男は仮面の奥で嗤って、
「邪魔だな、これ」
仮面を投げ捨てた。くすんだ赤髪の軽薄そうな男が、飢えた野良犬のような目で嗤っていた。
「…貴様等が噂の!」
「何が目的かは知らんが学園を襲撃してタダで済むと思っているのか」
「ただじゃすまねぇだろうなぁ。シャドウガーデンさんは大変だ」
「その他人事のような口ぶり…………あんた、本当はディアボロス教団の人間か?」
印象通り軽薄な喋り方をするレックスにヴァイスが問いかけると、レックスはゲラゲラ笑い出す。
「勘がいいガキだな。そうか、送り込んだ3rd20人を返り討ちにしたガキってのはてめぇの事か」
「否定しないんだな」
「此処でてめぇ等全員死んじまえば、学生の生き残りからシャドウガーデンが犯人ってことになるさ」
「襲撃の目的はアーティファクトの回収か?」
「さあ、忘れちまった」
マルコの言葉に恍けるように返すレックス。マルコがその態度に顔を歪める。
「貴様、ふざけているのか!?」
「いや、ふざけてねえよ。どうでもいいだけさ。ただ、俺の仕事はペンダント型のアーティファクトの回収だ。あれを回収したら後は好きに暴れていいって話なんだけどよ。てめぇら知ってるか?」
「手にしてどうする?」
「どうせ死ぬてめぇ等に関係ねえだろ?」
「お前がオレ達を殺せると思ってるのか?」
「………あぁ?」
ヴァイスの言葉にレックスが凶悪な形相で睨みつける。
「まさかてめぇ、俺より強いと思ってんのか?」
魔力が空気を震わせた。レックスの膨大な魔力が周囲を威圧する。だがそれにヴァイスの表情が歪むことはない。
「それ以前の問題だ。オレ達の会話に夢中になってるあまり背後への警戒が疎かになっている奴が自分を強者だと思い込んでる時点でとんだ笑い者だ」
「あ?後ろって、そんなハッタリが通用するとでも――――」
会話の途中でレックスの口元から、赤い雫が垂れた。
「―――がっ……は……?」
何が起こっているのか分からないまま口から血を吐いたレックスは喉の奥から迫り上がる異物感に口を開くが、背中側に穴の開いた肺はヒュウヒュウと空気を萎ませるだけだった。
自身の胸から黒い剣が生えていた。否、背後から何者かに突き立てられたというのが正しい。
「あーらら、せっかく教えてもらったのに残念」
「だ、誰……だ?て、め」
痛みよりも背中が灼けるような熱さを感じながらレックスは後ろを振り返る。
白い仮面で顔を隠し、漆黒のボディスーツを身に纏った蒼銀髪の女だった。
「ボクかい?ボクは君たちが嵌めようとしている組織のメンバーって言えばわかるかな?」
「は、ぁ――」
剣を引き抜いた女は弱ったレックスに隙を与える間もなく首を刎ねて絶命させる。
頭部が窓の外へと放り出され、残った身体から一切の力が抜けるのと同時に糸の切れた人形のように床に崩れ落ちた。
「ひっ」
シェリーの足元にレックスだったモノが転がり、彼女は身を隠したまま後ずさる。
「いつの間にっ」
「何者だ!」
グレンとマルコの警戒がレックスを殺した女の方に移る。それもそうだろう、なぜならグレンたちは女の接近にまったく気が付かなかったのだ。
「心配しないでよ。ボクはキミ達の敵じゃない。そしてまだ……味方でもない」
女は剣に付着した血糊を払い、戦いの意思はないことを示すように剣を鞘に納める。
「初めまして紅の騎士団の皆さん。ボクは本物のシャドウガーデンのメンバー……本名は言えないから二つ名の『
女は芝居がかった仕草でお辞儀しながら自己紹介する。
「ほ、本物のシャドウガーデン?」
「……!」
ディアボロス教団だけでなくシャドウガーデンまで現れた事実に二人の警戒心を掻き立てた。
「そんなに警戒しないでよ。別にキミ達をどうしようかなんて考えちゃいない」
「ならここに何しに来た?」
「ざっくり言うと、ここを襲撃してるディアボロス教団の連中を始末しに来たんだよ」
「始末?」
「そ。あいつら誰の断りもなく勝手にシャドウガーデンの名を騙って好き放題してくれたみたいだから、その落とし前をつけさせにね。連中がアーティファクト奪取のために
「……そっちもか。だがそこに転がってる奴は魔力が使えたみたいだぞ?」
「おい、ヴァイス!」
グレンとマルコが警戒してる中、ヴァイスは普通に大鴉と名乗った女に話しかける。
「そうなんだよねー誰かこの原因を知ってる人はいないかな」
「原因がわかれば対処できるだろうが…」
「こ、心当たりがあります!」
と、シェリーが机から出てきて叫ぶ。
「げ、現在魔力を阻害している現象は、おそらく『強欲の瞳』というアーティファクトによるものです」
「強欲の瞳?」
「なんなんだそれは?」
シェリーは皆にわかるように説明する。
「『強欲の瞳』は周囲の魔力を吸収しそれを溜め込みます。そのため強欲の瞳が発動するとその周辺は魔力の錬成が困難になるのです。ですが、吸収させたくない魔力の波長を記憶させることも出来るんです。そうでなくては『強欲の瞳』を使用している本人の魔力まで吸収されてしまいますから」
「つまり連中はあらかじめそれに魔力の波長を覚えさせたということか。覚えていない魔力はは何でも吸収してしまうのか?」
「予測の域は出ませんが、『強欲の瞳』が感知出来ない程の微細な魔力や、容量を超える強大な魔力なんかは吸収出来ないと思います。まあ、普通の人間にそんな魔力は使えませんが…………」
「そうか」
つまりシドとヴァイスは問題ないということだ。
「これだけでも厄介なアーティファクトですが、強欲の瞳は溜め込んだ魔力を利用することもできるのです。おそらく、本来の目的は魔力の利用にあったと思われますが、長期間の魔力保存が困難なんです。さらに一番の問題が魔力を溜め込むだけ溜め込むと一気に解放してしまう点にあるんです。膨大な魔力は爆弾と同じ、解放されてしまえばこの学園は跡形も無く消えてしまうでしょう」
「き、消える!?」
「そんな危険な物を学園を占拠した奴らは使ってるのか?」
「この強欲の瞳は以前私が研究し解明したものです。その危険性を考えて、お義父様は学界では発表せずに国に保管してもらったはずなのですが……どうしてこんなことに」
シェリーはしおらしい眼差しでヴァイスを見た。
「対処法はあるのか?」
「は、はい!これです!」
小さな手を前に差し出すシェリー。その掌の上には例のアーティファクトが。
「このアーティファクトは強欲の瞳の制御装置だと思われます。強欲の瞳はそもそも単体ではなく、この制御装置と組み合わせて使うことを考えていたのでしょう。そうなると、魔力を長期保存できない欠陥アーティファクトという立ち位置も変わってきます」
「それがあれば長期保存できるってことか?」
「そういうことなんです!すごいですよね。この自在に魔力を保存、運用する技術を再現できれば蒸気機関に代わるブレイクスルーに!それだけじゃありません、武器や鎧に魔力を溜め込んておけばこれまで魔力が足りず魔剣士になれなかった──」
「シェリー、今がどういう状況かわかってるのか?」
「えっ――――」
ヴァイスから放たれた言葉にシェリーが固まってしまった。
「今の話をまとめると連中がその制御装置を取り戻そうとしてるのは『強欲の瞳』の機能を完全なものにするためで、ついでに学園の生徒達から魔力を奪っているということだ。今は奪っている最中だから大丈夫だろうが、必要な分を取り終えた後連中が生徒達を生かして帰す保証はない。そんな状況で話を脱線させて騒動の元凶の技術談義を長々と語るつもりか?」
「あっ――」
「お、おいヴァイス。いくらなんでも女性に対してその言い方――」
「グレンさん、この状況で最も重要なのは迅速な対応ですよ?」
「ぐぬっ」
もし止めなかったら多分シェリーはそのまま延々と話し続けてただろう。口を挟んだグレンも言い返せない。
「…だが言い過ぎたのは確かだ。悪い」
「い、いえ。私また周りが見えなくなってました……えっと、その、話を戻しますが、この制御装置で『強欲の瞳』の機能を一時的に停止させることができます。ですが解析のためには『強欲の瞳』の資料も必要で…………」
「それは何処にある?」
「副学園長室です」
「あとはその『強欲の瞳』がどこにあるかだな――――」
「それなら大講堂にあるみたいだよ」
先程までずっと黙っていた大鴉の発言に全員の視線が彼女に向く。
「……どうしてそんなことがわかるんだ?」
「そのアーティファクトは今も魔力を吸収してるんでしょ?なら魔力が収束している所にそれはあるってことだよ」
「確かに、よくよく感知してみれば大講堂に集中している………生徒達はそこに集められてるな。お二人も気付きました?」
「うーん………あっ、確かに多くいるみたいだ」
「さっきのヴァイスの推測通り、どうやら生徒達の魔力を吸い取ってるようだ」
シェリー以外の四人が魔力を感知してみると、学園の敷地内で最も広い建物である講堂に多数の魔力の塊があり、一つのところに収束されていってる。中には吸い取られていない塊がいくつも存在し、それが教団のメンバーであると先程の話で推測できた。
「学生達も彼等にとってアーティファクトの燃料の筈。すぐには殺されんだろう………問題は魔力の“解放”…」
「それに解析が終わって大講堂まで向かおうにも敵がそこら中にいます」
「確かに……なるべく戦闘は避けるべきか。しかし」
「ならボク達シャドウガーデンが対処してあげようか?」
魔力解放までの問題に悩んでる中、大鴉は手を挙げる。
「お前らが?」
「そうそう。こっちだってアーティファクトの効果に困ってる身だからね。少し間手を貸すことを考えてもいい。ボク達は教団の始末を、キミ達は人質の救出を。目的は違えど進む道は一緒でしょ?」
「…………だがタダというわけじゃないんだろ?」
「おっ、学生さんは賢いね。そうだよ。手を貸す代わりに紅の騎士団に条件をのんで欲しくてね」
「条件、だと?」
「これまでの人斬り事件と学園襲撃はボク達がしたことじゃないと
「……もし断ったらどうするつもりだ?」
グレンが慎重に大鴉に問いかける。
「その場合はこっちで勝手にやるだけさ。証拠は新聞社にでも渡して記事にすればいいし。ああ、ついでに学園襲撃の責任は紅の騎士団にあるって付け加えるのもいいかもね」
「なっ!?」
「お前ふざけてるのか!」
「本気だよ。そもそもキミ達がアーティファクトを学園に持ち込まなければこんな大事にはならなかったんじゃないの?おまけに極秘の依頼なのに堂々と正門から入ればそりゃあ情報も漏れるだろって話」
「「うぐっ……」」
大鴉に痛いところを突かれてグレンとマルコはなにも言い返せない。
「グレンさん、この提案を受けるべきでは?」
「ヴァイス!?何を言って―――」
「こっちは四人、敵は数十人。数では圧倒的に向こうが有利です。それに制御装置で生徒達も戦いに参加できたとしても、その時には魔力をかなり吸い取られている状態です」
「だが団長達が異常に気付いて――――」
「それじゃあ遅いですよ。示した対価がグレンさんたちにとっても損があるわけではないでしょう?」
「それに今の内に紅の騎士団の実績を上げたいんじゃないの?予算…下りてないんじゃない?」
「団長がいないのに決めるわけには――――」
「さっきそこの学生さんが”重要なのは迅速な対応”だって言ってたよね?ここにいない人間に頼っても時間の無駄だと思うけど?」
「………っ」
「さあどうする副団長?すべてが終わった後学園に災いを持ち込んだ疫病神として責められるか、臨機応変な対応で事件を解決した英雄達と称賛されるか…二つに一つだ。悩んでいる時間はないよ」
暫くの葛藤の末にグレンは決断した。
「……背に腹は代えられないか」
「決まりだね」
「信用していいんだな?」
「別に信じなくていい。友達になるわけじゃないし。お互いの目的のために利用し合う、ただそれだけさ」
ここで紅の騎士団とシャドウガーデンとの一時的な共闘が成立した。
「ああそうだ。これ渡しておくよ」
そう言って大鴉は透明な水晶が埋め込まれた手のひらサイズの長方形の板を掌から出した。
「なんだそれは?」
「説明しても信じないだろうけど………これは通信機ってやつで、お互いの機器間で情報を送ったり受け取ったりすることができる」
「情報って?」
「実際やってみたほうがいいね。学生さん、ちょっと一つ取って耳に当ててみて」
「……ああ」
大鴉に言われた通り通信機を手に取って耳に当てた。すると大鴉は通信機の一つを口元に持ってきて口を開く。
『わかったかな?』
通信機の水晶の部分から目の前にいる大鴉の声が聞こえた。これに他の三人は驚く。
「この通り互いの機器を使って離れてても会話ができる」
「そ、そんなことが!?な、なにかのアーティファクトですか!?」
「警告しておくけど、勝手に調べようとすれば自壊する仕掛けになってるから。敵の手に渡って悪用されるのを防ぐための保険だよ」
「だそうだぞシェリー。興味本位で弄るなよ」
「うぅ…」
「それじゃあ先に行くからここに置いておくね」
大鴉が机に通信機を置いて窓から外へと出た後、ヴァイスは珍しいモノを調べることができないことに落ち込むシェリーに声をかける。
「お前にはやることがある。そっちに集中してくれ」
「っ!は、はい!」
一同は通信機を手に取り、必要な道具を持って移動することにした。
♢♦♢
オレ達は道中敵に見つかることなく(シドが屋上から連中を狙撃していた)、無事一階の奥にある副学園長室に到着した。
敵側に見つからずに移動する策としてシェリーが提案したのは、副学園長の部屋に作られている隠し通路の使用だった。
学園の施設には脱出用の隠し通路がいくつか残されているが、人が通った形跡がないことからここにいないルスラン副学園長が使用した様子はなく、シェリーの瞳に悲しみの色が浮かんだ。
「心配か?」
「はい、血は繋がらなくても、大切なお義父様です………母の亡くなった後、身寄りのない私を育ててくれた。だから、今度は私が助けるんです」
シェリーはそう言って曇りなく笑う。
だが現実は残酷だ。この後のことでシェリーは必ずショックを受けるだろう。その後に立ち直れるかどうかは彼女次第だ。
「『強欲の瞳』の研究も、最初はお母様がやっていたんです。……だからこそ、私が『強欲の瞳』をなんとかしないと」
「…安心しろシェリー、ここにはオレ達がいる」
「はい!ありがとうございますヴァイス君!」
「どれくらいで解析が終わるんだ?」
「そうですね……日が落ちる頃には」
「わかった。夕暮れ時だな」
オンにしている通信機に声が届くように復唱する。モニカを通してニューへ、ニューからシドへと情報が届くようにしている。あの馬鹿のことだからその場のノリで引っ搔き回してくれるだろう。指揮をしているガンマが気の毒だな。
シェリーがアーティファクトの解析をしている間、グレンは隠し通路の調査、オレとマルコは研究室から持ち込んだ望遠鏡で講堂と学園外の様子を確認する。
大講堂の方には拘束された学園関係者が集められているのが見える。大講堂は三階まである大きな吹き抜けのホールで、全ての出口を黒ずくめの男たちが塞いでいる。生徒たちは常に監視されていた。
「一人だけ格好が違う奴がいるな」
「こっちも見えました。どうやらあれが連中の親玉の様ですね」
ホールにいる人間で唯一身体に鎧を付けている人物がいた。魔力感知でもあれが吸い取られている魔力の収束点になっている。その上鎧の人物の独特の魔力の波長に覚えがあった。
学園の外では騒ぎを聞きつけた騎士団や野次馬が集まってきている。しかし、ある一定の距離からは近づこうとしない。そこが強欲の瞳の効果範囲の境目なのだろう。紅の騎士団もいるようだが、他の騎士団の1人と指揮官の問題で口論しているようだ。あの調子じゃ事後処理以外役に立ちそうにないな。最初から期待していないが。
講堂と外の粗方確認し終わったところでグレンが隠し通路から戻ってきた。
「どうでした副団長?」
「駄目だ。学園の外に通じる通路が全部塞がれてる」
「隠し通路がですか?」
「3年生が課外授業でいない今日に、しかも隠し通路の存在を知っていたことから察するに……」
「ああ、いるな。学園関係者に内通者が」
「ゼノン・グリフィに続いてですか?」
「グレンさん、これが終わったら補充されるのも含めて教職員の身辺調査を念入りにやることをお勧めしますよ」
「…ああ、そうだな。それにしても連中の意図が読めないな。シャドウガーデンの名を騙って学園を占拠した。『強欲の瞳』の制御装置と魔力を奪うためなのはわかったが、脱出路になる隠し通路を自分達で塞いでしまったことになる。出るにしても正門からしかない」
「正門には騎士団が控えていますが、迎え撃てると自分達の力に自信があるのでしょうか?」
「ヴァイスはどう思う?」
「さあ、オレにもさっぱり」
意図はわかってるがこれ以上誘導する必要はない。
やがて茜の色が強くなり、影が濃くなる。陽が完全に落ちる頃にシェリーの作業は終わりを迎えた。
「やった!出来ました、遂に解析完了です!」
「おお、ではこれで……!」
「はい。『強欲の瞳』にある程度近付く必要はありますが、魔力を取り戻せます」
「よくやったなシェリー」
「はい!」
褒めてやるとシェリーは朗らかな笑顔を向ける。きっとこれが最後になるだろう。
「どう使えばいいんだ?」
「使い方自体は簡単です。これを近くに投げ込めばいいだけです」
「そうか。ならここからはオレ達の番か。シェリーは先に正門前の方に避難していろ」
「え!?どうして…?私も一緒に…」
「シェリーは役割を充分果たした。ここから先は魔剣士の乱戦になる。お前を守りながら戦うのは難しい。だから先に安全な場所で待機していてくれ。包帯とか巻けるか?」
「え?あっ、はい一応は」
「解放する人質で怪我人が出るだろうから応急処置する人間が必要だ。お前にはそっちの方を任せる」
「はい…ヴァイス君がそう言うなら、私先避難しています!」
「いつでも通話できるよう、通信機はオンにしておけ」
それらしい理由で思い留めて退避させ、残ったオレ達はすぐさま移動を開始する。
ここまでは想定通りの流れだ。望ましい状況になったのなら、最後の仕上げをしてこの茶番も終わらせるとしよう。
隠し通路を通って辿り着いた先は講堂の三階だった。黒づくめの連中は人質の方に注意が向いていてこちらには気付いていない。上からでもホールにいる鎧の人物がよく見えた。
グレンとマルコがすぐに動けるよう構えるのを確認したオレは制御装置を取り出す。
それに用意した魔石を組み込むと、白い光と文字が浮かび上がった。
光り輝く制御装置を握りしめ、オレは迷わず鎧の人物のヘルムに向けて投球した。
直撃したヘルムは衝撃で頭から外れて床に落ちる。カツンと金属の甲高い音がホールに響き渡り、反射的に音の発生源へと視線を向けた人質たち、そしてグレンとマルコはヘルムの下の顔を見て息をのんだ。
「ルスラン・バーネット副学園長?」